在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査
報告書


目次

  1. 調査の概要
    1. 調査の目的
    2. SSC調査の実施経緯
    3. 実査の経緯
    4. サンプルの構成
    5. 報告書作成にあたっての指針
  2. 教育機会
    1. はじめに
    2. 民族によって教育機会に不平等はあるか?
    3. 在日韓国人の教育達成を規定するもの
    4. まとめと議論
  3. 社会的地位達成
    1. はじめに
    2. 民族間の不平等とはなにか(1)
    3. 民族間の不平等とはなにか(2)
    4. 学歴メリットの民族的不平等
    5. 民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワーク
    6. 「自営」資源の継承による世代間上昇移動
    7. まとめと議論
  4. 地域移動
    1. 地域移動の定義と地域移動を見ることの意味
    2. 現職地と初職地
    3. 地域移動の民族間比較
    4. 地域移動と職業との関係
    5. 職業的達成達成にたいする地域移動の効果
    6. 地域移動の方向
    7. 知見のまとめ
  5. 地域意識
    1. 在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか
    2. 個人属性と地域意識
    3. 地域の状況と地域意識
    4. 民族意識と地域意識
    5. 民族・地域意識と民族問題へのかかわり
  6. 民族団体への参加
    1. 民族団体への参加状況
    2. 民族団体の現状
    3. おわりに
  7. 満足度
    1. 収入の満足度
    2. 学歴の満足度
    3. 住宅の満足度
    4. 余暇の満足度
    5. 勤め先(自営業の場合は事業内容)の満足度
    6. 仕事の内容の満足度
    7. 地域の環境の満足度
    8. 生活全般の満足度(まとめ)
  8. 家庭内民族性
    1. 家庭内民族性の回答分布
    2. 家庭内民族性の世代差
    3. 「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」
    4. 民族的行動の指標群との関連
    5. 「地域内同胞多住」の程度との関係
    6. 母親の階層性との関係
  9. 差別体験
    1. 差別体験の様態
    2. 世代差
    3. 階層帰属意識別の分析
    4. 差別体験と相対的剥奪感
    5. 民族的誇り,個人的誇りとの関連
  10. 自尊心
    1. 民族的誇りと個人的誇りの直接的関係
    2. 2つの誇りの異同
    3. 世代・年齢層と2つの誇り
    4. 民族的社会環境と民族的行為との関連
    5. 権利要求項目との関連
    6. 「自尊心」のまとめ
  11. 愛着
    1. 愛着の結節点である「在日」
    2. 世代差と年齢差
    3. 満足度と愛着
  12. 名前の使用
    1. 名前の使用をめぐる在日韓朝鮮人の現状
    2. 「名前の使い分けパターン」に関する分析
    3. 本名使用度と本名を名乗る意志の規定要因について
    4. おわりに
  13. 権利
    1. はじめに
    2. 年齢と世代による権利要求の違い
    3. 日本の参政権
    4. 韓国の参政権
    5. 地方公務就任権
    6. 職業機会
    7. 社会保障
    8. 外国人登録証
    9. 帰化
    10. 民族教育
    11. まとめ
  14. 単純集計表


1. 調査の概要

金明秀

1.1 調査の目的

 まずはじめに,本報告書全体をとおした用語の説明をしておきたい。本報告書において,Koreanを指示する用語は以下の通りとする。民族の呼称としては「韓朝鮮」ないし「韓朝鮮民族」,韓朝鮮民族の構成員全体または個人を指して「韓朝鮮人」,在日の民族集団の呼称としては「在日韓朝鮮人」,そのうち韓国籍をもつ者のことを「在日韓国人」,「朝鮮」籍をもつ者のことを「在日朝鮮人」,日本籍をもつ者のことを「日本籍韓朝鮮人」とする。後述するように,「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」の母集団は韓国籍をもつ成人男性であるため,本調査データから直接言及される対象は,調査題目にもあるとおり,在日韓国人である。にもかかわらず,上記のような用語法を設定する理由は,本調査データの分析結果を直接一般化できる対象があくまでも韓国籍をもつ者に限定されることを明示するためである。

 さて,今日,在日韓朝鮮人をとりまく日本社会の環境は,非常に複雑なものとなってきている。日本社会の外向きの変化としては,とくに1980年代に入ってから,“アジア”にたいする関心の増大がひとつのトレンドとして定着し,アジア社会全体のイメージがポジティブな方向に遷移してきた。また内向きの変化としては,一応の内外人平等をたてまえとする「難民条約体制」のもとで,韓朝鮮民族にたいする偏見と差別が急速に柔和化し,定住外国人の地方参政権や地方公務就任権獲得に向けた運動を支持する動きが広範に受け入れられるまでになった。しかしながら,韓朝鮮民族にたいする偏見や差別が消失したわけではなく,いまだ結婚,就職,その他さまざまな社会生活の場面において,差別事象はあとを絶たない。在日韓朝鮮人を雇わないと明言する企業は少なくなったものの,有能な在日韓朝鮮人学生が不明瞭な理由で採用されないなどの事例は,数多く報告されている。日本社会の全体的な人権意識の雰囲気的な向上の中で,在日韓朝鮮人を“異質な隣人”として迎え入れようとする認識が広まり,韓朝鮮人にたいする差別は減少したものの,一方では潜在化し見えにくくなった差別事象や差別意識が糾弾をまぬがれ,根強く維持,再生産されているようにもみえる。

 また,在日韓朝鮮人社会内部における状況の変化もいちじるしい。日本の一般企業への就職の道が広がってからは,一世が築きあげ,二世が受け継いできた同胞企業を継ぐ青年が少なくなったとの声がある。また,1980年代後半には日本人との国際結婚をする韓朝鮮人の人数が過半数をこえた。いま出生しつつある在日韓朝鮮人の半数以上は日本国籍ないし二重国籍(事実上の日本国籍)であるにもかかわらず,日本籍韓朝鮮人にまで公式にメンバーシップをひろげる運動はまだあまりにも少なく,急速に増加しつつある日本籍韓朝鮮人は必要なサポートを受けられずに放置され,一方で民族団体はその構成員予備軍を急激に失いつつある。加えて,韓朝鮮人にたいする差別が相対的に減少することによって互助組織としての民族団体の存立意義が低下し,“若者の民族組織ばなれ”が広く指摘されている。同胞企業と民族団体を中心として形成されてきた在日韓朝鮮人コミュニティは,経済的側面,デモグラフィックな側面,社会的側面のいずれにおいても拡散の方向にあり,もはや明確な在日韓朝鮮人像を描くことは困難なほどになっている。

 1980年代以降のこうした変化,ないし複雑化は,多くの論者によってひとしく主張されていることであるが,その詳細な実態はかならずしも明らかではない。差別や不平等の構造は,実際にはどれだけ,そしてどのように変化してきたのか。在日韓朝鮮人は変化する差別や不平等構造にたいして,どのように対処してきたのか。在日韓朝鮮人コミュニティの様態の変化が,はたして在日韓朝鮮人の生活と意識にどのようなインパクトをおよぼしているのか。――いずれも基礎的かつ重要な問いであるが,それらを実証的に明らかにする試みは,まだきわめて少ない。在日韓朝鮮人社会は,すでに大きな転換点を迎えているにもかかわらず,今後の趨勢を占ううえで頼れるものは,識者の洞察と印象でしかなかったのである。

 「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」(Social Stratification and Social Conscious Survey ――以下,本調査ないしSSC調査とする)の目的は,過去および現在における在日韓朝鮮人の生活と意識の構造,動態を記述することにより,将来の在日韓朝鮮人社会の姿を見通すうえで,一つの,そして限定的ながらも客観的な,判断材料を提供することである。

1.2 SSC調査の実施経緯

 SSC調査は,在日韓国青年商工人連合会(以下,青商連合会)の15周年記念事業の一つの柱として発案され,1994年10月に研究代表者である金明秀が委託を受けたことにより企画がはじまった。

 委託にあたっての基本原則は,(1)収集された調査票およびデータの所有権は金明秀に帰属すること,(2)サンプリングおよび実査は青商連合会が担当すること,(3)調査の企画から分析にいたるまで,2をのぞくすべての手続きを,青商連合会の承諾を得ながら,金明秀およびその共同研究者の研究班が直接管理して行うこと,であった。

 また,青商連合会と金明秀の数度にわたる協議の結果,さらに以下のような指針が決定した。(4)阪神大震災に配慮し,兵庫県をサンプリングから除外すること,(5)調査コストとの関係から,サンプルを男性に限定し,標本数を1000とすること,(6)調査員となる青商連合会構成員への第1回インストラクションを1995年2月18日とし,同日をもって実査を開始すること,である。

1.3 実査の経緯

 調査票は研究班によって素案が作成され,青商連合会においても子細に検討されたのち,さらに研究班によって修正した調査票がふたたび青商連合会で討議されるなどのプロセスをへて,最終的に確定した。

 調査員は,原則として青商連合会の幹部および活動者である。金明秀が青商連合会の各地方理事にインストラクションを実施し,その後,各地方理事が調査員マニュアルにもとづき,各地方の構成員にインストラクションをおこなった。なお,青商がおかれていないいくつかの都道府県については,民間調査機関に委託した。

 実査の開始に先立ち,民団および青商連合会による調査対象者への依頼状を郵送し,調査の趣旨を理解してもらうようつとめた。

 実査の形式は,訪問面接法である。実査の開始は,前述のとおり,初回のインストラクションが行われた1995年2月18日である。当初,実査の期間は3ヶ月の予定であったが,諸般の事情により,調査票の収集がすべての地域で最終的に終了したのは1996年10月31日である。結果として,実査が1年8ヶ月にもおよぶという異例の事態となった。

 このような事態が生じた最大の原因は,民団の各都道府県本部が管理する名簿(1.4「サンプルの構成」参照)に,地域によってはいちじるしい不備があったためである。とりわけ東京都本部の場合,はじめに抽出したサンプルの9割までもが訪ねあたらないという深刻な事態に陥ったため,収集した調査票をいったん破棄し,比較的名簿が正確な各地方支部に出向いてサンプリングからやり直したという事情がある(1)。東京都は極端なケースだが,各都道府県で多かれ少なかれ類似の事態が発生し,再サンプリングおよび追加サンプリングを余儀なくされた。

 いずれにしても,収集時期に最大で1年8ヶ月もの開きが生じた以上,すべての調査票をはたして同一に論じることができるのかという批判は,あまんじて受けざるをえないだろう。

1.4 サンプルの構成

 本調査の母集団は,以下の3点を満たす者,すなわち成人の在日韓国人男性である。

  1. 1973年12月31日以前の生まれ(満20歳以上)
  2. 日本に定住している韓国籍の者
  3. 男性

 これを代表するものとして,在日本大韓民国民団(以下,民団)が保有する韓国国民登録台帳を用いた。民団の各都道府県本部の台帳から,無作為にスタート番号にあたる者を選び,その都道府県に割り当てられた標本数を等間隔抽出法で選びだし,対象者リストを作成した。

 しかし,対象者リストは各都道府県ごとに一定数の予備サンプルを含んでいるため,対象者リストに載せられた全ての人が調査対象者だというわけではない。実際にサンプルとしたのは,各地域ごとに指定された標本数までである。

 実際に調査した結果,「死亡」,「移転先不明」,「日本国籍を取得」,「対象年齢外」であることが判明した場合,予備サンプルないし追加サンプルと差し替えた。

 最終的に,1280の調査対象者から,899の有効票(回収率70.2%)が回収された。

1.5 報告書作成にあたっての指針

 当初は,基礎的なデータの分布を紹介する“一般読者向け”編と,多変量解析を用いてデータの要約の度合いを高めた“専門家向け”編の2分冊として報告書を刊行する予定であった。しかしながら,調査票の収集が大幅に遅れたことにともなって,データ解析と文章の執筆にあたる期間が予定よりも縮小したため,結果として“一般読者向け”と“専門家向け”の分析と文章を折衷したものを,一冊の報告書として刊行するプランに変更せざるをえなくなった。

