在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査
報告書


目次

  1. 調査の概要
    1. 調査の目的
    2. SSC調査の実施経緯
    3. 実査の経緯
    4. サンプルの構成
    5. 報告書作成にあたっての指針
  2. 教育機会
    1. はじめに
    2. 民族によって教育機会に不平等はあるか?
    3. 在日韓国人の教育達成を規定するもの
    4. まとめと議論
  3. 社会的地位達成
    1. はじめに
    2. 民族間の不平等とはなにか(1)
    3. 民族間の不平等とはなにか(2)
    4. 学歴メリットの民族的不平等
    5. 民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワーク
    6. 「自営」資源の継承による世代間上昇移動
    7. まとめと議論
  4. 地域移動
    1. 地域移動の定義と地域移動を見ることの意味
    2. 現職地と初職地
    3. 地域移動の民族間比較
    4. 地域移動と職業との関係
    5. 職業的達成達成にたいする地域移動の効果
    6. 地域移動の方向
    7. 知見のまとめ
  5. 地域意識
    1. 在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか
    2. 個人属性と地域意識
    3. 地域の状況と地域意識
    4. 民族意識と地域意識
    5. 民族・地域意識と民族問題へのかかわり
  6. 民族団体への参加
    1. 民族団体への参加状況
    2. 民族団体の現状
    3. おわりに
  7. 満足度
    1. 収入の満足度
    2. 学歴の満足度
    3. 住宅の満足度
    4. 余暇の満足度
    5. 勤め先(自営業の場合は事業内容)の満足度
    6. 仕事の内容の満足度
    7. 地域の環境の満足度
    8. 生活全般の満足度(まとめ)
  8. 家庭内民族性
    1. 家庭内民族性の回答分布
    2. 家庭内民族性の世代差
    3. 「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」
    4. 民族的行動の指標群との関連
    5. 「地域内同胞多住」の程度との関係
    6. 母親の階層性との関係
  9. 差別体験
    1. 差別体験の様態
    2. 世代差
    3. 階層帰属意識別の分析
    4. 差別体験と相対的剥奪感
    5. 民族的誇り,個人的誇りとの関連
  10. 自尊心
    1. 民族的誇りと個人的誇りの直接的関係
    2. 2つの誇りの異同
    3. 世代・年齢層と2つの誇り
    4. 民族的社会環境と民族的行為との関連
    5. 権利要求項目との関連
    6. 「自尊心」のまとめ
  11. 愛着
    1. 愛着の結節点である「在日」
    2. 世代差と年齢差
    3. 満足度と愛着
  12. 名前の使用
    1. 名前の使用をめぐる在日韓朝鮮人の現状
    2. 「名前の使い分けパターン」に関する分析
    3. 本名使用度と本名を名乗る意志の規定要因について
    4. おわりに
  13. 権利
    1. はじめに
    2. 年齢と世代による権利要求の違い
    3. 日本の参政権
    4. 韓国の参政権
    5. 地方公務就任権
    6. 職業機会
    7. 社会保障
    8. 外国人登録証
    9. 帰化
    10. 民族教育
    11. まとめ
  14. 単純集計表


1. 調査の概要

金明秀

1.1 調査の目的

 まずはじめに,本報告書全体をとおした用語の説明をしておきたい。本報告書において,Koreanを指示する用語は以下の通りとする。民族の呼称としては「韓朝鮮」ないし「韓朝鮮民族」,韓朝鮮民族の構成員全体または個人を指して「韓朝鮮人」,在日の民族集団の呼称としては「在日韓朝鮮人」,そのうち韓国籍をもつ者のことを「在日韓国人」,「朝鮮」籍をもつ者のことを「在日朝鮮人」,日本籍をもつ者のことを「日本籍韓朝鮮人」とする。後述するように,「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」の母集団は韓国籍をもつ成人男性であるため,本調査データから直接言及される対象は,調査題目にもあるとおり,在日韓国人である。にもかかわらず,上記のような用語法を設定する理由は,本調査データの分析結果を直接一般化できる対象があくまでも韓国籍をもつ者に限定されることを明示するためである。

 さて,今日,在日韓朝鮮人をとりまく日本社会の環境は,非常に複雑なものとなってきている。日本社会の外向きの変化としては,とくに1980年代に入ってから,“アジア”にたいする関心の増大がひとつのトレンドとして定着し,アジア社会全体のイメージがポジティブな方向に遷移してきた。また内向きの変化としては,一応の内外人平等をたてまえとする「難民条約体制」のもとで,韓朝鮮民族にたいする偏見と差別が急速に柔和化し,定住外国人の地方参政権や地方公務就任権獲得に向けた運動を支持する動きが広範に受け入れられるまでになった。しかしながら,韓朝鮮民族にたいする偏見や差別が消失したわけではなく,いまだ結婚,就職,その他さまざまな社会生活の場面において,差別事象はあとを絶たない。在日韓朝鮮人を雇わないと明言する企業は少なくなったものの,有能な在日韓朝鮮人学生が不明瞭な理由で採用されないなどの事例は,数多く報告されている。日本社会の全体的な人権意識の雰囲気的な向上の中で,在日韓朝鮮人を“異質な隣人”として迎え入れようとする認識が広まり,韓朝鮮人にたいする差別は減少したものの,一方では潜在化し見えにくくなった差別事象や差別意識が糾弾をまぬがれ,根強く維持,再生産されているようにもみえる。

 また,在日韓朝鮮人社会内部における状況の変化もいちじるしい。日本の一般企業への就職の道が広がってからは,一世が築きあげ,二世が受け継いできた同胞企業を継ぐ青年が少なくなったとの声がある。また,1980年代後半には日本人との国際結婚をする韓朝鮮人の人数が過半数をこえた。いま出生しつつある在日韓朝鮮人の半数以上は日本国籍ないし二重国籍(事実上の日本国籍)であるにもかかわらず,日本籍韓朝鮮人にまで公式にメンバーシップをひろげる運動はまだあまりにも少なく,急速に増加しつつある日本籍韓朝鮮人は必要なサポートを受けられずに放置され,一方で民族団体はその構成員予備軍を急激に失いつつある。加えて,韓朝鮮人にたいする差別が相対的に減少することによって互助組織としての民族団体の存立意義が低下し,“若者の民族組織ばなれ”が広く指摘されている。同胞企業と民族団体を中心として形成されてきた在日韓朝鮮人コミュニティは,経済的側面,デモグラフィックな側面,社会的側面のいずれにおいても拡散の方向にあり,もはや明確な在日韓朝鮮人像を描くことは困難なほどになっている。

 1980年代以降のこうした変化,ないし複雑化は,多くの論者によってひとしく主張されていることであるが,その詳細な実態はかならずしも明らかではない。差別や不平等の構造は,実際にはどれだけ,そしてどのように変化してきたのか。在日韓朝鮮人は変化する差別や不平等構造にたいして,どのように対処してきたのか。在日韓朝鮮人コミュニティの様態の変化が,はたして在日韓朝鮮人の生活と意識にどのようなインパクトをおよぼしているのか。――いずれも基礎的かつ重要な問いであるが,それらを実証的に明らかにする試みは,まだきわめて少ない。在日韓朝鮮人社会は,すでに大きな転換点を迎えているにもかかわらず,今後の趨勢を占ううえで頼れるものは,識者の洞察と印象でしかなかったのである。

 「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」(Social Stratification and Social Conscious Survey ――以下,本調査ないしSSC調査とする)の目的は,過去および現在における在日韓朝鮮人の生活と意識の構造,動態を記述することにより,将来の在日韓朝鮮人社会の姿を見通すうえで,一つの,そして限定的ながらも客観的な,判断材料を提供することである。

1.2 SSC調査の実施経緯

 SSC調査は,在日韓国青年商工人連合会(以下,青商連合会)の15周年記念事業の一つの柱として発案され,1994年10月に研究代表者である金明秀が委託を受けたことにより企画がはじまった。

 委託にあたっての基本原則は,(1)収集された調査票およびデータの所有権は金明秀に帰属すること,(2)サンプリングおよび実査は青商連合会が担当すること,(3)調査の企画から分析にいたるまで,2をのぞくすべての手続きを,青商連合会の承諾を得ながら,金明秀およびその共同研究者の研究班が直接管理して行うこと,であった。

 また,青商連合会と金明秀の数度にわたる協議の結果,さらに以下のような指針が決定した。(4)阪神大震災に配慮し,兵庫県をサンプリングから除外すること,(5)調査コストとの関係から,サンプルを男性に限定し,標本数を1000とすること,(6)調査員となる青商連合会構成員への第1回インストラクションを1995年2月18日とし,同日をもって実査を開始すること,である。

1.3 実査の経緯

 調査票は研究班によって素案が作成され,青商連合会においても子細に検討されたのち,さらに研究班によって修正した調査票がふたたび青商連合会で討議されるなどのプロセスをへて,最終的に確定した。

 調査員は,原則として青商連合会の幹部および活動者である。金明秀が青商連合会の各地方理事にインストラクションを実施し,その後,各地方理事が調査員マニュアルにもとづき,各地方の構成員にインストラクションをおこなった。なお,青商がおかれていないいくつかの都道府県については,民間調査機関に委託した。

 実査の開始に先立ち,民団および青商連合会による調査対象者への依頼状を郵送し,調査の趣旨を理解してもらうようつとめた。

 実査の形式は,訪問面接法である。実査の開始は,前述のとおり,初回のインストラクションが行われた1995年2月18日である。当初,実査の期間は3ヶ月の予定であったが,諸般の事情により,調査票の収集がすべての地域で最終的に終了したのは1996年10月31日である。結果として,実査が1年8ヶ月にもおよぶという異例の事態となった。

 このような事態が生じた最大の原因は,民団の各都道府県本部が管理する名簿(1.4「サンプルの構成」参照)に,地域によってはいちじるしい不備があったためである。とりわけ東京都本部の場合,はじめに抽出したサンプルの9割までもが訪ねあたらないという深刻な事態に陥ったため,収集した調査票をいったん破棄し,比較的名簿が正確な各地方支部に出向いてサンプリングからやり直したという事情がある(1)。東京都は極端なケースだが,各都道府県で多かれ少なかれ類似の事態が発生し,再サンプリングおよび追加サンプリングを余儀なくされた。

 いずれにしても,収集時期に最大で1年8ヶ月もの開きが生じた以上,すべての調査票をはたして同一に論じることができるのかという批判は,あまんじて受けざるをえないだろう。

1.4 サンプルの構成

 本調査の母集団は,以下の3点を満たす者,すなわち成人の在日韓国人男性である。

  1. 1973年12月31日以前の生まれ(満20歳以上)
  2. 日本に定住している韓国籍の者
  3. 男性

 これを代表するものとして,在日本大韓民国民団(以下,民団)が保有する韓国国民登録台帳を用いた。民団の各都道府県本部の台帳から,無作為にスタート番号にあたる者を選び,その都道府県に割り当てられた標本数を等間隔抽出法で選びだし,対象者リストを作成した。

 しかし,対象者リストは各都道府県ごとに一定数の予備サンプルを含んでいるため,対象者リストに載せられた全ての人が調査対象者だというわけではない。実際にサンプルとしたのは,各地域ごとに指定された標本数までである。

 実際に調査した結果,「死亡」,「移転先不明」,「日本国籍を取得」,「対象年齢外」であることが判明した場合,予備サンプルないし追加サンプルと差し替えた。

 最終的に,1280の調査対象者から,899の有効票(回収率70.2%)が回収された。

1.5 報告書作成にあたっての指針

 当初は,基礎的なデータの分布を紹介する“一般読者向け”編と,多変量解析を用いてデータの要約の度合いを高めた“専門家向け”編の2分冊として報告書を刊行する予定であった。しかしながら,調査票の収集が大幅に遅れたことにともなって,データ解析と文章の執筆にあたる期間が予定よりも縮小したため,結果として“一般読者向け”と“専門家向け”の分析と文章を折衷したものを,一冊の報告書として刊行するプランに変更せざるをえなくなった。

 その際,編者が各章の執筆者に基本指針として要請したことは,(1)多変量解析の分析結果を念頭においたうえで,提示する分析はデータの分布を紹介する基礎的なレベルにとどめ,文体としてもできるかぎり“一般読者向け”の体裁にすること,(2)多変量解析の結果を提示する場合は,その分析手法について簡単な解説を掲載すること,(3)分析手法を基礎的なものに制限したとしても,基礎データの羅列に終始せず,できるかぎりストーリー性を重視すること,の3点である。ただし,編著者が担当した第2章および第3章については,「社会階層」という専門性の高いテーマを取り扱っているため,一般読者に平明に解説することよりも,まずは先行研究との一貫性のほうを重視すべきだとの観点に立ち,分析及び文体を基本的には専門家向けとし,それを一般読者向けにややラフな表現に言いくずしたものにした。

 結果として,もし第2章および第3章をのぞく各章について,比較的,平明に在日韓国人の実態を描き出すことに成功しているとすれば,禁欲的かつ地道にデータの紹介につとめた各執筆者の努力のおかげである。

 また,したがって,この種の調査報告書になじみのない読者は第4章以降からお読みになることをおすすめする。本報告書は,第1章から第12章まで,順にそれまでの各章を前提とする構成になってはいるが,基本的にそれぞれ独立した文章であるため,前から順に読み進む必要はない。関心のある部分から“つまみぐい”すればよいだろう。

 最後に,本報告書の執筆分担を明らかにしておく。第1章「調査の概要」,第2章「教育機会」,第3章「社会的地位達成」については,前述のとおり,編著者である金明秀が担当した。第4章「地域移動」,第5章「地域意識」は稲月正,第7章「満足度」,第11章「愛着」,第12章「権利」は中原洪二郎,第8章「家庭内民族性」,第9章「差別体験」,第10章「自尊心」は潮村公弘,第6章「民族団体」,第12章「名前の使用」は豊島慎一郎がそれぞれ担当した。各執筆者の1997年4月1日現在の所属と地位は次の通りである。

【執筆者一覧 (参加順)】

金 明 秀(研究代表者) 日本学術振興会海外特別研究員/
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)客員研究員
稲月  正 北九州大学外国語学部助教授
中原洪二郎 東京大学文学部助手
潮村 公弘 信州大学人文学部助教授
豊島慎一郎 関西学院大学大学院社会学研究科博士後期課程


第一章 注

  1. これによって,調査期間だけでなく,調査コストも莫大に跳ね上がったと聞いている。民団では,このことの反省もあり,その後,名簿の整理を行っている。


2. 教育機会

金明秀

2.1 はじめに

 在日韓朝鮮人の教育達成については,よく2つの異なった説を耳にする。一つの説は,経済的な障害から高等教育を受けたくても受けられなかった親の世代が,子どもにはそのような不満を抱かせたくないと思い,高い教育期待を持つようになるというものである。もう一つの説は,高等教育を受けても一般企業への就職の道が閉ざされていた親の世代が,大学に行っても無駄だという考えを持つようになり,子どもにたいする教育期待を失ってしまう(したがって,学歴よりも手に職をつけろ,ということになる)というものである。

 だが,私はかつて拙稿にて,単純集計レベルで観察するかぎり日本人と在日韓国人の教育達成に差はみられず,上記のいずれの説も妥当なものではないことを明らかにした。そしてその事実は,本調査においてもあらためて確認されている。本調査対象者の平均教育年数は12.40年。一方,同時期に日本人を対象に実施された「社会階層と社会移動全国調査」(1)(以下,SSM調査)では12.35年。ごくわずかに本調査のほうが高い値を示してはいるものの,統計的には誤差の範囲内でしかない(2)。つまり,在日韓国人全体の教育達成をみれば日本人とのあいだに格差は存在せず,したがって上記の2つの説は,いずれも民族差別の存在を重視するあまり,一面的なものの見方にかたよってしまっているわけである。

 だがこれは,あくまでも在日韓国人全体の教育達成をみればという話である。それにたいして,はたして社会階層別ではどうか? すなわち,教育達成ではなく教育機会ではどうなのか? ――前述の拙稿において,簡単にこれらの問題設定の有効性を指摘したものの,まだ詳細な検討はなされてはいない。

 そこで本章では,できるだけ広範な視野から,在日韓国人の教育達成の実態を明らかにしていく。

2.2 民族によって教育機会に不平等はあるか?

 教育年数の平均値に民族間の差異がみられないとしても,その結果を達成するプロセス,すなわち教育機会に違いがあるということは十分に考えられることである。

 一般に,教育を達成するうえで重要な役割を果たすことが知られているのは,成育家庭の階層性である。可処分所得に余裕があれば,子を進学塾に通わせたり家庭教師を雇うことも可能だが,逆に所得に余裕が乏しければ,学校外教育に投資するどころか,学費さえ捻出することが困難となる。また,高階層に付随する文化的背景――たとえば,家庭内の会話で豊富な語彙が用いられたり,日頃から活字文化に親しむなど――に親しんでいれば,子の進学は比較的有利となる。そして,開業医の子が医学部に進んだり国会議員の子が大学に進学することと,サラリーマンの息子が経済学部に進んだり雇用労働者の子が大学に進学することをくらべれば,前者のほうが「効用」が大きいことは自明である。

 従来の日本の社会学は,このように出身家庭の階層性によって子の教育達成が左右されてしまうことをこそ,払拭すべき身分制の名残りであり,忌むべき不平等であると考えてきた。つまり,教育というものは本来,個人の能力と努力によって「業績主義」的に達成されるべきものであり,父親の職業や学歴といった「帰属主義」的な家族的背景属性によって左右されてはならないという考え方である。単純化していえば,出身階層→子の教育達成という関係が消滅してこそ,社会が平等化する条件の一つが整うということである。

 なるほど,それは考え方として一つのすじが通っている。しかし,そこには「民族」という属性による不平等の観点が,すっぽり抜け落ちてしまっている。かりに出身階層→子の教育達成という関係が消滅したとしても,民族によって出身階層と子の教育達成が規定されているとしたら,それはやはりある種の身分制が残存している状態と言わざるをえない。

Figure2-1

図 2-1 教育達成の基本構造

 民族という要素を加味したうえで,教育機会の不平等をモデル化したものを図1に示した。Rが民族,Oが出身階層,Eが子の教育達成である。この3要素によって考えられるすべてのモデルではなく,蓋然性が高い6タイプだけを選んである。以下,それぞれのモデルについて解説していくことにする。

 モデルA:民族・階層同時支配

 これは,モデルCの階層媒介支配とモデルEの民族支配が併存している状態であり,すなわち,子の教育達成が親の階層によって規定されると同時に,親の階層と子の教育達成が民族によっても規定されていることをあらわしている。教育機会に階層間の不平等が存在するのみでなく,民族による不平等が階層間の不平等をさらに補強するようにはたらくモデルである。

 モデルB:民族・階層結合支配

 これはモデルAにくわえて,さらに出身階層による影響力が民族によって異なることを示すモデルである。すなわち,日本人のほうが在日韓国人よりも出身階層による影響を強く受けていたり,あるいは逆に,在日韓国人のほうが日本人よりも,出身階層による影響を強く受けていることを意味している。このような影響がみられる場合,出身階層による影響力は単なる階層間の不平等ではなく,民族別にその意味が異なることになる。

 モデルC:階層媒介支配

 子の教育達成は,民族による直接の規定からはまぬがれているものの,出身階層による規定力を媒介として民族による間接的な影響力を受けているモデルである。教育機会には,依然として民族と階層間の不平等が存在することを意味しており,AやBのモデルから,DないしFのモデルに移行する過渡的な状態であると考えられる。

 モデルD:階層支配

 子の教育機会に階層間の不平等はみられるが,民族間の不平等は存在しないモデルである。この場合,もはや社会階層を論じるにあたって,民族というファクターを検討する必要はなくなる。

 モデルE:民族支配

 親の社会階層も子の教育達成も,純粋に民族によって規定されているモデルであり,民族によるカースト社会を意味する。

 モデルF:完全な機会均等

 子の教育機会が,出身階層からも民族的な不平等からも,完全に解放された状態をあらわすモデルである。社会的地位の配分として,近代におけるひとつの理想状態であると言える。

 さて,以上のモデルのどれがもっとも日本社会の実情を反映しているものなのかを確認するため,世代ごとにログリニアモデルを適用した(3)。表2は,年齢によって,三世を中心とする「20〜39歳」,二世を中心とする「40〜59歳」,一世を中心とする「60歳以上」の3つに分けたうえで,A〜Fそれぞれのモデルのデータとの適合度をあらわしたものである。

 表1をみると,「20〜39歳」の世代では,モデルの適合度上位はC,A,Bの順にならんでおり,この3つのモデルが統計的に妥当な適合度を示している。CとAは適合度からいって甲乙つけがたいが,よりシンプルなほうを選択するという基準によれば,Cの階層媒介支配モデルを採択すべきであろう。階層媒介支配モデルとは,民族による直接の規定からはまぬがれているものの,出身階層による規定力を媒介として民族による間接的な影響力を受けているモデルのことであった。民族的不平等が解消の過渡期にあるモデルであるとも想定できる。

表 2-1 教育達成の世代別ログリニアモデル

世代

モデル

(適合度順)

AIC

χ2

自由度

20-39歳

C

−7.2522 12.7478 10 ns

A

−6.6199 9.3801 8 ns

B

0.0000 0.0000 0 ns

E

30.4496 62.4496 16 **

D

86.0029 114.0029 14 **

F

124.6703 168.6703 22 **
40-59歳

B

0.0000 0.0000 0 ns

C

0.3980 20.3980 10 *

A

2.0753 18.0753 8 *

E

77.5658 109.5658 16 **

D

91.3601 119.3601 14 **

F

165.2976 209.2976 22 **
60歳以上

B

0.0000 0.0000 0 ns

C

12.1085 32.1085 10 **

A

14.4219 30.4219 8 **

D

39.4952 67.4952 14 **

E

52.6428 84.6428 16 **

F

76.5369 120.5369 22 **

 それにたいして,「40〜59歳」と「60歳以上」の2つの世代については,やや異なった結果を示している。つまり,モデルは上位からB,C,Aの順に並んでおり,そのうち,統計的にモデルとしての妥当性が確認されているのは,タイプBの民族・階層結合支配のみである。民族・階層結合支配とは,子の教育達成が親の階層によって規定されると同時に,親の階層と子の教育達成が民族によっても規定されていることにくわえて,さらに出身階層による影響力が民族によって異なることを示すモデルのことであった。

 ここで,より詳しくモデルを吟味するため,「40〜59歳」と「60歳以上」にかぎって,民族・階層結合支配モデル(飽和モデル)の交互作用パラメータをみてみよう。表2は,交互作用パラメータの標準値のうち,統計的に有意なもののみを取り出したものである。

 表2の読み方をかなりラフに説明すれば,標準値がプラスであればその行の関係は「多い」こと,マイナスであれば「少ない」ことを意味する。たとえば,1〜7は階層支配にかかわる部分だが,父親の階層が「経管」であれば子は高等教育に進学する傾向が強く,逆に「雇B」や「農業」の子は初等教育にとどまる傾向が強いことがみてとれる。つまり,父親の階層上の位置が高ければ高いほど,子の教育達成も高くなるという関係が示されている。

表 2-2 民族・階層結合支配モデルの交互作用パラメータ

民族

出身階層

教育達成

標準値

1

経管

中等

−2.069*
2

経管

高等

4.835**
3

雇W

中等

2.129*
4

雇B

初等

3.477**
5

雇B

高等

−4.392**
6

農業

初等

5.340**
7

農業

高等

−4.356**
8

在日韓国人

経管

−2.851**
9

在日韓国人

自営

6.136**
10

在日韓国人

雇B

5.568**
11

在日韓国人

農業

−2.084*
12

在日韓国人

初等

−4.356**
13

在日韓国人

中等

2.995**
14

在日韓国人

経管

初等

2.358*
15

在日韓国人

経管

中等

−2.012*
16

在日韓国人

雇W

高等

−2.552*
17

在日韓国人

自営

初等

−3.476**
18

在日韓国人

自営

中等

2.565*
19

在日韓国人

農業

初等

−2.128*

*は5%,**は1%で有意。

 8〜13は民族支配にかかわる部分である。8〜11については次章で詳しく触れるため,ここでは12と13に注目しよう。12では在日韓国人の初等教育の標準値がマイナスで,13では中等教育の標準値がプラスになっている。そして,高等教育については有意な効果は存在しない。ということは,出身階層による影響力を除去すると,40歳以上の在日韓国人は同年齢層の日本人より,初等教育にとどまる可能性が少なく,逆に中等教育に進学する傾向が強かったということになる。

