「1993年在日韓国人青年意識調査」より


 このページでは,今のところ著作権や時間的問題のため,一部の分析結果の要諦と単純集計表のみを提供しています。
 既存のまとまった出版物としては『第3次在日韓国人青年意識調査 中間報告書』 を参照のこと。中間報告書を入手するには,頒価1000円+郵送料310円を添えて在日韓 国青年会中央本部(〒106 東京都港区南麻布1-7-32)まで申し込んでください。 報告書以外で入手可能な刊行物は,各タイトル末に記してあります。
 なお,中間報告書以後の成果は出版の準備中ですが,刊行は早くとも1996年12月 ごろの予定です。

HAN-A面 | HAN-B面 || 在日朝鮮人学生意識調査(1989年)



調査の概要

  1.  母集団は「日本生まれで,韓国籍をもつ,18〜30歳の者」。
  2.  母集団を代表するものは,在日韓国青年会が保有する約7万名の名簿。
  3.  調査は1993年6月から9月までの3ヶ月間,主として訪問面接法により実施。
  4.  調査対象者は等間隔無作為抽出による1723名,有効回収数800票,回収率46.4%。
  5.  単純集計表はこちら



教育と職業

  1.  単純集計レベルで見るかぎり、在日韓国人と日本人のあいだに教育水準の 差異は観察されない。
  2.  女子の教育機会は、同世代の日本人と同程度に父親の職業階層に制約を受 けているが、男子のほうは、あまり明確な影響は受けていない。それは、上層抑 圧と下層押上の両圧力がおよぶ結果である。
  3.  本調査の父親のうち、約7割までもが零細企業や自営業を営んでいるのに たいして、一般従業者はわずか2割に満たない。これは同年齢層の日本人に比べて、 非常に大きな違いである。父親の世代には、日本の労働市場の圧倒的な閉鎖性を 確認できる。
  4.  男性の回答者本人では、一般従業者が六割をこえ、日本企業と同胞企業の どちらについても、同じぐらいの規模の従業先を選ぶことができている。父親 世代に比べると、日本の労働市場は開放化の方向へと向かいつつあることが認 められる。
(金明秀 1995「在日韓国人の学歴と職業」『年報人間科学』第16号,大阪大学人間科学部)



民族教育


  1.  「広い意味での民族教育」は、回答者の主観的な判断としては、受けた者 よりも受けられなかった青年のほうが多い。
  2.  「広い意味での民族教育」と有意な関連が見られるのは、主観的要因と 地理的要因であり、階層を代表する変数とは明確な関連が見られない。
  3.  民族教育エージェントの主軸を担っているのは「家庭」であり、民族学校や 民族団体などの制度的・半制度的な教育エージェントと接触経験を持つ回答者は、 比較的少ない割合にとどまっている。
  4.  「広い意味での民族教育」の内容としては、「生活様式」と「母国語」が 中心をなしている。
  5.  それぞれのエージェントは多かれ少なかれ個々の教育内容を補完しあう形で 機能しており、とりわけ家庭とそれ以外とでは、教育内容の中心である生活様式と 母国語の教育を相互に分担する構図が見受けられる。
  6.  「生活様式」は、チェサをはじめとする「家庭」でのさまざまな儀礼や行事 をつうじて伝達されており、しかも、この事実上の民族教育機能は、かなり広範な 在日韓国人青年に及んでいるものと考えられる。しかし、「母国語」については、 一般的な習得度は低く、「母国に留学・修学」するか「民族学校」に通学してはじ めて母国語を本格的にマスターすることが可能となる状態に留まっている。



アイデンティティへの脅迫


  1.  在日韓国人青年の被差別体験は,“受けていない”というほうに分布の比重 があるが,少なくとも4割強の者が,何らかの民族差別を受けてきている。身近 なところでの民族差別の見聞の割合は,直接的な被差別体験よりも,むしろ少な めである。このことは,家庭などで,各人の被差別体験が語り合われ,体験の 共有化がなされることが稀であるためだと考えられる。
  2.  被差別体験に比べて,普段の生活のなかで日本人の差別感情を意識する 頻度は非常に高い。在日韓国人青年にとって,差別というものは,明確な行為 という形をとって顕在化する場合にかぎらず,とりとめのない日常会話のなか や,なにげない態度やまなざしのなかに,漠然とはしていてもいやおうなく感得 せざるをえない“脅迫”として存在している,と考えられる。
  3.  在日韓国人青年の多くが,成長過程で,民族差別のゆえに民族的劣等感 を抱かされている。しかし,成長過程での民族教育が保障されていれば,否定的 な自己イメージを抱かずにすむ。
  4.  成長過程で民族的劣等感を抱いていても,青年期に達すれば,多くの青年 は民族的劣等感を克服している。民族的劣等感の克服に一定の効果を持つのは, 民族教育と民族団体への参加である。
(金明秀 未発表「アイデンティティへの脅迫」



エスニシティの形成要因

  1.  在日韓国人青年の民族的アイデンティティは,同胞民族集団との情緒的な 紐帯を重視する「関係志向」と,認知的,手段的な側面である「主体志向」とに 分節化される。
  2.  関係志向は,家庭内で大きく継承され,一部,民族団体への参加によって 獲得される。
  3.  主体志向は,家庭内外での教育を通して,また,民族団体への参加によっ て,大きく獲得されるものであり,家庭内で直接継承される部分はあまり大きく はない。
  4.  出身社会階層,成育地域内同胞数,被差別体験の三つは,在日韓国人青年 の民族的アイデンティティ形成にまったく,あるいはほとんど影響力を持たない。
(金明秀 1995「エスニシティの形成論――在日韓国人青年を事例として」『ソシオロジ』第124号)



差別とエスニシティ

  1.  被差別体験は,在日韓国人青年のエスニシティ形成にたいして,相対的 剥奪感と民族的劣等感を媒介とする間接的な因果的影響力を持つ。
  2.  被差別体験からエスニシティにたいして明確な直接の影響力を確認でき ないのは,相対的剥奪感と民族的劣等感を媒介とした正負の影響力が,たがい に相殺しあっているためである。
  3.  被差別体験による因果的効果を最大限に導きうる相対的剥奪感や民族的 劣等感といった媒介変数を導入してもなお,結局のところ,被差別体験の因果 的影響力は,他の要因に比較してその重要性は低い。
(金明秀 1996「差別とエスニシティの潜在的因果構造――在日韓国人青年を事例として」『解放社会学研究』第10号)



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