 その際,編者が各章の執筆者に基本指針として要請したことは,(1)多変量解析の分析結果を念頭においたうえで,提示する分析はデータの分布を紹介する基礎的なレベルにとどめ,文体としてもできるかぎり“一般読者向け”の体裁にすること,(2)多変量解析の結果を提示する場合は,その分析手法について簡単な解説を掲載すること,(3)分析手法を基礎的なものに制限したとしても,基礎データの羅列に終始せず,できるかぎりストーリー性を重視すること,の3点である。ただし,編著者が担当した第2章および第3章については,「社会階層」という専門性の高いテーマを取り扱っているため,一般読者に平明に解説することよりも,まずは先行研究との一貫性のほうを重視すべきだとの観点に立ち,分析及び文体を基本的には専門家向けとし,それを一般読者向けにややラフな表現に言いくずしたものにした。

 結果として,もし第2章および第3章をのぞく各章について,比較的,平明に在日韓国人の実態を描き出すことに成功しているとすれば,禁欲的かつ地道にデータの紹介につとめた各執筆者の努力のおかげである。

 また,したがって,この種の調査報告書になじみのない読者は第4章以降からお読みになることをおすすめする。本報告書は,第1章から第12章まで,順にそれまでの各章を前提とする構成になってはいるが,基本的にそれぞれ独立した文章であるため,前から順に読み進む必要はない。関心のある部分から“つまみぐい”すればよいだろう。

 最後に,本報告書の執筆分担を明らかにしておく。第1章「調査の概要」,第2章「教育機会」,第3章「社会的地位達成」については,前述のとおり,編著者である金明秀が担当した。第4章「地域移動」,第5章「地域意識」は稲月正,第7章「満足度」,第11章「愛着」,第12章「権利」は中原洪二郎,第8章「家庭内民族性」,第9章「差別体験」,第10章「自尊心」は潮村公弘,第6章「民族団体」,第12章「名前の使用」は豊島慎一郎がそれぞれ担当した。各執筆者の1997年4月1日現在の所属と地位は次の通りである。

【執筆者一覧 (参加順)】

金 明 秀(研究代表者) 日本学術振興会海外特別研究員/
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)客員研究員
稲月  正 北九州大学外国語学部助教授
中原洪二郎 東京大学文学部助手
潮村 公弘 信州大学人文学部助教授
豊島慎一郎 関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程


第一章 注

  1. これによって,調査期間だけでなく,調査コストも莫大に跳ね上がったと聞いている。民団では,このことの反省もあり,その後,名簿の整理を行っている。


2. 教育機会

金明秀

2.1 はじめに

 在日韓朝鮮人の教育達成については,よく2つの異なった説を耳にする。一つの説は,経済的な障害から高等教育を受けたくても受けられなかった親の世代が,子どもにはそのような不満を抱かせたくないと思い,高い教育期待を持つようになるというものである。もう一つの説は,高等教育を受けても一般企業への就職の道が閉ざされていた親の世代が,大学に行っても無駄だという考えを持つようになり,子どもにたいする教育期待を失ってしまう(したがって,学歴よりも手に職をつけろ,ということになる)というものである。

 だが,私はかつて拙稿にて,単純集計レベルで観察するかぎり日本人と在日韓国人の教育達成に差はみられず,上記のいずれの説も妥当なものではないことを明らかにした。そしてその事実は,本調査においてもあらためて確認されている。本調査対象者の平均教育年数は12.40年。一方,同時期に日本人を対象に実施された「社会階層と社会移動全国調査」(1)(以下,SSM調査)では12.35年。ごくわずかに本調査のほうが高い値を示してはいるものの,統計的には誤差の範囲内でしかない(2)。つまり,在日韓国人全体の教育達成をみれば日本人とのあいだに格差は存在せず,したがって上記の2つの説は,いずれも民族差別の存在を重視するあまり,一面的なものの見方にかたよってしまっているわけである。

 だがこれは,あくまでも在日韓国人全体の教育達成をみればという話である。それにたいして,はたして社会階層別ではどうか? すなわち,教育達成ではなく教育機会ではどうなのか? ――前述の拙稿において,簡単にこれらの問題設定の有効性を指摘したものの,まだ詳細な検討はなされてはいない。

 そこで本章では,できるだけ広範な視野から,在日韓国人の教育達成の実態を明らかにしていく。

2.2 民族によって教育機会に不平等はあるか?

 教育年数の平均値に民族間の差異がみられないとしても,その結果を達成するプロセス,すなわち教育機会に違いがあるということは十分に考えられることである。

 一般に,教育を達成するうえで重要な役割を果たすことが知られているのは,成育家庭の階層性である。可処分所得に余裕があれば,子を進学塾に通わせたり家庭教師を雇うことも可能だが,逆に所得に余裕が乏しければ,学校外教育に投資するどころか,学費さえ捻出することが困難となる。また,高階層に付随する文化的背景――たとえば,家庭内の会話で豊富な語彙が用いられたり,日頃から活字文化に親しむなど――に親しんでいれば,子の進学は比較的有利となる。そして,開業医の子が医学部に進んだり国会議員の子が大学に進学することと,サラリーマンの息子が経済学部に進んだり雇用労働者の子が大学に進学することをくらべれば,前者のほうが「効用」が大きいことは自明である。

 従来の日本の社会学は,このように出身家庭の階層性によって子の教育達成が左右されてしまうことをこそ,払拭すべき身分制の名残りであり,忌むべき不平等であると考えてきた。つまり,教育というものは本来,個人の能力と努力によって「業績主義」的に達成されるべきものであり,父親の職業や学歴といった「帰属主義」的な家族的背景属性によって左右されてはならないという考え方である。単純化していえば,出身階層→子の教育達成という関係が消滅してこそ,社会が平等化する条件の一つが整うということである。

 なるほど,それは考え方として一つのすじが通っている。しかし,そこには「民族」という属性による不平等の観点が,すっぽり抜け落ちてしまっている。かりに出身階層→子の教育達成という関係が消滅したとしても,民族によって出身階層と子の教育達成が規定されているとしたら,それはやはりある種の身分制が残存している状態と言わざるをえない。

Figure2-1

図 2-1 教育達成の基本構造

 民族という要素を加味したうえで,教育機会の不平等をモデル化したものを図1に示した。Rが民族,Oが出身階層,Eが子の教育達成である。この3要素によって考えられるすべてのモデルではなく,蓋然性が高い6タイプだけを選んである。以下,それぞれのモデルについて解説していくことにする。

 モデルA:民族・階層同時支配

 これは,モデルCの階層媒介支配とモデルEの民族支配が併存している状態であり,すなわち,子の教育達成が親の階層によって規定されると同時に,親の階層と子の教育達成が民族によっても規定されていることをあらわしている。教育機会に階層間の不平等が存在するのみでなく,民族による不平等が階層間の不平等をさらに補強するようにはたらくモデルである。

 モデルB:民族・階層結合支配

 これはモデルAにくわえて,さらに出身階層による影響力が民族によって異なることを示すモデルである。すなわち,日本人のほうが在日韓国人よりも出身階層による影響を強く受けていたり,あるいは逆に,在日韓国人のほうが日本人よりも,出身階層による影響を強く受けていることを意味している。このような影響がみられる場合,出身階層による影響力は単なる階層間の不平等ではなく,民族別にその意味が異なることになる。

 モデルC:階層媒介支配

 子の教育達成は,民族による直接の規定からはまぬがれているものの,出身階層による規定力を媒介として民族による間接的な影響力を受けているモデルである。教育機会には,依然として民族と階層間の不平等が存在することを意味しており,AやBのモデルから,DないしFのモデルに移行する過渡的な状態であると考えられる。

 モデルD:階層支配

 子の教育機会に階層間の不平等はみられるが,民族間の不平等は存在しないモデルである。この場合,もはや社会階層を論じるにあたって,民族というファクターを検討する必要はなくなる。

 モデルE:民族支配

 親の社会階層も子の教育達成も,純粋に民族によって規定されているモデルであり,民族によるカースト社会を意味する。

 モデルF:完全な機会均等

 子の教育機会が,出身階層からも民族的な不平等からも,完全に解放された状態をあらわすモデルである。社会的地位の配分として,近代におけるひとつの理想状態であると言える。

 さて,以上のモデルのどれがもっとも日本社会の実情を反映しているものなのかを確認するため,世代ごとにログリニアモデルを適用した(3)。表2は,年齢によって,三世を中心とする「20〜39歳」,二世を中心とする「40〜59歳」,一世を中心とする「60歳以上」の3つに分けたうえで,A〜Fそれぞれのモデルのデータとの適合度をあらわしたものである。

 表1をみると,「20〜39歳」の世代では,モデルの適合度上位はC,A,Bの順にならんでおり,この3つのモデルが統計的に妥当な適合度を示している。CとAは適合度からいって甲乙つけがたいが,よりシンプルなほうを選択するという基準によれば,Cの階層媒介支配モデルを採択すべきであろう。階層媒介支配モデルとは,民族による直接の規定からはまぬがれているものの,出身階層による規定力を媒介として民族による間接的な影響力を受けているモデルのことであった。民族的不平等が解消の過渡期にあるモデルであるとも想定できる。

表 2-1 教育達成の世代別ログリニアモデル

世代

モデル

(適合度順)

AIC

χ2

自由度

20-39歳

C

−7.2522 12.7478 10 ns

A

−6.6199 9.3801 8 ns

B

0.0000 0.0000 0 ns

E

30.4496 62.4496 16 **

D

86.0029 114.0029 14 **

F

124.6703 168.6703 22 **
40-59歳

B

0.0000 0.0000 0 ns

C

0.3980 20.3980 10 *

A

2.0753 18.0753 8 *

E

77.5658 109.5658 16 **

D

91.3601 119.3601 14 **

F

165.2976 209.2976 22 **
60歳以上

B

0.0000 0.0000 0 ns

C

12.1085 32.1085 10 **

A

14.4219 30.4219 8 **

D

39.4952 67.4952 14 **

E

52.6428 84.6428 16 **

F

76.5369 120.5369 22 **

 それにたいして,「40〜59歳」と「60歳以上」の2つの世代については,やや異なった結果を示している。つまり,モデルは上位からB,C,Aの順に並んでおり,そのうち,統計的にモデルとしての妥当性が確認されているのは,タイプBの民族・階層結合支配のみである。民族・階層結合支配とは,子の教育達成が親の階層によって規定されると同時に,親の階層と子の教育達成が民族によっても規定されていることにくわえて,さらに出身階層による影響力が民族によって異なることを示すモデルのことであった。

 ここで,より詳しくモデルを吟味するため,「40〜59歳」と「60歳以上」にかぎって,民族・階層結合支配モデル(飽和モデル)の交互作用パラメータをみてみよう。表2は,交互作用パラメータの標準値のうち,統計的に有意なもののみを取り出したものである。

 表2の読み方をかなりラフに説明すれば,標準値がプラスであればその行の関係は「多い」こと,マイナスであれば「少ない」ことを意味する。たとえば,1〜7は階層支配にかかわる部分だが,父親の階層が「経管」であれば子は高等教育に進学する傾向が強く,逆に「雇B」や「農業」の子は初等教育にとどまる傾向が強いことがみてとれる。つまり,父親の階層上の位置が高ければ高いほど,子の教育達成も高くなるという関係が示されている。

表 2-2 民族・階層結合支配モデルの交互作用パラメータ

民族

出身階層

教育達成

標準値

1

経管

中等

−2.069*
2

経管

高等

4.835**
3

雇W

中等

2.129*
4

雇B

初等

3.477**
5

雇B

高等

−4.392**
6

農業

初等

5.340**
7

農業

高等

−4.356**
8

在日韓国人

経管

−2.851**
9

在日韓国人

自営

6.136**
10

在日韓国人

雇B

5.568**
11

在日韓国人

農業

−2.084*
12

在日韓国人

初等

−4.356**
13

在日韓国人

中等

2.995**
14

在日韓国人

経管

初等

2.358*
15

在日韓国人

経管

中等

−2.012*
16

在日韓国人

雇W

高等

−2.552*
17

在日韓国人

自営

初等

−3.476**
18

在日韓国人

自営

中等

2.565*
19

在日韓国人

農業

初等

−2.128*

*は5%,**は1%で有意。

 8〜13は民族支配にかかわる部分である。8〜11については次章で詳しく触れるため,ここでは12と13に注目しよう。12では在日韓国人の初等教育の標準値がマイナスで,13では中等教育の標準値がプラスになっている。そして,高等教育については有意な効果は存在しない。ということは,出身階層による影響力を除去すると,40歳以上の在日韓国人は同年齢層の日本人より,初等教育にとどまる可能性が少なく,逆に中等教育に進学する傾向が強かったということになる。