 あらためて強調しておくが,年齢を40歳以上に限定しても,教育年数の平均や単純集計において,民族別で教育達成に違いはみられない。にもかかわらず,ここで在日韓国人のほうが日本人よりもより高位の教育達成をする傾向が強かったことが示されているのは,出身階層を分析に含めてあるからである。というのも,10番では在日韓国人の父親に「雇B」が多かったことが示されており,そして4番では「雇B」の子が初等教育にとどまる傾向が強いことが示されている。したがって,在日韓国人でも初等教育にとどまる者の数が多くなるのは当然である。だが,そうした出身階層による影響を除去してみると(言い換えると,かりに出身階層が日本人と同じであった場合),在日韓国人のほうが日本人よりも高位の教育を達成する傾向にあった,ということである。

 つぎに,14〜19,つまり出身階層による規定が民族によって歪められている部分について検討してみよう。ここはやや複雑だが,全体の傾向としては,在日韓国人のほうが日本人よりも出身階層の影響力を弱めるような関係がみられる。たとえば在日韓国人は日本人よりも,出身階層が「経管」で中等教育が少なく,逆に初等教育が多い。また,出身階層が「雇W」で高等教育が少ないなど,より高位の出身階層にともなう諸資源をうまく利用できていないことが示されている。一方,出身階層が「農業」や「自営」で初等教育が少なく,「自営」で中等教育が多くなっているなど,より低位の出身階層を突破する傾向が示されている。

2.3 在日韓国人の教育達成を規定するもの

 前節では,ログリニアモデルを使って出身階層と教育達成の関連に民族差があるかどうかを確認した。ここではやや視点を変えて,回帰分析を用いながら,出身階層その他のどういった要因が在日韓国人の教育達成をささえているのかを確認してみよう。

表 2-3 民族を説明変数に含む教育達成への重回帰分析

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

(定数)

8.623

.241

1344

父教育

.263 .342

父職業

.047 .223

民族

−.476 −.065

表中の係数はすべて1%で有意

表 2-4 民族別の教育達成への重回帰分析

民族

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

在日韓国人

(定数)

9.042

.172

397

父教育

.190

.264

父職業

.046

.255

日本人

(定数)

7.577

.265

966

父教育

.313

.382

父職業

.044

.198

表中の係数はすべて1%で有意

 まず,表3に父教育,父職業,民族を説明変数とした重回帰分析の結果を示した(4)。出身階層を代表する父教育と父職業がともにプラスの係数を示している。それと同時に,民族の偏回帰係数がわずかながら有意にマイナスの値を示している。これは,父教育と父職業が同じである場合,日本人よりも在日韓国人のほうが高い教育を達成する傾向にある,ということを意味する。前節での検討と合致する結果である。

 表4は,父教育,父職業を説明変数とした教育達成への重回帰分析の結果を民族ごとに示したものである。出身階層から教育達成におよぶ影響力にどのような民族差があるかということを検討するためのものであり,分析手法は異なっても,表2の14〜19番の検討と内実は同じである。

 父教育が子の教育達成を規定する効果に注目すると,日本人の偏回帰係数が0.31であるのにたいして,在日韓国人は0.19と大きく下回っている。たいして,父職業が子の教育達成を規定する効果のほうは在日韓国人が日本人を上回っているものの,偏回帰係数をみるかぎり,その差はごくわずかなものでしかない。結果として,定数(父教育と父職業によっては説明されない部分)は在日韓国人のほうが日本人にくらべて大きくなっており,逆に,R2(父教育および父職業による説明力)は在日韓国人のほうが日本人にくらべて小さくなっている。

 表2の検討において,在日韓国人のほうが日本人よりも出身階層の影響力を弱めるような関係がみられたことと,合致している。

 ここで思いおこすべきことは,平均教育年数でみるかぎり,教育達成に民族間の差異はみられないという事実である。すなわち,在日韓国人は日本人にくらべて,父教育や父職業といった出身階層による利点を活かしきれていないにもかかわらず,日本人と同等の教育を達成してきているということである。言い換えると,在日韓国人は,教育を達成するうえで日本人よりも出身階層以外の何らかの要因を利用する可能性が高い,ということである。

 在日韓国人が教育を達成するうえで日本人よりも多用する“出身階層以外の何らかの要因”とは,はたして何であろうか? そのことを確認するためには,本調査と完全に比較可能な日本人のデータがなければならないが,残念ながら,近年実施された調査のなかにはみあたらないようである。そこで,ひとまず本調査データに注目し,なにがどのように在日韓国人の教育達成を規定しているのかを確認することにしよう。

 教育達成とその他の要因のあいだにどのような相関関係(ピアソン)がみられるかを表5に示した。最下行が教育達成とその他の要因の相関係数なので,そこに注目しながら表の数値を読んでいこう。

 左から4つの列は,狭義の「家庭背景」である。「父教育」および「父職業」が出身階層を代表する要因であることはすでに述べたが,ここでは新たに「兄弟姉妹数」と「高校(中等教育)進学時の経済事情」を導入した。兄弟姉妹数は,父教育や父職業とマイナスの相関を示していることをみても分かるとおり,低階層家庭ほど人数が多い傾向にあるばかりか,ライフステージによっては食費や教育費などを増加させ,家計を圧迫する要因ともなる。したがって,兄弟姉妹数が多ければ,教育達成が低めになるという傾向は,よく知られた関係である。また,高校進学時の経済事情は,父教育や父職業が取りこぼしている可能性のある,収入や暮らし向きなどを間接的に代表するものである。

表 2-5 教育達成とその他の要因の相関関係








高 経
校 済
進 事
学 情








教 ア
育 ス




職 ア
業 ス







兄弟数

466

718

784

484

855

813

512

891

父教育 -.228

398

447

312

463

447

297

466

父職業 -.118 .272

638

416

694

667

427

718

経済 -.191 .224 .356

485

781

751

479

786

親期待 -.104 .202 .346 .328

486

480

308

486

成績 .033 -.014 .012 -.031 .080

801

507

857

教ア -.024 .216 .246 .128 .295 .406

490

815

職ア .076 .147 .162 .038 .316 .317 .361

512

教育 -.167 .301 .282 .505 .490 .295 .418 .251

主対角線の左下はピアソンの相関係数,右上はサンプル数。 イタリックは5%で有意でないもの。

 この4つの家庭背景要因は,それぞれ教育達成と一定の相関関係にあることが示されているが,なかでももっとも値の大きなものは高校進学時の経済事情である(r=0.51)。これは,表中の全相関係数のなかでもっとも値の大きなものであり,この種の調査としては非常に強い関係があることを意味している。このことから,家庭背景の階層面においては,進学にあたっての経済的事情が教育達成にもっとも強い影響を与えていることが推察される。

 つぎに,左から5行目の「親の教育期待」は,出身家庭において教育がどのように価値づけられていたかという心理・主観的な要因であり,広義の家庭背景と言える。これも,教育達成とのあいだで非常に強い相関(r=0.49)をもっており,重要な要因であることが確認できる。親がより高位の教育達成を望んで(いると子が感じて)いればいるほど,その期待にこたえるかたちで教育達成がおこなわれる,ということである。逆に言うと,親が教育達成を望んでいない(と子が感じて)いればいるほど,教育達成は低めになる,ということである。

 続いて,「中学校(旧制は小学校)卒業時の成績」も教育達成と一定の相関関係にある(r=0.30)。これは,出身階層の要因とは無関連であることをみても分かるとおり,本人の能力と努力をもっとも反映している要因である。そして,ある程度それに見合ったかたちで教育達成が行われていることを意味している。

 最後の2行,「教育アスピレーション」と「職業アスピレーション」は,教育達成に先だって教育達成に影響を与えると考えられている価値態度である。いささか古い日本の言葉では「立身出世意識」にあたり,困難なことをうまく乗りこえ,競争に打ち勝ち,よりすぐれた社会的地位を得たいという動機をあらわしている。

 さて,「教育アスピレーション」は教育達成とのあいだに高い相関(r=0.42)を示しているが,「職業アスピレーション」は小さめの相関(r=0.25)しか示していない。教育はそれ自体一つの社会的資源であるが,ひとたび獲得するや,学歴として他の社会的資源,とりわけ職業や収入などをえるチャンスを拡大する。したがって,逆に言えば,より威信の高い職業を望んでいれば(職業アスピレーションが高ければ),より高位の教育達成を目指して努力することになるものである。最近の調査ではあまり教育アスピレーションや職業アスピレーションを測定したものは見あたらないが,1975年のSSM調査では,職業アスピレーションは教育達成とのあいだに,教育アスピレーションと同等の相関係数を示している。本章では詳しく扱わないが,在日韓国人にとって,職業と教育のアスピレーションがどのような意味を持つものなのかについて,さらに詳しい検討が必要だろう。

表 2-6 諸要因を含む教育達成への重回帰分析

説明変数

β係数

兄弟姉妹数 −.045
父教育 .123**
父職業 −.033
高校進学時の経済事情 .374**
親の進学期待 .277**
中学卒業時の成績 .213**
教育アスピレーション .179**
職業アスピレーション .008

N=899  R2=.499
*は5%  **は1%で有意

 ここまで相関係数を概観しながら,教育達成とその他の諸要因のあいだにどのような関係があるかをみてきた。しかしながら,表5をみると,ここにあげた諸要因は,教育達成とのあいだばかりではなく,要因間でも少なからぬ相関関係をもっていることが分かる。つまり,教育達成とのあいだの相関は,いわば見かけ上の関連にすぎない可能性も高いわけである。

 そこで,これらの要因が教育達成におよぼす影響を相互にコントロールするために,重回帰分析を行った(表6)。ただし,通常の処理ではサンプル数が少なくなりすぎるため,分析に使用した変数のどれか一つにでも欠損値があればそのサンプルを分析から除外する方法(リストワイズ)は用いず,分析に用いた変数すべてが欠損値の場合のみサンプルを分析から除外する方法(ペアワイズ)をとった。

 まず,家庭背景の社会階層面に注目してみると,父職業や兄弟姉妹数のβ係数は有意性検定を通っていない(つまり,統計的にはゼロからの誤差の範囲内でしかない)ものの,高校進学時の経済事情はもっとも大きな影響力を示しており(β=0.37),また,父教育も値は小さいながら一定の影響力を保持している(β=0.12)。すなわち,表6の諸要因を同時にコントロールしてもなお,出身階層の効果は全体としては消失せず,教育達成にたいしてもっとも重要な影響力を与えているということである。

 だがそれと同時に,出身家庭の心理・主観的側面である親の進学期待も比較的大きな影響をもち(β=0.28),回答者の価値態度である教育アスピレーションも一定の影響力をおよぼしている(β=0.18)。すなわち,出身階層がどうであろうと,成育家庭が教育達成を支持し,本人が教育達成に強い意欲をもっていれば,より高位の教育を受けることが可能だということである。

 また,本人の努力と能力を反映する中学卒業時の成績も,教育達成にたいして少なからぬ影響力を保持している(β=0.2)。出身階層や心理・主観的な要因がどうであれ,本人のメリットは教育達成にたいして有効に作用するということである。

2.4 まとめと議論

 まずは,ここまでに明らかになったことを箇条書きのかたちで抜き出すことによって,ふりかえってみよう。

  1. 平均値や単純集計レベルで観察するかぎり,日本人と在日韓国人の教育達成に差はみられない
  2. 一・二世を中心とする40歳代以上については,教育機会について出身階層による不平等と民族による不平等が複合的に作用する民族・階層結合支配のもとにあった。三世を中心とする20〜30歳代については,教育機会について民族的不平等が解消の途上にあると考えられる階層媒介支配のもとにある。
  3. 出身階層をコントロールすれば,日本人よりも在日韓国人のほうが高い教育を達成する傾向にある。
  4. 出身階層から教育達成におよぶ影響力は,在日韓国人のほうが日本人より弱い。したがって,在日韓国人は,教育を達成するうえで日本人よりも出身階層以外の何らかの要因を利用する可能性が高いと考えられる。
  5. 在日韓国人の教育達成に有効に寄与することが確認された要因は,出身階層以外に,家庭背景の心理・主観的側面である「親の進学期待」,回答者の価値態度である教育アスピレーション,回答者の努力と知的能力を反映する「中学卒業時の成績」がある。

 1番目の項目は,本章の冒頭において議論の大前提として指摘したことである。つまり,結果としての教育達成をみるかぎりは,民族間に差異は存在しないのである。したがって,安易に民族間の不平等を前提とするような主張は,在日韓国人の教育を論じるにあたっていちじるしく妥当性を欠いており,厳に慎まなければならない。

 しかしながら,出身階層,民族,教育達成の3要因の関連を子細に検討していくと,そこには明確な民族間の不平等が出現する。40歳未満については教育機会の不平等構造が解消の途上にあると思われるとはいえ,それでもなお,已然として出身階層を媒介とした不平等は残存したままである。

 だが,在日韓国人は,その不平等にたいして手をこまねいて座視しているわけではない。各自の能力を生かし,また階層構造の梯子をのぼろうという意欲をもつことによって,同一出身階層の日本人よりもより高位の教育を達成していることが示されている。つまり,民族間の不平等を,能力と意欲によって突破しているのである。

 “われわれ在日は,日本人と平等ではないのだから,日本人と同じにしていては日本人と同等の地位は達成できない”――在日韓朝鮮人のあいだで,頻繁に聞かれる主張である。この主張の正しさが,本章での教育達成の検討において,調査データからも確認されたと言える。

 ところで,本章の冒頭で,在日韓朝鮮人の教育達成にかんする2つの主張を紹介した。一つの説は,経済的な障害から高等教育を受けたくても受けられなかった親の世代が,子どもにはそのような不満を抱かせたくないと思い,高い教育期待を持つようになるというものである。もう一つの説は,高等教育を受けても一般企業への就職の道が閉ざされていた親の世代が,大学に行っても無駄だという考えを持つようになり,子どもにたいする教育期待を失ってしまう(したがって,学歴よりも手に職をつけろ,ということになる)というものである。

 どちらの説も事実誤認にもとづいており,そのままでは受け入れることはできない。前者の主張は,「親の世代」が「経済的な障害から高等教育を受けたくても受けられなかった」という点を誤認しており,後者の説は,「親の世代」が「大学に行っても無駄だという考えを持つ」という部分を過度に強調している。だが少なくとも,それぞれの主張の“含意”については,いちがいに否定することはできないように思われる。

 たとえば,前者の主張については,親の教育期待の高さによって教育達成をなし遂げている点において妥当であり,後者の主張については,(いまだ十全に検証してはいないが)高階層出身による教育達成が日本人よりも低いことの理由を示唆しているとも解釈できる。

 しかしそれよりも,どちらの主張も,教育機会(および教育メリット)にかんする民族間の不平等を,努力と創意工夫によって突破する必要性を説いている点で,非常に示唆に富んでいる。

 最後に,本章で明らかになった事実を,理論のかたちで提示しておきたい。

<在日韓国人の教育達成にかんする理論>

 在日韓国人は,教育機会にかんする民族的不平等を,能力と意欲によってカバーし,結果として日本人と同等の教育達成をおこなってきたのだ。


第2章 注

  1. 1995年SSM調査から,A票の男性のみを取り出したものである。本章ではSSM調査との比較のため,本調査の年齢の上限を70歳未満としてある。また,「学歴なし」の教育年数についても,1995年SSM調査の基準とそろえるため,6年としてある。
  2. 本調査とSSM調査については,「母集団が異なるため統計的検定が意味を成さない」という考え方もありうる。本報告書でも,第4章において稲月がそうした慎重論に立っている。だが一方で,「同一母集団(すなわち「日本社会」)から,在日韓国人をクオータ・サンプリングしたものだ」という解釈も成り立つ。クオータ・サンプリングとは,サンプリングをベースとした社会調査が取りこぼしがちな少数者集団についても統計的分析にたえられるサンプル数を確保するため,サンプリング比率を調整することによって少数者集団を重点的に抽出する方法である。本章および次章で両調査データを比較するさいには,後者の立場をとっている。ただし,サンプリング比率は両調査で異なるため,後述する「民族」変数の分布が実際の分布とは大きく異なる点には留意していただきたい。
  3. 民族は本調査を1,SSM調査を2とコードした。出身階層は次章の表3-2に示した職業5分類を用いた。教育達成は,次の3分類を用いた。T.義務(旧制の尋常小学校・高等小学校,および新制中学校),U.中等(旧制の中学校・実業高校・師範学校,および新制高校),V.高等(旧制の高校・専門学校・高等師範学校・大学,および新制の短大・高専・大学)
  4. 民族は前述のとおり,本調査を1,SSM調査を2とコードしてある。父教育および子の教育達成はそれぞれの教育年数,父職業は父主職の職業威信である。


3. 社会的地位達成

金明秀

3.1 はじめに

 本調査のタイトルにある「社会成層」とは,一般の国語辞典には載っていないが,social stratificationの訳語として用いられており,社会階層(social stratum)が成立するプロセスのことを意味する。そして,社会階層とは「社会的地位の構造」のことであり,社会的地位とは「社会的資源とその獲得機会が不平等に分配されている状態」のことである。つまり,社会階層とは,「不平等の構造」だと言い換えることができる。

 なお,社会的資源とは,「人々の欲望の対象であるが,相対的に稀少な資源」のことであり,具体的には,財産や資本のような物的資源,勢力,権力,威信のような関係的資源,知識や情報といった文化的資源がある。だが,そのうち調査によって測定可能なものはかぎられており,本調査では,教育と職業を社会的地位の主な規定要因と考え,それによって在日韓国人内外の不平等構造を明らかにしていく。

3.2 民族間の不平等とはなにか(1)

 表1に,教育年数(1)と現職の威信(2)について,本調査データを日本人データと比較したものを示した。日本人データは,1995年に実施された「社会階層と社会移動全国調査」(以下,SSM調査)より,A票の男性のみを取り出したものである。

表 3-1 教育年数と職業威信の平均値比較

教育年数

職業威信

平均値

標準偏差

平均値

標準偏差

在日韓国人

12.01

2.99

48.02

12.82

日本人

12.35

2.78

47.32

11.39

 教育年数,職業威信のいずれの平均値をみても,在日韓国人と日本人のあいだで,明確な差異はみられない。職業威信の差は,統計学的には誤差の範囲内におさまっているし,教育年数の差についても,両調査の年齢のずれによる影響を除去すれば,統計学的には誤差の範囲内におさまってしまう。つまり,教育年数と職業威信のみを取り上げれば,在日韓国人は日本人と同程度の地位達成をなしとげているわけである。

 従来,在日韓朝鮮人が日本人よりも不利な立場に置かれ,民族間に不平等があるということは自明のように語られてきた。しかしながら,社会的地位の指標としてもっとも重要だと思われている2つの指標において,不平等はみられなかったのである。このことを,時系列の変化をおって確認してみよう。図1は,各サンプルごとに初職就業時点から現在までの職業威信を年齢順に算出し,各年齢ごとにその平均値をならべたものである(3)。異なる年齢層を一つの図に押し込めてしまっている(たとえば,現在65歳のサンプルが20歳の時点での職業威信と,現在20歳の職業威信を同一のものとしてあつかっている)ため,この図から精確なトレンドを導き出すことはできないが,「在日韓国人は,青少年期には日本人より不利な立場に置かれてきたが,一定の年齢に達するまでに何らかの手段によって日本人と同等の地位達成をなしとげている」というおおまかなストーリーが浮かび上がってこよう。

Figure3-1

図 3-1 年齢による職業威信の変遷(全コーホート)

 ならば,ここで明らかにしなければならないことは,なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか,そして,在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか,ということである。

3.3 民族間の不平等とはなにか(2)

 前節で指摘した問題を追究するまえに,もうすこし別の観点から職業的な地位の民族間における違いをみておこう。

 職業的な地位の指標は,なにも職業威信のみではない。代表的なものをあげれば,従業先の規模(会社の大きさ),従業上の地位(経営者か一般従業者かなど),仕事の内容(どれほど責任や知識を必要とする仕事か)などがある。そこで,これらを複合的に組み合わせた職業分類を,表2のように構成した。また,現在の職業を表2にしたがって分類したデータを,表3に示した。

 表3において特徴的なことは,(1)「自営」すなわち雇用規模30人未満の零細企業に就業している在日韓国人は日本人の2倍以上におよび,比率において半数を超えていること,(2)逆に「雇W」つまり一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数,比率にして1割強でしかないこと,(3)在日韓国人のなかで,「農業」すなわち農林漁業従事者は非常にまれであること,である。農業については別途論じる必要があるが,1,2を端的にまとめるならば,在日韓国人と日本人の職業的な地位の違いは「自営」の比率に還元される,ということである。

表 3-2 職業5分類の構成基準

分類名

分類基準

T 専管 専門職従事者,30人以上規模企業の経営者,官公庁および300人以上企業規模の課長以上管理職
U 雇W 企業または官公庁に雇用されているT以外のノンマニュアル職従事者
V 自営 30人未満規模企業の経営者,自営業主および家族従業者
W 雇B 企業または官公庁に雇用されているマニュアル職従事者
X 農業 農林漁業従事者

表 3-3 職業5分類の民族間比較

実数
(%)

専管

雇W

自営

雇B

農業

在日韓国人

96
(14.2)

84
(12.4)

352
(52.1)

142
(21.0)

2
(0.3)

676
(100.0)

日本人

203
(18.6)

259
(23.7)

253
(23.2)

313
(28.7)

64
(5.9)

1092
(100.0)

299
(16.9)

343
(19.4)

605
(34.2)

455
(25.7)

66
(3.7)

1768
(100.0)

 とはいえ,これは,拙稿を含めすでに先行の諸研究によって明らかにされていることであり,ここで新たに発見された事実というわけではない。そもそも,多くの資源をもたなかった在日一世たちが,はげしい雇用差別を回避しながら経済生活を安定させるために,手ずから事業をおこし,自営業を中心とする在日韓朝鮮人経済をつくりあげてきたということは周知の歴史的事実である。民族的なマイノリティが雇用差別によって自営業に追いやられるということは,なにも在日韓朝鮮人にかぎらず,世界的に広くみられる事象でもある。

 問題は,今なお在日韓国人は日本の一般企業から排除され,「自営」に囲い込まれつづけているのかということである。言い換えると,「自営」からその他の従業形態に転出するさいに,現在でも民族的な障壁があるのかどうか,ということである。

3.4 学歴メリットの民族的不平等

 ここでは,3.2節で示されたいくつかの課題について,親子の世代間で職業的地位が継承され,あるいは獲得されるプロセス(世代間移動)に注目しながら検討していく。

 図2は,世代間移動のもっとも基本的なモデルである。AとBの矢印は,親の地位によって子の地位が決定されるという意味で「世襲」をあらわしている。それにたいして,Cの矢印は,個人の能力と努力によって地位が達成されるという意味で「機会均等」を表現していると考えられている。

Figure3-2

図 3-2 世代間移動の基本モデル

 ただし,教育機会に階層間の不平等がある場合――たとえば,東京大学の学生の親の社会階層が高いことはよく知られた事実である――には,BとCの複合的な影響が生ずることとなり,「世襲」とは言えないまでも,学歴を媒介とした階層による支配を意味する。

 さて,日本社会をこのモデルに当てはめると,A〜Cすべての矢印が,戦後一貫して有意な効果を持ってきたことが知られている。つまり,現代日本は,世襲的な地位継承と機会均等とが混然とした社会だと解釈されているわけである。だが,これまで日本において,民族というファクターを加味したうえでこのモデルが検討されたことは,一度としてない。はたして,日本における社会的地位の世代間移動に,民族的な不平等は存在するのであろうか。

 表4は,はじめての職業(以下,初職)の威信が,出身階層,教育達成,民族によってどのように説明されるかを,各年齢層ごとに重回帰分析によって示したものである(4)。年齢層は,三世以降を中心とする「20〜30歳」,二世を中心とする「40〜59歳」,一世を中心とする「60歳〜69歳」で分けてある。

 各年齢層において「民族」がどのような働きをするかに注目すると,若い年齢層から順に偏回帰係数がプラス方向に大きくなっていくことが分かる。これは,年齢層が上であるほど,同等の階層の出身で,かつ同等の学歴をえていたとしても,在日韓国人のほうが日本人よりも不利な初職にしか就けなかった傾向にある,ということである。時代をさかのぼるにつれて民族的不平等も激しくなるということであり,一般的な実感とも合致する結果である。ただし逆に言うと,年齢層がくだるほど,初職に就業するさいの民族的な不平等は解消の方向にある。とりわけ三世を中心とする年齢層では,もはや「民族」の係数が統計的に有意でさえなく,職業的な地位を威信で代表するかぎり,民族的不平等は存在しないと言ってよい(5)

