平成七年行コ第一二号

 控訴人     李   聖 徳
 控訴人法定代理人親権者父
         李   在 一

 被控訴人  津市長 近 藤 康 雄

一九九五年九月一八日

 控訴人訴訟代理人
       弁護士 伊 藤 誠 基
       弁護士 梅 山 光 法

名古屋高等裁判所民事第三部 御中

     準備書面

一 外国人登録の権利性及び「同居者」の解釈

1 原判決の立論

 原判決は、外国人登録の権利性及び外登法一五条二項の「同居者」の解釈について要するに、
 @ 外登法は、在留外国人の公正な管理に資することを目的とした法律である。
 A そのため、できるだけ正確な内容の外国人登録を迅速に漏れなく実施する方法として、当該外国人の居住関係及び身分関係を最もよく知っていると思われる者を登録申請義務者としてその者の申請義務のみを認めており、同法同条項にいう「同居者」とは同一家屋で起居を共にするなど実質的に当該外国人と共同生活をしている者をいう。
 B また、その外登法の目的からして、右申請義務者以外の者に申請資格を認めない制度を採用しており、外国人登録の権利性は認められない。
 との判断をしている。

2 本件の実質的視点

 (1)しかしながら、法律論に入る前に本件を実質的にみたとき、外登法の運用について、一方で在日韓国朝鮮人等日本の旧植民地出身者などを対象に、できるだけ 「正確な内容」 の事項を入管法と併せて「漏れなく管理」するよう厳しく運用しているのであり、そのため各界からの反発を受け重大な社会問題となってきたのに対し、他方では、みずから進んで外国人登録を申請した本件原告に対しては、外登法の形式的な解釈に拘泥して、外国人登録を拒否し、その結果原告の日本における在留関係を極めて不安定ならしめているのである。

 (2)このように、一方で強権を用いて外国人登録を押し進め、他方でこれとは全く逆に外国人登録を拒否するというように実質的に矛盾した措置をとっている行政担当者の外登法運用に対して、原判決はこれを追認し、今日原告が抱える極めて不安定な地位を直視しない不当な判決となっている。
 しかして本件を実質的にみたとき、原告がその法定代理人親権者父を通じてした外国人登録申請は事の自然な結論として受理されて当然のことであり、敢えていうならば受理されて「管理に資すること」が日本の「国益」に合致しこそすれ、決して反するものではないはずである。
 もとより、右受理がされないことで、未だ弱齢の原告はこの日本社会で生まれ、今後も育つなかで人格的成長を遂げようとしているのに、これに水をさされ、右成長の基礎自体を脅かされる事態となっているのである。
 このような原告の置かれている法的状態をこのまま座視することは到底許されない。

3 外登法(第一条)の目的

 (1)外国人登録の権利性の有無ないしは申請資格者の範囲又は「同居者」の解釈を検討するには、外登法(第一条)の目的をどう考えるかが重要な問題である。
 この点、原判決は、日本国民に関する居住関係等を規律する住民基本台帳法一条が住民の利便を増進することを明文で同法の目的としていることなどと対比して、外登法は一条において外国人登録の目的を在留外国人の公正な管理に資することにあるとし、在留外国人の個人的法益の保護を図るとは規定していない、と断じている。
 一方、原判決は、外国人登録制度が各種公法関係及び私法関係における身分、居住関係の公証制度としての機能を果たしていることに着目して、外国人が外国人登録制度によって自己の身分関係及び居住関係を証明しうることによって享受する利益は 「少なくとも」 法律上保護に値する利益との見解を示している。

 (2)しかしながら、外国人が外国人登録制度によって右享受する利益を 「少なくとも」 法律上保護に値する利益と肯定できる所以は、外国人登録制度が偶々右の如き機能を有しているからではなく、外登法に基づいて形成された制度の本質的内容としてその機能を内在しているからとみるべきである。
 即ち、右の機能は、外国人登録制度の前提となる外登法が、外国人の「管理」の側面だけでなく、その身分関係及び居住関係について日本国民に対する住民基本台帳法及び戸籍法の場合と同様に、制度の本質的内容として外国人の右身分関係等の利益を保護することを目的としているとみなければ認められないものといわなければならない。