 あらためて強調しておくが,年齢を40歳以上に限定しても,教育年数の平均や単純集計において,民族別で教育達成に違いはみられない。にもかかわらず,ここで在日韓国人のほうが日本人よりもより高位の教育達成をする傾向が強かったことが示されているのは,出身階層を分析に含めてあるからである。というのも,10番では在日韓国人の父親に「雇B」が多かったことが示されており,そして4番では「雇B」の子が初等教育にとどまる傾向が強いことが示されている。したがって,在日韓国人でも初等教育にとどまる者の数が多くなるのは当然である。だが,そうした出身階層による影響を除去してみると(言い換えると,かりに出身階層が日本人と同じであった場合),在日韓国人のほうが日本人よりも高位の教育を達成する傾向にあった,ということである。

 つぎに,14〜19,つまり出身階層による規定が民族によって歪められている部分について検討してみよう。ここはやや複雑だが,全体の傾向としては,在日韓国人のほうが日本人よりも出身階層の影響力を弱めるような関係がみられる。たとえば在日韓国人は日本人よりも,出身階層が「経管」で中等教育が少なく,逆に初等教育が多い。また,出身階層が「雇W」で高等教育が少ないなど,より高位の出身階層にともなう諸資源をうまく利用できていないことが示されている。一方,出身階層が「農業」や「自営」で初等教育が少なく,「自営」で中等教育が多くなっているなど,より低位の出身階層を突破する傾向が示されている。

2.3 在日韓国人の教育達成を規定するもの

 前節では,ログリニアモデルを使って出身階層と教育達成の関連に民族差があるかどうかを確認した。ここではやや視点を変えて,回帰分析を用いながら,出身階層その他のどういった要因が在日韓国人の教育達成をささえているのかを確認してみよう。

表 2-3 民族を説明変数に含む教育達成への重回帰分析

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

(定数)

8.623

.241

1344

父教育

.263 .342

父職業

.047 .223

民族

−.476 −.065

表中の係数はすべて1%で有意

表 2-4 民族別の教育達成への重回帰分析

民族

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

在日韓国人

(定数)

9.042

.172

397

父教育

.190

.264

父職業

.046

.255

日本人

(定数)

7.577

.265

966

父教育

.313

.382

父職業

.044

.198

表中の係数はすべて1%で有意

 まず,表3に父教育,父職業,民族を説明変数とした重回帰分析の結果を示した(4)。出身階層を代表する父教育と父職業がともにプラスの係数を示している。それと同時に,民族の偏回帰係数がわずかながら有意にマイナスの値を示している。これは,父教育と父職業が同じである場合,日本人よりも在日韓国人のほうが高い教育を達成する傾向にある,ということを意味する。前節での検討と合致する結果である。

 表4は,父教育,父職業を説明変数とした教育達成への重回帰分析の結果を民族ごとに示したものである。出身階層から教育達成におよぶ影響力にどのような民族差があるかということを検討するためのものであり,分析手法は異なっても,表2の14〜19番の検討と内実は同じである。

 父教育が子の教育達成を規定する効果に注目すると,日本人の偏回帰係数が0.31であるのにたいして,在日韓国人は0.19と大きく下回っている。たいして,父職業が子の教育達成を規定する効果のほうは在日韓国人が日本人を上回っているものの,偏回帰係数をみるかぎり,その差はごくわずかなものでしかない。結果として,定数(父教育と父職業によっては説明されない部分)は在日韓国人のほうが日本人にくらべて大きくなっており,逆に,R2(父教育および父職業による説明力)は在日韓国人のほうが日本人にくらべて小さくなっている。

 表2の検討において,在日韓国人のほうが日本人よりも出身階層の影響力を弱めるような関係がみられたことと,合致している。

 ここで思いおこすべきことは,平均教育年数でみるかぎり,教育達成に民族間の差異はみられないという事実である。すなわち,在日韓国人は日本人にくらべて,父教育や父職業といった出身階層による利点を活かしきれていないにもかかわらず,日本人と同等の教育を達成してきているということである。言い換えると,在日韓国人は,教育を達成するうえで日本人よりも出身階層以外の何らかの要因を利用する可能性が高い,ということである。

 在日韓国人が教育を達成するうえで日本人よりも多用する“出身階層以外の何らかの要因”とは,はたして何であろうか? そのことを確認するためには,本調査と完全に比較可能な日本人のデータがなければならないが,残念ながら,近年実施された調査のなかにはみあたらないようである。そこで,ひとまず本調査データに注目し,なにがどのように在日韓国人の教育達成を規定しているのかを確認することにしよう。

 教育達成とその他の要因のあいだにどのような相関関係(ピアソン)がみられるかを表5に示した。最下行が教育達成とその他の要因の相関係数なので,そこに注目しながら表の数値を読んでいこう。

 左から4つの列は,狭義の「家庭背景」である。「父教育」および「父職業」が出身階層を代表する要因であることはすでに述べたが,ここでは新たに「兄弟姉妹数」と「高校(中等教育)進学時の経済事情」を導入した。兄弟姉妹数は,父教育や父職業とマイナスの相関を示していることをみても分かるとおり,低階層家庭ほど人数が多い傾向にあるばかりか,ライフステージによっては食費や教育費などを増加させ,家計を圧迫する要因ともなる。したがって,兄弟姉妹数が多ければ,教育達成が低めになるという傾向は,よく知られた関係である。また,高校進学時の経済事情は,父教育や父職業が取りこぼしている可能性のある,収入や暮らし向きなどを間接的に代表するものである。

表 2-5 教育達成とその他の要因の相関関係








高 経
校 済
進 事
学 情








教 ア
育 ス




職 ア
業 ス







兄弟数

466

718

784

484

855

813

512

891

父教育 -.228

398

447

312

463

447

297

466

父職業 -.118 .272

638

416

694

667

427

718

経済 -.191 .224 .356

485

781

751

479

786

親期待 -.104 .202 .346 .328

486

480

308

486

成績 .033 -.014 .012 -.031 .080

801

507

857

教ア -.024 .216 .246 .128 .295 .406

490

815

職ア .076 .147 .162 .038 .316 .317 .361

512

教育 -.167 .301 .282 .505 .490 .295 .418 .251

主対角線の左下はピアソンの相関係数,右上はサンプル数。 イタリックは5%で有意でないもの。

 この4つの家庭背景要因は,それぞれ教育達成と一定の相関関係にあることが示されているが,なかでももっとも値の大きなものは高校進学時の経済事情である(r=0.51)。これは,表中の全相関係数のなかでもっとも値の大きなものであり,この種の調査としては非常に強い関係があることを意味している。このことから,家庭背景の階層面においては,進学にあたっての経済的事情が教育達成にもっとも強い影響を与えていることが推察される。

 つぎに,左から5行目の「親の教育期待」は,出身家庭において教育がどのように価値づけられていたかという心理・主観的な要因であり,広義の家庭背景と言える。これも,教育達成とのあいだで非常に強い相関(r=0.49)をもっており,重要な要因であることが確認できる。親がより高位の教育達成を望んで(いると子が感じて)いればいるほど,その期待にこたえるかたちで教育達成がおこなわれる,ということである。逆に言うと,親が教育達成を望んでいない(と子が感じて)いればいるほど,教育達成は低めになる,ということである。

 続いて,「中学校(旧制は小学校)卒業時の成績」も教育達成と一定の相関関係にある(r=0.30)。これは,出身階層の要因とは無関連であることをみても分かるとおり,本人の能力と努力をもっとも反映している要因である。そして,ある程度それに見合ったかたちで教育達成が行われていることを意味している。

 最後の2行,「教育アスピレーション」と「職業アスピレーション」は,教育達成に先だって教育達成に影響を与えると考えられている価値態度である。いささか古い日本の言葉では「立身出世意識」にあたり,困難なことをうまく乗りこえ,競争に打ち勝ち,よりすぐれた社会的地位を得たいという動機をあらわしている。

 さて,「教育アスピレーション」は教育達成とのあいだに高い相関(r=0.42)を示しているが,「職業アスピレーション」は小さめの相関(r=0.25)しか示していない。教育はそれ自体一つの社会的資源であるが,ひとたび獲得するや,学歴として他の社会的資源,とりわけ職業や収入などをえるチャンスを拡大する。したがって,逆に言えば,より威信の高い職業を望んでいれば(職業アスピレーションが高ければ),より高位の教育達成を目指して努力することになるものである。最近の調査ではあまり教育アスピレーションや職業アスピレーションを測定したものは見あたらないが,1975年のSSM調査では,職業アスピレーションは教育達成とのあいだに,教育アスピレーションと同等の相関係数を示している。本章では詳しく扱わないが,在日韓国人にとって,職業と教育のアスピレーションがどのような意味を持つものなのかについて,さらに詳しい検討が必要だろう。

表 2-6 諸要因を含む教育達成への重回帰分析

説明変数

β係数

兄弟姉妹数 −.045
父教育 .123**
父職業 −.033
高校進学時の経済事情 .374**
親の進学期待 .277**
中学卒業時の成績 .213**
教育アスピレーション .179**
職業アスピレーション .008

N=899  R2=.499
*は5%  **は1%で有意

 ここまで相関係数を概観しながら,教育達成とその他の諸要因のあいだにどのような関係があるかをみてきた。しかしながら,表5をみると,ここにあげた諸要因は,教育達成とのあいだばかりではなく,要因間でも少なからぬ相関関係をもっていることが分かる。つまり,教育達成とのあいだの相関は,いわば見かけ上の関連にすぎない可能性も高いわけである。

 そこで,これらの要因が教育達成におよぼす影響を相互にコントロールするために,重回帰分析を行った(表6)。ただし,通常の処理ではサンプル数が少なくなりすぎるため,分析に使用した変数のどれか一つにでも欠損値があればそのサンプルを分析から除外する方法(リストワイズ)は用いず,分析に用いた変数すべてが欠損値の場合のみサンプルを分析から除外する方法(ペアワイズ)をとった。

 まず,家庭背景の社会階層面に注目してみると,父職業や兄弟姉妹数のβ係数は有意性検定を通っていない(つまり,統計的にはゼロからの誤差の範囲内でしかない)ものの,高校進学時の経済事情はもっとも大きな影響力を示しており(β=0.37),また,父教育も値は小さいながら一定の影響力を保持している(β=0.12)。すなわち,表6の諸要因を同時にコントロールしてもなお,出身階層の効果は全体としては消失せず,教育達成にたいしてもっとも重要な影響力を与えているということである。

 だがそれと同時に,出身家庭の心理・主観的側面である親の進学期待も比較的大きな影響をもち(β=0.28),回答者の価値態度である教育アスピレーションも一定の影響力をおよぼしている(β=0.18)。すなわち,出身階層がどうであろうと,成育家庭が教育達成を支持し,本人が教育達成に強い意欲をもっていれば,より高位の教育を受けることが可能だということである。

 また,本人の努力と能力を反映する中学卒業時の成績も,教育達成にたいして少なからぬ影響力を保持している(β=0.2)。出身階層や心理・主観的な要因がどうであれ,本人のメリットは教育達成にたいして有効に作用するということである。

2.4 まとめと議論

 まずは,ここまでに明らかになったことを箇条書きのかたちで抜き出すことによって,ふりかえってみよう。

  1. 平均値や単純集計レベルで観察するかぎり,日本人と在日韓国人の教育達成に差はみられない
  2. 一・二世を中心とする40歳代以上については,教育機会について出身階層による不平等と民族による不平等が複合的に作用する民族・階層結合支配のもとにあった。三世を中心とする20〜30歳代については,教育機会について民族的不平等が解消の途上にあると考えられる階層媒介支配のもとにある。
  3. 出身階層をコントロールすれば,日本人よりも在日韓国人のほうが高い教育を達成する傾向にある。
  4. 出身階層から教育達成におよぶ影響力は,在日韓国人のほうが日本人より弱い。したがって,在日韓国人は,教育を達成するうえで日本人よりも出身階層以外の何らかの要因を利用する可能性が高いと考えられる。
  5. 在日韓国人の教育達成に有効に寄与することが確認された要因は,出身階層以外に,家庭背景の心理・主観的側面である「親の進学期待」,回答者の価値態度である教育アスピレーション,回答者の努力と知的能力を反映する「中学卒業時の成績」がある。