表 3-4 民族を説明変数に含む初職威信への重回帰分析

コーホート

変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 13.293** .191

524

出身階層 .113**

.135

達成教育 1.840**

.375

民族 .975

.044

40〜59歳 (定数) 16.926** .199

849

出身階層 .143**

.182

達成教育 1.339**

.328

民族 2.087**

.103

60〜69歳 (定数) 11.693** .310

344

出身階層 .169**

.193

達成教育 1.561**

.440

民族 4.017**

.164

+は10%,*は5%,**は1%で有意。以下同じ。

表 3-5 民族を説明変数に含む現職威信への重回帰分析

コーホート

変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 17.375**

.214

522

出身階層 .242** .283
達成教育 1.492** .299
民族 −1.139 −.050
40〜59歳 (定数) 23.342**

.208

836

出身階層 .265** .279
達成教育 1.342** .270
民族 −1.900* −.077
60〜69歳 (定数) 25.752**

.154

250

出身階層 .115 .103
達成教育 1.590** .355
民族 −.618 −.021

 表5は現職について,同じように重回帰分析をおこなったものである。表4とは対照的に,40〜59歳の年齢層をのぞいて「民族」による効果は統計的に有意ではない。つまり,現職の地位を達成するにあたっては,民族的な不平等を何らかのかたちで克服している,ということである。それだけでなく,「民族」の係数はわずかながらマイナスに転じており,むしろ在日韓国人のほうが,現職については日本人よりもいくぶん高い地位を達成しているということになる。

 初職に就職するさいには民族的不平等に見舞われながらも,その後は何らかの手段によって日本人と同等以上の地位を達成しているということであり,さきに図1で見たものと同じ構造がここにもうかがわれる。しかし,図1によって示された疑問点,すなわち「なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか,そして,在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか」についての回答にはなっていない。そこで,その回答へのきっかけをつかむために,民族ごとで図2のモデルがどのように異なっているかを確認してみよう。

表 3-6 民族別の初職威信への重回帰分析

民族

コーホート

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 16.500**

.129

216

出身階層 .144*

.165

教育達成 1.562**

.284

40〜59歳 (定数) 22.162**

.130

325

出身階層 .141**

.187

教育達成 1.089**

.250

60〜69歳 (定数) 25.502**

.107

96

出身階層 .0125

.014

教育達成 1.249**

.353

20〜39歳 (定数) 13.948**

.245

308

出身階層 .0859*

.106

教育達成 2.029**

.451

40〜59歳 (定数) 19.086**

.239

524

出身階層 .145**

.181

教育達成 1.494**

.388

60〜69歳 (定数) 15.922**

.408

248

出身階層 .237**

.278

教育達成 1.636**

.467

ANCOVAによると民族間の方程式に有意差があったのは60〜69歳のみ

 表6は,民族ごとに初職威信への重回帰分析の結果を示したものである。まず,この表の最大の特徴は,どの年齢層をみても,「定数」の値が一貫して在日韓国人のほうが高いことである。これは,在日韓国人が初職に就業するとき,日本人よりも,出身階層や教育達成以外の手段をより多く用いていることを意味している。したがって,出身階層と教育達成による説明力(R2)も,すべての年齢層において日本人のほうが高くなっている。

 第2の特徴は,どの年齢層をみても,教育達成による効果は,在日韓国人のほうが一貫して低いことである。簡単に言いなおすと,同じ学歴を達成したとしても,在日韓国人は日本人と同じほどには学歴のメリットを生かすことができておらず,その傾向は世代をへても基本的に変化していない,ということである。

 第3の特徴としては,60〜69歳の在日韓国人では,出身階層による効果がまったくといってよいほど存在しないことである。世代間でこれほど完全な地位の断絶がみられるのは異例のことだが,このようなことが生じた理由は言うまでもなく,日本への移住や強制連行によって,出身階層にともなうさまざまな資源を利用することができなくなったためであろう。

 第3点目の特徴については別途議論が必要だが,第1,第2の特徴を総合すると,在日韓国人は戦後一貫して,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけており,それを補うために,出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて初職に就業してきた,ということになろう。では,“教育達成でも出身階層でもない,それ以外の手段とはなにか”ということが問題になるが,それを検討する前に,まずは現職について同じ重回帰分析をおこなった結果をみておこう。

表 3-7 民族別の現職威信への重回帰分析

民族

コーホート

説明変数

偏回帰係数

β係数

R2

N

20〜39歳 (定数) 16.389**

.223

216

出身階層 .382** .413
教育達成 .979** .169
40〜59歳 (定数) 27.562**

.127

323

出身階層 .247** .267
教育達成 .907** .168
60〜69歳 (定数) 39.687**

.016

80

出身階層 −.0388 −.038
教育達成 .872+ .207

20〜39歳 (定数) 15.134**

.244

306

出身階層 .126** .158
教育達成 1.891** .425
40〜59歳 (定数) 15.429**

.280

513

出身階層 .286** .293
教育達成 1.601** .342
60〜69歳 (定数) 17.844**

.246

170

出身階層 .190* .159
教育達成 1.911** .406

ANCOVAによるとすべての年齢層で民族間の方程式に5%水準の有意差があった

 表7の現職についても,表6の初職で指摘した3つの特徴はすべて符合する。つまり,在日韓国人の「定数」の値が比較的大きいこと,そして在日韓国人の教育達成の係数が一貫して日本人より小さいこと,在日韓国人60〜69歳では出身階層の影響がほとんど存在しないこと,である。したがって,「教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけており,それを補うために,出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて地位を達成してきた」という結論にも変化はない。

3.5 民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワーク

 したがって,つぎに,初職に就業するにあたってどのような手段が有効であったか(問4j)にたいする回答をみてみよう。

表 3-8 初職の就業情報の入手経路

選択肢

実数 (%)
家族・親類に頼んだ(または紹介してもらった) 279 (35.3)
家族・親類の知り合いに頼んだ(または紹介してもらった) 80 (10.1)
友人・知人に頼んだ(または紹介してもらった) 172 (21.7)
学校の先生に頼んだ(または紹介してもらった) 35 (4.4)
学校の就職担当係に紹介してもらった 63 (8.0)
求人広告・就職情報誌を見た 44 (5.6)
職業安定所・民間の職業斡旋所に紹介してもらった 10 (1.3)
直接,相手方に問い合わせた 87 (11.0)
強制連行(徴用) 13 (8.0)
その他 8 (0.9)
非該当・無回答 108

899 (100.0)

表 3-9 初職就業情報の紹介者の民族

紹介者の民族

実数

(%)

日本人 98

(18.8)

韓朝鮮人 422

(81.2)

非該当・無回答 379

899

(100.0)

 表8をみると,「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた,インフォーマルな人間関係によって就業情報をえたものが,有効回答者のほぼ7割近くにまでおよんでいる。

 また,「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に,その紹介者の民族をたずねたところ,8割以上が韓朝鮮人であるという回答をえた(表9)。これらの圧倒的な比率の高さをみれば,“教育達成でも出身階層でもない,それ以外の手段とはなにか”という問いを追究するうえで,もはやこれ以上の分析は必要あるまい。それはすなわち,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークにほかならない。在日韓国人は,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため,それを補うために,出身階層にともなう資源と,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて,ようやく日本人と同等の地位を達成してきたのである。

 ところで,ふたたび表6および表7にもどると,初職と現職の違いとして大きく目を引くのが,20〜39歳の在日韓国人における,出身階層の飛び抜けた影響力の大きさである。これは,転職や昇進にあたって,出身階層による資源を利用していることを意味する。ここで,在日韓国人の過半数が「自営」にかかわっていることを思いおこすなら,昇進や転職時に利用される出身階層による資源とは,「家業」にかかわる財産,人間関係,知識や経験であることが推察できよう。

 そこでつぎに,「自営」かどうかという観点を導入しながら,世代間移動をさらに追っていくことにする。

3.6 「自営」資源の継承による世代間上昇移動

 表10は,職業5分類を父主職(縦の並び)と本人現職(横の並び)について組み合わせたものである。ただし,このままではあまりにも複雑で,隠れた傾向を読みとることが難しいため,ログリニア・モデルによって要約した情報(6)を表11に示した。

 表11の読み方をしばらく解説していこう。いちばん右の行にある標準値がプラスであれば,その行の関係は「多い」ことを,マイナスであれば「少ない」ことを意味する(7)。たとえば,1〜8は民族にかかわらず,父職と本人現職のあいだに観察される関係であるが,親子で同じ分類どうしの標準値(1,2,4,7)はすべてプラスになっている。つまり,子は親と同種の職業的地位を受け継ぐ傾向にある,ということである。それにたいして,3,5番目の標準値はマイナスであり,父親が「自営」や「雇B」の場合,子が「雇W」になるケースは比較的少ないということである。自営業やブルーカラーからホワイトカラーへの世代間移動には,なんらかの障壁が存在するということだ。

 9〜15番目は,民族と本人現職,ないし民族と本人現職がかかわる関係を示している。たとえば,13,14番目の標準値はプラスであり,在日韓国人の父親は日本人より「自営」や「雇B」に就くものが多い。逆に12,15番目はマイナスであり,在日韓国人の父親は日本人の父親より「専管」「農業」に就くものが少ない。同じように,12〜14をみると,在日韓国人は日本人より「自営」の比率が高く,「専管」「雇W」の比率が低い,ということが示されている。これらは,すでに表3で説明したことである。

 さて,ここで注目したいのは16〜20番目,すなわち,(民族,父主職,本人現職相互の直接の関係を除去したうえで)民族,父主職,本人現職の3つが同時にかかわる関係である。言い換えると,民族ごとで世代間の移動にどういう差があるか,ということである。17,20番目は「上昇移動」,つまり子の地位が親の地位よりも上昇しているケースである。「自営」の親から子が「専管」になったり,「雇B」の親から子が「自営」になるのは,日本人よりも在日韓国人のほうが多い,という関係が示されている。具体的な典型例をあげて説明するなら,前者の場合,小さな焼き肉屋を経営していた父親の子どもが,従業員規模30名を越える焼き肉チェーン店に発展させたという事例があてはまる。後者の場合,旋盤工として工場に雇われて働いていた父親の子どもが,自分で鉄工所をひらいたという事例があてはまる。いずれの場合も,父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ,それを発展させているケースであり,それが,在日韓国人の典型的な世代間上昇移動のモデルであると言っていいだろう。

表 3-10 職業5分類を用いた民族別の世代間移動表

実数

(%)

専管

雇W

自営

雇B

農業





専管

2

(18.2)

3

(27.3)

5

(45.5)

1

(9.1)


11

(100.0)

雇W

7

(29.2)

11

(45.8)

6

(25.0)


24

(100.0)

自営

39

(15.9)

30

(12.2)

130

(52.8)

47

(19.1)


246

(100.0)

雇B

15

(14.6)

5

(4.9)

52

(50.5)

31

(30.1)


103

(100.0)

農業

5

(12.2)

3

(7.3)

24

(58.5)

7

(17.1)

2

(4.9)

41

(100.0)

61

(14.4)

48

(11.3)

222

(52.2)

92

(21.6)

2

(0.5)

425

(100.0)



専管

56

(45.5)

29

(23.6)

19

(15.4)

18

(14.6)

1

(0.8)

123

(100.0)

雇W

24

(24.2)

45

(45.5)

16

(16.2)

13

(13.1)

1

(1.0)

99

(100.0)

自営

38

(14.4)

48

(18.3)

109

(41.4)

67

(25.5)

1

(0.4)

263

(100.0)

雇B

34

(17.5)

46

(23.7)

22

(11.3)

88

(45.4)

4

(2.1)

194

(100.0)

農業

26

(9.4)

56

(20.1)

59

(21.2)

86

(30.9)

51

(18.3)

278

(100.0)

178

(18.6)

224

(23.4)

225

(23.5)

272

(28.4)

58

(6.1)

957

(100.0)

 なお,18番目には非常に意外なことに,父が「自営」で子も「自営」であるという在日韓国人が少ないことが示されている。“親が自営業だから子も自営業になる”という可能性は,実は日本人の方が大きいのである。これは,在日韓国人で父が「自営」の場合,世代間の上昇移動が多く,同一の「自営」のままとどまっているケースが日本人よりも少ないということだと思われる。

表 3-11 民族ごとの世代間移動表における有意な交互作用

民族

父主職

本人現職

標準値

1.

専管

専管

2.564*
2.

雇W

雇W

3.706**
3.

自営

雇W

−2.352*
4.

自営

自営

3.401**
5.

雇B

雇W

−2.578**
6.

雇B

自営

−2.113*
7.

雇B

雇B

4.099**
8.

農業

自営

2.185*
9.

在日韓国人

専管

−2.071*
10.

在日韓国人

雇W

−2.753**
11.

在日韓国人

自営

6.980**
12.

在日韓国人

専管

−3.455**
13.

在日韓国人

自営

8.454**
14.

在日韓国人

雇B

3.625**
15.

在日韓国人

農業

−2.287*
16.

在日韓国人

雇W

雇B

2.198*
17.

在日韓国人

自営

専管

2.376*
18.

在日韓国人

自営

自営

−3.957**
19.

在日韓国人

雇B

雇W

−2.340*
20.

在日韓国人

雇B

自営

2.386*

 それにたいして,19番目をみると,「雇B」の親から「雇W」に転出する子どもについては,日本人よりも在日韓国人のほうが少ない。たとえば,工場労働者や道路工の子どもがサラリーマンや販売店員になるような上昇移動のケースは,日本人よりも在日韓国人のほうが少ない,ということである。これは,ごく近年まで一般の日本企業が激しい民族差別をおこなっていたため,一般従業者としての就職の道が閉ざされていたことによるものと思われる。

 一方,「下降移動」のケース,つまり親の職業的地位よりも子の地位のほうが低くなっているのは,16番目である。親が「雇W」で子が「雇B」になるケースは,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。具体例を挙げるなら,親が民団などの民族団体や商銀などの民族金融機関の職員で,子が宅配便の運転手という事例があてはまる。現時点ではあくまで推察にすぎないが,これは,雇Wの子がなんらかの理由(能力不足や就職差別など)によって雇Wに就けない場合,親が自営業でないため自営にともなう資源が利用できず,子は雇Bから地位達成を始めなければならなくなる,というプロセスを反映しているかもしれない。もしそれが事実ならば,在日韓国人の唯一の世代間上昇移動のプロセスは「自営」の資源継承にともなうものであり,それを外れた場合,たとえ父の職業的地位が高くとも,子の職業は大きく転落する可能性が高いという皮肉な事態を意味することになる。このことの事実関係を特定することは,今後の検討課題である。

3.7 まとめと議論

 まずは,ここまでの分析において明らかになった重要な点をまとめておこう。

<命題群1>

1-1 教育年数,現職の職業威信のいずれの平均値をみても,在日韓国人と日本人のあいだで有意な差異はみられない。

1-2 年齢層が上であるほど,同等の階層の出身で,かつ同等の学歴をえていたとしても,在日韓国人のほうが日本人よりも不利な初職にしか就けなかった傾向にある。

1-3 「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた,インフォーマルな人間関係によって初職の就業情報をえたものが,有効回答者のほぼ7割近くにおよぶ。

1-4 「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に,その紹介者の民族をたずねたところ,8割以上が韓朝鮮人であると回答。

<理論1>

在日韓国人は,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため,それを補うために,出身階層にともなう資源と,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて,ようやく日本人と同等の地位を達成してきた。

<命題群2>

2-1 「自営」すなわち雇用規模30人未満の零細企業に就業している在日韓国人は日本人の2倍以上におよび,比率において半数を超えている。

2-2 「自営」→「専管」,「雇B」→「自営」という世代間上昇移動は,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。

2-3 「雇W」つまり一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数,比率にして1割強でしかない。

2-4 「雇W」→「雇B」という世代間下降移動は,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。

<理論2>

在日韓国人の世代間上昇移動のモデルは,父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ,それを発展させているケースである。

 本調査データにより明らかになった点としてはじめに強調しておかなければならないことは,在日韓国人と日本人の職業的地位は,一般の通念とは異なり,じつはさほど大きな格差を生じていない,ということである。むしろ,両者の社会的地位がきわめて近似していることこそ,本調査において発見された事実であると言ってよい。したがって,安易に民族間の不平等や格差を前提とする従来の議論は,いずれも在日韓国人の社会階層を描写するうえで,いちじるしく妥当性を欠いていると言えよう。

 しかしながら,その大前提とも言える事実をふまえたうえで,子細にデータを検討してみたところ,平均値レベルでは明らかにならなかったさまざまな潜在的不平等が浮き彫りになった。在日韓国人と日本人の間で,職業的な地位に差異がみられなかったのは,不平等がないからではなく,在日韓国人がその不平等を克服しているからなのである。民族という属性による理不尽な不平等構造よりも(むろんそれが重要であることは論をまたない),むしろさまざまな障壁を乗り越えて,結果として日本人と同等かそれ以上の社会的地位を達成してきた在日韓国人の努力と工夫に満ちた職業生活史こそ特筆されるべきであろう。

 本章での分析結果は,在日韓国人の社会階層を論じるにあたって,民族間の不平等を明らかにするという視角と,在日韓国人がいかに民族間の不平等を克服してきたのかという視角の2点が重要であることを示唆している。そして,上記2つの理論が,それぞれの視角に対応している。

 1の理論をより精緻にするためには,就業情報の紹介者の社会的地位などをモデルに含めながら,インフォーマルな人間関係が具体的にはどう利用されているかについて特定する必要があるだろう。今回は時間の制約により分析していないが,今後の課題である。

 2の理論は,まだ推察を含むラフなものにすぎず,「仮説」と称するべきものである。親子間の仕事の内容を子細に検討しながら,職業に直接かかわる資源の継承プロセスを特定しなければ,「理論」を名のることはできない。この点についても,今後の検討課題である。


第3章 注

  1. 「学歴なし」の教育年数については,SSM調査の基準にそろえるためここでは「6年」として計算してある。
  2. 威信とは,価値的属性(職業,収入,など)にたいして,人々が尊敬や賞賛を与えることによって生じる勢力のことで,威光や声価と同義である。そのうち特に,職業威信とは,人々がそれぞれの職業にたいして与えている「格づけ」を意味する。日本では,1975年のSSM調査によって,直井優らが測定している。
  3. サンプルの上限年齢を69歳までとし,ある時点の職業威信を,その職に就いたときからつぎに昇進や転職する年齢まで順にならべている。各サンプルの調査時点年齢以降のデータはそのまま欠損値として処理してある。また,15歳未満の就労経験は無視してある。なお,65歳時点の有効サンプル数は,本調査42名,SSM88名である。
  4. 年齢は69歳を上限とし,民族は本調査を1,SSM調査を2とコードしてある。出身階層は父主職の職業威信,教育達成は教育年数である。
  5. 共分散分析(ANCOVA)を用いて,方程式の傾斜にかんする民族間の差異を検定しても,やはり有意とはならない。
  6. 可能な組み合わせのなかでは飽和モデルの適合度がもっともよかったため,ここで取り上げるのは本人現職の「農業」を除外した飽和モデルのパラメータである。
  7. 本文ではログリニア・モデルのパラメータを,ラフに「多い」「少ない」と読み替えているが,実際の数値の意味とはかなり異なっている。詳しくは,統計学の参考書を参照していただきたい。


4. 地域移動

稲月 正

 本章では,(1)在日韓国人の地域移動はどの程度起こっており,また,それは日本人とくらべて多いのか少ないのか,(2)在日韓国人の地域移動は職業とどのような関係をもっているのか,(3)在日韓国人はどの地域からどの地域へ移動しているのか,という3つの点について見てゆくことにする。

4.1 地域移動の定義と地域移動を見ることの意味

 分析にはいる前に,「移動」という概念の説明ならびに本調査において地域移動の分析が持つ意味づけを簡単に確認しておくことにしよう。

 人は社会の中でさまざまな位置(ポジション)を占めながら生活を営んでいる。位置づけの目安となるものは,「職業」「収入」「国籍」「地域居住歴」「性別」等々,さまざまである。私たちは,ある人が「なにものであるか」について述べるとき,これらの目安によって測られた社会的な位置について語ることが多い。「彼は医者である」とか「彼は親の代からずっとここに住んでいる人だ」というように。ある位置を占める人々の生活は安定的であったり,流動的であったりする。その位置の変化のことを私たちは「社会移動」と呼んでいる。たとえば,転職や昇進などでその人の社会的位置が変わった場合に「社会移動」が起こったというわけである。

 社会的位置の変化の中で,従来,重要なものとして取り上げられてきたのが「階層移動」と「地域移動」である。前者の中で主に行われてきたのは「職業」的位置の変化についての分析であり,後者は「住んでいる場所」の変化についての分析である。だが「住んでいる場所」の変化が,なぜ,そして,どのような意味を持っているのであろうか。

 「地域移動」が意味をもつのは,それが,地域での社会関係や社会参加と関係を持っているからである。たとえば,「地域移動」をしない人,言い換えれば「土着的」な人は家族・親族との様々なつながりも強いであろうし,近隣社会に参加する機会も多いだろう。そして,これらのことは,本調査との関わりで言えば,「職業移動」とも無関係ではないのである。

 在日韓国人の職業移動の特徴を思い出してみよう。金明秀による第3章「社会的地位達成」では,在日韓国人の職業構成ならびに職業的地位達成において,(1)自営業者がきわめて多く日本人の2倍以上に達すること,(2)親から引き継いだ資源とインフォーマルな互助的ネットワークを用いて地位達成を行ってきたこと,という特徴が明らかにされている。周知の通り,自営業は世襲されることも多い。それは「親からの資源」を生かす一つの道であるが,その結果,地域的な移動は制約されることも多いであろう。また,職業的地位達成にプラスに作用する「インフォーマルな互助的ネットワーク」は,「地域」内での社会関係をベースに取り結ばれていることが多いと想定されるが,地域「非」移動者は移動者にくらべて相対的にそのような関係をより多く形成しやすいとも考えられる。

4.2 現職地と初職地

 さて,本調査では「初職」から「現職」にいたるまで各職歴ごとにその居住地を尋ねている。つまり,どこで職歴(キャリア)の形成が行われていったかという履歴についてのデータをとったわけである。

 その移動について検討してゆく前に,まずは,在日韓国人の「現職地(現在住んでいる所)」ならびに「初職地(初めて職に就いたときに住んでいた所)」について見ておくことにしよう。

 表1は,「初職地」と「現職地」について,それぞれ上位10都道府県を示したものである。また「現職地」の右欄には,法務省統計を用いて計算した「在日韓国・朝鮮人特別永住者全体の中に占める各都道府県ごとの在日韓国・朝鮮人特別永住者の比率」を載せておいた。なお,法務省統計と本調査の数値の間にはさほど大きな差はなく,本調査のサンプリングが妥当であったことを示す一つの証となっている(1)

表 4-1 現職地と初職地(都道府県)

初職地

現職地

本調査

本調査

法務省統計
地域名 実数 地域名 実数

大阪 208 23.1 大阪 207 23.0 31.3
東京 156 17.4 東京 148 16.5 13.4
京都 83 9.2 京都 87 9.7 8.4
愛知 79 8.8 愛知 83 9.2 9.9
神奈川 62 6.9 神奈川 64 7.1 5.1
福岡 42 4.7 福岡 36 4.0 4.5
広島 27 3.0 広島 36 4.0 2.9
母国 19 2.1 埼玉 19 2.1 2.1
山口 16 1.8 千葉 17 1.9 2.1
奈良 15 1.7 奈良 17 1.9 1.2
その他 192 21.4 その他 173 19.2 19.2
不明 20 2.2 不明 12 1.3 0.0
899 100.0 899 100.0 100.0

 さて「初職地」について,この表からは次のような傾向が見て取れる。すなわち,(1)三大都市圏(東京大都市圏,阪神大都市圏,中京大都市圏)に居住する者が全体の67.1%を占めており,中でも阪神大都市圏の比率が高いこと,(2)地方圏で見ると西日本に居住する者の比率が高く,特に政令市をもつ広島,福岡県の比率が高いこと,である。

 また「現職地」についても,上位7位までの順位は「初職地」と同じであり,基本的には上で述べた傾向がそのまま当てはまる。つまり,大阪府を中心にして,東は愛知県,東京都へと至る大都市圏,そして西は広島県,福岡県といった県へと至る「太平洋・瀬戸内ベルト地帯」に,本調査の対象者は現在居住しているわけである。

