平成6年(家)第190号 親権者変更申立事件[以下,甲事件という。]
同年(家)第191号 子の監護権の変更申立事件[以下,乙事件という。]

審 判

本籍 東京都○○市○○○三丁目○○○番地
住所 津市○○町一丁目○○番

甲事件申立人・乙事件相手方  置野昭子 (昭和37年○○月○○日生)

右代理人弁護士(甲事件のみ) 原山惠子 
右同(甲事件のみ)      原山剛三

国籍 朝鮮(慶尚北道英陽郡○○面○○○635)
住所 三重県一志郡○○町字○○987番地の6の6

甲事件相手方・乙事件申立人  大谷章雄こと
               李 在一 (1959年10月12日生)

右代理人弁護士        伊藤誠基
右同             梅山光法

国籍 相手方の国籍と同じ
住所 申立人の住所と同じ

甲・乙事件未成年者      置野聖徳こと
               李 聖徳  (1987年○○月○○日生)

(注)以下においては,甲事件申立人・乙事件相手方置野昭子を単に「申立人」 と,甲事件相手方・乙事件申立人李在一を単に「相手方」と,甲・乙事件未成年者李聖徳を単に「未成年者」とそれぞれ表示する。


主文

 一 未成年者の親権者を相手方から申立人に変更する。

 二 相手方の子の監護者の変更の申立を却下する。


理由

一 申立の趣旨

 1 甲事件
   主文一項と同旨

 2 乙事件
   未成年者の監護者を申立人から相手方に変更する。

二 当裁判所の判断

 1 裁判管轄権について

 申立人は日本の国籍を有し,相手方及び未成年者は日本の国籍を有しないが, 右3名とも日本に住所を有する。本件甲・乙事件は,子の福祉に係わる親権者及び監護者の変更についての事件であり未成年者の住所地国に裁判管轄権があると解すべきであるから,当裁判所に管轄権がある。

 2 準拠法について

(一) 本件甲・乙事件は親子間の法律関係についての問題であるから,準拠法は法例21条の定めるところによるのであるが,右準拠法を確定するにはまず相手方及び未成年者の本国法を検討しておく必要がある。

 本件甲事件記録中の調査報告書及び戸籍謄本等の資料,本件乙事件,平成元年(家イ)第50号夫婦関係調整調停事件,平成4年(家イ)第86号離婚等調停事件及び同年(家)429号子の氏の変更許可申立事件の各記録によれば,次の事実が認められる。

(1) 相手方は,出生以来日本に居住し,外国人登録上の国籍を朝鮮とし本国の住所又は居所を大韓民国(以下,韓国という。)内の慶尚北道英陽郡○○面○○○635としてきたものである。

(2) そして,申立人と相手方は,昭和62年5月20日婚姻して三重県内で生活し,同年○○月○○日未成年者をもうけたが,平成4年3月23日,未成年者の親権者を相手方,監護者を申立人と定めて調停離婚し,右調停において,親権及び監護権の帰属の変更について右調停成立の日から1年後に更に協議する旨定めた。

(3) 未成年者の単独親権者となった相手方は,出生より日本と朝鮮の二重国籍を有していた未成年者につき,平成4年6月2日,国籍法13条により日本の国籍を離脱する旨の届け出をし,これにより未成年者は朝鮮の国籍のみを有することとなった。

(4) 前記のように相手方の外国人登録上の国籍は朝鮮となっているところ,この点に関し,相手方は自己の国籍を朝鮮と述べ,韓国あるいは朝鮮民主主義人民共和国(以下,共和国という。)のいずれに帰属する意思であるか鮮明にしない。

(5) 相手方は,父の死亡する一年前の昭和六〇年ころ,父が故国である韓国を訪れた際に同道したこともあり,また韓国には親戚も存在しており韓国とは密接な繋がりを有している。

(6) 共和国の国籍法は,外国に居住する共和国公民と外国公民との間に生まれた子女の国籍は父母の合意により定める旨規定しているところ,相手方が共和国の公民であるとした場合,未成年者の国籍については父母である相手方と申立人との間に右の合意がなされた形跡はないから,未成年者は日本の国籍を離脱したことにより無国籍者となり,これは不合理である。これに対し,韓国の国籍法は,出生した当時に父が同国の国民である者は同国の国民である旨定めており,相手方が韓国の国民であるならば,未成年者は無国籍ではなく韓国の国民である。