 1番目の項目は,本章の冒頭において議論の大前提として指摘したことである。つまり,結果としての教育達成をみるかぎりは,民族間に差異は存在しないのである。したがって,安易に民族間の不平等を前提とするような主張は,在日韓国人の教育を論じるにあたっていちじるしく妥当性を欠いており,厳に慎まなければならない。

 しかしながら,出身階層,民族,教育達成の3要因の関連を子細に検討していくと,そこには明確な民族間の不平等が出現する。40歳未満については教育機会の不平等構造が解消の途上にあると思われるとはいえ,それでもなお,已然として出身階層を媒介とした不平等は残存したままである。

 だが,在日韓国人は,その不平等にたいして手をこまねいて座視しているわけではない。各自の能力を生かし,また階層構造の梯子をのぼろうという意欲をもつことによって,同一出身階層の日本人よりもより高位の教育を達成していることが示されている。つまり,民族間の不平等を,能力と意欲によって突破しているのである。

 “われわれ在日は,日本人と平等ではないのだから,日本人と同じにしていては日本人と同等の地位は達成できない”――在日韓朝鮮人のあいだで,頻繁に聞かれる主張である。この主張の正しさが,本章での教育達成の検討において,調査データからも確認されたと言える。

 ところで,本章の冒頭で,在日韓朝鮮人の教育達成にかんする2つの主張を紹介した。一つの説は,経済的な障害から高等教育を受けたくても受けられなかった親の世代が,子どもにはそのような不満を抱かせたくないと思い,高い教育期待を持つようになるというものである。もう一つの説は,高等教育を受けても一般企業への就職の道が閉ざされていた親の世代が,大学に行っても無駄だという考えを持つようになり,子どもにたいする教育期待を失ってしまう(したがって,学歴よりも手に職をつけろ,ということになる)というものである。

 どちらの説も事実誤認にもとづいており,そのままでは受け入れることはできない。前者の主張は,「親の世代」が「経済的な障害から高等教育を受けたくても受けられなかった」という点を誤認しており,後者の説は,「親の世代」が「大学に行っても無駄だという考えを持つ」という部分を過度に強調している。だが少なくとも,それぞれの主張の“含意”については,いちがいに否定することはできないように思われる。

 たとえば,前者の主張については,親の教育期待の高さによって教育達成をなし遂げている点において妥当であり,後者の主張については,(いまだ十全に検証してはいないが)高階層出身による教育達成が日本人よりも低いことの理由を示唆しているとも解釈できる。

 しかしそれよりも,どちらの主張も,教育機会(および教育メリット)にかんする民族間の不平等を,努力と創意工夫によって突破する必要性を説いている点で,非常に示唆に富んでいる。

 最後に,本章で明らかになった事実を,理論のかたちで提示しておきたい。

<在日韓国人の教育達成にかんする理論>

 在日韓国人は,教育機会にかんする民族的不平等を,能力と意欲によってカバーし,結果として日本人と同等の教育達成をおこなってきたのだ。


第2章 注

  1. 1995年SSM調査から,A票の男性のみを取り出したものである。本章ではSSM調査との比較のため,本調査の年齢の上限を70歳未満としてある。また,「学歴なし」の教育年数についても,1995年SSM調査の基準とそろえるため,6年としてある。
  2. 本調査とSSM調査については,「母集団が異なるため統計的検定が意味を成さない」という考え方もありうる。本報告書でも,第4章において稲月がそうした慎重論に立っている。だが一方で,「同一母集団(すなわち「日本社会」)から,在日韓国人をクオータ・サンプリングしたものだ」という解釈も成り立つ。クオータ・サンプリングとは,サンプリングをベースとした社会調査が取りこぼしがちな少数者集団についても統計的分析にたえられるサンプル数を確保するため,サンプリング比率を調整することによって少数者集団を重点的に抽出する方法である。本章および次章で両調査データを比較するさいには,後者の立場をとっている。ただし,サンプリング比率は両調査で異なるため,後述する「民族」変数の分布が実際の分布とは大きく異なる点には留意していただきたい。
  3. 民族は本調査を1,SSM調査を2とコードした。出身階層は次章の表3-2に示した職業5分類を用いた。教育達成は,次の3分類を用いた。T.義務(旧制の尋常小学校・高等小学校,および新制中学校),U.中等(旧制の中学校・実業高校・師範学校,および新制高校),V.高等(旧制の高校・専門学校・高等師範学校・大学,および新制の短大・高専・大学)
  4. 民族は前述のとおり,本調査を1,SSM調査を2とコードしてある。父教育および子の教育達成はそれぞれの教育年数,父職業は父主職の職業威信である。


3. 社会的地位達成

金明秀

3.1 はじめに

 本調査のタイトルにある「社会成層」とは,一般の国語辞典には載っていないが,social stratificationの訳語として用いられており,社会階層(social stratum)が成立するプロセスのことを意味する。そして,社会階層とは「社会的地位の構造」のことであり,社会的地位とは「社会的資源とその獲得機会が不平等に分配されている状態」のことである。つまり,社会階層とは,「不平等の構造」だと言い換えることができる。

 なお,社会的資源とは,「人々の欲望の対象であるが,相対的に稀少な資源」のことであり,具体的には,財産や資本のような物的資源,勢力,権力,威信のような関係的資源,知識や情報といった文化的資源がある。だが,そのうち調査によって測定可能なものはかぎられており,本調査では,教育と職業を社会的地位の主な規定要因と考え,それによって在日韓国人内外の不平等構造を明らかにしていく。

3.2 民族間の不平等とはなにか(1)

 表1に,教育年数(1)と現職の威信(2)について,本調査データを日本人データと比較したものを示した。日本人データは,1995年に実施された「社会階層と社会移動全国調査」(以下,SSM調査)より,A票の男性のみを取り出したものである。

表 3-1 教育年数と職業威信の平均値比較

教育年数

職業威信

平均値

標準偏差

平均値

標準偏差

在日韓国人

12.01

2.99

48.02

12.82

日本人

12.35

2.78

47.32

11.39

 教育年数,職業威信のいずれの平均値をみても,在日韓国人と日本人のあいだで,明確な差異はみられない。職業威信の差は,統計学的には誤差の範囲内におさまっているし,教育年数の差についても,両調査の年齢のずれによる影響を除去すれば,統計学的には誤差の範囲内におさまってしまう。つまり,教育年数と職業威信のみを取り上げれば,在日韓国人は日本人と同程度の地位達成をなしとげているわけである。

 従来,在日韓朝鮮人が日本人よりも不利な立場に置かれ,民族間に不平等があるということは自明のように語られてきた。しかしながら,社会的地位の指標としてもっとも重要だと思われている2つの指標において,不平等はみられなかったのである。このことを,時系列の変化をおって確認してみよう。図1は,各サンプルごとに初職就業時点から現在までの職業威信を年齢順に算出し,各年齢ごとにその平均値をならべたものである(3)。異なる年齢層を一つの図に押し込めてしまっている(たとえば,現在65歳のサンプルが20歳の時点での職業威信と,現在20歳の職業威信を同一のものとしてあつかっている)ため,この図から精確なトレンドを導き出すことはできないが,「在日韓国人は,青少年期には日本人より不利な立場に置かれてきたが,一定の年齢に達するまでに何らかの手段によって日本人と同等の地位達成をなしとげている」というおおまかなストーリーが浮かび上がってこよう。

Figure3-1

図 3-1 年齢による職業威信の変遷(全コーホート)

 ならば,ここで明らかにしなければならないことは,なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか,そして,在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか,ということである。

3.3 民族間の不平等とはなにか(2)

 前節で指摘した問題を追究するまえに,もうすこし別の観点から職業的な地位の民族間における違いをみておこう。

 職業的な地位の指標は,なにも職業威信のみではない。代表的なものをあげれば,従業先の規模(会社の大きさ),従業上の地位(経営者か一般従業者かなど),仕事の内容(どれほど責任や知識を必要とする仕事か)などがある。そこで,これらを複合的に組み合わせた職業分類を,表2のように構成した。また,現在の職業を表2にしたがって分類したデータを,表3に示した。

 表3において特徴的なことは,(1)「自営」すなわち雇用規模30人未満の零細企業に就業している在日韓国人は日本人の2倍以上におよび,比率において半数を超えていること,(2)逆に「雇W」つまり一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数,比率にして1割強でしかないこと,(3)在日韓国人のなかで,「農業」すなわち農林漁業従事者は非常にまれであること,である。農業については別途論じる必要があるが,1,2を端的にまとめるならば,在日韓国人と日本人の職業的な地位の違いは「自営」の比率に還元される,ということである。

表 3-2 職業5分類の構成基準

分類名

分類基準

T 専管 専門職従事者,30人以上規模企業の経営者,官公庁および300人以上企業規模の課長以上管理職
U 雇W 企業または官公庁に雇用されているT以外のノンマニュアル職従事者
V 自営 30人未満規模企業の経営者,自営業主および家族従業者
W 雇B 企業または官公庁に雇用されているマニュアル職従事者
X 農業 農林漁業従事者

表 3-3 職業5分類の民族間比較

実数
(%)

専管

雇W

自営

雇B

農業

在日韓国人

96
(14.2)

84
(12.4)

352
(52.1)

142
(21.0)

2
(0.3)

676
(100.0)

日本人

203
(18.6)

259
(23.7)

253
(23.2)

313
(28.7)

64
(5.9)

1092
(100.0)

299
(16.9)

343
(19.4)

605
(34.2)

455
(25.7)

66
(3.7)

1768
(100.0)

 とはいえ,これは,拙稿を含めすでに先行の諸研究によって明らかにされていることであり,ここで新たに発見された事実というわけではない。そもそも,多くの資源をもたなかった在日一世たちが,はげしい雇用差別を回避しながら経済生活を安定させるために,手ずから事業をおこし,自営業を中心とする在日韓朝鮮人経済をつくりあげてきたということは周知の歴史的事実である。民族的なマイノリティが雇用差別によって自営業に追いやられるということは,なにも在日韓朝鮮人にかぎらず,世界的に広くみられる事象でもある。

 問題は,今なお在日韓国人は日本の一般企業から排除され,「自営」に囲い込まれつづけているのかということである。言い換えると,「自営」からその他の従業形態に転出するさいに,現在でも民族的な障壁があるのかどうか,ということである。

3.4 学歴メリットの民族的不平等

 ここでは,3.2節で示されたいくつかの課題について,親子の世代間で職業的地位が継承され,あるいは獲得されるプロセス(世代間移動)に注目しながら検討していく。

 図2は,世代間移動のもっとも基本的なモデルである。AとBの矢印は,親の地位によって子の地位が決定されるという意味で「世襲」をあらわしている。それにたいして,Cの矢印は,個人の能力と努力によって地位が達成されるという意味で「機会均等」を表現していると考えられている。

Figure3-2

図 3-2 世代間移動の基本モデル

 ただし,教育機会に階層間の不平等がある場合――たとえば,東京大学の学生の親の社会階層が高いことはよく知られた事実である――には,BとCの複合的な影響が生ずることとなり,「世襲」とは言えないまでも,学歴を媒介とした階層による支配を意味する。

 さて,日本社会をこのモデルに当てはめると,A〜Cすべての矢印が,戦後一貫して有意な効果を持ってきたことが知られている。つまり,現代日本は,世襲的な地位継承と機会均等とが混然とした社会だと解釈されているわけである。だが,これまで日本において,民族というファクターを加味したうえでこのモデルが検討されたことは,一度としてない。はたして,日本における社会的地位の世代間移動に,民族的な不平等は存在するのであろうか。

 表4は,はじめての職業(以下,初職)の威信が,出身階層,教育達成,民族によってどのように説明されるかを,各年齢層ごとに重回帰分析によって示したものである(4)。年齢層は,三世以降を中心とする「20〜30歳」,二世を中心とする「40〜59歳」,一世を中心とする「60歳〜69歳」で分けてある。