 阪神,東京など,大都市圏に在日韓国・朝鮮人居住者が多いことについては,これまでも様々な研究の中で指摘されてきた。ちなみに1940年時点での地域別居住人口を見てみると,「京阪神」41.9%,「東京」10.0%,「中部」12.1%となっており,現在とさほど大きな変化はないことがわかる。戦前の調査報告書(神戸市,大阪市)でも「下関に上陸すると約束でもしたようにひとしく阪神地方にやってくる」と記述されているが(cf.朴在一『在日朝鮮人に関する総合調査研究』新紀元社:42),その理由について,朴在一は「京阪地帯が朝鮮に近い最大の商工業の中心地である事ばかりでなく,朝鮮人労務者に対する最大の需要地であったからに他ならないこと」をあげている(朴在一,前掲書:41-43)。また,原尻英樹は,大都市部に在日韓国・朝鮮人人口が多いことについて,「産業労働者として生計を立てていた」という来日時の歴史的経緯の他に,土地所有が難しく「第一次産業に従事することは殆ど無理」であり,戦後も零細自営やブルーカラーといった都市的職業につかざるを得なかったということをあげている(原尻英樹『在日朝鮮人の生活世界』弘文堂:59-60)。民族差別のため官僚制機構への参入やその中での移動が難しかった在日韓国人にとっても,自営業的成功は上昇移動の重要な経路であり,また,都市部ほどそのチャンスも多かったとも考えられる。このほか,谷富夫は,在日韓国・朝鮮人が「太平洋・瀬戸内ベルトライン」に居住している歴史的要因の一つとして「戦前の朝鮮と日本とを結ぶ定期航路の日本側の起終点が大阪港であり下関港であった」ことを指摘し,「ターミナル都市と移民との関係が運命的であることは古今東西を貫く真理」であると述べている(谷富夫「在日韓国・朝鮮人社会の現在」駒井洋編『定住化する外国人』明石書店:143)。

4.3 地域移動の民族間比較

――地域移動はどの程度起こっており,また,それは日本人とくらべて多いのか――

 次に,「初職地」と「現職地」との間の移動について見てゆこう(2)。これら2つの地域が同じ場合,その人の職業キャリアの形成は同一地域内で起こったことを示しており,違う場合にはその人は職業キャリアの形成にともなって地域移動を経験したことを示している。このような移動・非移動は在日韓国人場合,どの程度起こっているのだろうか。また,それは日本人と較べて多いのであろうか,少ないのであろうか。

 図1は,「移動者」と「非移動者」の比率を,在日韓国人,日本人別に示したものである(3)。ここでは「市町村間」レベルでの移動と「都道府県間」レベルでの移動の2つについて図示してみた。

(a)市町村レベル

(b)都道府県レベル

図 4-1 「移動者」と「非移動者」の数と比率

 この図からは,(1)在日韓国人の場合,「都道府県間」レベルでは約8割の人が「非移動者」であり,「市町村間」レベルでも58.2%の人が「非移動者」であること,(2)差はさほど大きくはないものの,日本人とくらべて在日韓国人のほうが地域間移動をする人の比率が低いこと,がわかる。これらのことは,在日韓国人の場合,相対的に多くの人が,最初についた職業地の中で職業キャリアを積んでいることを示している。(ただし,同一母集団の中の2グループではないので,ここでは「民族」と「地域移動」との関連が有意なのかどうかについては調べることはできない。)

 さらに,「年齢」コーホートごとに「非移動者」「移動者」比率を見たのが図2である。なお,ここで「年齢」は「25〜39歳」,「40〜59歳」,「60〜69歳」の3つに分けている。これらはそれぞれ,「三世以降」「二世」「一世」といった世代に大まかには対応していると思われる。

図 4-2 「年齢」コーホートごとの「非移動者」「移動者」比率

 この図からは,次のようなことが見て取れる。すなわち,(1)在日韓国人の「25〜39歳(三世以降)」では約7割の人が「非移動者」であるが,この比率は年齢の増加とともに低くなり,「60〜69歳(一世中心)」では42.4%まで低下すること,(2)日本人においては年齢コーホートと「非移動者」比率との間には明確な関係は見られず,その結果,在日韓国人と日本人とを比較すると,若い世代の在日韓国人ほど「非移動者」の比率が高くなっていること,である。「25〜39歳」では,在日韓国人「非移動者」の比率は日本人にくらべて15%も高い。逆に「61〜70歳」では,在日韓国人「非移動者」の比率は日本人よりも7.6%も低くなっている。

 在日韓国人の「60〜69歳(一世中心)」で「非移動者」比率が低いのは,初職についた時期(おそらくは45年〜55年くらい前)の歴史的な事情によるものと思われる。この時期は日本敗戦後の混乱期にあたっており,就労構造の不安定性(初職地に安定的な仕事口がなく,また,自らの資本形成もまだ十分ではなかったこと)や帰国の意向などもあいまって初職地に留まっての職業キャリア形成が困難だったのではないだろうか。逆に「60〜69歳」の日本人に「非移動者」が比較的多いのは,この層には「農業(農林水産業)」従事者が相対的に多いからであろう。

4.4 地域移動と職業との関係

――在日韓国人に地域非移動者が多いのはなぜか――

 では,在日韓国人の場合,「25〜39歳」「40から59歳」という年齢層で非移動者が多い(つまり,最初についた職業地の中で職業キャリアを積んでいる人が多い)ということの理由としては,どのようなことが考えられるだろうか。ここで思い出されるのが,本章第1節にも触れた在日韓国人の職業移動の特徴,すなわち,在日韓国人には日本人とくらべて「自営業」が多く,また(それとも関連するが)「親から引き継いだ資源」をもとにして地位達成を行っている者が多い,ということである。周知の通り「自営業」は土着性の強い職種であり,また「親から引き継いだ資源」も地域移動をしないほうがより効果的に活用できるであろう。

 そこで,このことを確認するために,「25〜59歳」の人について「現職(従業上の地位)」と市町村レベルでの「地域移動」との関係を見たのが図3である。なお,「現職」についても,大きく「自営」か「被雇用」かについて分け,「自営」についてはさらに「世襲かどうか」を基準として2つに分けている。

図 4-3 現職と地域移動(25〜59歳)

 この図からは次のようなことがわかる。(1)「自営(世襲)」と「被雇用者」との間には地域移動者の率の間に大きな差が見られ,「自営(世襲)」のほうに「非移動者」が多いこと,(2)同じく「自営」であっても「自営(世襲)」と「自営(自分で始めた)」との間には大きな差があり,「自営(自分で始めた)」の中にはむしろ「移動者」が多いこと,である。なお「家族従業者」においても「非移動者」が多いが,言ってみれば「家族従業者」とは家族・親族的資源のもとに仕事を営んでいるわけであるから「自営(世襲)」と同様に考えることができる。それゆえ「非移動者」が多いのだろう。

 これを確認するため,「25歳〜59歳」までの人について,さらに,「父職(従業上の地位)」と市町村レベルでの地域移動との関係を見たのが図4である。やはりここでも,父が「経営者・重役」「自営業者(雇用者あり)」「自営業者(雇用者なし)」である人は,父が「一般従業者」である人よりも「非移動者」の比率が高いことがわかる。

 これらのことから,人が地域移動をするかどうかは,その人が親(親族)から継承した資源をもとにして地位達成を行っているかどうかと関係していることがわかる。単に職業が「自営業」だから移動をしないのではなく,その「自営業」を営んでゆくための資源を親から引き継いでいるから地域にとどまるのである。

図 4-4 父職と本人の地域移動(25〜59歳)

 では,このような結果はなぜ起こるのであろうか。ここでは,次のように仮説的に考えておきたい。すなわち,「職業キャリアの形成にともなう地域移動」をすることへの「誘因」が,在日韓国人の場合には相対的に小さいため「非移動者」率が高い,という仮説である。言い換えれば,「地域移動」をするのにかかるコスト(より正確には「地域移動」を伴う「職業移動」にかかるコスト)に見合うだけの利益(ベネフィット)が予期できないため移動しない人が多いのではないか,という解釈である。そして,そのコスト−ベネフィット計算の背後で構造的に働く要因としては,民族的移動障壁の存在が想定できるであろう。簡単に言えば,民族差別があるため(あるいは,強い民族差別があるとの予期があるため),コストを払って移動しても,それに見合った利益,たとえば良い仕事口などが期待できない,それよりも親からの資源を利用して地位達成したほうが効果的である,というメカニズムが働いているのではないかという仮説である。

 もちろん,これを検証するにはさらなる状況証拠固めが必要である。ここではあくまで仮説として提示しておくにとどめよう。

4.5 職業的達成達成にたいする地域移動の効果

 さて前項では,「職業」や「親から引き継いだ資源」が地域移動の有無に関係を持っていることが示された。ただ,「自営業者には地域非移動者が多い」「親から引き継いだ資源を利用できる人は地域移動をしない」というのは,ある意味では当然である。この場合,「地域移動をしないこと」が本人が自営業に就く上で何らかの効果を果たしている,という解釈よりも,自営業を営むための資源があるがゆえに地域移動が起こらなかった,という解釈のほうが妥当であるようにも思われる。したがって前項の結果は,職業的地位達成に及ぼす地域移動効果(正確には「非」移動効果)を必ずしも検証しているわけではない。

 「地域移動」の有無が「職業」に与える効果を考える場合,その間に「社会関係量」を介在させる必要があるように思われる(図5)。すなわち,地域「非」移動によって豊富な社会関係が維持・形成されており,その社会関係資源をもとに就職情報を入手し職に就く,というプロセスが明らかにされれば,地域移動効果があったと考えられるのではないだろうか。(ちなみに,第3章でも明らかにされている通り,在日韓国人の場合,「家族・親族」「家族・親族の知り合い」「友人・知人」を合わせたインフォーマルな関係によって就職情報を入手したものは,有効回答者数の約7割にも達するのである。)

図 4-5 地域移動効果についてのモデル

 そこで,まず「地域移動」と「社会関係量」の関係を見たのが表2である。なお,ここでは「40歳」以上の人について計算を行った。「40歳」以上の人に限定したのは,この年齢くらいから人の「職歴」は「安定期」に入ると考えられるからである。(若い人の場合,職歴は形成途上であり,本来なら移動しやすい状況にある人でも未だ移動が実現していない,ということが考えられるため,地域「非」の効果を見るには外したほうがよいと考えた。)この表の数値は,「移動者」「非移動者」ごとに,家族同様に非常に親しくつき合ったり,助け合ったりしている「親戚(市内)の人数」「近所の人数」「友人や知人の人数」の平均値を示している(4)。たとえば右上の8.17という数字は,「非移動者」は平均して市内に8.17人の「親しい親戚」を持っている,ということを表している。また,その差が統計的に有意かどうかを調べるために一元配置分散分析を行った結果についても示している。

表 4-2 「地域移動」と「社会関係量」(40歳以上)

親しい親戚の数

親しい近所の人の数

親しい友人の数

非移動者(平均値)

8.17

5.46

8.02

移動者(平均値)

6.48

5.30

7.06

分散比(F)

4.05

0.06

1.40

有意水準

0.04

0.81

0.24

 この表からは,(1)「親しい親戚数」については「非移動者」と「移動者」との間に統計的に有意な差が存在すること,(2)「非移動者」は「移動者」にくらべて「市内の親しい親戚数」が多いこと,がわかる。

 「市内の親しい親戚数」は「生得的(アスクライブド)」な社会関係量であると考えられる。したがって,この数値は,「非移動者」は生まれながらその地域内に存在している(生得的な)親族的社会関係を相対的により豊富に持っていると言えよう。

図 4-6 「親しい親戚の数」と「就職情報の入手先」

図 4-7 「親しい親戚の数」と「就職情報の入手先」(非移動者のみ)

 では,これら「親しい親戚数」と「就職情報の入手先(初職)」とはどのような関係にあるのであろうか。それを示したのが図6である。ここでは「親しい親戚の数」をそれぞれ「0人」「1人〜5人」「6人〜15人」「16人〜50人」の4カテゴリーに分けた。(なお,ここでも「40歳以上」の人について分析している。)

 図6からは,たしかに「0人」「1〜5人」「5〜15人」と「親しい親戚数」が増えてゆくにしたがって「就職情報の入手手段」に「家族・親族」関係者をあげる人の比率も高まる。しかしながら「16人以上」になると「就職情報の入手先」として「家族・親族」をあげる人の比率は逆に低くなっている。「親しい親戚」が「16人以上」いる人たちの中では「就職情報の入手先」として「友人」をあげる人の比率が相対的に高くなっているのである。このように「親しい親戚の数」が豊富であるからと言って,家族・親族がそのまま「就職情報の入手先」となるわけでは,必ずしもないようである。

 また図7に示すように,「非移動者」のみを取り出して「親しい親戚数」と「就職情報の入手先」との関係をみてみたが,ここでも両変数の間に明確な関連は見られなかった。

 なお,カテゴリーの分け方が適切でなかった可能性もあるので,念のため「就職情報の入手先」と「親しい親戚数」との間で一元配置分散分析を行ってみたが有意な差は認められなかった。

 以上のことから,地域非移動者は地域の中で相対的に豊富な「親族関係」を持っているものの,その量が多いことと「家族・親族」が「勤め先に就くのに最も役立つ情報の入手先」であることとの間には距離があることがわかる。また,「親しい親戚数」が「0人」の人でも「就職情報の入手先」として「家族・親族」を挙げるものの数が多いことは,情報の入手先として「家族」がきわめて重要であることを物語っている。

 就職情報の入ってくるチャンネル数自体は社会関係の豊富さとある程度比例するかもしれないが,それらが必ずしも就職・転職における有効なチャンネルとなるわけではない。有効なチャンネルの選択には,単に自らをとりまく社会関係量の多寡には還元されない複雑なプロセスが存在するのであろう。したがって,今回の分析では図5のようなプロセスでの地域移動の効果は明確には認められなかった。職業的地位達成における地域移動効果の析出は今後の課題としておこう。

4.6 地域移動の方向

――どこから,どこへ移動してきたのか――

 さて,これまでは,地域移動の有無(移動,非移動)に注目してきたが,最後に,在日韓国人の移動の方向性(どこからどこへ移動してきたのか)について見てゆくことにしよう。

 図8は「初職地」と「現住地」との間の地域移動者数を示したものである。なお,「地域」をあまり小さく区切ると各セル内のサンプル数が少なくなるため,ここでは「東日本」「東京大都市圏」「中部」「中京大都市圏」「阪神大都市圏」「西日本」という6つの地域圏に分けている(5)

 この図からは,(1)どの地域圏においても「非移動者」の数が最も多く,職業キャリア形成にともなう地域移動はさほど起こっていないこと,(2)「移動者」の中では,「阪神→東京」「阪神→西日本」「東京→東日本」「東京→西日本」「西日本→東京」「西日本→阪神」という移動パタンをとる人の数が多いこと,がわかる。

図 4-8 初職地と現職地との間の移動者数(6地域圏)

表 4-3 初職地から現職地への移動者の比率(6地域圏)

現職地

東日本

東京

中部

中京

阪神

西日本

実数

初職地 東日本 58.3 29.2 0.0 0.0 12.5 0.0 100.0 24
東京 4.7 83.9 2.5 2.5 3.0 3.4 100.0 236
中部 2.6 12.8 66.7 10.3 7.7 0.0 100.0 39
中京 0.0 4.3 0.0 91.3 0.0 4.3 100.0 92
阪神 0.9 3.9 1.2 1.8 88.3 3.9 100.0 334
西日本 0.8 6.6 0.0 2.5 6.6 83.6 100.0 122

 移動の方向性について,さらに詳しく見るために,初職地ごとに現職地の比率をとってみたのが表3である。この表の数値(%)は,ある地域圏で初職についた人のうち,現在それぞれの地域圏にどのくらいの人が住んでいるかを示している。たとえば,最も右上の欄には58.3という数字は,初職地が「東日本」の人のうち,現職地も「東日本」である人が58.3%いることを示す。

 この表からは(1)初職地が「中京大都市圏」「阪神大都市圏」である人においては「非移動者」の比率が高く,特に「中京」「阪神」で初職についた人の約9割は移動していないこと,(2)「移動者」の中では「東京大都市圏」「阪神大都市圏」へ移動する人の比率が高く,初職地が「東日本」「中部」である人は「東京大都市圏」へ,「西日本」である人は「阪神大都市圏」へと移動する傾向が見られること,などがわかる。

 いずれにせよ「職業キャリア」の形成は「大都市圏」内で多く行われており,「初職地」が「大都市圏」内であればあまり移動することもなく,また,「地方圏」であれば「職業キャリア」の形成に伴って大都市圏に移ってゆく傾向が見られるわけである。

4.7 知見のまとめ

 本章で明らかになった知見を以下にまとめておこう。

居住地について

  1. 「初職地」「現職地」とも三大都市圏居住者が多く,特に阪神大都市圏に居住する人が多い。
  2. 地方圏でみると西日本に居住する人の比率が高く,なかでも政令市を持つ広島,福岡両県に居住している人が多い。

地域移動について

  1. 「都道府県」レベルでは,在日韓国人の8割近い人が「非移動者」であり,「市町村」レベルでも約6割の人が「非移動者」である。
  2. 日本人とくらべて在日韓国人のほうが地域移動をしない人が多い。つまり,在日韓国人の場合,最初に就いた職業地の中で職業キャリアを積んでいる人が多い。
  3. ただし,在日韓国人の場合,「年齢」によって「非移動者」の比率に大きな差が見られる。日本人とくらべて「非移動者」の比率が高いのは特に「25〜39歳」の若い年齢層である。逆に「60〜69歳」では日本人の方が「非移動者」比率は高い。
  4. 「25〜39歳」「40〜60歳」の世代で「非移動者」比率が高いのは,「自営(世襲)」に典型的に見られるように,これらの世代においては親から引き継いだ資源をもとにして地位達成をしている人が相対的に多いからではないだろうか。
  5. その背景には,職業的地位達成過程(就職・転職の過程)に民族的な移動障壁(就職差別)が存在すること(あるいは就職差別があるという予期が存在すること),そしてその結果,「地域移動」をともなう「職業移動」をすることにかかるコストに見合うだけの利益が期待できないために地域移動が少ない,といったメカニズム(また,親からの資源を利用して地位達成したほうが効果的である,といったメカニズム)が仮説的に想定される。
  6. 「60〜69歳」で,「移動者」比率が高いのは,この世代の多くが初職についた時期が日本敗戦後の混乱期であり,その当時(あるいはそれ以後の)不安定就労構造を反映しているからではないだろうか。

地域移動の効果について

  1. 地域移動の有無と「親しい親戚の数」との間には有意な差(地域移動効果)が見られる。「非移動者」は「移動者」にくらべて「親しい親戚の数(生得的な社会関係)」が多い。
  2. ただし,「社会関係量」の豊富さと,「就職時に最も役に立った情報の入手先」との間には明確な関連は見られない。つまり「非移動者」ほど,豊富な「社会関係」をベースにして就職情報を入手し就職・転職をする,といった形での地域移動効果は,現時点の分析では認められなかった。

地域移動の方向について

  1. 全国を6地方圏(「東日本」「東京」「中部」「中京」「阪神」「西日本」)に分けた場合,「初職地」が「中京大都市圏」「阪神大都市圏」である人の中では「非移動者」の比率が約9割にも達している。これらの地域では世代内の職業キャリアが初職についた場所で行われる傾向が強い。
  2. 「移動者」の移動先としては「東京大都市圏」「阪神大都市圏」へ移動する人の比率が高い。また「初職地」が「東日本」「中部」であった人は「東京」へ,「西日本」出会った人は「阪神」へ,という傾向が見られる。

なお,時間の制約から,(1)「地域移動」「社会関係量」「就職情報の入手先」「就業(初職)」の相互関係をモデル化し,地域移動効果を析出してゆくこと,(2)「職歴」や「時間軸」にそって詳細に地域移動を記述してゆくこと,は本章ではできなかった。これまで行った分析の精緻化とあわせて今後の課題としたい。


第4章 注

  1. この比率は、法務省『在留外国人統計(平成5年版)』を基にして計算した。ただし、阪神淡路大震災の影響で本調査対象者には「兵庫県」居住者はおられないことを考慮し、「兵庫県」居住者は除いている。なお、比較的大きな差としては、法務省統計では「山口県」が2.5%を占め第9位に登場するが、本調査では1.1%(第15位)となっていることくらいである。
  2. ここでは、分析・記述が煩雑になるのを避けるため、単に「初職地」と「現職地」が同じかどうかについて見ている。したがって「非移動者」というカテゴリーの中には厳密に言えば「Uターン者」も含まれている。
  3. 日本人の地域移動を見る際には1995年SSM(A)調査データ(男性サンプルのみ)を用いた。なお、比較の際には、1995年SSM調査の対象者が「20歳〜69歳」であるため、本調査データについても「20歳〜69歳」のサンプルのみ取り出して計算をおこなっている。データの使用を許可していただいた1995年SSM調査研究会には感謝いたします。
  4. 平均値の計算は、「はずれ値(たとえば『家族同様に親しい親しい知人』が『500人』という回答)」の影響を避けるため、「親族数」「近所の人の数」「友人・知人数」が「50人以下」の人だけについて行った。
  5. それぞれの「地域圏」に入るのは次の都道府県である。


5. 地域意識

稲月 正

 自分が住んでいる地域について強い関心や愛着を持つ人もいれば、持たない人もいる。地域のために何か役に立ちたいと思っている人もいれば、そうでない人もいる。また、その地域にずっと住み続けたいと思う人もいれば、早く出てゆきたいと思っている人もいるだろう。このように、地域に対して人が持つ意識のことを「地域意識」と呼んでいる。

 本章では、(1)在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか、(2)その地域意識は世代や年齢、移動歴などとどのような関わりをもっているのか、(3)地域内で取り結ばれている社会関係と地域意識とはどのような関わりをもっているのか、(4)地域意識と民族意識とはどのような関係を持っているのか、(5)民族・地域意識と民族問題へのかかわり(行為)との間にはどのような関係があるのか、という5つの点について検討してゆくことにする。

5.1 在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか

 本調査では、現在住んでいる地域について次のような質問を行い、「全くそう思う」から「全くそう思わない」までの5段階で答えてもらった。

  1. 「この地域や町内でする行事(清掃、廃品回収、運動会など)には参加するほうだ」(以下、「地域参加意欲」と略す)
  2. 「この地域のためになることをして役に立ちたい」(「地域貢献意欲」)
  3. 「この地域はこれから先、生活の場としてだんだんよくなるだろう」(「将来展望」)
  4. 「事情がゆるせば、ずっとこの地域に住んでいたい」(「永住意志」)
  5. 「この地域のことに関心がある方だ」(「地域関心」)
  6. 「この地域の悪口を言われたら、なにか自分の悪口を言われたような気になる」(「地域同一化感情」)

 まず、各項目についての回答を見たのが図1である。「地域同一化感情」を除けば、どの意識項目についても半数以上の人が「そう思う(全くそう思う+どちらかと言えばそう思う)」と答えており、地域への関心や参加意欲などはかなり高いことがわかる。中でも「永住意志」については「そう思う」という人の比率が高く、6割以上の人は「ずっとこの地域に住んでいたい」と答えている。また「地域の役に立ちたい」という人も56.7%存在しており、地域に根をおろしている在日韓国人の姿がうかがえる。日本人を対象にした全国調査の中にこれと比較できるような質問項目が見あたらないため民族間の比較はできないが、パーセンテージ自体としてはこの値は低いものではなかろう。

図1 地域意識

 次に、これら各地域意識項目の間の関係についても確認しておこう。たとえば、地域への関心が強い人は地域のために役に立ちたい、という意識も強いのではないか、と予想される。それを見るために、各地域意識項目間の相関係数をとった結果を表1に示している。(相関係数とは、2つの項目間の関係を示す数値で、この値が1に近づくほど「一方の傾向が高まれば、もう一方の傾向も高まる」という関係が強いことを表している。)

表1 地域意識項目間の相関係数

参加意欲 貢献意欲 将来展望 永住意志 地域関心 地域同一化
参加意欲 1.000
貢献意欲 0.486 1.000
将来展望 0.373 0.454 1.000
永住意志 0.377 0.362 0.546 1.000
地域関心 0.412 0.549 0.495 0.598 1.000
地域同一化 0.288 0.348 0.346 0.371 0.493 1.000

すべて危険率1%以下で有意

 この表からは、どの項目間の相関係数もかなり高い値を示すことがわかる。特に「永住意志」と「地域関心」(0.60)、「地域関心」と「地域貢献意欲」(0.55)、「将来展望」と「永住意志」(0.55)、といった各地域意識項目間の相関係数は高い。つまり、「今住んでいる地域にずっと住み続けたい」と考えている人ほど「地域への関心」も高く、「地域への関心」が高い人ほど「地域の中で何か役に立ちたい」という思いも強いのである。また、当然とも言えるが、今住んでいる地域に明るい展望を持っている人ほど、そこに「ずっと住み続けたい」という意識も強い。

5.2 個人属性と地域意識

 では、これらの地域意識は、年齢や世代、移動歴といった個人属性によってどのような違いを見せるのであろうか。ただし、6つの地域意識項目すべてについて属性との関係を論じるのは冗長である。また先に表1で見たように各項目間の相関係数も高い。そこでこれらの中からいくつかの地域意識項目を取り出して分析することにしよう。