(二) 以上認定の諸事情を総合して考察すると,相手方及び未成年者の本国法は韓国法と認めるのが相当である。

 したがって本件の準拠法は韓国法であり,韓国民法909条4項は,父母が離婚した場合において親権者の変更が必要とされる場合には家庭法院が決定する旨定めており,また同民法837条2項は,子の養育に関する事項について,当事者の協議による定めが適切を欠いて子の利益を害するときは,家庭法院は,当事者の請求により,その子の年齢,父母の財産状況,その他の事情を参酌し,何時でも養育に関する事項を変更し,又は他の相当な処分を命ずることができる旨定めている。

 3 親権者及び監護者の変更の当否について

(一) そこで,未成年者について親権者及び監護者の変更の当否について検討するに,前掲の各資料及び各記録によれば,次のような事実が認められる。

(1) 前記のように,離婚調停において,未成年者の親権者は相手方,監護者は申立人と定められ,調停成立の日から1年後に更に親権及び監護権の変更について協議する旨定められたが,このような合意に至ったのはそれが未成年者の養育,福祉にとって最適な措置として考えられたからではなく,両者間の激しい訴訟の末に離婚をまず成立させるための妥協的な措置として採られたものであり,離婚は成立したものの両者の感情的対立は払拭されていなかったことから,1年後の協議が順調に纏まる見込みは甚だ薄く,むしろ未成年者を巡って更に確執が深まる危険を多分に蔵していた。

(2) 相手方は,申立人との離婚とともに,同人の両親との養子縁組を調停離婚により解消したが,右離婚及び離縁にあたり,申立人及びその両親らが相手方に対して民族的差別を行ってきたとして激しい非難を加え,この姿勢は現在も変わっておらず,未成年者に対しては朝鮮民族の一員であることを認識させることに意を用いている。

(3) そして,相手方は,現に未成年者を監護,養育している申立人と十分な協議をなすことなく,自己の一存により,前記のように未成年者の日本の国籍離脱の届出をなした。これに伴う氏の変更の問題が,家庭及び小学校における未成年者の生活に強い緊張と不安感を与えることとなった。

(4) 更に,未成年者の外国人登録を巡っても種々の軋轢を生じ,同人の同居者である申立人は,相手方が一方的に未成年者の国籍を離脱させたことから登録の申請を拒否し,他方,未成年者の同居者でない相手方は自ら右申請をしたが却下され,これを不服として訴訟を提起するに至っている。

(5) 申立人は,親権者が自己に変更されれば,未成年者について帰化申請をして再び日本の国籍を取得させたいと望んでいる。

(6) 申立人と相手方の前記調停においては,相手方の申立人への養育費の支払及び未成年者との面接についての条項も定められ,右支払及び面接については概ね右条項に従って行われている。

(7) 申立人は,小学校二年の未成年者及び両親と同居し,家業の無線等設備業を手伝いながら未成年者を養育しており,経済的にも安定しており養育の能力にも格別の問題はない。

(8) 相手方は,母親と同居して精神薄弱者施設の指導員をしており,未成年者とは月に二回程度面接している。

(二) 以上認定の事実によれば,未成年者を巡る申立人と相手方の争いは,国籍を異にすることから生じた深刻な問題を孕んでいるが,その直接の因は親権と監護権とを分属させた点にある。申立人及び相手方が自己の血及び思想を受け継ぐものとして未成年者を成育させたいとの望みを持つこと自体は当然ではある。しかし,親権及び監護権は子の福祉に資すべきものであり,まず子の養育及び福祉を中心にこれを考えるべきである。もとより,調停における申立人と相手方の合意は,親権と監護権を分属させた点において最良の方策とはいえないものの,一応は尊重すべきであるが,右調停成立後既に約4年を経過していること,この間相手方は現に未成年者を監護養育をしている申立人との十分な協議も経ないで,未成年者の生活に重大な影響を及ぼす日本国籍離脱の措置を採り,紛争を拡大する一因を作ったこと,そして未成年者を巡る申立人と相手方の確執は鎮静化する気配がないこと,このような両親の確執の中で成長していくのは未成年者の福祉にとって望ましくないことは明らかであること,未成年者の養育はこれまで申立人が行ってきたこと,未成年者は未だ小学校二年生であり申立人との母子関係は安定していること,その他本件に顕れた諸事情を考え合わせると,親権と監護権の分属状態をこれ以上継続するのは未成年者の養育,福祉にとって利益はなくむしろ有害であるといわざえるをえず,現時点においては親権と監護権を一本化するのが相当であり,これを担うのはこれまでさしたる問題もなく未成年者を監護養育してきた申立人とするのが相当である。

 以上により,甲事件の親権者の変更を求める申立人の申立は理由があるから認容し,乙事件の監護者の変更を求める相手方の申立は理由がないから却下することとし,主文のとおり審判する。

平成八年2月29日

津家庭裁判所

家事審判官 中村謙二郎


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