 各年齢層において「民族」がどのような働きをするかに注目すると,若い年齢層から順に偏回帰係数がプラス方向に大きくなっていくことが分かる。これは,年齢層が上であるほど,同等の階層の出身で,かつ同等の学歴をえていたとしても,在日韓国人のほうが日本人よりも不利な初職にしか就けなかった傾向にある,ということである。時代をさかのぼるにつれて民族的不平等も激しくなるということであり,一般的な実感とも合致する結果である。ただし逆に言うと,年齢層がくだるほど,初職に就業するさいの民族的な不平等は解消の方向にある。とりわけ三世を中心とする年齢層では,もはや「民族」の係数が統計的に有意でさえなく,職業的な地位を威信で代表するかぎり,民族的不平等は存在しないと言ってよい(5)

表 3-4 民族を説明変数に含む初職威信への重回帰分析

コーホート

変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 13.293** .191

524

出身階層 .113**

.135

達成教育 1.840**

.375

民族 .975

.044

40〜59歳 (定数) 16.926** .199

849

出身階層 .143**

.182

達成教育 1.339**

.328

民族 2.087**

.103

60〜69歳 (定数) 11.693** .310

344

出身階層 .169**

.193

達成教育 1.561**

.440

民族 4.017**

.164

+は10%,*は5%,**は1%で有意。以下同じ。

表 3-5 民族を説明変数に含む現職威信への重回帰分析

コーホート

変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 17.375**

.214

522

出身階層 .242** .283
達成教育 1.492** .299
民族 −1.139 −.050
40〜59歳 (定数) 23.342**

.208

836

出身階層 .265** .279
達成教育 1.342** .270
民族 −1.900* −.077
60〜69歳 (定数) 25.752**

.154

250

出身階層 .115 .103
達成教育 1.590** .355
民族 −.618 −.021

 表5は現職について,同じように重回帰分析をおこなったものである。表4とは対照的に,40〜59歳の年齢層をのぞいて「民族」による効果は統計的に有意ではない。つまり,現職の地位を達成するにあたっては,民族的な不平等を何らかのかたちで克服している,ということである。それだけでなく,「民族」の係数はわずかながらマイナスに転じており,むしろ在日韓国人のほうが,現職については日本人よりもいくぶん高い地位を達成しているということになる。

 初職に就職するさいには民族的不平等に見舞われながらも,その後は何らかの手段によって日本人と同等以上の地位を達成しているということであり,さきに図1で見たものと同じ構造がここにもうかがわれる。しかし,図1によって示された疑問点,すなわち「なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか,そして,在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか」についての回答にはなっていない。そこで,その回答へのきっかけをつかむために,民族ごとで図2のモデルがどのように異なっているかを確認してみよう。

表 3-6 民族別の初職威信への重回帰分析

民族

コーホート

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 16.500**

.129

216

出身階層 .144*

.165

教育達成 1.562**

.284

40〜59歳 (定数) 22.162**

.130

325

出身階層 .141**

.187

教育達成 1.089**

.250

60〜69歳 (定数) 25.502**

.107

96

出身階層 .0125

.014

教育達成 1.249**

.353

20〜39歳 (定数) 13.948**

.245

308

出身階層 .0859*

.106

教育達成 2.029**

.451

40〜59歳 (定数) 19.086**

.239

524

出身階層 .145**

.181

教育達成 1.494**

.388

60〜69歳 (定数) 15.922**

.408

248

出身階層 .237**

.278

教育達成 1.636**

.467

ANCOVAによると民族間の方程式に有意差があったのは60〜69歳のみ

 表6は,民族ごとに初職威信への重回帰分析の結果を示したものである。まず,この表の最大の特徴は,どの年齢層をみても,「定数」の値が一貫して在日韓国人のほうが高いことである。これは,在日韓国人が初職に就業するとき,日本人よりも,出身階層や教育達成以外の手段をより多く用いていることを意味している。したがって,出身階層と教育達成による説明力(R2)も,すべての年齢層において日本人のほうが高くなっている。

 第2の特徴は,どの年齢層をみても,教育達成による効果は,在日韓国人のほうが一貫して低いことである。簡単に言いなおすと,同じ学歴を達成したとしても,在日韓国人は日本人と同じほどには学歴のメリットを生かすことができておらず,その傾向は世代をへても基本的に変化していない,ということである。

 第3の特徴としては,60〜69歳の在日韓国人では,出身階層による効果がまったくといってよいほど存在しないことである。世代間でこれほど完全な地位の断絶がみられるのは異例のことだが,このようなことが生じた理由は言うまでもなく,日本への移住や強制連行によって,出身階層にともなうさまざまな資源を利用することができなくなったためであろう。

 第3点目の特徴については別途議論が必要だが,第1,第2の特徴を総合すると,在日韓国人は戦後一貫して,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけており,それを補うために,出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて初職に就業してきた,ということになろう。では,“教育達成でも出身階層でもない,それ以外の手段とはなにか”ということが問題になるが,それを検討する前に,まずは現職について同じ重回帰分析をおこなった結果をみておこう。

表 3-7 民族別の現職威信への重回帰分析

民族

コーホート

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 16.389**

.223

216

出身階層 .382** .413
教育達成 .979** .169
40〜59歳 (定数) 27.562**

.127

323

出身階層 .247** .267
教育達成 .907** .168
60〜69歳 (定数) 39.687**

.016

80

出身階層 −.0388 −.038
教育達成 .872+ .207

20〜39歳 (定数) 15.134**

.244

306

出身階層 .126** .158
教育達成 1.891** .425
40〜59歳 (定数) 15.429**

.280

513

出身階層 .286** .293
教育達成 1.601** .342
60〜69歳 (定数) 17.844**

.246

170

出身階層 .190* .159
教育達成 1.911** .406

ANCOVAによるとすべての年齢層で民族間の方程式に5%水準の有意差があった

 表7の現職についても,表6の初職で指摘した3つの特徴はすべて符合する。つまり,在日韓国人の「定数」の値が比較的大きいこと,そして在日韓国人の教育達成の係数が一貫して日本人より小さいこと,在日韓国人60〜69歳では出身階層の影響がほとんど存在しないこと,である。したがって,「教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけており,それを補うために,出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて地位を達成してきた」という結論にも変化はない。

3.5 民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワーク

 したがって,つぎに,初職に就業するにあたってどのような手段が有効であったか(問4j)にたいする回答をみてみよう。

表 3-8 初職の就業情報の入手経路

選択肢

実数 (%)
家族・親類に頼んだ(または紹介してもらった) 279 (35.3)
家族・親類の知り合いに頼んだ(または紹介してもらった) 80 (10.1)
友人・知人に頼んだ(または紹介してもらった) 172 (21.7)
学校の先生に頼んだ(または紹介してもらった) 35 (4.4)
学校の就職担当係に紹介してもらった 63 (8.0)
求人広告・就職情報誌を見た 44 (5.6)
職業安定所・民間の職業斡旋所に紹介してもらった 10 (1.3)
直接,相手方に問い合わせた 87 (11.0)
強制連行(徴用) 13 (8.0)
その他 8 (0.9)
非該当・無回答 108

899 (100.0)

表 3-9 初職就業情報の紹介者の民族

紹介者の民族

実数

(%)

日本人 98

(18.8)

韓朝鮮人 422

(81.2)

非該当・無回答 379

899

(100.0)

 表8をみると,「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた,インフォーマルな人間関係によって就業情報をえたものが,有効回答者のほぼ7割近くにまでおよんでいる。

 また,「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に,その紹介者の民族をたずねたところ,8割以上が韓朝鮮人であるという回答をえた(表9)。これらの圧倒的な比率の高さをみれば,“教育達成でも出身階層でもない,それ以外の手段とはなにか”という問いを追究するうえで,もはやこれ以上の分析は必要あるまい。それはすなわち,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークにほかならない。在日韓国人は,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため,それを補うために,出身階層にともなう資源と,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて,ようやく日本人と同等の地位を達成してきたのである。

 ところで,ふたたび表6および表7にもどると,初職と現職の違いとして大きく目を引くのが,20〜39歳の在日韓国人における,出身階層の飛び抜けた影響力の大きさである。これは,転職や昇進にあたって,出身階層による資源を利用していることを意味する。ここで,在日韓国人の過半数が「自営」にかかわっていることを思いおこすなら,昇進や転職時に利用される出身階層による資源とは,「家業」にかかわる財産,人間関係,知識や経験であることが推察できよう。

 そこでつぎに,「自営」かどうかという観点を導入しながら,世代間移動をさらに追っていくことにする。

3.6 「自営」資源の継承による世代間上昇移動

 表10は,職業5分類を父主職(縦の並び)と本人現職(横の並び)について組み合わせたものである。ただし,このままではあまりにも複雑で,隠れた傾向を読みとることが難しいため,ログリニア・モデルによって要約した情報(6)を表11に示した。

 表11の読み方をしばらく解説していこう。いちばん右の行にある標準値がプラスであれば,その行の関係は「多い」ことを,マイナスであれば「少ない」ことを意味する(7)。たとえば,1〜8は民族にかかわらず,父職と本人現職のあいだに観察される関係であるが,親子で同じ分類どうしの標準値(1,2,4,7)はすべてプラスになっている。つまり,子は親と同種の職業的地位を受け継ぐ傾向にある,ということである。それにたいして,3,5番目の標準値はマイナスであり,父親が「自営」や「雇B」の場合,子が「雇W」になるケースは比較的少ないということである。自営業やブルーカラーからホワイトカラーへの世代間移動には,なんらかの障壁が存在するということだ。

 9〜15番目は,民族と本人現職,ないし民族と本人現職がかかわる関係を示している。たとえば,13,14番目の標準値はプラスであり,在日韓国人の父親は日本人より「自営」や「雇B」に就くものが多い。逆に12,15番目はマイナスであり,在日韓国人の父親は日本人の父親より「専管」「農業」に就くものが少ない。同じように,12〜14をみると,在日韓国人は日本人より「自営」の比率が高く,「専管」「雇W」の比率が低い,ということが示されている。これらは,すでに表3で説明したことである。

 さて,ここで注目したいのは16〜20番目,すなわち,(民族,父主職,本人現職相互の直接の関係を除去したうえで)民族,父主職,本人現職の3つが同時にかかわる関係である。言い換えると,民族ごとで世代間の移動にどういう差があるか,ということである。17,20番目は「上昇移動」,つまり子の地位が親の地位よりも上昇しているケースである。「自営」の親から子が「専管」になったり,「雇B」の親から子が「自営」になるのは,日本人よりも在日韓国人のほうが多い,という関係が示されている。具体的な典型例をあげて説明するなら,前者の場合,小さな焼き肉屋を経営していた父親の子どもが,従業員規模30名を越える焼き肉チェーン店に発展させたという事例があてはまる。後者の場合,旋盤工として工場に雇われて働いていた父親の子どもが,自分で鉄工所をひらいたという事例があてはまる。いずれの場合も,父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ,それを発展させているケースであり,それが,在日韓国人の典型的な世代間上昇移動のモデルであると言っていいだろう。

表 3-10 職業5分類を用いた民族別の世代間移動表

実数

(%)

専管

雇W

自営

雇B

農業





専管

2

(18.2)

3

(27.3)

5

(45.5)

1

(9.1)


11

(100.0)

雇W

7

(29.2)

11

(45.8)

6

(25.0)


24

(100.0)

自営

39

(15.9)

30

(12.2)

130

(52.8)

47

(19.1)


246

(100.0)

雇B

15

(14.6)

5

(4.9)

52

(50.5)

31

(30.1)


103

(100.0)

農業

5

(12.2)

3

(7.3)

24

(58.5)

7

(17.1)

2

(4.9)

41

(100.0)

61

(14.4)

48

(11.3)

222

(52.2)

92

(21.6)

2

(0.5)

425

(100.0)



専管

56

(45.5)

29

(23.6)

19

(15.4)

18

(14.6)

1

(0.8)

123

(100.0)

雇W

24

(24.2)

45

(45.5)

16

(16.2)

13

(13.1)

1

(1.0)

99

(100.0)

自営

38

(14.4)

48

(18.3)

109

(41.4)

67

(25.5)

1

(0.4)

263

(100.0)

雇B

34

(17.5)

46

(23.7)

22

(11.3)

88

(45.4)

4

(2.1)

194

(100.0)

農業

26

(9.4)

56

(20.1)

59

(21.2)

86

(30.9)

51

(18.3)

278

(100.0)

178

(18.6)

224

(23.4)

225

(23.5)

272

(28.4)

58

(6.1)

957

(100.0)

 なお,18番目には非常に意外なことに,父が「自営」で子も「自営」であるという在日韓国人が少ないことが示されている。“親が自営業だから子も自営業になる”という可能性は,実は日本人の方が大きいのである。これは,在日韓国人で父が「自営」の場合,世代間の上昇移動が多く,同一の「自営」のままとどまっているケースが日本人よりも少ないということだと思われる。

表 3-11 民族ごとの世代間移動表における有意な交互作用

民族

父主職

本人現職

標準値

1.