 (3)そこで、進んで右外国人の諸利益保護を旨とした法の目的を外登法上どこに求めることができるかについて検討することとする。
 一般に、当該法律が制定されることによって、その目的とするものの内容は冒頭に定められることが多いが、外登法は、第一条において在留外国人の登録を実施することによって「外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資すること」を目的とする旨定めている。
 原判決は、これについて同法が国による在留外国人の公正な管理という「公益」を図ることを目的とする法律であるとする。
 しかしながら、原判決の右第一条に対する視点は、在留外国人の「公正な管理」の文言のうち、国による「管理」にのみ重きがおかれ、他方の「公正」のもつ意味について一顧だにしていないといえる。

 (4)ところで、大阪に在住していた在留外国人の在留期間更新不許可処分等取消請求事件(大阪地方裁判所昭和六二年(行ウ)第二号)の証人尋問において、入管法に基づく外国人の在留資格の取得、変更や在留期間の更新、再入国の許可等に関する事項を所掌事務とする法務省入国管理局資格審査課の課長 (右不許可処分当時その地位にあった) を経て、右証人尋問当時大阪入国管理局長の職にあった谷岸敏行氏は、人管法第一条に定める「公正な管理」のうちの「公正」の意味について、次のとおり証言している。

 @ 同事件平成五年一月二六日付谷岸証人調書二五丁以下(問は要約)
  問・・入管法一条にいう公正とはどういう意味か。
  答・・これは前にも証言したことがございます。この公正な管理の中身につきましては、やはり、いろんな意見がありまして、人によって、若干、異なっております。じゃあ、私は、どう思うかと言いますと、私は日本国、及び、日本国社会の利益と、外国人の人権の調和をはかると、これが、公正な管理ではなかろうかと、私自身は、そのように理解しております。
  問・・外国人登録法一条にいう公正の意味はどうか。
  答・・同じだと思いますけれども。

 A 同事件平成五年六月一日付谷岸証人調書一二丁以下(問は要約)
  問・・公正というのは公平で正義に適った管理という意味で理解してよいか。
  答・・ええ。公正な管理の公正とは何かということは入管局始まって以来色々議論されまして、各種の会同の議題にもなったことでございます。ですから今でも統一された見解というのはないと思います。各人が大体こうだろうと思ってるのが実情ではなかろうかと思っております。私はこのように思ってますと断って申し上げてる次第でございます。
  問・・法務省ないし人管局の中で、公平で正義に適った管理というような理解の仕方はあるか。
  答・・抽象的には勿論おっしゃるとおりだと思います。その中身が問題ですが。
  問・・正義に適ったという中身として、社会的弱者の権利を守るという観点があるとの了解もあったか。
  答・・そういう意見も聞いたことはございます。
  問・・入管行政をやって行く上では、特に社会的弱者の権利を守って行くという観点が必要だということか。
  答・・弱者の権利を守って行くという意見もございましたと申し上げてる次第であります。
  問・・そういうのは必要ないんだという意見はあったか。
  答・・いやーもう具体的に色々、数年、長年にわたって討議されてることですから、そういう必要がないという意見があったかどうか聞かれても、はっきりした記憶はございません。
  問・・そういう意見があったという記憶はないか。
  答・・少なくとも記憶には残ってません。

 (5)以上明らかな如く、入管法の「公正な管理」の内容について法務省の実質的責任者のレベルにおいても、同法の目的を定めた一条の趣旨が単に国による「公益」をはかることだけを内容としたものではないことが十分認識されていたのである。
 そして、谷岸証人自ら認めるとおり、外登法の一条の「公正な管理」についても同じ意味であるから、右の議論は同法一条の解釈ひいては同法の目的をどうとらえるかについても同様に理解すべきものである。

 (6)そうすると、外登法一条の公正な管理の「公正」とは、外国人の人権即ち、具体的には日本国憲法が保障する人権ないしは国際人権規約 B規約及び子供の権利条約で保障する権利そしてそれらの精神ないし趣旨に則った諸利益をも保護することをもふまえて規定されたものということができるのである。なお、付言するに、この「公正」の意味を「正確」という解釈で置き換えることは明らかなあやまちである。
 そうであれば、同法一条に定める「公正」の中身には、例えば原判決が指摘する住民基本台帳法一条の「住民の利便を増進する」ことを目的としていることと、少なくとも何らの径庭はないということができる。
 従って、原判決が右文言のもつ重要な意味に考慮を払わず、安易に看過して外登法の目的を断じたことは明らかに法律解釈を誤ったものといわざるを得ない。