 上に上げた6つの地域意識項目うち、「地域関心」「将来展望」は「地域についての認知的要素」に、「地域参加意欲」「地域貢献意欲」「永住意志」は「地域についての意志・関与的要素」に、「地域同一化感情」は「地域についての感情的要素」に、それぞれ対応している。そこで、ここでは地域意識を構成する各要素の中から、「地域貢献意欲」「地域関心」「地域同一化感情」という3つを選び、属性との関係を見てゆくことにした。

(1)「年齢」と地域意識

 まず、「年齢」との関係を示したのが図2(a)〜(c)である。いずれの地域意識項目についても年齢が上がるほど強くなっていることがわかる。

図2(a)「年齢」と「地域貢献意欲」

図2(b)「年齢」と「地域関心」

図2(c)「年齢」と「地域同一化感情」

 なお、図示はしていないが、「世代」との関係についても見てみたところ、「一世」「二世」「三世」と世代が下るにつれて各地域意識も弱まることが確認された。

(2)「地域移動」と地域意識

 次に「地域移動」との関係を見たのが図3(a)〜(c)である。

 当初は「非移動者」のほうが地域意識は強いと予想していたが、「地域貢献意欲」「地域関心」の2つについては「移動者」の方が強いことがわかる。(カイ二乗検定の結果でも両者の関連は有意であった。)4章「地域移動(図2)」では、「年齢」が若いほど「非移動者」の比率も高いことが示されたが、ここで「非移動者」の地域意識が低いのも、この層に若年層が多く含まれていることによるのであろう。ただし「地域同一化感情」については差が見られなかった。

図3(a)「地域移動」と「地域貢献意欲」

図3(b)「地域移動」と「地域関心」

図3(c)「地域移動」と「地域同一化感情」

(3)「職業」と地域意識

 次に「職業」との関係について見たのが図4(a)〜(c)である。(なお職業カテゴリーについて詳しくは第3章「社会的地位達成」を参照のこと。)この図からは、「無職」「専門・管理」「自営」といった職業で「地域貢献意欲」や「地域関心」が高いことがわかる。「専門・管理」「自営」においてこれらの意識が高いのは、これらの職業が地域社会をベースにして営まれていることが多いこととも関係しているであろう。

図4(a)「職業」と「地域貢献意欲」

図4(b)「職業」と「地域関心」

図4(c)「職業」と「地域同一化感情」

 ただし、高齢者中心の「無職」において地域意識が高いこと、「専門・管理」の平均年齢は比較的高いことなどからも推測されるように、「職業」による違いも「年齢」の違いかなり反映したものであると考えられる。

 そこで、各地域意識項目について「年齢」「所得」「資産」「職業(威信スコア)」を独立変数とする重回帰分析を行ったが、すべての地域意識項目に対して有意な効果をもっていたのは「年齢」だけであった。(なお、「年齢」以外では、「職業威信スコア」が「地域貢献意欲」に有意な効果を持つのみであった。)また、各地域意識項目に得点を与え、それを足し合わせた値についても同様に重回帰分析をしたが、有意な効果を持つのはやはり「年齢」だけであった。これらのことから、地域意識に最も大きな影響を与えるのは「年齢」(そして、その内実はおそらくは「地域居住年数」)であることがわかる。

5.3 地域の状況と地域意識

 ところで、地域意識は、個人を取り巻く「地域の状況」と関係を持っていると考えられる。「地域の状況」として、ここでは「同胞多住地域か否か」、および地域での「社会関係量」を取り上げ地域意識との関係を見てみた。

(1)「同胞多住地域か否か」と地域意識

現在住んでいる地域が「同胞多住地域」であれば、(住民の多くが同じ民族であることを媒介とした)地域への貢献意欲や地域への関心の高まりが見られるかもしれない。表2は、各地域意識項目と「現住地が同胞多住地域であるかどうか」との相関係数を示したものである。なお、年齢コーホートごとの相関係数も合わせて示した。この値が1に近ければ「同胞が近くに住んでいる地域ほど在日韓国人の地域意識も強い」ことになり、−1に近ければその逆となる。

表2 「現住地が同胞多住地域であるかどうか」と各地域意識項目との相関

参加意欲 地域貢献 将来展望 永住意志 地域関心 地域同一化
多住地域か(全年齢) 0.038 -0.006 -0.091 -0.046 0.022 0.044
多住地域か(〜39歳) 0.016 -0.076 -0.037 -0.013 0.030 0.055
(40〜59歳) 0.038 0.008 -0.109 -0.051 0.022 0.027
(60歳〜) -0.049 -0.072 -0.159 -0.164 -0.088 0.004

太字の数値のみ危険率5%以下で有意

 「全年齢」を通して有意な値を示すのは「将来展望(-0.091)」だけである。また、相関係数はマイナスの値となっており、「多住地域」に住む人ほど、「将来、生活の場としてよくなる」とは思っていないことが、傾向的にはうかがえる。

 さらに、年齢コーホートごとに見た場合、「年齢」が高まるにつれて「多住地域」であることと「将来展望」との逆相関傾向が強まってゆくことがわかる。また「60歳以上」では「永住意志」も有意な逆相関を示している。つまり、「60歳以上」の層では、「多住地域」に住んでいる人ほど、現在の居住地に明るい「将来展望」を持っておらず、「ずっと住み続けたい」という意識も低いのである。このことは、「多住地域」における高齢者層(主に一世であろう)の生活環境が相対的によくないことを示唆しているようにも思われる。

(2)地域内の社会関係量と地域意識

 次に、地域内での社会関係の量と地域意識との関係を見てゆこう。社会関係として、ここでは「親族関係」と「近隣関係」を取り上げた。これまでの日本人を対象とした調査からは、地域内で豊富な「親族関係」や「近隣関係」を持つ人ほど「地域意識」も強いこと、が明らかにされている。つまり、豊富な「親族関係」「近隣関係」は、その当人の「土着性」を示すものであり、「土着性」が強いほど地域に関心を持ち、参加意欲や貢献意欲も強い、ということであろう。在日韓国人の場合はどうであろうか。

 分析にはいる前に、まず各地域社会関係量について表3に示しておこう。なお、はずれ値の影響を避けるため、以下では「家族同様に親しい親戚数(地域内+市内)」「家族同様に親しい近所の人の数」とも「50人以下」である人についてのみ計算をしている。

表3 地域社会関係量

平均

標準偏差

実数

親族数 7.29 10.12

833

    親族数(在日韓国人のみ)

5.70 8.77

833

    親族数(日本人のみ)

1.58 4.53

833

親しい近所の人数 4.92 7.94

833

    親しい近所の人数(在日韓国人のみ)

1.38 3.29

833

    親しい近所の人数(日本人のみ)

3.53 6.87

833

 在日韓国人、日本人合わせた「家族同様に親しい親戚数」の平均は7.29人である。国籍別にみると、在日韓国人の「親しい親戚」の中で地域内・市内に住んでいるものが平均して5.7人となっている。「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」に居住している人は全体の26.2%しかいないことを考え合わせると、この値はかなり多いように思われる。また、日本人の親しい親戚は少ないものの、1.58人存在している。ただし、これが親族の国際結婚によるものなのか、帰化によるものなのかは本調査では区別できない。

 「親しい近所の人の数」は在日韓国人、日本人あわせて平均で4.92人であるが、こちらの方は「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」に居住している人が少ないことを反映して日本人の方が多くなっていることがわかる。

 このような地域内での社会関係と地域意識との関係を示したのが表4である。ここでは「地域社会関係量」と「地域意識」との関係のみを見たいために、「年齢」をコントロールした偏相関係数を示している。

表4 地域社会関係量と地域意識(偏相関係数)

参加意欲 地域貢献 将来展望 永住意志 地域関心 地域同一化
親しい親族数 0.138 0.090 0.082 0.097 0.112 0.089

    親しい親族数
    (在日韓国人のみ)

0.093 0.043 0.040 0.073 0.080 0.048

    親しい親族数
    (日本人のみ)

0.128 0.119 0.107 0.075 0.097 0.106
親しい近所の人数 0.106 0.175 0.192 0.125 0.194 0.135

    親しい近所の人数
    (在日韓国人のみ)

0.095 0.096 0.061 -0.014 0.078 0.061

    親しい近所の人数
    (日本人のみ)

0.077 0.156 0.193 0.151 0.187 0.127

太字の数値のみ危険率5%以下で有意

 この表から、「親族数」「近所の人の数」が増えるほど、地域意識も高くなる傾向があることがわかる。なかでも、「親族数」との関係が強いのは「地域参加意欲」と「地域への関心」であり、「近所の人の数」との関係が強いのは「地域への関心」「将来展望」「地域貢献意欲」である。また、「親族数」よりも「近所の人の数」の方が概して高い相関を示している。

 社会関係量が増えるほど地域意識が高まる、といった結果は、日本人を対象とした地域調査などでも明らかにされていることである。在日韓国人の場合も、日本へ来住してきて以来、長い年月がたっており、また数世代経ていることから、同様の結果となっているのではないかと考えられる。

 さらに、「親族数」「近所の人の数」を「親しい在日韓国人のみの数」と「親しい日本人のみの数」に分けて地域意識との関係を見てみると、「親族」「近所」いずれについても「日本人のみの数」との関係が強いことがわかる。「在日韓国人のみ」の「親族数」「近所の人の数」と地域意識項目との間には有意な相関は見られないものも多い。このことは、地域の中で日本人との関係が強くなるほど「地域への関心」や「地域への貢献意欲」、さらには「地域同一化感情」も強くなる、といった傾向があることを示している。

 このことを確認するために、現住地が「同胞多住地域である」「多住地域ではないが比較的多く住んでいる」人のみを取り出して、表4と同じように「年齢」をコントロールした偏相関係数をとってみたのが表5である。

表5 社会関係量と地域意識(「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」のみ)

参加意欲 地域貢献 将来展望 永住意志 地域関心 地域同一化
親しい親族数(在日韓国人のみ) 0.080 -0.009 -0.033 0.097 0.011 0.002
親しい親族数(日本人のみ) 0.102 0.136 0.036 0.063 0.104 0.110
親しい近所の人数(在日韓国人のみ) 0.134 0.141 0.114 -0.026 0.066 0.070
親しい近所の人数(日本人のみ) 0.108 0.141 0.224 0.080 0.174 0.118

太字の数値のみ危険率5%以下で有意

 「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」においても、概して、親しい日本人の数が多い人ほど地域意識が高いことがわかる。「親しい在日韓国人の数」と地域意識との間には、「地域貢献意欲」を除いて、有意な関係は見られない。特に「地域への関心」「将来展望」については違いが見られ、「親しい日本人の数」が多い人ほど「地域への関心」は高く、明るい「将来展望」を持つ人が多いという傾向があることがわかる。

 地域へコミットしてゆく過程では日本人との接触やつき合いが多くなるのは当然である。また「地域への貢献意欲」については「在日韓国人」「日本人」をとわず、親しい人の数が多いほど「地域への貢献意欲」も高い、と言う関係が見られるのである。

 もちろん、これまでの議論は「相関(偏相関)関係」についての話であり、地域意識の絶対的、相対的な「強さ」について述べているわけではない。つまり「親しい近所の人数(在日韓国人のみ)」と地域意識との間に有意な相関が見られないからと言って、「親しい近所の人が在日韓国人のみ」である人は地域意識が低いということではない。相関(偏相関)係数は、あくまで共変関係について示しているだけなのである。

 そこで、地域意識項目の中から「地域貢献意欲」「地域関心」「地域同一化」の値を足し合わせて「地域意識スコア」をつくり、「親しい親族数(在日韓国人のみ)」「親しい親族数(日本人のみ)」「親しい近所の人の数(在日韓国人のみ)」「親しい近所の人の数(日本人のみ)」といったグループについて、社会関係量のカテゴリーごとに平均値を出してみた。その結果を示したのが表6である。(分散分析の結果も合わせて示した。)たとえば、この表の最も右上の欄の9.89という値は、親しい在日韓国人の親族数が「0人」である人の地域意識スコアの平均は9.89であることを示している。

表6 社会関係の質・量と地域意識スコア(平均値)

0人

1〜5人

6〜15人

16〜50人

有意性水準

親しい親族数(在日韓国人のみ) 9.89 10.23 10.05 10.53 1.6417 n.s.
親しい親族数(日本人のみ) 9.96 10.22 10.65 11.64 3.6713 0.0012
親しい近所の人数(在日韓国人のみ) 9.91 10.37 11.12 10.71 4.0306 0.0073
親しい近所の人数(日本人のみ) 9.52 10.33 11.12 11.45 15.8111 0.0000

 この表から、最もスコアが高いカテゴリーを順に3位まであげると「親しい日本人の親族数が16〜50人(11.64)」「親しい近所の日本人の数が16〜50人(11.45)」「親しい近所の日本人の数が6〜15人(11.12)」「親しい近所の在日韓国人の数が6〜15人(11.12)」といった順になる。このことから、絶対的な値のレベルでも日本人とのつき合いが多い人ほど地域意識スコア(「地域貢献意欲」「地域関心」「地域同一化」の合計)が高いことが示唆される。

 また、地域意識スコアに与える効果としては、民族の差による効果よりも、(在日韓国人、日本人にかかわらず)親しい人の人数による効果の方が大きいようにも思われるが、「民族の効果」と「人数の効果」を分離してそれぞれの効果を測定することは今後の課題としておきたい。

5.4 民族意識と地域意識

 さて、日本人との社会関係量と地域意識との間には正の相関が見られることを上では示した。在日韓国人が地域社会の中に根を下ろし、日本人とのつき合いを増してゆくほど、「地域への貢献意欲」や「地域への関心」も高くなってゆくというプロセスが仮説的に想定されるのである。「土着化」が進むとはそういうことであろう。

 では、そのような「地域意識」の高さは「民族意識」とどのような関係をもつのであろうか。

 その際、「民族意識」をどういった項目で測定するか、という問題が出てくる。本調査では問41で様々な民族意識を尋ねているが、その中から「民族の歴史を学ぶことは大切だ(問41t)」「子供たちは母国語を勉強するべきである(問41q)」「チェサなどの民族的風習は民族的やり方を守ってゆくべきである(問41b)」「困ったときに頼りになるのは在日同胞である(問41k)」という4項目を選び出してその回答(5段階)を単純に足し合わせた。その値に、さらに「民族的誇り(問38a)」を足し合わせて「民族意識スコア」を作成した。このスコアのレンジは5〜30、平均値は12.98、標準偏差は4.46である。

 この「民族意識スコア」と地域意識各項目との相関係数および偏相関係数(「年齢」の効果を除いた)を示したのが表7である。

 この表からは、「地域貢献意欲」「地域関心」と民族意識との間に比較的強い正の相関が見られることがわかる。つまり、地域に関心を持ち、何らかの貢献意欲を持っている人ほど民族意識も高い、という傾向が見られるわけである。

 ただし「(地域での清掃や廃品回収、運動会などへの)参加意欲」と民族意識の相関は弱く、「年齢」の効果を除くと相関関係はなくなってしまう。したがって、ここでの「地域への関心」や「地域への貢献意欲」は、単に地域の清掃や廃品回収といった水準のものだけではなく、地域内での民族問題の解決をも含んだものであるようにも思われるが、ここではこれ以上の分析はできなかった。

表7 民族意識と地域意識

参加意欲

地域貢献

将来展望

永住意志

地域関心

地域同一化

 民族意識(相関係数) 0.098 0.195 0.102 0.059 0.138 0.128
 民族意識(偏相関係数) 0.018 0.129 0.076 0.008 0.080 0.088

太字の数値のみ危険率5%以下で有意

 ところで、在日韓国人の地域意識と民族意識との関係は、その地域が「同胞多住地域か否か」によっても変わってくるのであろうか。表8は、対象者を「同胞が多く住んでいる地域(「同胞多住地域」+「多住地域ではないが比較的多く住んでいる地域」)」と「日本人が多く住んでいる地域」とに分けて偏相関係数を計算したものである。

表8 民族意識と地域意識(「同胞が多く住んでいる地域」か否か:偏相関係数)

参加意欲 地域貢献 将来展望 永住意志 地域関心 地域同一化
 「同胞」が多く住んでいる地域 -0.068 0.083 0.152 -0.040 0.116 0.141
 日本人が多く住んでいる地域 0.029 0.135 0.057 0.034 0.074 0.076

太字の数値のみ危険率5%以下で有意

 この表からは、「同胞が多く住んでいる地域」では「地域同一化感情」と民族意識との相関が高いことがわかる。「多住地域」では「民族」的一体感と「地域」的一体感が重なり合っていることが示唆される。また、「将来展望」と民族意識との相関も高い。これは、民族意識が高い人ほど、現在住んでいる地域が「将来、生活の場としてますますよくなる」という展望を持っている人ことを示している。「生活の場としてよくなる」ことの理由の1つには、「多住地域」においては民族の文化や伝統の維持や存続が比較的容易であること、また、将来ますます容易になるのではないかといった期待なども含まれているのかもしれない。

 逆に「日本人が多く住んでいる地域」では「地域貢献意欲」と民族意識との相関が高くなっている。当初は、「日本人が多く住んでいる地域」において「地域貢献意欲」が高まることは意識的・無意識的な日本人社会への包摂を意味し民族意識の低下につながっているのではないか、と考えたが、結果は逆であった。ただし、民族意識と「地域参加意欲」との間には有意な相関は見られないことから、上での解釈と同様、ここでの「地域貢献意欲」は、単に地域の清掃や廃品回収への参加といった水準のもの(言いかえれば、日本社会への単なる包摂)だけではなく、地域内での民族文化の維持や民族問題の解決への志向性をも含んだものであることが示唆される。

5.5 民族・地域意識と民族問題へのかかわり

 前節の最後に述べたような、「民族文化の維持や民族問題の解決への志向性を持ちながら同時に地域にも関心と貢献意欲を持っている人」というのは「共生志向」(福岡安則『在日韓国・朝鮮人』中公新書:89)や「結合志向」(谷富夫「エスニックコミュニティの生態研究」『現代都市を解読する』ミネルヴァ書房:281)といった意識・態度類型をイメージさせる。

 民族意識も地域意識も共に高い人は、実際に地域社会の中で民族問題に関わっているのであろうか。ここでは、民族問題への実際のかかわりを示すものとして「民族の問題を活発に議論しているかどうか(問31a,b)」をとりあげて意識類型との関係を見てゆくことにしよう。

表9 民族・地域意識類型

実数(%)
民族意識:低 地域意識:低 (民低*地低) 80 (8.9)
民族意識:低 地域意識:高 (民低*地高) 58 (6.5)
民族意識:高 地域意識:低 (民高*地低) 54 (6.0)
民族意識:高 地域意識:高 (民高*地高) 113 (12.6)
その他 594 (66.1)

 まず、先に示した「民族意識スコア」と「地域意識スコア」について、それぞれ大まかに30パーセンタイルの値で「低(民族意識スコア:5〜19、地域意識スコア:3〜8)」「中(民族意識スコア:20〜24、地域意識スコア:9〜11)」「高(民族意識スコア:25〜30、地域意識スコア:12〜15)」の3つに区切り、両者を組み合わせて表9のような意識類型を作成した。

 これらの意識類型と「民族問題について同胞と議論しているかどうか」との関係を見たのが図5である。

図5 「同胞と民族問題について議論するかどうか」と民族・地域意識類型

「いつも議論している」「よく議論している」という人の比率は「民高*地高」で最も高い。「民高*地低」においても民族問題について「議論している」と答える人の比率は高いが、「民高*地高」はそれよりも高いことから「民族意識の高さ」だけではなく「地域意識の高さ」も「民族問題について議論すること」には効果を持つことがうかがわれる。

 また、図6は、「民族問題について日本人と議論しているか」と民族・地域意識類との関係を見たものである。民族問題について「日本人と」議論することは、「日本社会での民族的差別をなくし、民族的出自を異にするものどうしが、その立場の違いを踏まえた上で、『共に生きられる』社会を実現する」(福岡安則,前掲書:90)ための重要な活動の1つであると考えられる。この図においても、民族問題について日本人と議論をする人の比率は「民高*地高」で最も高くなっている。逆に「民低*地低」では8割以上の人は議論を「全くしていない」か「ほとんどしていない」こともわかる。

図6 「日本人と民族問題について議論するかどうか」と民族・地域意識類型

 以上のことから、民族の文化や伝統などを維持するべきだと考え、なおかつ、自分の住んでいる地域社会への関心や貢献意欲を持っている人ほど、たとえば、「在日韓国人どうしで、あるいは日本人と民族問題について議論をする」という形で地域の中での実践を行っていることがわかる。このような人々は、文化の多元性を認めあいつつ、互いに結合を志向してゆくような社会を作り上げてゆく際の重要な核になる層ではなかろうか。

 民族意識ならびに地域意識の類型化を洗練した上で、各類型と各個人属性との関係を明らかにすること、そして、「属性」−「意識」−「民族問題への取り組み(態度・行動)」へとつながってゆくプロセスを明らかにしてゆくこと、については今後の課題としておきたい。


6. 民族団体への参加

豊島慎一郎

 本章では,在日韓朝鮮人による民族団体への参加傾向を概観することを通じて,民族団体が置かれている現状を記述していきたい。

6.1 民族団体への参加状況

 表1は,民族団体および民族問題に関する学習会への参加状況(以下,民族団体への参加)について示している。民族団体参加者のうち,過去の民族団体参加者(過去に民族団体に参加経験がある人びと)は約30%を占めている。一方,現在の民族団体参加者(現在,民族団体に参加している人びと)は約20%である。参加団体については,「民団・総連およびその傘下団体」への参加率が圧倒的に高く,「過去」の参加率は88.5%(232人),「現在」の参加率は93.6%(160人)であった。それに対して,「その他の民族団体や小規模な学習会」への参加は,「過去」「現在」とも合わせて10%前後にすぎない。

表 6-1 民族団体への参加の度合い

過去

現在

参加している 30.8% (272人) 19.5 (174)
参加していない 69.2 (611) 80.5 (718)
100.0 (883) 100.0 (892)

表 6-2 過去と現在の民族団体への参加の度合い

現在参加

現在不参加

計(人数)

過去参加 12.7% (112) 18.0 (159) 30.7 (271)
過去不参加 6.0 ( 53) 63.3 (558) 69.3 (611)

18.7 (165) 81.3 (717) 100.0 (882)

( p<.01)

 表2をみてみると,過去も現在も民族団体に参加している人びとは全体の約18%である一方,過去も現在も民族団体に参加していない人びとは全体の約63%であることがわかる。つまり,6割の在日韓朝鮮人が在日韓朝鮮人が民族団体に全く関わりをもたないで日常生活を送っているのである。

 なお,過去も現在も民族団体に参加している人びとについては,継続的に民族団体の活動に従事していたのか,断続的に民族団体の活動に従事していたのか,あるいは過去に何回ぐらい民族団体に入・退団を繰り返していたのかが不明であるため,過去の民族団体参加に関するデータは慎重に取り扱う必要がある。従って,過去の民族団体参加についての言及は今回の報告では差し控えておく。

表 6-3 本人の年代と現在の民族団体への参加率

20代

30代

40代

50代

60代

70代

計 (人数)

現在参加

11.8%

20.1

29.0

21.9

14.2

3.0

100.0(169)

 続いて表3をみてみよう。まず,40代の人びとが占める割合が最も高い。これは,現在,いわゆる団塊の世代とそれに続く中高年層の人びとが民族団体の諸活動を担っていることを示唆している。詳しい理由についてはさらに分析をすすめる必要があるが,いまの時点で推察できることとしては,(1)民族団体の活動が活発な時期(1950〜70年代)に団体活動に参与し,その人間関係がいまも生きているため,(2)職業的にも中心的地位をになう世代であり,商工会などを中心とする職業上のネットワークが民族団体への参加をうながしているため,(3)この年齢層においてある種の民族性が豊富であるため,といったことが考えられよう。

 それにたいして,20代の人びとの参加率が相対的に低いことも一つの特徴である。この年齢層は一般に学生時代や就職したばかりの時期にあたるため,民族団体の活動や催しに積極的に参加する機会が少ないことによるものなのか,それとも,一般に指摘される“若者の組織離れ”を意味するのかはいまのところ明らかではない。しかしいずれにしても,その後の安定的な社会的地位と人間関係を形成するうえで重要なこの年齢層の参加が少ないことは,今後の民族団体のありかたを考えるうえで,一つの不安な材料だと言えよう。

 ところで,民族団体といっても,その活動がすべてヴォランタリーなものというわけではない。ある種の民族的な生涯教育,経済面での互助活動,住民や外国人としての権益擁護,さらには成人式など,むしろ,公共的活動のほうが多いと言えよう。だとするなら,ここで団体参加者の年齢にバラツキがみられたことから指摘されるべきことは,民族意識の希薄化といった参加者=活動対象者の主体性の問題よりも,現在の民族団体が在日韓国人のすべての年齢やライフステージが必要とする活動をカバーできていないという,民族団体の機能自体の問題であろう。