専管

専管

2.564*
2.

雇W

雇W

3.706**
3.

自営

雇W

−2.352*
4.

自営

自営

3.401**
5.

雇B

雇W

−2.578**
6.

雇B

自営

−2.113*
7.

雇B

雇B

4.099**
8.

農業

自営

2.185*
9.

在日韓国人

専管

−2.071*
10.

在日韓国人

雇W

−2.753**
11.

在日韓国人

自営

6.980**
12.

在日韓国人

専管

−3.455**
13.

在日韓国人

自営

8.454**
14.

在日韓国人

雇B

3.625**
15.

在日韓国人

農業

−2.287*
16.

在日韓国人

雇W

雇B

2.198*
17.

在日韓国人

自営

専管

2.376*
18.

在日韓国人

自営

自営

−3.957**
19.

在日韓国人

雇B

雇W

−2.340*
20.

在日韓国人

雇B

自営

2.386*

 それにたいして,19番目をみると,「雇B」の親から「雇W」に転出する子どもについては,日本人よりも在日韓国人のほうが少ない。たとえば,工場労働者や道路工の子どもがサラリーマンや販売店員になるような上昇移動のケースは,日本人よりも在日韓国人のほうが少ない,ということである。これは,ごく近年まで一般の日本企業が激しい民族差別をおこなっていたため,一般従業者としての就職の道が閉ざされていたことによるものと思われる。

 一方,「下降移動」のケース,つまり親の職業的地位よりも子の地位のほうが低くなっているのは,16番目である。親が「雇W」で子が「雇B」になるケースは,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。具体例を挙げるなら,親が民団などの民族団体や商銀などの民族金融機関の職員で,子が宅配便の運転手という事例があてはまる。現時点ではあくまで推察にすぎないが,これは,雇Wの子がなんらかの理由(能力不足や就職差別など)によって雇Wに就けない場合,親が自営業でないため自営にともなう資源が利用できず,子は雇Bから地位達成を始めなければならなくなる,というプロセスを反映しているかもしれない。もしそれが事実ならば,在日韓国人の唯一の世代間上昇移動のプロセスは「自営」の資源継承にともなうものであり,それを外れた場合,たとえ父の職業的地位が高くとも,子の職業は大きく転落する可能性が高いという皮肉な事態を意味することになる。このことの事実関係を特定することは,今後の検討課題である。

3.7 まとめと議論

 まずは,ここまでの分析において明らかになった重要な点をまとめておこう。

<命題群1>

1-1 教育年数,現職の職業威信のいずれの平均値をみても,在日韓国人と日本人のあいだで有意な差異はみられない。

1-2 年齢層が上であるほど,同等の階層の出身で,かつ同等の学歴をえていたとしても,在日韓国人のほうが日本人よりも不利な初職にしか就けなかった傾向にある。

1-3 「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた,インフォーマルな人間関係によって初職の就業情報をえたものが,有効回答者のほぼ7割近くにおよぶ。

1-4 「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に,その紹介者の民族をたずねたところ,8割以上が韓朝鮮人であると回答。

<理論1>

在日韓国人は,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため,それを補うために,出身階層にともなう資源と,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて,ようやく日本人と同等の地位を達成してきた。

<命題群2>

2-1 「自営」すなわち雇用規模30人未満の零細企業に就業している在日韓国人は日本人の2倍以上におよび,比率において半数を超えている。

2-2 「自営」→「専管」,「雇B」→「自営」という世代間上昇移動は,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。

2-3 「雇W」つまり一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数,比率にして1割強でしかない。

2-4 「雇W」→「雇B」という世代間下降移動は,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。

<理論2>

在日韓国人の世代間上昇移動のモデルは,父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ,それを発展させているケースである。

 本調査データにより明らかになった点としてはじめに強調しておかなければならないことは,在日韓国人と日本人の職業的地位は,一般の通念とは異なり,じつはさほど大きな格差を生じていない,ということである。むしろ,両者の社会的地位がきわめて近似していることこそ,本調査において発見された事実であると言ってよい。したがって,安易に民族間の不平等や格差を前提とする従来の議論は,いずれも在日韓国人の社会階層を描写するうえで,いちじるしく妥当性を欠いていると言えよう。

 しかしながら,その大前提とも言える事実をふまえたうえで,子細にデータを検討してみたところ,平均値レベルでは明らかにならなかったさまざまな潜在的不平等が浮き彫りになった。在日韓国人と日本人の間で,職業的な地位に差異がみられなかったのは,不平等がないからではなく,在日韓国人がその不平等を克服しているからなのである。民族という属性による理不尽な不平等構造よりも(むろんそれが重要であることは論をまたない),むしろさまざまな障壁を乗り越えて,結果として日本人と同等かそれ以上の社会的地位を達成してきた在日韓国人の努力と工夫に満ちた職業生活史こそ特筆されるべきであろう。

 本章での分析結果は,在日韓国人の社会階層を論じるにあたって,民族間の不平等を明らかにするという視角と,在日韓国人がいかに民族間の不平等を克服してきたのかという視角の2点が重要であることを示唆している。そして,上記2つの理論が,それぞれの視角に対応している。

 1の理論をより精緻にするためには,就業情報の紹介者の社会的地位などをモデルに含めながら,インフォーマルな人間関係が具体的にはどう利用されているかについて特定する必要があるだろう。今回は時間の制約により分析していないが,今後の課題である。

 2の理論は,まだ推察を含むラフなものにすぎず,「仮説」と称するべきものである。親子間の仕事の内容を子細に検討しながら,職業に直接かかわる資源の継承プロセスを特定しなければ,「理論」を名のることはできない。この点についても,今後の検討課題である。


第3章 注

  1. 「学歴なし」の教育年数については,SSM調査の基準にそろえるためここでは「6年」として計算してある。
  2. 威信とは,価値的属性(職業,収入,など)にたいして,人々が尊敬や賞賛を与えることによって生じる勢力のことで,威光や声価と同義である。そのうち特に,職業威信とは,人々がそれぞれの職業にたいして与えている「格づけ」を意味する。日本では,1975年のSSM調査によって,直井優らが測定している。
  3. サンプルの上限年齢を69歳までとし,ある時点の職業威信を,その職に就いたときからつぎに昇進や転職する年齢まで順にならべている。各サンプルの調査時点年齢以降のデータはそのまま欠損値として処理してある。また,15歳未満の就労経験は無視してある。なお,65歳時点の有効サンプル数は,本調査42名,SSM88名である。
  4. 年齢は69歳を上限とし,民族は本調査を1,SSM調査を2とコードしてある。出身階層は父主職の職業威信,教育達成は教育年数である。
  5. 共分散分析(ANCOVA)を用いて,方程式の傾斜にかんする民族間の差異を検定しても,やはり有意とはならない。
  6. 可能な組み合わせのなかでは飽和モデルの適合度がもっともよかったため,ここで取り上げるのは本人現職の「農業」を除外した飽和モデルのパラメータである。
  7. 本文ではログリニア・モデルのパラメータを,ラフに「多い」「少ない」と読み替えているが,実際の数値の意味とはかなり異なっている。詳しくは,統計学の参考書を参照していただきたい。


4. 地域移動

稲月 正

 本章では,(1)在日韓国人の地域移動はどの程度起こっており,また,それは日本人とくらべて多いのか少ないのか,(2)在日韓国人の地域移動は職業とどのような関係をもっているのか,(3)在日韓国人はどの地域からどの地域へ移動しているのか,という3つの点について見てゆくことにする。

4.1 地域移動の定義と地域移動を見ることの意味

 分析にはいる前に,「移動」という概念の説明ならびに本調査において地域移動の分析が持つ意味づけを簡単に確認しておくことにしよう。

 人は社会の中でさまざまな位置(ポジション)を占めながら生活を営んでいる。位置づけの目安となるものは,「職業」「収入」「国籍」「地域居住歴」「性別」等々,さまざまである。私たちは,ある人が「なにものであるか」について述べるとき,これらの目安によって測られた社会的な位置について語ることが多い。「彼は医者である」とか「彼は親の代からずっとここに住んでいる人だ」というように。ある位置を占める人々の生活は安定的であったり,流動的であったりする。その位置の変化のことを私たちは「社会移動」と呼んでいる。たとえば,転職や昇進などでその人の社会的位置が変わった場合に「社会移動」が起こったというわけである。

 社会的位置の変化の中で,従来,重要なものとして取り上げられてきたのが「階層移動」と「地域移動」である。前者の中で主に行われてきたのは「職業」的位置の変化についての分析であり,後者は「住んでいる場所」の変化についての分析である。だが「住んでいる場所」の変化が,なぜ,そして,どのような意味を持っているのであろうか。

 「地域移動」が意味をもつのは,それが,地域での社会関係や社会参加と関係を持っているからである。たとえば,「地域移動」をしない人,言い換えれば「土着的」な人は家族・親族との様々なつながりも強いであろうし,近隣社会に参加する機会も多いだろう。そして,これらのことは,本調査との関わりで言えば,「職業移動」とも無関係ではないのである。

 在日韓国人の職業移動の特徴を思い出してみよう。金明秀による第3章「社会的地位達成」では,在日韓国人の職業構成ならびに職業的地位達成において,(1)自営業者がきわめて多く日本人の2倍以上に達すること,(2)親から引き継いだ資源とインフォーマルな互助的ネットワークを用いて地位達成を行ってきたこと,という特徴が明らかにされている。周知の通り,自営業は世襲されることも多い。それは「親からの資源」を生かす一つの道であるが,その結果,地域的な移動は制約されることも多いであろう。また,職業的地位達成にプラスに作用する「インフォーマルな互助的ネットワーク」は,「地域」内での社会関係をベースに取り結ばれていることが多いと想定されるが,地域「非」移動者は移動者にくらべて相対的にそのような関係をより多く形成しやすいとも考えられる。

4.2 現職地と初職地

 さて,本調査では「初職」から「現職」にいたるまで各職歴ごとにその居住地を尋ねている。つまり,どこで職歴(キャリア)の形成が行われていったかという履歴についてのデータをとったわけである。

 その移動について検討してゆく前に,まずは,在日韓国人の「現職地(現在住んでいる所)」ならびに「初職地(初めて職に就いたときに住んでいた所)」について見ておくことにしよう。

 表1は,「初職地」と「現職地」について,それぞれ上位10都道府県を示したものである。また「現職地」の右欄には,法務省統計を用いて計算した「在日韓国・朝鮮人特別永住者全体の中に占める各都道府県ごとの在日韓国・朝鮮人特別永住者の比率」を載せておいた。なお,法務省統計と本調査の数値の間にはさほど大きな差はなく,本調査のサンプリングが妥当であったことを示す一つの証となっている(1)

表 4-1 現職地と初職地(都道府県)

初職地

現職地

本調査

本調査

法務省統計
地域名 実数 地域名 実数

大阪 208 23.1 大阪 207 23.0 31.3
東京 156 17.4 東京 148 16.5 13.4
京都 83 9.2 京都 87 9.7 8.4
愛知 79 8.8 愛知 83 9.2 9.9
神奈川 62 6.9 神奈川 64 7.1 5.1
福岡 42 4.7 福岡 36 4.0 4.5
広島 27 3.0 広島 36 4.0 2.9
母国 19 2.1 埼玉 19 2.1 2.1
山口 16 1.8 千葉 17 1.9 2.1
奈良 15 1.7 奈良 17 1.9 1.2
その他 192 21.4 その他 173 19.2 19.2
不明 20 2.2 不明 12 1.3 0.0
899 100.0 899 100.0 100.0