 (7)以上要するに、外登法一条に定める同法の目的は、一方で日本国ないし日本国社会の利益を図ることがあるとしても、他方で当該外国人の人権等の諸利益保護を図ることも内容としているのであり、もって両者の調和を図ろうとしているとみることができる。「公正な管理」とはこのことを表したものである。
 右のように、外登法の目的を解すると、以下に述べるとおり外国人登録の権利性を肯定する重要な根拠となるのであり、また「同居者」概念についても形式的な解釈に拘泥する必要は必ずしもないことになる。

4 外登法一五条二項の「同居者」の解釈

 (1)原判決は、外登法一五条二項の「同居」する者とは、同一家屋で起居を共にするなど実質的に当該外国人と共同生活をしている者をいうと解し、原告の法定代理人親権者である実父については右同居者に含まれないとしている。
 同居者の範囲を右のように解する根拠として、原判決は、同法一五条一項、二項の規定が、同法四条に定める登録事項が正確に登録されることを期するため、当該外国人の居住関係及び身分関係について最もよく知っていると思われる者を登録義務者と定めていることなどをあげている。

 (2)そこで検討するに、右条項の「同居者」の範囲を考える場合、重要なことは、代理人によって外国人登録申請をしようとするとき、その代理人が当該外国人の同法四条に定める登録事項を正確に登録できるよう、これを担保できる立場にあるか否かである。従って、その代理人が起居を現実に共にしていることなどを必ずしも不可欠の要件として拘泥すべきではない。
 ところで、原告の父在一は、原告の母昭子との離婚に際し監護者を昭子としつつ原告の親権を取得した。
 なるほど原告に対する現実の監護養育については母昭子がそれを担っているとしても、親権者である父在一も親権者として原告に対する親権を行使し、法定代理人としてその包括的な代理権等を行使する立場にある。
 父在一におけるかような権能の所在をふまえたとき、同人も原告に関する居住関係及び身分関係について熟知する立場にあると考えるべきである。
 従って、父在一が原告と現実に起居を共にしていないとしても同人を「同居者」に含めることは法的解釈として十分可能である。

 (3)翻ってみるに、そもそも同法四条一項が当該外国人の登録事項として求めている二〇項目の内容をみると、少なくとも親権者であれば当該外国人と起居を共にしていなくとも、それら各事項の正確な登録を期することができるものばかりである。
 「同居者」の概念をどう解するかは、右条項で求められている登録事項と対比しつつ、具体的にそれら事項の正確性を担保できる者であるか否かで考えるべきであって、 「同居者」概念自体がいわば一人歩きして解釈されるべきではない。

 (4)そして、前記のとおり同法の目的を考えたとき、親権者が当該外国人の法定代理人として右各登録事項を明らかにして登録申請することによって、外登法の一方の目的とする日本国及び日本国社会の利益保護は十分達成できていることになるのである。そうすると、あとは当該外国人の登録を受ける利益、これによって人権保障の実を得るということの保護を図る同法の他方の目的との調整でみると、右法定代理人親権者による申請を受理しない正当な根拠は何ら見当たらないのである。

 (5)以上の次第であるから、同法一五条二項の「同居者」とは、外国人登録の正確性を担保できる者であり、それは具体的には、原判決がいう起居を共にするなど実質的に当該外国人と共同生活をしている者のみならず、本件の親権者法定代理人など右に準じる者をも含む概念というべきである。
 なお、原判決は、「同居者」の範囲を緩やかに解釈運用すると申請義務の不履行について過料の制裁があることから、かえって不利益を被ることを理由に許されないとしている。しかし、本書でのべる「同居者」に関する主張は「同居者」の範囲を 「緩やかに解釈連用すべき」 との立論に立ったものではない。あくまで同法の目的及び右条項の趣旨に従ったうえでの本来の範囲として、「同居者」に含まれる者を右のとおり解すべきだとしているものである。
 また、仮にこれが「緩やかな解釈運用」にあたるとしても、本件のように代理人が積極的に代理申請をしている場合において、これがひいては当該外国人の有利になるのであれば、罪刑法定主義が禁じる類推解釈や安易な拡大解釈に繋がるものではないというべきである。