表 6-4 現在の民族団体への参加程度と参加期間

平均参加期間

全く+あまり熱心に参加せず 15.9年 (49人)
やや熱心に参加 19.5 ( 59)
かなり熱心に参加 22.6 ( 57)
全体 19.5 (165)

(** P<.01)

 次に,現在の民族団体に参加している者だけに注目し,その参加程度と参加期間の関係についてみてみよう(表4)。ごく自然な結果だが,民族団体に参加に熱心に参加する人びとは,平均参加期間が相対的に長いことが示されている。前述したように,民族団体への参加者には年齢のバラツキがあるため,このような傾向には参加者の年齢が背後で影響している可能性もある。だが,人びとの民族団体に対する取り組みの熱心さがより長期にわたる運動参加を支えている,あるいは,より長い期間にわたって民族団体に参加することによって民族団体にたいする取り組みの熱心さにつながっていると考えることもできよう。ただし,たとえ民族団体参加期間が長かったとしても,過去に何らかの原因で途中で民族団体から離れていった経験をもつ人びとが存在することは銘記しておかねばならない。

6.2 民族団体の現状

 本節では,現在の民族団体参加者について「階層性」,「民族性」,「地域性」に関する三つの特徴を記述することによって民族団体の現状を明らかにすることを試みる。その際,民族団体参加者の絶対数が十分に大きくないことを前もって考慮に入れた上で,主として現在の民族団体不参加者(現在,民族団体に参加していない人びと)の特徴との比較を行っていく。

(A)階層性

 まず,図1をみてみると,民族団体参加者は民族団体不参加者と比べて「階層帰属意識」,すなわち人びとによる主観的な階層の位置づけにおいて全体的に高階層方向に分布の比重があることが見取れる。

 次に,「教育年数」「収入」という代表的な地位変数を用いて民族団体参加者と民族団体不参加者の特徴をみてみよう(1)

 表5は,民族団体参加者は,民族団体不参加者と比べて初・中等教育を受けた人びとの割合が低い一方,高等教育を受けた人びとの割合が高いことを表わしている。続いて,表6をみると,民族団体参加者は民族団体不参加者と比べて低・中収入層が占める割合が低い一方,高収入層が占める割合が高いことがわかる。

図 6-1 階層帰属意識と現在の民族団体への参加

表 6-5 学歴別にみた現在の民族団体への参加

初等教育

中等教育

高等教育

計(人数)

参加 18.1%

42.1

39.8

100.0(171)

不参加 23.7

50.4

25.9

100.0(688)

( p<.01)

表 6-6 所得別にみた現在の民族団体参加

低収入層

中収入層

高収入層

計(人数)

参加 26.1%

26.1

47.8

100.0(157)

不参加 39.1

36.6

24.3

100.0(650)

( p<.01)

 以上,「階層帰属意識」「教育年数」「収入」といった階層性を示す変数との関係をみてきた結果,民族団体参加者は民族団体不参加者と比べて所属階層が相対的に高い傾向にあるといえる。

(B)民族性

 ここでは,民族団体への参加と民族性との関係についてみていく。「民族性」とは,「民族的な態度や意識,行為などの,いろいろな側面にわたる現象」である。以後,この概念に基づいて分析を進めることにする(2)

表 6-7 現在の民族団体参加・不参加による「民族性」の差異

参加 不参加 全体
チェサを継承する意志** 4.1(172人) 3.8(708) 3.9(880)
母国語習熟度** 4.4(174) 3.3(716) 3.5(890)
団体行事への参加** 3.3(174) 2.1(717) 2.3(891)
民族関連書籍の参照度** 3.2(174) 1.9(715) 2.2(889)
本名の使用度** 3.4(100) 2.3(449) 2.5(549)
権利要求(「同胞」)* 8.4(173) 7.8(709) 8.0(882)
民族的誇り** 7.8(173) 6.9(709) 7.1(882)
成育家庭内の民族的伝統性 4.1(172) 3.8(708) 3.9(880)

数値は各変数の平均値。( )内は人数  ** P<.01 * P<.05

 表7をみてみると,民族団体参加者は,民族団体不参加者と比べて「民族性」に関するすべての項目において高い平均値をもっていることが分かる。つまり,総じて民族団体に参加している人は比較的「民族性」が強い人であり,逆に言うと,民族団体に参加していない人は比較的「民族性」が弱い傾向にある,ということである。

 さらに詳しくみていくことにしよう。まず,「団体行事への参加」については,民族団体に参加している人のほうが高い値を示しているのは当然だろう。みずから参加している団体の行事には参加する機会も多いだろうし,関連の諸団体の行事にかり出されることもあろう。だが,「民族関連書籍の参照度」「母国語の習得」「本名の使用度」といった,その他の行為にかかわる項目においても高い平均値を示していることを見逃してはなるまい。つまり,民族団体に参加している人は,行為に表出するような「民族性」において,非参加者よりも明確に高い値を示しているということである。

 第二に,「民族的誇り」についても,民族団体参加者は民族団体不参加者と比べて平均値が高かった。このことは,在日韓朝鮮人としての誇りを強くもっているからこそ民族団体に参加しているということと,民族団体に参加しているからこそ在日韓朝鮮人としての誇りが民族団体不参加者よりも高まる,という両方の意味を兼ね備えてると解釈できよう。

 第三に,「成育家庭内の民族的伝統性」の項目は,民族団体への参加・不参加と家庭内において民族文化や伝統が継承されることの間には明確な関係性が見出せなかった。ただ,「成育家庭内の民族的伝統性」を構成する4項目のうち,「両親の民族意識の強さ(問27d)」だけが,統計的に有意な差を示しており,民族団体参加者(170人)の平均値は3.3点,民族団体不参加者(707人)の平均値は3.1点であった(p<.01)。このことから,「成育家庭内の民族的伝統性」全体というよりむしろ,「両親の民族意識の強さ」が民族団体への参加に固有の影響を持っていることがいえる。

表 6-8 学校外民族教育と現在の民族団体参加の関連

全く経験なし ほとんど
経験なし
少し経験あり たくさん
経験あり
非常に
経験あり
計(人数)
参加 37.4%

12.9

31.6

9.4

8.8

100.0(171)

不参加 54.4

14.4

24.7

4.7

1.8

100.0(708)

(p<.01)

 表8は,学校外民族教育と現在の民族団体参加の関連を示したものである。この表から,民族団体の参加者は,学校外民族教育を受けた人びとの割合が,民族団体不参加者と比べてかなり高いことがわかる。民族学校への就学について触れると,民族団体参加への参加・不参加にかかわらず,民族学校就学者は全体の21.4%(参加:37人,不参加:152人),非就学者は78.6%(参加:136人,不参加:557人)であり,両者の間には統計的に有意な差はなかった。このことは,民族学校のような教育機関よりも,家庭や地域での民族教育の方が民族団体への参加を促す要因となっていることを示唆している。

表 6-9 現在の民族団体参加・不参加による被差別体験・相対的剥奪感の差異

参加 不参加 全体
被差別体験** 2.3(162 人) 2.0(680) 2.1(842)
相対的剥奪感** 3.8(173) 3.5(702) 3.6(875)

数値は各変数の平均値。( )内は人数。 **p<.01

 最後に,表9に「被差別体験」と「相対的剥奪感」に関しては(3),民族団体不参加者と参加者の平均値をあげた。まず,被差別体験について,民族団体参加者の平均値が高い値となっている。このなかには,被差別体験の反動で民族運動に参加するというケースもあるだろうし,あるいは何らかの理由で民族団体に参加するプロセスで,それまでは気づかなかった差別の存在を知るというケースもあるだろう。民族団体に参加すれば,身近な韓朝鮮人の数は自然と増加するが,そのなかに被差別体験を訴えるものがいれば間接的な被差別体験も同時に増加する。そして,さまざまな活動や学習を通して“差別を見抜く目”が養われていけば,それまでは“なんでもないこと”“しかたがないこと”と素通りしていたことが,実は民族差別を反映していることに気づくことにもなる。

 また,相対的剥奪感についても,おなじく民族団体参加者の平均値のほうが高い値となっている。これは,日本人や日本社会にたいする総合的な不満(相対的剥奪感)をもつ人が民族団体の活動を通して利益の拡大を求めるということもあるだろうし,あるいは何らかの理由で民族団体に参加するなかで,さまざまな歴史的事実や民族的不平等のありさまを目の当たりにし,自然とそうした不満が高まっていったという場合もあるだろう。

 民族団体が,被差別体験や不満を抱えるものをサポートする機能を果たすと同時に,民族差別を自分の体験として実感することや在日韓朝鮮人が日本社会において不当な処遇にあることを認知することに重要な役割を果たしうるということだ。

(C)地域性

 表10は,現在,民族団体に参加しているかどうかと,居住地域内同胞数の関係を示したものである。表からは,民族団体への参加者と非参加者によってパーセンテージに明確な差はみられない。民族団体への参加・不参加と,地域内同胞数とのあいだには,関係がないということである。

 しかしながら,たんなる地域内の同胞数ではなく,「家族同様に非常に親しく付き合ったり,助け合ったりしている同胞」(以下,親交関係にある同胞)の数に注目すると様相は異なってくる。まず,「近所」の親交関係にある同胞の平均人数をみてみると,民族団体参加者は10.3人,民族団体不参加者は5.8人であった(**p<.01)。次に,親交関係にある同胞の「知人・友人」の平均人数をみてみると,民族団体参加者は22.2人,民族団体不参加者は9.2人であり,民族団体参加者は民族団体不参加者と比べて「同胞」の知人や友人の数が多い(**p<.01)。

表 6-10 地域内同胞者数と現在の民族団体参加の関連

同胞なし 1〜2軒 数軒程度 比較的多い 同胞多住地域 計(人数)
参加 26.7% 23.8 26.7 12.2 10.5 100.0(172)
不参加 22.9 25.7 24.6 16.4 10.4 100.0(700)

図 6-2 地域別親戚平均人数と現在の民族団体参加

 さらに図2をみてみると,親交関係にある同胞の「親戚」の平均人数が,自分の居住位置から地理的に遠距離になるにつれて,民族団体参加者との民族団体不参加者の差が大きく開いていくことがわかる。なかでも,県外,母国については統計的に有意な差が見られた(p<.01)。

 以上のことから,民族団体への参加者は,比較的,同胞集団内のインフォーマルな親交関係量が豊富であることが明らかになった。民族団体参加者は,民族団体というフォーマル集団に関与しつつ,地域や広域な親族網の広がりを中心基盤としたインフォーマルなネットワークを形成しているといえよう。

表 6-11 現在の民族団体参加・不参加による地域住民意識と愛着度

参加 不参加 全体
地域住民意識** 3.7(173人) 3.4(710) 3.5(883)
地域愛着度** 4.2(173) 3.9(713) 4.0(886)

数値は平均値。 **p<.01

 最後に,地域住民意識と愛着度について触れておこう。地域住民意識と愛着度は,都市社会学の領域でコミュニティ・モラールの指標として使われてきた。コミュニティ・モラールとは,人びとのコミュニティにたいする関与や同一化の程度を表わす概念であり,地域住民のコミュニティ・モラールが高ければ高いほど,望ましいコミュニティの形成につながると考えられている。

 民族団体参加者は,民族団体不参加者と比べて地域住民意識・愛着度(4)の両方について平均値が高かった(表11参照)。このことは,コミュニティ・モラールが高い人びとが民族団体に参加する傾向にあることを示す。また,このことから民族団体参加者は,地域内での「同胞」者数の密度とは関係なく,日本人も含めた地域全体を生活環境基盤として民族団体活動に従事していることが窺える。

6.3 おわりに

 民族団体参加者は,民族団体不参加者と比べて(1)所属階層が相対的に高く,(2)「民族性」が強く,(3)同胞集団内で豊富なネットワークを持ち,そして(4)コミュニティ・モラールが高い。このことから浮かび上がってくる民族団体参加者のイメージとは,一定の良識と民族性に裏づけられた問題改善への意欲を持ち,オープンマインドで人間関係を広げながら,齟齬に満ちた民族関係を改善し,在日韓朝鮮人の地位改善に寄与するとともに,みずからも社会的地位を達成している――そういったものであろう。“エスニック・リーダー”とでも呼ぶことがふさわしい,在日韓朝鮮人社会の先導者のイメージである。

 このような人びとが,今日まで在日韓朝鮮人コミュニティの形成に大きな役割を果たしてきただけでなく,経済活動・社会活動を通じて積極的に在日韓朝鮮人の地位向上に貢献してきたことは疑いをえない。

 今後の民族団体の課題は,在日韓朝鮮人社会にどのようにして新たなエスニック・リーダーを育成していくか,ということであろう。在日韓朝鮮人コミュニティの流れを主体的に方向づけ,韓朝鮮人の連帯を高め,民族に関わる諸問題を克服していくことができるかどうか,その点にひとつの鍵があると考えられる。


第6章 注

  1. 「教育年数」に関しては,「初等教育」を旧制尋常小学校・旧制尋常小学校・新制中学校,「中等教育」を旧制中学校・実業学校・師範学校・新制高校,「高等教育」を旧制高校・高専・旧制大学(大学院を含む)・新制短大・高専 ・新制大学(大学院を含む)と区分した.なお,韓国やその他の学校についても日本の学校と同様に3区分した.「収入」に関しては,個人年収350万円未満を「低収入層」,350万円から750万円未満を「中収入層」,750万円以上を「高収入層」とした。
  2. 「チェサを継承する意志」は問41b,問41e,問41iを主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成した総合的指標.
    「母国語習熟度(問35)」1点:まったくできない〜5点:こみあった議論ができる
    「団体行事への参加(問32)」1点:まったく参加したことはない〜5点:何度も参加したことがある
    「民族関連書籍の参照度」問33と問34を加算した. 1点:参照度−低〜6点:参照度−高
    ただし,民族関連書籍を読まなくとも民族新聞・雑誌を購読している人びとがいるので,問33と問34を単純に加算した.
    「本名の使用度」問30a,問30b,問30cを主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成した総合的指標.
    「権利要求(同胞)」問40bを単純に加算した指標.最小値:0点,最大値12点.
    「民族的誇り」1点:非常に嫌だと思う〜10点:非常に誇りに思う
    「成育家庭内の民族的伝統性」「チェサの年間開催数(問27a)」「民族風結婚式への参加経験(問27b)」「民族的儀礼の数(問27c)」「両親の民族意識の強さ(問27d)」の四項目に主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成した総合的指標.1点:家庭内民族的伝統性−弱〜9点:家庭内民族的伝統性−強
  3. 「被差別体験」問36a〜問36gを主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成した総合的指標.(1点:まったくない〜5点:とてもよくある)
    「相対的剥奪感」問37a〜問37fを主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成した総合的指標.(1点:まったく感じない〜5点:非常に感じる)
  4. 「地域住民意識」は問43a〜問43fを主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成した総合的指標.「地域愛着度(問39a)」1点:まったく感じない〜5点:非常に感じる


7. 満足度

中原洪二郎

 満足とは,必要なものが足りている状態であると考えることができる。人によって必要さの程度は異なり,その必要が満たされていれば満足し,満たされなければ満足しない。つまり,満足度を考える上で重要なことは,満足している,あるいは不満を抱いている人々がどれくらいいるかということだけではなく,むしろ,人々が自らの満足を判断する基準が,どこにあるかを知ることである。

 今回の調査では,7つの個別のトピックと,生活全般についての満足度を質問した(問5)。7つのトピックとは「仕事の内容」「勤め先(自営業の場合は事業内容)」「収入」「学歴」「余暇のすごしかた」「現在住んでいる住宅」「現在住んでいる地域の環境」であり,それぞれについて,「満足している−どちらかといえば満足している−どちらともいえない−どちらかといえば不満である−不満である」の5段階で満足度を測定した。

図 7-1 満足度(単位%,項目名の( )は基数)

 それぞれの項目について検討する前に,全体の様子を示しておこう。

 項目は「不満である」「どちらかといえば不満である」をあわせた比率が高いものから順に並べてある。なお,調査時点で学生か無職の人には,「学歴」「余暇の過ごし方」「住宅」「地域の環境」「生活全般」のみに回答してもらっている。

 全体の傾向としては,おおむね「満足」「どちらかといえば満足」が「不満」「どちらかといえば不満」を上回っている。他の項目と比較して,やや不満が多くなっているのは「収入」「学歴」の2項目である。

 まず,項目同士の関連性について示そう。2つの変数の関係を表す統計的な指標として,相関係数を用いる。相関係数は2つの変数の関連の強さと方向を表すものであり,正の関係にあるときは符号がプラス,負の関係にあるときはマイナスになる。関係がない場合の絶対値はゼロ,完全に関係している場合の絶対値は1になる。

表 7-1 満足度項目間の相関係数(全て1%水準で有意)

仕事 勤め先 収入 学歴 余暇 住宅 地域 全般
仕事 1.00
勤め先 0.72 1.00
収入 0.52 0.56 1.00
学歴 0.22 0.22 0.21 1.00
余暇 0.41 0.39 0.33 0.32 1.00
住宅 0.27 0.28 0.34 0.19 0.33 1.00
地域 0.27 0.28 0.24 0.11 0.27 0.48 1.00
全般 0.43 0.46 0.50 0.25 0.50 0.49 0.46 1.00

 すべての項目間の関係は統計的に認められ,関係の方向はすべてプラスである。つまり,ある項目に満足であれば,他の項目についても満足しているという傾向がある。下線で示した項目間は,特に強い関係が認められる。たとえば,生活全般に関する満足度は,学歴以外の満足度とは強く関係していることがわかる。学歴の満足度との関係も弱くはない。

 以下はそれぞれの項目について,個別に検討する。

7.1 収入の満足度

 上で見たように,収入と学歴について不満を感じている人が,他の項目と比較して多いようである。そこで,不満と感じている人と満足している人との間に,どのような相違があるかを検討しよう。

 まず,収入については,回答者の年収(問44)について比較する。問いの選択肢は,100万円未満については「0円」「50万円未満」「50〜100万円」の3カテゴリ,100万円から1000万円までは100万円間隔で区切り,1000万円以上は1カテゴリにして質問している。分析に用いている金額は,それらのカテゴリの中央値(たとえば100〜200万円未満の場合には150万円)である。

表 7-2 収入満足度と年収の関連(単位 万円)

パーセンタイル

満足度

平均値

10

25

75

90

不満

484.8

150

350

450 850
どちらともいえない

535.5

250

350

750 1000
満足

664.9

250

450

1000 1000

 表2.の見方について説明する。まず満足度は,「不満」「どちらかといえば不満」を合併して“不満”に,「満足」「どちらかといえば満足」を合併して“満足”に,「どちらともいえない」はそのままにして,カテゴリを再構成した。平均値は,満足度のカテゴリごとの収入項目の平均値,パーセンタイルは,たとえば10パーセンタイルであれば,回答者の収入項目それぞれについて,満足度のカテゴリごとに,収入の少ない方から回答者を順番に並べた場合,下から10%の位置にいる回答者の収入額をあらわしている。

 表1によって次のようなことがわかる。まず,収入について不満だと感じている人の半数が350〜450万円という狭い範囲に集中している。対して,満足だと感じている人の半数は年収が1000万円以上である。不満だとしている人の75パーセンタイルと満足だとしている人の25パーセンタイルがともに450万円であり,どちらともいえないの平均値が500万円強であることを考慮すると,おおよそ500万円前後が,不満と満足を分けるラインであると考えられるだろう。

 では,収入の満足度を説明する変数としては,年収以外にはどのようなものが考えられるだろうか。収入の必要性のレベルを変化させる原因として考えられるのは,回答者の「ライフ・ステージ」である。ライフ・ステージとは,人がその人生の中で直面する様々な状況の中で,年齢の増加にともなって,ある程度の順序をもって立ち現れ,かつ多くの人々が経験する状況を指す。学生から就職して社会人へ,結婚して家族を持ち,子供が産まれ,育て,やがて子供も独立し,自分は退職して,といったことである。この調査では,配偶者の有無,子供の有無,子供がいる場合にはその学齢,子供との同居・別居などについて質問している(問22)。

 分析は,子供を持つ回答者693人にたいして行った。ライフ・ステージとして,「第1子(長男または長女)が小学校入学前」「第1子が小学生」「第1子が中学生」「第1子が高校生」「まだ高校以下に在学の子供がいる」「すでに結婚している子供がいる」「18歳以上で未婚の子供が同居している」「すべての子供が結婚しているか,もしくは結婚したことがある」「すべての子供が親とは別居している」の9項目について,回答者の家族について当てはまるものをすべて選んでもらった。この9項目のうちどれが,収入の満足度の高低に影響を与えているかを調べるが,その際,年収の影響を取り除き,ライフ・ステージそのもの効果がわかるように分析を行った。

 その結果,年収に関わりなく,収入の満足度に最も強く影響するライフ・ステージは,「18歳以上で未婚の子供がいる」であることがわかった。18歳以上で未婚の子供がいる回答者は,収入の満足度が低く,いない回答者は高くなる傾向にある。

 年収とライフ・ステージに関するこれらの分析結果は,在日韓国人に特有というものではなく,かなり一般的な傾向である。では,在日韓国人としての世代といった民族的属性,民族教育などの民族的経験は,収入の満足度に影響しないのだろうか。今回の調査に盛り込まれた項目の範囲内においては,ほとんど関係が認められなかった。ただし,満足・不満ごとの年収の分布状況などは,日本人と在日韓国人との間で異なる可能性があり,そのような意味では民族のおかれている状況が反映されていることも考えられる。いずれにせよ,今後の比較分析を要するところであろう。

7.2 学歴の満足度

 次に,収入の満足度と同様に,やや不満が多くなっている「学歴」の満足度について検討しよう。

表 7-3 学歴満足度と教育年数の関連(単位 年)

パーセンタイル

満足度

平均値

10

25

75

90

不満

10.4

6.0

9.0

12.0

16.0

どちらともいえない

11.6

9.0

11.0

12.0

16.0

満足

13.3

9.6

12.0

16.0

16.0

 おおよそではあるが,6年が初等教育前期まで(小学校など),9年が初等教育後期まで(中学校など),12年が中等教育まで(高等学校など)。16年が高等教育中期まで(大学など)に該当する。つまり,学歴について不満だと感じている人の75%が高等学校卒まで,満足だと感じている人の75%までが高校卒業以上で大学卒も多いということになる。全体で見ると,大学へ進学するかしないかが,満足と不満を分けるひとつの目安になっていることがわかる。

 しかし,学校へ通うことの意味や可能性が,時代によって大きく異なっていることはよく知られている事実である。そこで,学歴の満足度と教育年数の関連に加えて,世代の違いについて検討してみよう。

 まず,世代を次のような基準で分割した。今回の調査では,回答者が在日の何世にあたるかを,父方からと母方からとの両方についてたずねている。おおよそ両者は一致しているので,父方から見て在日の何世かを世代の基本とした。ただし,父からみて在日2世,母から見て在日3世というカテゴリに属する人数が76人と少なくないので,これについては独立のカテゴリ「2-3世」とした。また,1世については,調査時点で50歳未満だった回答者は,戦後に日本へやってきた人々であると解釈して,「戦後1世」とした。1世で50〜65歳の回答者については,問25a「15歳時点での集住状況」での回答が「韓国・朝鮮に住んでいた」であった場合には「戦後1世」とし,それ以外の1世はすべて「戦前1世」とした。このような分け方は必ずしも厳密ではないが,少しでも時代の背景を分析に反映させるための手段として用いている。

 さて,上記のように分けられた各世代について,教育年数の平均は表4のようになっている。

表 7-4 世代・教育年数と学歴満足度

世代 人数 平均年齢 平均教育年数

学歴満足度(%)

満足 どちらとも

いえない

不満
戦前1世 106

70.1

7.8

21.0

11.5

24.8

7.0

54.3

7.0

戦後1世 30

48.2

13.1

31.0

15.6

20.7

13.0

48.3

11.9

2世 493

50.7

11.8

38.5

13.0

29.2

11.6

32.3

10.6

2-3世 76

38.2

13.6

43.4

14.4

34.2

12.9

22.4

12.9

3世 166

33.2

13.4

51.2

14.1

28.0

12.9

20.7

12.8

(学歴満足度の上段は各世代の%。
下段は満足度ごとの平均教育年数)

 まず,戦前1世と戦後1世について注目する。平均年齢には大きな開きがあり,平均教育年数についても初等教育後期と中等教育ほどの差となっている。満足度ごとに平均教育年数を見ると,戦前1世で「満足」とする回答者の平均教育年数が11.5年なのに対し,戦後1世では「不満」とする回答者の平均教育年数が11.9年という,著しい評価差が読みとれる。しかし学歴満足度の比率で見ると,どちらも不満が満足を大きく上回っていることがわかる。