 さて「初職地」について,この表からは次のような傾向が見て取れる。すなわち,(1)三大都市圏(東京大都市圏,阪神大都市圏,中京大都市圏)に居住する者が全体の67.1%を占めており,中でも阪神大都市圏の比率が高いこと,(2)地方圏で見ると西日本に居住する者の比率が高く,特に政令市をもつ広島,福岡県の比率が高いこと,である。

 また「現職地」についても,上位7位までの順位は「初職地」と同じであり,基本的には上で述べた傾向がそのまま当てはまる。つまり,大阪府を中心にして,東は愛知県,東京都へと至る大都市圏,そして西は広島県,福岡県といった県へと至る「太平洋・瀬戸内ベルト地帯」に,本調査の対象者は現在居住しているわけである。

 阪神,東京など,大都市圏に在日韓国・朝鮮人居住者が多いことについては,これまでも様々な研究の中で指摘されてきた。ちなみに1940年時点での地域別居住人口を見てみると,「京阪神」41.9%,「東京」10.0%,「中部」12.1%となっており,現在とさほど大きな変化はないことがわかる。戦前の調査報告書(神戸市,大阪市)でも「下関に上陸すると約束でもしたようにひとしく阪神地方にやってくる」と記述されているが(cf.朴在一『在日朝鮮人に関する総合調査研究』新紀元社:42),その理由について,朴在一は「京阪地帯が朝鮮に近い最大の商工業の中心地である事ばかりでなく,朝鮮人労務者に対する最大の需要地であったからに他ならないこと」をあげている(朴在一,前掲書:41-43)。また,原尻英樹は,大都市部に在日韓国・朝鮮人人口が多いことについて,「産業労働者として生計を立てていた」という来日時の歴史的経緯の他に,土地所有が難しく「第一次産業に従事することは殆ど無理」であり,戦後も零細自営やブルーカラーといった都市的職業につかざるを得なかったということをあげている(原尻英樹『在日朝鮮人の生活世界』弘文堂:59-60)。民族差別のため官僚制機構への参入やその中での移動が難しかった在日韓国人にとっても,自営業的成功は上昇移動の重要な経路であり,また,都市部ほどそのチャンスも多かったとも考えられる。このほか,谷富夫は,在日韓国・朝鮮人が「太平洋・瀬戸内ベルトライン」に居住している歴史的要因の一つとして「戦前の朝鮮と日本とを結ぶ定期航路の日本側の起終点が大阪港であり下関港であった」ことを指摘し,「ターミナル都市と移民との関係が運命的であることは古今東西を貫く真理」であると述べている(谷富夫「在日韓国・朝鮮人社会の現在」駒井洋編『定住化する外国人』明石書店:143)。

4.3 地域移動の民族間比較

――地域移動はどの程度起こっており,また,それは日本人とくらべて多いのか――

 次に,「初職地」と「現職地」との間の移動について見てゆこう(2)。これら2つの地域が同じ場合,その人の職業キャリアの形成は同一地域内で起こったことを示しており,違う場合にはその人は職業キャリアの形成にともなって地域移動を経験したことを示している。このような移動・非移動は在日韓国人場合,どの程度起こっているのだろうか。また,それは日本人と較べて多いのであろうか,少ないのであろうか。

 図1は,「移動者」と「非移動者」の比率を,在日韓国人,日本人別に示したものである(3)。ここでは「市町村間」レベルでの移動と「都道府県間」レベルでの移動の2つについて図示してみた。

(a)市町村レベル

(b)都道府県レベル

図 4-1 「移動者」と「非移動者」の数と比率

 この図からは,(1)在日韓国人の場合,「都道府県間」レベルでは約8割の人が「非移動者」であり,「市町村間」レベルでも58.2%の人が「非移動者」であること,(2)差はさほど大きくはないものの,日本人とくらべて在日韓国人のほうが地域間移動をする人の比率が低いこと,がわかる。これらのことは,在日韓国人の場合,相対的に多くの人が,最初についた職業地の中で職業キャリアを積んでいることを示している。(ただし,同一母集団の中の2グループではないので,ここでは「民族」と「地域移動」との関連が有意なのかどうかについては調べることはできない。)

 さらに,「年齢」コーホートごとに「非移動者」「移動者」比率を見たのが図2である。なお,ここで「年齢」は「25〜39歳」,「40〜59歳」,「60〜69歳」の3つに分けている。これらはそれぞれ,「三世以降」「二世」「一世」といった世代に大まかには対応していると思われる。

図 4-2 「年齢」コーホートごとの「非移動者」「移動者」比率

 この図からは,次のようなことが見て取れる。すなわち,(1)在日韓国人の「25〜39歳(三世以降)」では約7割の人が「非移動者」であるが,この比率は年齢の増加とともに低くなり,「60〜69歳(一世中心)」では42.4%まで低下すること,(2)日本人においては年齢コーホートと「非移動者」比率との間には明確な関係は見られず,その結果,在日韓国人と日本人とを比較すると,若い世代の在日韓国人ほど「非移動者」の比率が高くなっていること,である。「25〜39歳」では,在日韓国人「非移動者」の比率は日本人にくらべて15%も高い。逆に「61〜70歳」では,在日韓国人「非移動者」の比率は日本人よりも7.6%も低くなっている。

 在日韓国人の「60〜69歳(一世中心)」で「非移動者」比率が低いのは,初職についた時期(おそらくは45年〜55年くらい前)の歴史的な事情によるものと思われる。この時期は日本敗戦後の混乱期にあたっており,就労構造の不安定性(初職地に安定的な仕事口がなく,また,自らの資本形成もまだ十分ではなかったこと)や帰国の意向などもあいまって初職地に留まっての職業キャリア形成が困難だったのではないだろうか。逆に「60〜69歳」の日本人に「非移動者」が比較的多いのは,この層には「農業(農林水産業)」従事者が相対的に多いからであろう。

4.4 地域移動と職業との関係

――在日韓国人に地域非移動者が多いのはなぜか――

 では,在日韓国人の場合,「25〜39歳」「40から59歳」という年齢層で非移動者が多い(つまり,最初についた職業地の中で職業キャリアを積んでいる人が多い)ということの理由としては,どのようなことが考えられるだろうか。ここで思い出されるのが,本章第1節にも触れた在日韓国人の職業移動の特徴,すなわち,在日韓国人には日本人とくらべて「自営業」が多く,また(それとも関連するが)「親から引き継いだ資源」をもとにして地位達成を行っている者が多い,ということである。周知の通り「自営業」は土着性の強い職種であり,また「親から引き継いだ資源」も地域移動をしないほうがより効果的に活用できるであろう。

 そこで,このことを確認するために,「25〜59歳」の人について「現職(従業上の地位)」と市町村レベルでの「地域移動」との関係を見たのが図3である。なお,「現職」についても,大きく「自営」か「被雇用」かについて分け,「自営」についてはさらに「世襲かどうか」を基準として2つに分けている。

図 4-3 現職と地域移動(25〜59歳)

 この図からは次のようなことがわかる。(1)「自営(世襲)」と「被雇用者」との間には地域移動者の率の間に大きな差が見られ,「自営(世襲)」のほうに「非移動者」が多いこと,(2)同じく「自営」であっても「自営(世襲)」と「自営(自分で始めた)」との間には大きな差があり,「自営(自分で始めた)」の中にはむしろ「移動者」が多いこと,である。なお「家族従業者」においても「非移動者」が多いが,言ってみれば「家族従業者」とは家族・親族的資源のもとに仕事を営んでいるわけであるから「自営(世襲)」と同様に考えることができる。それゆえ「非移動者」が多いのだろう。

 これを確認するため,「25歳〜59歳」までの人について,さらに,「父職(従業上の地位)」と市町村レベルでの地域移動との関係を見たのが図4である。やはりここでも,父が「経営者・重役」「自営業者(雇用者あり)」「自営業者(雇用者なし)」である人は,父が「一般従業者」である人よりも「非移動者」の比率が高いことがわかる。

 これらのことから,人が地域移動をするかどうかは,その人が親(親族)から継承した資源をもとにして地位達成を行っているかどうかと関係していることがわかる。単に職業が「自営業」だから移動をしないのではなく,その「自営業」を営んでゆくための資源を親から引き継いでいるから地域にとどまるのである。

図 4-4 父職と本人の地域移動(25〜59歳)

 では,このような結果はなぜ起こるのであろうか。ここでは,次のように仮説的に考えておきたい。すなわち,「職業キャリアの形成にともなう地域移動」をすることへの「誘因」が,在日韓国人の場合には相対的に小さいため「非移動者」率が高い,という仮説である。言い換えれば,「地域移動」をするのにかかるコスト(より正確には「地域移動」を伴う「職業移動」にかかるコスト)に見合うだけの利益(ベネフィット)が予期できないため移動しない人が多いのではないか,という解釈である。そして,そのコスト−ベネフィット計算の背後で構造的に働く要因としては,民族的移動障壁の存在が想定できるであろう。簡単に言えば,民族差別があるため(あるいは,強い民族差別があるとの予期があるため),コストを払って移動しても,それに見合った利益,たとえば良い仕事口などが期待できない,それよりも親からの資源を利用して地位達成したほうが効果的である,というメカニズムが働いているのではないかという仮説である。

 もちろん,これを検証するにはさらなる状況証拠固めが必要である。ここではあくまで仮説として提示しておくにとどめよう。

4.5 職業的達成達成にたいする地域移動の効果

 さて前項では,「職業」や「親から引き継いだ資源」が地域移動の有無に関係を持っていることが示された。ただ,「自営業者には地域非移動者が多い」「親から引き継いだ資源を利用できる人は地域移動をしない」というのは,ある意味では当然である。この場合,「地域移動をしないこと」が本人が自営業に就く上で何らかの効果を果たしている,という解釈よりも,自営業を営むための資源があるがゆえに地域移動が起こらなかった,という解釈のほうが妥当であるようにも思われる。したがって前項の結果は,職業的地位達成に及ぼす地域移動効果(正確には「非」移動効果)を必ずしも検証しているわけではない。

 「地域移動」の有無が「職業」に与える効果を考える場合,その間に「社会関係量」を介在させる必要があるように思われる(図5)。すなわち,地域「非」移動によって豊富な社会関係が維持・形成されており,その社会関係資源をもとに就職情報を入手し職に就く,というプロセスが明らかにされれば,地域移動効果があったと考えられるのではないだろうか。(ちなみに,第3章でも明らかにされている通り,在日韓国人の場合,「家族・親族」「家族・親族の知り合い」「友人・知人」を合わせたインフォーマルな関係によって就職情報を入手したものは,有効回答者数の約7割にも達するのである。)

図 4-5 地域移動効果についてのモデル

 そこで,まず「地域移動」と「社会関係量」の関係を見たのが表2である。なお,ここでは「40歳」以上の人について計算を行った。「40歳」以上の人に限定したのは,この年齢くらいから人の「職歴」は「安定期」に入ると考えられるからである。(若い人の場合,職歴は形成途上であり,本来なら移動しやすい状況にある人でも未だ移動が実現していない,ということが考えられるため,地域「非」の効果を見るには外したほうがよいと考えた。)この表の数値は,「移動者」「非移動者」ごとに,家族同様に非常に親しくつき合ったり,助け合ったりしている「親戚(市内)の人数」「近所の人数」「友人や知人の人数」の平均値を示している(4)。たとえば右上の8.17という数字は,「非移動者」は平均して市内に8.17人の「親しい親戚」を持っている,ということを表している。また,その差が統計的に有意かどうかを調べるために一元配置分散分析を行った結果についても示している。

表 4-2 「地域移動」と「社会関係量」(40歳以上)

親しい親戚の数

親しい近所の人の数

親しい友人の数

非移動者(平均値)

8.17

5.46

8.02

移動者(平均値)

6.48

5.30

7.06

分散比(F)

4.05

0.06

1.40

有意水準

0.04

0.81

0.24

 この表からは,(1)「親しい親戚数」については「非移動者」と「移動者」との間に統計的に有意な差が存在すること,(2)「非移動者」は「移動者」にくらべて「市内の親しい親戚数」が多いこと,がわかる。