5 外国人登録の権利性、申請義務者以外の者に登録申請資格を認めうるか

 (1)原判決は、外登法が在留外国人の公正な管理に資することを目的とした法律であるとして、登録申請義務者による申請義務のみを認め、申請義務者以外の者に申請資格を認めない制度を採用したものであると断じ、その結果外国人登録の権利性を否定している。

(2)しかしながら、原判決の右立論は前記のとおり、同法の目的を国による在留外国人の公正な管理という「公益」を図ることのみととらえることを基本的な発想としているのであり、それは前記に検討したように同法の目的解釈の誤りである。
 即ち、同法は右目的と併せて、これに対置するものとして当該外国人の人権ないしは諸利益の保護をもはかり両者を調整することを旨としているのである。
 これは既に指摘したように住民基本台帳法一条の「住民の利便を増進する」旨の規定等があるのと同様の法構造を外登法が有していることといえる。
 従って、外登法は、外国人登録の権利を肯定しているか、又は右登録にかかる申請義務者とは別に申請資格者の存在を肯定しているというべきである。

 (3)そして、当該外国人が一六歳に満たない場合等自ら申請をすることができない場合は、通常は同法一五条二項に定める代理申請義務者である「同居者」が申請するのであるから一般にさしたる問題は生じないが、その者らが申請義務を履行しないときには正に当該外国人の人権ないし諸利益保護をはかるため右義務者以外の者の申請資格者の登録申請の権利が顕著となってくるのである。

 (4)即ち、申請義務者が右申請義務を履行しないとき、外登法は当該外国人の人権ないし諸利益保護のという目的のため、当該外国人を未登録のままに放置することを是認していないというべきである。
 従って、右未登録状態解消のため、申請義務者とは別個に申請資格者の存在を認めているのであり、それによって「公益」をはかる一方で当該外国人の個人的権利利益を保護しようとしているといえよう。

 (5)そうすると、本件において、仮に原告の親権者父在一が「同居者」に含まれないとしても、原告自身の人権ないし諸利益保護のため、当の原告自身が外国人登録の権利を有する申請資格者であるにもかかわらずその行使ができないのであるから、このような場合文字通り法定代理人としてその親権者である父在一が代理申請資格者の立場で登録申請できることを同法は許容しているというべきである。
 本件の場合、父在一を「同居者」に含めないとしたら、原告に最も利益に申請資格者としてその権能を行使しうる人物は父在一以外にないのであるから、同人に代理申請資格を認めても何らの問題は生じないといえる。

四 事務管理による外登法上の申請を無効と解すべきではないとされた判例

1 外登法一五条二項の解釈にかかわる判例として東京高裁第一〇刑事部昭和三四年一二月二二日判決がある(法曹會「外国人犯罪裁判例集」四七七・四九一頁)。
 右判決は、「在監者のため同法(外登法)第一一条一項の申請手続きを当該施設の長が事務管理によって行った場合において当該申請の効力が有効とされた事例」として紹介されているものである。
 東京高等裁判所刑事判決速報八二〇号により事案をみると、被告人が既決囚として在監中、施設の長が被告人のために事務管理として外登法一一条一項(切替交付申請)の申請をしてやり、その際出所後直ちに所轄の市役所に出頭して指紋を押捺するよう注意を与えていたこと、また同時に、被告人は在監中法務大臣から特別在留許可書を受け取ったが、外登法九条一項によれば在留資格の変更が生じた時は一四日以内に変更登録申請をしなければならないのに、こちらの方は施設の長が事務管理による申請を行わず、出所後二週間以内にその手続きをするよう注意を与えただけであったところ、被告人は在留資格変更後二週間を経過した後に仮釈放となり、出所後間もなく(出所後一八日経過)外国人登録証明書の不携帯罪により現認検挙されるに至ったというものである。
 この被告人は指紋不押捺の罪及び変更登録不申請の罪により起訴されたが、弁護人は、在監者には外登法一五条二項のような申請の代理規定が存在しないから外登法一一条一項の適用とこれを前提とした指紋押捺の義務はなく、外登法九条一項も在監者には代理申請規定が存在しないから適用がないとして無罪を主張した。
 原審は、両罪とも有罪としたが、東京高裁は、指紋不押捺の罪については原審どおりとしたものの、変更登録不申請の罪については破棄自判して無罪の言渡しをした。