 また,戦後1世とほぼ同じ年齢層である2世では,戦後1世にくらべて平均教育年数がやや下回っており,満足だと回答している回答者の平均教育年数も3年近く下回っている関わらず,学歴満足度で満足が不満を若干上回っている。

 2-3世と3世については,平均年齢,平均教育年数,学歴満足度ともにほぼ同様の傾向を示している。

 以上のことは,学歴の満足度について,年齢,教育年数,世代などが,それぞれに別個の影響力を持っていることを示唆している。

 さて,学歴の満足度については,最後に教育アスピレーションとの関連に触れておく。これまでに何度か述べているように,満足とは必要性の充足である。学歴については,「どの程度の学歴を得たかったか」を必要性の基準として,それが満たされている状態が満足のひとつの形態であるといっていいだろう。問11では,中学校(旧制は小学校)の最終学年の時に,学歴についてどのような希望を持っていたかを質問している。過去の意識・気持ちを回想して回答してもらっていることから,信頼性については一定の保留をしなければならないが,この変数を元にして,学歴の満足度について分析してみよう。

 希望の学歴に達したか,それ以上の学歴を得た場合を“達成”,希望の学歴に達しなかった場合を“非達成”として,学歴の満足度との関係を示したのが表5である。

表 7-5 教育達成と学歴の満足度(単位 %)

学歴の満足度

教育達成 満足 どちらともいえない 不満
達成 51.3

27.4

21.3 100.0 (489)
非達成 23.8

29.9

46.3 100.0 (395)

( )内は基数

 あきらかに,学歴の満足度と教育達成の関係が読みとれる。同時に,達成したにもかかわらず不満であったり,あるいは非達成ながら満足であるという回答者も少なからず存在している。

 参考までに,世代ごとに,どれぐらいの者が希望の学歴を“達成”しているかについて示す(表6)。

表 7-6 世代と教育達成(単位%)

世代 達成者率
戦前1世 23.4 (107)
戦後1世 53.3 (30)
2世 51.3 (493)
2-3世 78.9 (76)
3世 76.3 (167)
全体 55.1 (873)

( )内は基数

7.3 住宅の満足度

 次に,住宅の満足度について検討する。住宅の満足度については,それを規定する具体的な住居形態などについての項目がないので詳しく論じることは出来ないが,年収・預貯金・株式などの収入,資産項目を用いて,多少の分析を行おう。

 表7は,住宅の満足度(満足−どちらともいえない−不満)ごとに,年収,預貯金,株式などの金額の平均値をまとめたものである。

表 7-7 住宅の満足度と収入,資産の平均(単位 万円)

年収 預貯金 株式など
満足 552.2

415.9

166.8
どちらともいえない 454.7

307.5

95.3
不満 542.5

352.2

115.1
全体 533.2

382.5

142.7

 年収よりも,預貯金額や株式などの所有の方が,住宅満足度との関係が強そうに見えるが,賃借住宅か自己所有かなどのデータに欠けるため,これ以上の議論は困難である。

7.4 余暇の満足度

 人間の生活を考える上で,職業生活を中心にするにしても,趣味などの個人的生活を中心にするにしても,余暇は重要な要素である。全体としては,半数以上の回答者が自分の余暇に満足していると回答しており,不満だとする回答者は2割程度である。

 職業生活を中心として余暇を捉えるならば,回答者の従業上の地位(常時雇用されているか,臨時雇用か,自営業主か,といった区別)や,事業の種類,仕事の内容,役職を持っているかどうかなどによって,余暇の満足度が影響されることが考えられる。しかし分析の結果,これら職業にかかわる諸変数と余暇の満足度との間には何の関連も見いだされなかった。

 また,基本的な属性との関連については,年齢,ライフ・ステージとの関連は認められず,収入項目とのみ関連が認められた(表8)。

表 7-8 余暇の満足度と収入,資産の平均(単位 万円)

年収 預貯金 株式など
満足 559.5 395.5 162.6
どちらともいえない 501.1 370.3 129.3
不満 507.0 363.6 102.2
全体 534.4 382.4 141.4

7.5 勤め先(自営業の場合は事業内容)の満足度

 今回の調査で,産業・事業ごとの従事者数の上位は,工事業,飲食店,娯楽業,運送業,金融業,ゴム・皮革製造業,不動産業などで占められており,この8業種で全体のおよそ半数となる。そこで,これら代表的な業種ごとに,勤め先の満足度をみてみよう。

表 7-9 事業内容と勤め先の満足度(単位 %,( )内は基数)

勤め先の満足度

事業内容 満足 どちらとも

いえない

不満
工事業 57.0

23.9

19.0 (142)
飲食店 55.6

23.2

21.2 (102)
娯楽業 55.6

18.5

25.9 (54)
運送業 63.2

21.1

15.8 (40)
金融業 68.6

17.1

14.3 (36)
ゴム・皮革品製造業 50.0

32.4

17.6 (36)
不動産業 70.6

14.7

14.7 (34)
合計 58.5

22.2

19.3 (444)

表 7-10 従業上の地位と勤め先満足度(単位 %,( )内は基数)

勤め先の満足度

満足 どちらとも

いえない

不満
経営者(重役)役員 55.2

26.9

17.9 (145)
一般従業者 65.2

23.1

11.7 (247)
臨時雇用 55.6

22.2

22.2 (18)
自営業主(雇用者なし) 39.1

34.4

26.5 (151)
自営業主(雇用者あり) 54.9

20.5

24.6 (195)
家族従業者 57.1

23.8

19.0 (42)

 従事者が多い事業内容とはいえ,基数が小さいことから比率の解釈には注意を要するが,大まかな傾向を見て取ることができるだろう。不動産業,金融業などが「満足」だとする回答者が多い。ゴム・皮革品製造業は「満足」の割合が低いものの,「不満」とする回答者も少なく,「どちらともいえない」が,他の事業に比べて多くなっている。「不満」の割合が最も高いのは娯楽業,飲食店で,他の事業に比べて,「満足」とする回答者の割合と接近する傾向がある。

 つまり,不動産業,金融業,運送業などに従事している回答者は,全体としておおむね満足だと回答する傾向にあるが,娯楽業,飲食店などは満足と不満にやや分化する傾向にある。

 また,従業上の地位(問3a)によっても,満足−不満が大きく分かれるようである(表10)。

 特に,雇用者をもたない自営業主は,勤め先(自分が経営する事業の内容)について,満足度が低くなっている。なお,職場での役職については,関連が認められなかった。

 さて,次に職場における差別の体験との関連について分析する。勤め先の満足度と,職場における差別の関連を見るために,相関係数を用いた。

 勤め先の満足度と職場での差別体験(問36b)との相関係数は−0.10,仕事上での差別体験との相関係数は−0.12である。満足度が高いことと差別体験が少ないこと(満足度が低いことと差別体験が多いこと)の間には,必ずしも強くはないが,統計的に有意な関係が認められる。

7.6 仕事の内容の満足度

 仕事の内容の満足度は,勤め先などの事業内容とは別に,事務や営業といった,実際に行っている仕事についての満足度である。

 まず,職業8分類(専門,管理,事務,販売,熟練,半熟練,非熟練,農業)ごとに,仕事の内容の満足度の比率を示す(表11)。ただし,農業については従事者が2人しかいなかったため,分析から除いた。

表 7-11 職業8分類と仕事の内容の満足度(単位 %,( )内は基数)

仕事の内容の満足度

満足 どちらとも

いえない

不満
専門 71.1

18.4

10.5 (38)
管理 83.5

11.4

5.1 (79)
事務 63.3

25.0

11.7 (60)
販売 57.6

25.0

17.4 (184)
熟練 59.5

25.9

14.6 (158)
半熟練 50.8

27.5

21.7 (120)
非熟練 41.4

41.4

17.2 (29)
全体 60.5

24.4

15.1 (668)

 専門,管理で満足の比率が高く,半熟練,非熟練では低い。非熟練でどちらともいえないの比率が高いのを除けば,おおむねどの仕事についても満足が不満を大きく上回っている。

 さて,勤め先の満足度と同様に,職場・仕事上での差別体験との関連を見ておこう。

職場での差別体験(問36b)との相関係数は−0.09,仕事上での差別体験との相関係数は−0.12であり,仕事の内容満足度についても,勤め先の満足度と同じく,満足度が高いことと差別体験が少ないこと(満足度が低いことと差別体験が多いこと)の間には,必ずしも強くはないが,統計的に有意な関係が認められる。

7.7 地域の環境の満足度

 個別の項目としては最後に,地域の環境の満足度について検討しよう。まず現在,回答者が居住している地域が,在日同胞の集住地域かどうかとの関係について示す(表12)。

表 7-12 同胞集住状況と地域の環境の満足度(単位%,( )内は基数)

地域の環境の満足度

満足 どちらとも

いえない

不満
同胞多住地域 47.7

30.7

21.6 (88)
比較的多い 63.0

20.7

16.3 (135)
数軒程度 68.7

17.5

13.8 (217)
1〜2軒 68.0

20.1

11.9 (219)
同胞なし 74.1

16.1

9.8 (205)
全体 66.9

19.7

13.5 (864)

 同胞が多く住んでいる地域よりも,少ない地域の方が満足度が高く,少ない地域の方が不満度も高いことがわかる。これは何を意味するのであろうか。

 まず,世代との関連でみると,1世や2世の方が,より高い割合で集住地域に居住していることがわかる(表13)。

 年収についても,同胞多住地域の平均値が462.5万円,比較的多い地域が495.4万円,数軒程度で529.8万円,1〜2軒で527.4万円,同胞なしで582.6万円と,居住地域の同胞数に比例して所得が少なくなっている。

 また,事業の種類については表14のように,ゴム・皮革品製造業を営む,あるいは勤務する回答者が多いことがわかる。

 いくつかの要因が重なり合っているため,データから直接結論を導くためにはより厳密な分析によらねばならないが,これまでみてきたいくつかの変数の関連から推測するならば,同胞の集住と地域の環境の満足度の関係は,集住地域がおかれている経済的,産業構造的に苦しい立場を反映しているものと考えられる。

表 7-13 世代と集住の状況(単位 %,( )内は基数)

集住の状況

多住 多い 数軒 1,2軒 なし
戦前1世 12.4 15.2 30.5 19.0 22.9 (105)
戦後1世 17.9 14.3 28.6 25.0 14.3 (28)
2世 11.5 16.7 25.4 24.3 22.1 (485)
2-3世 6.9 16.7 19.4 31.9 25.0 (72)
3世 6.8 13.0 21.1 30.4 28.6 (161)
全体 10.6 15.7 24.8 25.5 23.4 (851)

表 7-14 事業の内容と集住の状況(単位 %,( )内は基数)

集住の状況

多住 多い 数軒 1,2軒 なし
工事業 10.1 22.5 21.0 23.2 23.2 (138)
飲食店 8.1 11.1 28.3 29.3 23.2 (99)
娯楽業 3.9 9.8 21.6 33.3 31.4 (51)
運送業 12.8 7.7 35.9 17.9 25.6 (39)
金融業 2.9 8.6 25.7 37.1 25.7 (35)
ゴム・皮革品製造業 34.3 37.1 17.1 8.6 2.9 (35)
不動産業 12.1 18.2 18.2 24.2 27.3 (33)
全体 10.7 16.7 24.0 25.3 23.3 (430)

7.8 生活全般の満足度(まとめ)

 最初に表1(満足度項目間の相関係数)でみたように,満足度は互いに関連しあっており,特に生活全般の満足度は,まさにこれまでみた個別のトピックごとの満足度を代表するものであるといってよい。これを見る限りにおいて,在日同胞の生活は,満足度という観点からは,おおよそ充足しているといってもいいかもしれない。

 しかし,この充足とは,あくまで現状における現実的な必要性の基準に基づくものであって,その基準が在日韓国人にとって本当に十分なものであるか,また正当なものであるかは別問題である。

 また,在日韓国人が一様に高い満足度を示しているわけではなく,これまで分析してきたように,経済的状況や産業構造を背景として,明らかに生活上のさまざまな分野に満足していない人々が存在している。

 日常の生活における満足度の様相は,日本における在日韓朝鮮人社会というマクロな観点と,在日社会における一人一人の同胞の状況というミクロな観点を同時に持つことの重要性を示している。


8. 家庭内民族性

潮村公弘

 この章では,対象者が生まれ育った家庭環境における,民族志向の高さを測定する項目群を検討対象とする。具体的には,民族的な行事がどの程度おこなわれていたか,また両親の民族意識が強かったかどうかを測る項目について検討する。

8.1 家庭内民族性の回答分布

 最初に,個々の質問項目の単純集計結果について見ていこう。

 「15歳のころ,あなたの家庭では,1年に何回くらい,民族風の法事(チェサ)を催したり参加したりしていたか」という設問に対して回数で回答してもらった。その結果,図1に示す回答分布が得られ,「0回」と答えた対象者は全体の19.3%,残りの80.7%は「1回」以上の回数を回答した。さらに,「1回」以上の回答をした対象者の内,その84.6%が「6回」以下の少数の回数を報告している。

図 8-1 15歳頃のチェサの回数(年平均)

 次に,「家族や親族のうちで,結婚式を民族風にした人がどの程度いるか」という旨の設問に対して,以下に示す5つの選択肢からひとつを選んで回答してもらった。その結果,1)「何人もいる」(38.9%),2)「4〜5人ほどいる」(8.8%),3)「2〜3人はいる」(22.1%),4)「1人だけいる」(10.4%),5)「まったくいない」(19.8%)という分布となり,「何人もいる」という回答が多くみられた反面,「まったくいない」という回答も少なくなく,結果が分化している傾向性がみられた。

 また,生まれ育った家庭における民族的な行事の経験の有無として,「出生百日のお祝い(ペギル)」,「出生1年目のお祝い(トル・チャンチ)」,「民族風の還暦(ホァンガプ・チャンチ)」,「民族風の葬式」,「民族風のおはらい(クッ)」の行事について,個々の項目ごとに経験の有無を回答してもらった。その結果,行事をおこなったことがあると回答した対象者は,経験率の高いものから順に,出生1年目のお祝い(57.3%),出生百日のお祝い(46.3%),民族風の還暦(45.0%),民族風の葬式(42.1%),民族風のおはらい(31.7%)であった。

 さて,家庭内での民族性項目の中で,これまでに述べてきた民族的行事の経験度に関する項目とは性質を異にする設問として,親がいだいている民族的な意識の強さを測定するために,「あなたの両親は,民族意識がどれぐらい強かったと思いますか」という問いを設けている(1)。回答は,1)非常に強かった,2)どちらかといえば強かった,3)どちらかといえば弱かった,4)非常に弱かった,という4つの選択肢にそれぞれ1点から4点を与えて得点化した。

 それでは次に,これらの家庭内民族性をあらわす項目と他の諸項目との関連性について検討していこう。

8.2 家庭内民族性の世代差

 まず,家庭内民族性が世代によって異なっていることは想像に難くない。ここでは,「在日何世であるか」(2)と家庭内民族性にかかわる諸項目との関連について検討していこう。

図 8-2 世代ごとのチェサの年間回数(15歳ころ)

 まず,世代ごとのチェサの回数を百分率で示した(世代ごとに百分率表示した)ものが図2である。この時,留意すべきことは対象者が15歳のころのチェサの回数を尋ねていることから,例えば対象者が3世である場合には,2世である親がチェサを執り行っていた回数を問うていることになり,また対象者が1世である場合には,母国もしくは日本において“1世の親世代”がおこなっていたチェサの回数が測定対象となっている。この図から,チェサの実施回数は世代間でおおむね変わってはいないこと。また,むしろ1世において,年に一度もチェサをおこなわなかったとする回答者の比率が他の世代よりも高いことが見てとれる。母国における場合よりも日本においての方が,対外的な民族性の発露が妨げられる分だけ,家庭内で民族的な行事が行われることが増えるということは了解可能なことであろう。

図 8-3 家族や親族のうちで結婚式を民族風にした人(世代ごと)

 次に,「家族や親族のうちで,結婚式を民族風にした人がどの程度いるか」「家庭での民族的行事の経験の有無に関する5つの項目」「両親の民族意識の強さ」の各々の項目と,世代変数(在日何世であるか)とのクロス表分析をおこなった。その結果,予想通り,1世>2世>3世の順で,結婚式を民族風にした家族や親族が多く,民族的行事の経験が高く,また,両親の民族意識が高かったと回答している傾向が確認された。ただし例外的な傾向性として,「結婚式を民族風にした人がどの程度いるか」については,“まったくいない(なし)”と回答した者の比率が低かったのは2世>1世>3世の順となっていた(図3参照)。

8.3 「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」

 ここで,以後の分析が煩雑となることを避けるために,家庭内民族性の諸項目を大きく2つの変数に集約して分析を進めていきたい。本調査における家庭内民族性の諸項目のうちで,「チェサの回数」「家族や親族における民族風の結婚式」「家庭での民族的行事経験の有無(5項目)」からなる項目群は,“成育家庭環境における民族的行事の実施度(以下,「民族的行事の実施度」)”としてひとまとめにすることができよう(3)。それに対し,「両親の民族意識」の項目は性質を異にしていることから,この項目単独で分析を進めていく必要があるだろう。確認までに,「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」の強さとの関連性を相関係数を用いて検討したところ(4),両親の民族意識が強いほど民族的行事の実施度が高い,という関係性が確認された(r=−0.39)。

8.4 民族的行動の指標群との関連

 成育家庭内での民族性が高い方が,家庭環境以外の場でも民族的な環境に接することが多く,そしてまた,民族的行動を強く示すようになることが期待される。ここでは,家庭外での民族的教育の程度として「民族学校への就学経験の有無」「民族学校以外で民族的な教育を受けた程度」の2項目,また,表出的で具体的な民族的な行動として,「民族の問題について人と議論している程度」「民族団体が主催する行事への参加」「母国や民族団体の新聞(雑誌)の購読」の3項目を取り上げて検討した。

 その結果,家庭内での民族性が高い方が,家庭外での民族的教育をより多く受けており,また具体的な民族的行動をより積極的におこなっていることが示された。この関係は,家庭内民族性を構成する「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」の2つの要素のいずれにおいても同様に見出された。それゆえ,民族性の継承というテーマにおいて,成育家庭内での民族性の高さが重要な要素を占めていることが示唆されたと言える。

8.5 「地域内同胞多住」の程度との関係

 成育家庭での「民族的行事の実施度」と,「地域内同胞多住」の程度との関連について検討する。「15歳ころ」の居住地域の同胞多住の程度ごとに,「民族的行事の実施度」の平均値を示したのが図4である。ここでは,同胞多住の程度が高くなるにしたがって,「民族的行事の実施度」が高くなるという明瞭な関係性が見出されている。また“15歳のころには韓国(朝鮮)にいた”と回答した対象者(5)の行事実施度の平均値に比べて,日本の同胞多住地域での行事実施度の方が高く,また同時に,近所に同胞があまり住んでいない日本の地域での民族的行事の実施度の方が低い値を示していることは興味深い。

 続いて,成育家庭での「両親の民族意識」の強さと,「地域内同胞多住」の程度との関連について検討する。両親の民族意識の強さと,「現在」の居住地域での同胞多住の程度との関係性を示したものが図5である。この図より,両親の民族意識が,“非常に強かった”“どちらかといえば強かった”“どちらかといえば弱かった”の3つのカテゴリーの間では,現在の居住地域での同胞多住の程度には大きな違いが見られないこと。その一方,両親の民族意識が“弱かった”と回答した対象者グループにおいては,現在の居住地域には,同胞が“せいぜい1〜2軒”もしくは“自分の家以外には同胞はいない”とする回答の割合が非常に高かった。

図 8-4 15歳ころの居住地域での同胞多住の程度と,民族的行事の実施度

図 8-5 現在の居住地域での同胞多住の程度と,両親の民族意識の強さ

図 8-6 15歳ころの居住地域での同胞多住の程度と,両親の民族意識の強さ

 次に,対象者が15歳のころに居住していた地域内での同胞多住の程度との関連についても検討しておこう。先ほどと同様,両親の民族意識の強さと,「15歳のころ」の居住地域での同胞多住の程度との関係性を示したものが図6である。その結果,両親の民族意識が“非常に強かった”と回答した対象者グループにおいて,“同胞多住地域”であったと回答する割合が高かった。ただし,両親の民族意識の強さにかんする他の3つのカテゴリー間では,同胞多住の程度に大きな違いはなかった。

 続いて,両親の民族意識の強さを介して,「現在」と「15歳のころ」の同胞多住の程度を比較しておこう。全体を通じてまず言えることは,「15歳のころ」に比べて「現在」では,居住地域での同胞多住の程度が全体的に低下していることが挙げられる。次に,この同胞多住の程度の低下が大きかったのは,両親の民族意識の強さの点で両極の回答をした対象者グループ,つまり“非常に強かった”と回答したグループと“非常に弱かった”と回答したグループであったことを指摘できる。すなわち,両親の民族意識が高かったからといって同胞の多い地域に居住を続ける傾向があるのではなく,一方,両親の民族意識が低かった対象者グループでは同胞の少ない居住地域への移動が割合として多かったことを表していよう。

8.6 母親の階層性との関係

 家庭内での民族性に対して直接に関与するであろう母親の属性に関して,ここでは「母親の教育年数」を取り上げて検討しよう(6)。「民族的行事の実施度」ごとに,また「両親の民族意識」の強さの程度ごとに,母親の教育年数の平均値を表したものが図7・図8である。その結果,図7より,「民族的行事の実施度」が相対的に高い対象者では母親の教育年数が低く,逆に,実施度が相対的に低い対象者では母親の教育年数が高い,という関係性を見てとることができる。また図8より,親の民族意識が強いと回答した対象者ほど,母親の教育年数が低いという関係を明瞭に見てとることができる(7)

図 8-7 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均

図 8-8 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均

 ただし,ここでさらに検討しておかなければならないことは,これらの関係性が時代背景の相違を単に反映したものなのかどうかである。すなわち,全体として1世に比べて2世そしてさらに3世は,教育年数が上昇し,民族的行事の実施度が低下し,両親の民族意識が低くなって来ていることがその時代性を背景として指摘できる。その結果,例えば図8に示された関係性は,教育年数が低く・両親の民族意識が高い世代(1世),教育年数が高く・両親の民族意識が低い世代(3世),そしてこれらの中間的な世代(2世)という世代間での特性の相違を反映しただけなのかもしれない。それゆえ,この点について確認しておくために,図7・図8に示した関係性を,さらに世代ごとに分けて検討することとした。「母方からみて何世か」にもとづいて,1世,2世,3世の世代ごとに母親の教育年数と民族的行事の実施度との関係をみたものが図9〜図11,同じく母親の教育年数と両親の民族意識の高さとの関係をみたのが図12〜図14である。まず「民族的行事の実施度」との関係について見ていくと,1世では家庭での民族的行事の実施度が高かった対象者の方が,母親の教育年数が高い傾向性が見られた(図9)。それに対して,2世,3世においては,逆に,民族的行事の実施度が低い対象者の方が,母親の教育年数が高い傾向が見てとれる(図10,図11)。また,「両親の民族意識」については,1世では(母親の教育年数の欠損値が1世では特に多いことから,十分なデータを示すことができたとは言えないものの),両親の民族意識が“非常に強かった”と回答した対象者の方が“どちらかといえば強かった”と回答した対象者よりも母親の教育年数は高かった(8)(図12)。また2世においては,相対的に両親の民族意識が強かったと回答した対象者の方が,相対的に弱かったと回答した対象者よりも母親の教育年数が高い方向性が見られた(図13)。しかし逆に,3世では,両親の民族意識が相対的に高い対象者の方が母親の教育年数が高いことがわかる(図14)。

図 8-9 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均(1世)

図 8-10 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均(2世)

図 8-11 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均(3世)

図 8-12 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均(1世)

図 8-13 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均(2世)

図 8-14 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均(3世)

 このことは,家庭内での民族性の積極的な継承者層が世代によって変わって来ていることを意味している。ここでは,社会成層の指標として母親の教育年数を用いて分析をおこなった結果,1世から2世にかけての世代では,家庭内での民族性の継承が,母親の教育年数が高い層において相対的により強く行われてきたことを示している。その一方で,2世から3世にかけての世代では,母親の教育年数が低い層において家庭内での民族性の継承が相対的により強くなされてきていることが示された。このように家庭内での民族性継承の主たる担い手層が推移してきていることは,今後の方策を考えていく上で重要な視点となりうるだろう。