 「市内の親しい親戚数」は「生得的(アスクライブド)」な社会関係量であると考えられる。したがって,この数値は,「非移動者」は生まれながらその地域内に存在している(生得的な)親族的社会関係を相対的により豊富に持っていると言えよう。

図 4-6 「親しい親戚の数」と「就職情報の入手先」

図 4-7 「親しい親戚の数」と「就職情報の入手先」(非移動者のみ)

 では,これら「親しい親戚数」と「就職情報の入手先(初職)」とはどのような関係にあるのであろうか。それを示したのが図6である。ここでは「親しい親戚の数」をそれぞれ「0人」「1人〜5人」「6人〜15人」「16人〜50人」の4カテゴリーに分けた。(なお,ここでも「40歳以上」の人について分析している。)

 図6からは,たしかに「0人」「1〜5人」「5〜15人」と「親しい親戚数」が増えてゆくにしたがって「就職情報の入手手段」に「家族・親族」関係者をあげる人の比率も高まる。しかしながら「16人以上」になると「就職情報の入手先」として「家族・親族」をあげる人の比率は逆に低くなっている。「親しい親戚」が「16人以上」いる人たちの中では「就職情報の入手先」として「友人」をあげる人の比率が相対的に高くなっているのである。このように「親しい親戚の数」が豊富であるからと言って,家族・親族がそのまま「就職情報の入手先」となるわけでは,必ずしもないようである。

 また図7に示すように,「非移動者」のみを取り出して「親しい親戚数」と「就職情報の入手先」との関係をみてみたが,ここでも両変数の間に明確な関連は見られなかった。

 なお,カテゴリーの分け方が適切でなかった可能性もあるので,念のため「就職情報の入手先」と「親しい親戚数」との間で一元配置分散分析を行ってみたが有意な差は認められなかった。

 以上のことから,地域非移動者は地域の中で相対的に豊富な「親族関係」を持っているものの,その量が多いことと「家族・親族」が「勤め先に就くのに最も役立つ情報の入手先」であることとの間には距離があることがわかる。また,「親しい親戚数」が「0人」の人でも「就職情報の入手先」として「家族・親族」を挙げるものの数が多いことは,情報の入手先として「家族」がきわめて重要であることを物語っている。

 就職情報の入ってくるチャンネル数自体は社会関係の豊富さとある程度比例するかもしれないが,それらが必ずしも就職・転職における有効なチャンネルとなるわけではない。有効なチャンネルの選択には,単に自らをとりまく社会関係量の多寡には還元されない複雑なプロセスが存在するのであろう。したがって,今回の分析では図5のようなプロセスでの地域移動の効果は明確には認められなかった。職業的地位達成における地域移動効果の析出は今後の課題としておこう。

4.6 地域移動の方向

――どこから,どこへ移動してきたのか――

 さて,これまでは,地域移動の有無(移動,非移動)に注目してきたが,最後に,在日韓国人の移動の方向性(どこからどこへ移動してきたのか)について見てゆくことにしよう。

 図8は「初職地」と「現住地」との間の地域移動者数を示したものである。なお,「地域」をあまり小さく区切ると各セル内のサンプル数が少なくなるため,ここでは「東日本」「東京大都市圏」「中部」「中京大都市圏」「阪神大都市圏」「西日本」という6つの地域圏に分けている(5)

 この図からは,(1)どの地域圏においても「非移動者」の数が最も多く,職業キャリア形成にともなう地域移動はさほど起こっていないこと,(2)「移動者」の中では,「阪神→東京」「阪神→西日本」「東京→東日本」「東京→西日本」「西日本→東京」「西日本→阪神」という移動パタンをとる人の数が多いこと,がわかる。

図 4-8 初職地と現職地との間の移動者数(6地域圏)

表 4-3 初職地から現職地への移動者の比率(6地域圏)

現職地

東日本

東京

中部

中京

阪神

西日本

実数

初職地 東日本 58.3 29.2 0.0 0.0 12.5 0.0 100.0 24
東京 4.7 83.9 2.5 2.5 3.0 3.4 100.0 236
中部 2.6 12.8 66.7 10.3 7.7 0.0 100.0 39
中京 0.0 4.3 0.0 91.3 0.0 4.3 100.0 92
阪神 0.9 3.9 1.2 1.8 88.3 3.9 100.0 334
西日本 0.8 6.6 0.0 2.5 6.6 83.6 100.0 122

 移動の方向性について,さらに詳しく見るために,初職地ごとに現職地の比率をとってみたのが表3である。この表の数値(%)は,ある地域圏で初職についた人のうち,現在それぞれの地域圏にどのくらいの人が住んでいるかを示している。たとえば,最も右上の欄には58.3という数字は,初職地が「東日本」の人のうち,現職地も「東日本」である人が58.3%いることを示す。

 この表からは(1)初職地が「中京大都市圏」「阪神大都市圏」である人においては「非移動者」の比率が高く,特に「中京」「阪神」で初職についた人の約9割は移動していないこと,(2)「移動者」の中では「東京大都市圏」「阪神大都市圏」へ移動する人の比率が高く,初職地が「東日本」「中部」である人は「東京大都市圏」へ,「西日本」である人は「阪神大都市圏」へと移動する傾向が見られること,などがわかる。

 いずれにせよ「職業キャリア」の形成は「大都市圏」内で多く行われており,「初職地」が「大都市圏」内であればあまり移動することもなく,また,「地方圏」であれば「職業キャリア」の形成に伴って大都市圏に移ってゆく傾向が見られるわけである。

4.7 知見のまとめ

 本章で明らかになった知見を以下にまとめておこう。

居住地について

  1. 「初職地」「現職地」とも三大都市圏居住者が多く,特に阪神大都市圏に居住する人が多い。
  2. 地方圏でみると西日本に居住する人の比率が高く,なかでも政令市を持つ広島,福岡両県に居住している人が多い。

地域移動について

  1. 「都道府県」レベルでは,在日韓国人の8割近い人が「非移動者」であり,「市町村」レベルでも約6割の人が「非移動者」である。
  2. 日本人とくらべて在日韓国人のほうが地域移動をしない人が多い。つまり,在日韓国人の場合,最初に就いた職業地の中で職業キャリアを積んでいる人が多い。
  3. ただし,在日韓国人の場合,「年齢」によって「非移動者」の比率に大きな差が見られる。日本人とくらべて「非移動者」の比率が高いのは特に「25〜39歳」の若い年齢層である。逆に「60〜69歳」では日本人の方が「非移動者」比率は高い。
  4. 「25〜39歳」「40〜60歳」の世代で「非移動者」比率が高いのは,「自営(世襲)」に典型的に見られるように,これらの世代においては親から引き継いだ資源をもとにして地位達成をしている人が相対的に多いからではないだろうか。
  5. その背景には,職業的地位達成過程(就職・転職の過程)に民族的な移動障壁(就職差別)が存在すること(あるいは就職差別があるという予期が存在すること),そしてその結果,「地域移動」をともなう「職業移動」をすることにかかるコストに見合うだけの利益が期待できないために地域移動が少ない,といったメカニズム(また,親からの資源を利用して地位達成したほうが効果的である,といったメカニズム)が仮説的に想定される。
  6. 「60〜69歳」で,「移動者」比率が高いのは,この世代の多くが初職についた時期が日本敗戦後の混乱期であり,その当時(あるいはそれ以後の)不安定就労構造を反映しているからではないだろうか。

地域移動の効果について

  1. 地域移動の有無と「親しい親戚の数」との間には有意な差(地域移動効果)が見られる。「非移動者」は「移動者」にくらべて「親しい親戚の数(生得的な社会関係)」が多い。
  2. ただし,「社会関係量」の豊富さと,「就職時に最も役に立った情報の入手先」との間には明確な関連は見られない。つまり「非移動者」ほど,豊富な「社会関係」をベースにして就職情報を入手し就職・転職をする,といった形での地域移動効果は,現時点の分析では認められなかった。

地域移動の方向について

  1. 全国を6地方圏(「東日本」「東京」「中部」「中京」「阪神」「西日本」)に分けた場合,「初職地」が「中京大都市圏」「阪神大都市圏」である人の中では「非移動者」の比率が約9割にも達している。これらの地域では世代内の職業キャリアが初職についた場所で行われる傾向が強い。
  2. 「移動者」の移動先としては「東京大都市圏」「阪神大都市圏」へ移動する人の比率が高い。また「初職地」が「東日本」「中部」であった人は「東京」へ,「西日本」出会った人は「阪神」へ,という傾向が見られる。

なお,時間の制約から,(1)「地域移動」「社会関係量」「就職情報の入手先」「就業(初職)」の相互関係をモデル化し,地域移動効果を析出してゆくこと,(2)「職歴」や「時間軸」にそって詳細に地域移動を記述してゆくこと,は本章ではできなかった。これまで行った分析の精緻化とあわせて今後の課題としたい。


第4章 注

  1. この比率は、法務省『在留外国人統計(平成5年版)』を基にして計算した。ただし、阪神淡路大震災の影響で本調査対象者には「兵庫県」居住者はおられないことを考慮し、「兵庫県」居住者は除いている。なお、比較的大きな差としては、法務省統計では「山口県」が2.5%を占め第9位に登場するが、本調査では1.1%(第15位)となっていることくらいである。
  2. ここでは、分析・記述が煩雑になるのを避けるため、単に「初職地」と「現職地」が同じかどうかについて見ている。したがって「非移動者」というカテゴリーの中には厳密に言えば「Uターン者」も含まれている。
  3. 日本人の地域移動を見る際には1995年SSM(A)調査データ(男性サンプルのみ)を用いた。なお、比較の際には、1995年SSM調査の対象者が「20歳〜69歳」であるため、本調査データについても「20歳〜69歳」のサンプルのみ取り出して計算をおこなっている。データの使用を許可していただいた1995年SSM調査研究会には感謝いたします。
  4. 平均値の計算は、「はずれ値(たとえば『家族同様に親しい親しい知人』が『500人』という回答)」の影響を避けるため、「親族数」「近所の人の数」「友人・知人数」が「50人以下」の人だけについて行った。
  5. それぞれの「地域圏」に入るのは次の都道府県である。


5. 地域意識

稲月 正

 自分が住んでいる地域について強い関心や愛着を持つ人もいれば、持たない人もいる。地域のために何か役に立ちたいと思っている人もいれば、そうでない人もいる。また、その地域にずっと住み続けたいと思う人もいれば、早く出てゆきたいと思っている人もいるだろう。このように、地域に対して人が持つ意識のことを「地域意識」と呼んでいる。

 本章では、(1)在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか、(2)その地域意識は世代や年齢、移動歴などとどのような関わりをもっているのか、(3)地域内で取り結ばれている社会関係と地域意識とはどのような関わりをもっているのか、(4)地域意識と民族意識とはどのような関係を持っているのか、(5)民族・地域意識と民族問題へのかかわり(行為)との間にはどのような関係があるのか、という5つの点について検討してゆくことにする。

5.1 在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか

 本調査では、現在住んでいる地域について次のような質問を行い、「全くそう思う」から「全くそう思わない」までの5段階で答えてもらった。

  1. 「この地域や町内でする行事(清掃、廃品回収、運動会など)には参加するほうだ」(以下、「地域参加意欲」と略す)
  2. 「この地域のためになることをして役に立ちたい」(「地域貢献意欲」)
  3. 「この地域はこれから先、生活の場としてだんだんよくなるだろう」(「将来展望」)
  4. 「事情がゆるせば、ずっとこの地域に住んでいたい」(「永住意志」)
  5. 「この地域のことに関心がある方だ」(「地域関心」)
  6. 「この地域の悪口を言われたら、なにか自分の悪口を言われたような気になる」(「地域同一化感情」)

 まず、各項目についての回答を見たのが図1である。「地域同一化感情」を除けば、どの意識項目についても半数以上の人が「そう思う(全くそう思う+どちらかと言えばそう思う)」と答えており、地域への関心や参加意欲などはかなり高いことがわかる。中でも「永住意志」については「そう思う」という人の比率が高く、6割以上の人は「ずっとこの地域に住んでいたい」と答えている。また「地域の役に立ちたい」という人も56.7%存在しており、地域に根をおろしている在日韓国人の姿がうかがえる。日本人を対象にした全国調査の中にこれと比較できるような質問項目が見あたらないため民族間の比較は