2 そこで、東京高裁の判決理由であるが、外登法一一条一項関係について、弁護人の主張に対して次のとおり判示した。
 「外国人登録法は、同法第一条の規定によって明らかなように、本邦に在留する外国人の登録を実施することによって、外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資することを目的とするものであるから、その目的に照らせば、同法第一一条第一項は、同法にいう外国人で、本邦に在留する者には、全部その適用があり、特に在監者には、その適用がないと解すべき理由はなく、なお同法第一五条第一項が、同法が定めている申請等は、自ら当該市町村の事務所に出頭して行わなければならない旨を規定しており、且つ同法第一五条第二項が、自ら申請等をすることができない場合において、代理が許される場合並びに代理人になりうる者及びその順位を規定しているのに、在監者には代理を許す規定がなく、又代理人になりうる者の指定もないことは、論旨の指摘するとおりであるが、在監者に外国人登録法第一一条第一項の適用があるか否かは、在監者に対して、自ら市町村の事務所に出頭して申請等をすることを期待することができるか否かとは直接関係がない別個の問題であるばかりでなく、当審証人飛鋪宏平の証言によれば、在監者による同法第一一条第一項の申請の実際上の手続きは、当該施設の長が、事務管理により、在監者のために、所定の手続をしてやることになっており、且つ現実にしてやっていることが明らかであるが、この手続による申請をことさら無効と解さなければならないとも考えられないし、在監者には、外国人登録法第一一条第一項の申請をすることが絶対に期待できないとはいえないから、在監者に同法第一一条第一項の適用がないことを前提として、原判示第一の事実が、被告人に指紋不押なつ罪を認めたことを非難することは当たらないし、なお、本件は、当該施設の長が事務管理により、在監者である被告人のために、事実上、外国人登録法第一一条第一項の申請手続をしてやった場合であり、この場合において、在監者である申請者が指紋を押なつすべき時期については外国人登録法に特に明文はないが、同法が指紋押なつ制度を設けた趣旨に鑑みれば、同法第一四条第一五項後段に準じ、事故がなくなった後、すなわち出所した後、直ちにすればよいものと解すべきであり、且つ記録上明らかなように、被告人は、出所の際、出所後直ちに所轄の大宮市役所に出頭して指紋を押なつするよう注意を受けていたものであるから、原判示第一の事実が、被告人に出所後直ちに、所轄の大宮市役所に出頭して、指紋を押なつしなかったことをもって、指紋不押なつ罪に問擬したことは相当であるから、論旨は理由がない。」
 次いで、外登法九条一項関係については、右と同じ理由により在監者にも適用があるとしながら、施設の長が事務管理により申請を行った事実はないから、被告人に在留資格変更後二週間以内に右申請をすることを期待することは不可能であるとして変更登録不申請罪に問擬し得ないとした。

3 本件との関連でこの判例の最も重要な点は、施設の長(刑務所長)が、在監者のために外登法一五条二項の代理申請規定によるのではなく、事務管理として外登法一一条一項の切替交付申請をしてもことさら無効と解すべきいわれはないとしたことである。
 新規登録申請(外登法三条)、切替申請(外登法一一条)、再交付申請(外登法七条)、変更登録申請(外登法九条)等の外登法上の申請は全て本人が市町村役場に出頭しなければならないことになっており(外登法一五条一項)、代理申請できる場合も、「外国人が一六歳に満たない場合」か「疾病その他身体の故障により自ら申請若しくは登録証明書の受領若しくは提出をすることができない場合」であって、且つ当該外国の同居者である者が法定の順位に従って申請することになっているのであるから(外登法一五条二項)、在監者に右申請手続の規定を厳格に適用すると、この裁判の弁護人が主張しているように、在監者には申請する術がなくなってしまうことになる。
 また、原判決は第三(争点についての判断)、三、1において、「外登法は、在留外国人の公正な管理に資することを目的とした法律であり、できるだけ正確な内容の外国人登録を迅速に漏れなく実施する方法として、登録申請義務者による申請義務のみを認め、申請義務者以外の者に申請資格を認めない制度を採用したものであると解せられる。」と判示しているが、このような見解に立つなら、在監者は、代理申請できる場合にも該当しないし(代理申請できるのは一六歳未満の未成年者と身体の故障で出頭できない場合である)、施設の長はどう考えても在監者と「同居」しているとは言えないから二重の意味で外登法上の申請は不可能となるのである。
 にもかかわらず、東京高裁判決は、実際上施設の長が在監者のために外登法上の申請を事務管理として行っているという実態に鑑みて、あえて無効と解すべきいわれはないと判断したものであり、これは正に、申請義務者でない者による申請も適法となる場合があることを示した貴重な判例だということになる。

4 では何故、申請義務者以外の者からの申請も一定の場合許さなければならないのであろうか。
 東京高裁判決は外登法一条の目的規定の趣旨からすると本邦に在留する外国人は例外なく同法の各種申請義務があるとしているが、仮にそうだとすれば、当該外国人が申請したくても申請できないようなあらゆる事態を想定した代理申請規定を充実させておくべきである。一方で全ての在留外国人に外国人登録申請義務を課しておきながら、他方で代理申請手続を著しく窮屈に制限して「門戸」を閉ざすのは正義に反する結果を招く。同判決は在監者に外登法一一条一項の適用があるか否かは、在監者に対して、自ら市町村の事務所に出頭して申請等をすることを期待することができるか否かとは直接関係はない別個の問題だとしているが、この部分は口が滑りすぎである。 しかしながら、立法技術からすると、あらゆる事態を想定した代理申請規定を作ることは不可能であることも事実であるが、それにしても現行の外登法一五条二項は余りにも代理申請を制限しすぎており、不合理な規定である。それ故にこそ在監者の問題が出てきた場合には矛盾が生ずるのであり(矛盾とは、外登法一条が在留外国人の公正な管理のために外国人登録を実施するとしている一方、代理申請規定の不備でこの目的が達せられないような事態が生じていること)、この矛盾を解消し、外登法一条の目的を達成するためには、代理申請に関する合理的な解釈が不可欠となるのである。
 すなわち、外登法一五条二項を厳格解釈していかなる場合でも申請義務者でない者からの申請を不適法とするのは、同法一条の趣旨をないがしろにするものであり、本末転倒の解釈となるので、外登法一条の目的を達成するために、申請義務者が申請をなしえない場合には、正確な申請を担保できる立場にある者からの申請を事務管理として適法になしうるものと解釈する必要がある。

5 これを本件に当てはめれば、外国人登録を要する原告李聖徳は一六歳未満であり、外登法一五条二項の代理申請の要件を満たす同居者である母置野昭子が原告を代理して外登法三条の新規登録申請をしなければならないところ、同女による申請が期待できない状況の下にあっては、原告法定代理人親権者である父李在一が原告の事務管理として右申請手続をする外なく、これを受理しても、同人が原告との面接交渉により原告に係る外登法四条に定める登録事項を把握しており、その正確性について十分担保できるものと認められるので、外登法一条の趣旨に鑑みると、これを敢えて違法と解すべきではない。
 ところで、控訴人は、例えば養護施設の一六歳未満の外国人である子供の登録を施設の職員が代行することも許されていると主張していたが、これに対して被控訴人は申請義務者の存在しないケ−スであるから事案が異なるとし、本件の場合母親が代理申請義務者として存在している旨の主張をしている。また、原判決は、第三、三、2において、「もっとも、代理申請義務者である母昭子が原告の外国人登録を拒み、その結果原告について外国人登録がなされていない事実が存在する。しかし、このような事態は外国人本人が外国人登録を拒む場合にも生ずることであり、申請義務者でない者による登録申請を受理しなければならないものではない。」としている。
 しかしながら、このような議論は、本件で申請を要するとされる外国人が一六歳未満の未成年の外国人であるという事実を見過ごしている。原告李聖徳にとってみれば本来的申請義務者による登録申請がなされない状況下に置かれており、申請したくても申請できない事態、被控訴人側からすると申請させたくても申請させ得ない事態に置かれていることは在監者と全く同じである。一六歳以上の在留外国人が自らの意思で登録申請しない場合とは明らかに異なるのである。
 こうした場合、登録の正確性を担保できる立場にあると認められる者が存在し、且つその者が原告の親権者であるというのであれば、外登法一条の趣旨に鑑み、その者からの申請を受理しても何ら差し支えはないはずである。養護施設の子供や在監者の例と本件との違いを事細かに詮索し、本件の申請を不受理とするのはそれこそ立法目的を逸脱した解釈態度である。

以上


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