第8章 注

  1. 「あなたの両親は、民族意識がどれぐらい強かったと思いますか」という質問項目は、両親の民族的意識の強さを直接に測定しているのではなく、調査対象者が自分の両親の民族的意識の強さをどのように認知しているのかを測定しているという側面がある。このような指摘はもっともなことであり、このことを常に念頭においておくことは必要であるけれども、現実的にはこれ以上、直接的な測度を採用することは不可能であろう。仮に調査対象者の親から回答を求めることをおこなったとしても、それが対象者の成育時期における両親の民族的意識をあらわしているという保証はない。
  2. ここでは便宜的に問15A「父方から見て、在日の何世代目にあたるか」に対する回答を用いた。
  3. 家庭内民族性を測定する諸項目のうち、「両親の民族意識」の1項目を除く項目をひとまとめにすることが可能かどうか検討した。まず「チェサの回数」、「家族や親族のうちで、結婚式を民族風にした人」の2項目について、その経験の有無を基準として“あり”“なし”の2値変数化した。そして、家庭内での民族的行事経験の有無を尋ねた5項目とあわせた7項目に対して信頼性分析を実施した。その結果、7項目で信頼性係数α=.71という結果を得た。これは一次元的な尺度としてひとまとめに考えうることを示していると考えられる。(なお、チェサの有無についての項目を除いた方が信頼性係数が若干上昇するという結果を示したが、ここでは概念的な包括性を重視して、7つの項目に対して経験有りと回答した行事数の平均値をもって「民族的行事の実施度」とした)。
  4. ただし、「民族的行事の実施度」を構成する諸項目と「両親の民族的意識の強さ」項目とをひとつの変数として統合してしまうことは、概念的にも、またデータの性質上も適切ではない。(後者、すなわちデータ特性の点から検討をするために信頼性係数αを算出したところα=.36という低い値を示した)。
  5. 52名の対象者がこのように回答していた。
  6. 「母親の教育年数」は、欠損値が多い変数である点に留意が必要である。全対象者中、55.2%が欠損値であり、“母方からみて何世か”という分類基準にもとづけば、1世で133名中106名(79.7%)、2世で516名中344名(66.7%)、3世で213名中28名(13.1%)が欠損値となっている。
  7. 確認までに、母親の教育年数と父親の教育年数との相関は、相関係数(r)=.55と比較的高い関連を示した。ここでは、家庭内での民族性を扱っていることにかんがみ、「母親の教育年数」指標を分析に用いていくことにする。
  8. 対象を1世だけに限定した場合、両親の民族意識が“どちらかといえば弱かった”“非常に弱かった”と回答した対象者の中で、母親の教育年数が欠損値以外の有効データとなった対象者はそれぞれ1人と0人であった。したがって、これら2つの回答カテゴリーについて図示することは適切ではないだろう。


9. 差別体験

潮村公弘

 この章では差別体験について検討していく。日本人から受けた差別を7つの領域に分けて,それぞれの差別を受けたことがどの程度あるかについて尋ねている。7つの領域項目は,「名前のことでの差別」「職場での差別」「学校での差別」「日常の交際の中での差別」「仕事上のことでの差別」「近所の人(日本人)からの差別」「日本の官庁,官吏からの差別」である。それゆえ,ここで取り上げる差別体験は,日々の生活の中での差別体験であって,職業選択,配偶者選択における差別や,上級学校への進学資格上の差別といったような進路や人生設計上の差別問題と単純に同列に論じるべきものではない(1)

9.1 差別体験の様態

 まず,7つの領域項目ごとに,各々の差別体験がどの程度あるかについて記述しておこう。回答形式は,1)とてもよくある,2)よくある,3)少しはある,4)ほとんどない,5)まったくないの5カテゴリーから1つを選ぶ形式で,それぞれ1点から5点を与えた。したがって得点が低いほど差別体験が多いことをあらわしている。

図 9-1 領域ごとの差別体験

 領域ごとの回答分布を示したものが図1である。最も多くの差別体験が報告された領域は「学校での差別」であり,“少しはある”以上の差別体験を報告した回答者の割合は50.7%に及ぶ。次に差別体験が多いのは,「日本の官庁,官吏からの差別」「名前のことでの差別」である(同じくそれぞれ,36.8%,35.1%)。続いて,「日常の交際の中での差別」(同,29.5%),「仕事上のことでの差別」(同,27.1%),「職場での差別」(同,22.1%),「近所の人(日本人)からの差別」(同,21.1%)となっている。

 これら7つの項目間の関連を見るために,まず個々の項目間の相関係数を算出した。その結果,全ての項目間の相関係数はプラスの方向に高い値を示し(2),7つの項目が相互に密接な関連を有していることが示された。さらに,7つの項目次元をひとまとめにすることが可能な項目群であるかどうかをチェックした後に(3),7つの項目群に対する差別体験の平均値をもって,領域を通じた「総合的差別体験」指標を作成した。以降の分析においては,個々の領域単位ではなく,トータルとしての差別体験を検討対象とする場合には,この「総合的差別体験」指標を分析に使用する。

9.2 世代差

 差別体験においても,まず最初に検討しておくべき事柄は,世代による違いであろう。7つの領域項目ごとの回答分布を1世,2世,3世の世代別(4)に示したのが図2である。まず全体としては,1世>2世>3世の順序で差別体験が減少していることがわかる。とりわけ,3世において,1世・2世と比較した場合の差別体験の減少が読みとれる。ただし,「学校での差別」に関しては1世が最も少なくなっているが,このことは一世が,学校教育を十分に受けることができる社会的環境には無かったことを反映したものであろう。

図 9-2 母方何世かと差別体験

 3世において,1世・2世に比して相対的に差別体験が減少した領域としては,「職場での差別」「近所の人(日本人)からの差別」「仕事上のことでの差別」を挙げることができ,逆に3世においても差別体験の減少が相対的に少ない領域として,「学校での差別」「名前のことでの差別」「日本の官庁,官吏からの差別」を指摘できる。

9.3 階層帰属意識別の分析

 次に階層変数との関連をみてみよう。ここでは,階層にかかわる変数の中でもっとも基本的な指標のひとつである階層帰属意識をとりあげる。階層帰属意識とは,自分がどの階層に属していると思うかについての主観的な意識である。客観的な基準にもとづいているわけではなく,測定基準としては主観的なものではあるけれども,年収や教育年数などといった客観的な階層変数に裏づけられた指標であることがわかっている(5)

 まず,階層帰属意識別に,「総合的差別体験」指標の平均値を示したものが図3である。この図より,階層帰属意識を“上”と回答したグループで「総合的差別体験」が最も少なく,ついで“中の上”グループで少ないことが見てとれる。ただし,一概に,階層帰属意識が低くなるにつれて差別体験が増加すると言えるわけではなく,“中の下”“下の上”“下の下”の3つのグループ間では大きな差がなく,むしろ,この3つのグループの中では,中の下>下の上>下の下の順序で「総合的差別体験」が多い傾向にあることが示されている。

図 9-3 階層帰属意識ごとの総合的差別体験度

図 9-4 階層帰属意識ごとの差別体験(領域別)

 図3のように,階層帰属意識と「総合的差別体験」の程度とが単調な関係性を示さなかったことについて,さらに詳細に検討していこう。次に,各々の差別体験領域ごとに,階層帰属意識別での差別体験度の平均値を示したものが図4である。ここでは,階層帰属意識と差別体験度がどのような関係にあるかに応じて領域項目を3つのグループに分けて図示している。第1のグループは,「職業差別」「仕事差別」「官吏差別」の3領域からなり,階層帰属意識が低くなるにしたがって差別体験度が上昇していく関係性にある。第2のグループは,「名前差別」「学校差別」「近所差別」の3領域からなり,いわゆるU字型の関係を示している。すなわち,階層帰属意識が中間段階のグループでは差別体験が多い一方,階層帰属意識の点で両端のグループにおいては差別体験が少ないことをあらわしている。そして,これらのグループには属さなかった領域が「交際差別」領域であり,階層帰属意識の相違によって差別体験度に大きな差が生じていない。

 次に,これらの3つのグループがどのようなタイプの差別であるのかを考えてみよう。7つの領域は,先に述べたように日々の生活の中での差別体験を対象としたものであり,その中で第1のグループは,在日韓朝鮮人と日本人がフォーマルな関係性の下で接触する場合での差別と言える。それに対して,第2のグループは,在日韓朝鮮人と日本人との接触が比較的インフォーマルな関係性の下でなされる場合と言えよう(6)

9.4 差別体験と相対的剥奪感

 差別体験と密接なかかわりをもつ変数に「相対的剥奪感」がある。これは,他者もしくは他集団との比較において,自分もしくは自集団が相対的に不利な状況に置かれていると感じている程度を意味している。本調査では,日本人と比較した場合の在日韓朝鮮人が置かれた社会的状況について,「暮らし向き」「教育」「固有の文化を持つこと」「社会保障」「職業」「社会的機会の提供」(7)の6つの領域における相対的剥奪感を尋ねている。回答は“そう思う−どちらかといえばそう思う−どちらともいえない−どちらかといえばそう思わない−そう思わない”の5件法であり,順に1点から5点を与えて数値化した。したがってこの相対的剥奪感も,得点が低いほど相対的剥奪感が高いことをあらわしている。これらの6項目の一次元性が高いことを確認した上で(8),6つの項目群に対する回答の平均値をもって,領域を通じた総合的な相対的剥奪感指標を作成した(以下,本章においては,相対的剥奪感にかかわるこの総合指標を「相対的剥奪」と称して分析に用いていく)。

 差別体験と相対的剥奪感の直接的な関係性を調べるために相関係数を算出したところ,この2つの変数は統計学的に意味のある関連性を持ち,差別体験が多い人の方が相対的剥奪感が強いという関係にあることが示された(相関係数r=0.37, p< .01)(9)

9.5 民族的誇り,個人的誇りとの関連

 それでは,差別体験の多さと相対的剥奪感の強さが,民族的誇り,個人的誇りとどのように結びついているかについて検討しよう。ここでの民族的誇りとは「在日韓国・朝鮮人であることを,“非常に誇りに思う”から“非常に嫌だと思う”までの10段階に分けるならば,あなた自身はどこにあてはまると思うか」を尋ねた項目で測定され,個人的誇りとは「在日韓国・朝鮮人であることとは別に,自分自身を,“非常に誇りに思う”から“非常に嫌だと思う”までの10段階に分けるならば,あなた自身はどこにあてはまると思うか」を尋ねた項目で測定された指標であり,得点が低いほど,誇りの程度が高いように得点化されている。

 民族的誇り,個人的誇りとの関係を単純に考えるならば,差別を受けることによってこれらの誇りが低下するという考えと,逆に,差別があること,そして差別を実際に受けることによってこれらの誇りが高揚するという考えの両者が成り立ちうるだろう。また,強い相対的剥奪感をいだいていることが高い誇りと表裏一体の関係にあるとも考えられると同時に,また逆に,強い相対的剥奪感は低い誇りと相互に結びついていると考えることもできよう。

 それではまず最初に,調査対象者全体をひとまとめにして,これらの変数間の関係を見てみよう。差別体験,相対的剥奪感と,民族的誇り・個人的誇りとの相関係数を表1に示した。その結果,差別体験は,民族的誇り・個人的誇りのいずれとも関連をもたなかった。それに対して,相対的剥奪感は,民族的誇り・個人的誇りの2つの誇りとの間に有意な正(プラス)の相関を示し,相対的剥奪感が高いほど,民族的誇り・個人的誇りがともに高いという関係にあった。

表 9-1 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 .03 (n.s.) .03 (n.s.)
相対的剥奪感 .19 (p<.01) .08 (p<.05)

 ただし,これらの変数間の関連については,先にも示したようにいくつかのパターンを同時に考えうることから,この結果だけをみて結論を下すのは早計すぎるかもしれない。そこで,調査対象者全体をひとまとめにした分析だけではなく,関連する変数にもとづいて対象者を分割した上で,同様の分析をおこなってみよう。

<親しい日本人の有無による分割>

 日本人とのかかわりの中で,差別的な行動や態度をどの程度経験しているかということを取り上げると同時に,日本人とのかかわりの中で非常に良好な人間関係が構築されているかどうかも同じように重要な要素であろう。ここでは,ひごろの付き合いや助けあいなどについて尋ねた設問群の中で,「親戚や近所の人以外の友人や知人で,家族同様に非常に親しく付きあったり,助け合ったりしている人は何人くらいいるか」という問いに対する回答を分析に用いる。具体的には,この設問に「0人」と回答したグループ(すなわち家族同様に親しい日本人の友人・知人はいない人々)と,1人以上の人数を回答したグループの2グループに分けて,表1と同様に,差別体験,相対的剥奪感と,民族的誇り・個人的誇りとの相関係数を算出した(表2,表3)。その結果を表1と比較すると,家族同様に親しい日本人の友人・知人がいないグループでは対象者全体をひとまとめにした表1の結果と同じ関係性が示されている一方で(表2),そのような日本人がいると回答したグループでは,相対的剥奪感と個人的誇りとの関係性が有意な相関ではなくなっている。このことは,日本人とのかかわりにおいて少なくとも特定の他者との間で良好な関係性を構築できている対象者においては,相対的剥奪感を個人的な誇りと結びつけずに独立なものとしてとらえていることを意味している。

表 9-2 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(親しい日本人無し)

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 .03 (n.s.) -.03 (n.s.)
相対的剥奪感 .24 (p<.01) .13 (p<.05)

表 9-3 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(親しい日本人有り)

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 .03 (n.s.) .04 (n.s.)
相対的剥奪感 .14 (p<.01) .03 (n.s.)

<誇りの高さによる分割>

 次に,差別体験,相対的剥奪感と,民族的誇り・個人的誇りとの関連を,対象者の誇りの程度が高いグループと低いグループとに分けて検討しよう。在日韓朝鮮人という同じ民族集団に属していても,誇りの程度が違えばその形成因や関連する他の変数との関係性は一様ではないと考えるべきだろう。具体的には,まず民族的誇りの高さにもとづいて対象者を2つのグループに分けて表1に示した変数間の相関関係について検討し,次に,個人的誇りの高さによって2つのグループに分割した上で同様の分析をおこなった。

 最初に,民族的誇りの高いグループと低いグループに分割した場合の分析結果について表1と比較しながら述べていこう。民族的誇りが相対的に低いグループでは,差別体験と民族的誇りとが有意なマイナスの相関を示している。すなわち,差別体験が多い対象者ほど民族的誇りが低いことをあらわしている。また,相対的剥奪感については,民族的誇りとの間には有意な関連がなくなり,個人的誇りとの間にはマイナスの相関が見い出されている。このことは,民族的誇りが低い対象者グループにおいては,相対的剥奪感を強くいだくということが,民族的誇り・個人的誇りのいずれに対しても表1での結果に比して否定的な意味あいをもっていると言える。すなわち,民族的誇りについては相対的剥奪感が強いほど民族的誇りが高いという関係性が消失し,個人的誇りについては,相対的剥奪感が強いほど個人的誇りが低いという関係性が示された(表4)。一方,民族的誇りが相対的に高いグループでは,表1と比較して大きな違いは見られなかった(10)(表5)。

表 9-4 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(民族的誇り低群)

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 -.10 (p<.05) -.07 (n.s.)
相対的剥奪感 .05 (n.s.) -.09 (p<.10)

表 9-5 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(民族的誇り高群)

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 .04 (n.s.) .03 (n.s.)
相対的剥奪感 .17 (p<.01) .06 (n.s.)

表 9-6 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(個人的誇り低群)

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 -.05 (n.s.) -.12 (p<.05)
相対的剥奪感 .11 (p<.05) .01 (n.s.)

表 9-7 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(個人的誇り高群)

  民族的誇り   個人的誇り
差別体験 .07 (n.s.) .04 (n.s.)
相対的剥奪感 .25 (p<.01) .08 (n.s.)

 次に,個人的誇りの高さによって対象者をグループ分けした結果について述べよう。相対的に個人的誇りが低いグループにおいては,表1に比べて,差別体験,相対的剥奪感ともに,個人的誇りとの間に否定的な価値をともなった関係性が見てとれる(表6)。すなわち,差別体験が多い人ほど個人的誇りが低いという関係性が見い出され,また,相対的剥奪感と個人的誇りの間には有意な正の相関が消失している。一方,個人的誇りが高いグループにおいては,表1の結果と大きな違いを示さなかった(11)(表7)。

 民族的誇りと個人的誇りとの関係についてのこれらの結果をまとめると,まず表1より,集団として劣位の社会的環境下に置かれた在日韓朝鮮人という民族集団全体としては,相対的剥奪感をむしろバネにして高い民族的誇り・個人的誇りを獲得しようとする姿勢をその平均像としてとらえることができる。また,表3,表4より,家族同様に親しい友人・知人がいる在日韓朝鮮人を対象とした場合には,個人的誇りが相対的剥奪感とは関連を持たず独立した意識となっていることが示された。このことは,民族的な立場とは切り離して考えることができるはずの個人的誇りが,相対的剥奪感とは独立でありうることを肯定的に評価する視点もありえようし,逆にこのことを,相対的剥奪感の裏返しとしての高い個人的誇りの消失ととらえて否定的に評価する視点もあるだろう。さらに,表5〜表7より,相対的に低い誇りをもっている(もしくは,低い誇りをもたざるをえない)人たちにとっては,差別体験や相対的剥奪感が誇りを形成していく上で否定的な意味をもつ体験や意識となっている構図を見ることができた。


第9章 注

  1. 職業選択上の差別構造については、「社会的地位達成」の章が参考になるだろう。
  2. 全ての相関係数は、r=.33以上の値を示し、全て1%水準で有意な相関であった。
  3. 7つの領域項目に対して信頼性分析を実施した結果、7項目で信頼性係数α=.85という高い値を示した(また、特定の項目を削除することによって信頼性係数が上昇することもなかった)。これは一次元的な尺度としてひとまとめにとらえうることを意味している。
  4. ここでは、「母方から見て在日何世か」に対する回答を世代の指標として用いている。
  5. 確認のために、年収、教育年数について階層帰属意識別の平均値を算出したところ、年収、教育年数ともに、階層帰属意識が高くなるにつれて平均値が単調に増加していることが確認された。
  6. 「名前差別」については、他の領域項目とは異なり、接触する場面を選ばない傾向が強く、このような意味づけは必ずしも適切ではないかもしれない。ただし、名前の問題が重要な意味をもってくる局面は、フォーマルな関係性の状況下であるよりも、むしろインフォーマルな関係性の状況においてであると考えられるのではないだろうか。
  7. ここで「社会的機会の提供」と名づけた項目は、具体的には「日本の中には、日本人にはできることを私たち同胞にはさせないようにする仕組みがたくさんある」という設問である。
  8. これらの6項目に対して、信頼性係数を算出したところ信頼性係数α= .79という値を示した。また、いずれかの項目を除外することによって信頼性係数が上昇することはないことも確認された。
  9. 「p< .01」という表記は、統計学的に有意水準1%のレベルを満たしていることを意味しており、「p< .05」「p< .10」はそれぞれ5%水準、10%水準をクリアーしていることをあらわしている。なお、10%水準>5%水準>1%水準の順で、その基準は厳しくなっていき、1%水準で有意である場合が、関連性の確からしさが最も高いことになる。
  10. 表5において相対的剥奪感と個人的誇りとの相関が統計学的な有意性を失っているものの、相関係数自体はあまり変わってはおらず、この差異を強調することは適切ではないだろう。
  11. 表7においても、相対的剥奪感と個人的誇りとの間の相関が統計学的な有意性を失っているものの(統計学的な危険率p=.101)相関係数自体はほとんど変わってはおらず、この差異を強調することは適切ではないだろう。


10. 自尊心

潮村公弘

 本調査では,「在日韓国・朝鮮人であることを,「1. 非常に誇りに思う」から「10. 非常に嫌だと思う」までの10段階に分けるならば,あなた自身はどこにあてはまりますか」という質問,さらに引き続いて「では,在日韓国・朝鮮人であることとは別に,自分自身を「1. 非常に誇りに思う」から「10. 非常に嫌だと思う」までの10段階に分けるならば,どこにあてはまりますか」という質問がなされている。

 前者は,“民族的誇り”の強さを,そして後者は“個人的誇り”の強さを表すと考えられる項目である。言い換えるならば,自分自身に目を向けて自己評価するさいに,「在日韓国・朝鮮人」としての自分と,(在日韓国・朝鮮人であることは別にした)「私個人」としての自分に対する誇りの程度を尋ねたものである。本稿では,これらの2つの誇り(ここでいう誇りを社会科学の専門用語では「自尊心」と呼ぶ)と諸変数との関連について考えていきたい。

10.1 民族的誇りと個人的誇りの直接的関係

 まず,これらの2つの誇りに対する評定パターンが似通ったものであったかどうか,すなわち民族的誇りを高く感じている人は,個人的誇りも高く感じており,逆に民族的誇りを低く感じている人は,個人的誇りも低く感じているという関係性にあるのかどうかを検討した。(この目的のために,相関係数を算出したところ r=.57 という高い値を示した)。その結果,2つの誇りに対して調査対象者全体としては,似通った評定がなされていることが示された。

 実際にどのような評定がなされたかについて特徴的な点を述べると,2つの誇りに対して同じ数値(すなわち同程度の誇り)を回答した対象者は全体の53.4%とかなり高い値を示した。それに対して,民族的誇りを個人的誇りよりも高く評定した対象者は全体の21.1%,逆に,個人的誇りを民族的誇りよりも高く評定した対象者は全体の23.5%であった(残りの2.0%は,2つの誇りのうちの少なくともいずれか一方に対して回答していなかった)。

 2つの誇りを同程度に評価している対象者が約半数存在していることを指摘したが,このことは同時に,これら2つの誇りに対して異なる意味づけを与えている対象者が約半数存在していることも意味している。そこで,民族的誇りと個人的誇りのそれぞれと関連を持つ要素について考えていこう。

10.2 2つの誇りの異同

 そこで,まず「2つの誇りのズレ」について検討しよう。ここではズレを表す指標として,“個人的誇り”から“民族的誇り”を引いた値を算出した。2つの誇りはそれぞれ数値が小さいほど,誇りに思っている程度が強くなるように数値化されている。したがって,このズレを表す指標の値がプラスになればなるほど民族的誇りの方が個人的誇りよりも相対的に高く,この値が小さくなるほど,個人的誇りの方が民族的誇りよりも相対的に誇りの程度が高いことを意味する。また,この値がゼロであれば両者の誇りが同程度であることをあらわしている。

表 10-1 階層帰属意識ごとの「誇りのズレ」

 階層帰属意識

誇りのズレ

(人数)
  上

−.62

(50)
  中の上

−.10

(317)
  中の下

−.01

(359)
  下の上

−.08

(115)
  下の下

.76

(33)

 さて,この「誇りのズレ」の程度を,階層帰属意識の程度別に求めたところ,表1のようになった。すなわち,階層帰属意識を「上」と回答した対象者は,個人的誇りの方が民族的誇りよりも高く,階層帰属意識を「下の下」と回答した対象者は,民族的誇りの方が個人的誇りよりも強いことが示され,他のカテゴリーでは両者の誇りの程度はほぼ同程度であった。

図 10-1 階層帰属意識と「誇り」

 この関係性をより詳しく検討するために,同じく階層帰属意識の程度別に,民族的誇りと個人的誇りの平均値をグラフ化したものが図1である。このグラフより,階層帰属意識を「中の上」「中の下」「下の上」と回答した対象者では,2つの誇りの程度量はほぼ同じであり,かつ3つの対象者グループ間で大きな違いは存在していない。それに対して,「上」のグループに属すると回答した対象者は,民族的誇りが他のグループに比べて高い(すなわち値が小さい)傾向にあり,さらに個人的誇りはそれ以上に誇りの程度が高いことが見て取れる。また,「下の下」に属するとする対象者グループは,個人的誇りは他のグループと大きな違いを示さなかったけれども,民族的誇りは5つのグループの中で最も高いレベルの誇りを示した。

 なお,ここで示した傾向性は,階層帰属意識との関係においてのみ成り立つわけではない。領域別満足感を測る諸項目(ただし,「現在住んでいる地域の環境への満足感」のみは除く),ならびに対象者本人の教育年数との関係において,満足感・教育年数が高い人々は,個人的誇りの方が高く,逆に満足感・教育年数が低い人々は民族的な自尊心の方が高いという同様の関係性が示された。また収入との関連については,年収が700万円以上の層において個人的自尊心の方が民族的自尊心よりも高いという傾向性が示された。ただし,対象者本人の職業威信の高さ(職業威信スコアー)との間には明確な関連は存在してはいなかった。一般に,職業上の威信の高さは,自尊心の高さに大きな影響を及ぼす要因であるにもかかわらず,在日韓朝鮮人においてはそのような関係性が見出されなかったことは特筆に値するだろう。威信の高い職業から社会的に閉め出される傾向が強く,自己の能力に応じた仕事に就くことを妨げられてきたために威信の高い職業を目指すことに自己実現の目標を設定することが叶わない,言い換えれば,威信の高い職業に就くことを目標とすることに価値を見出すことができなかった社会的背景が関与していると考えられる。

10.3 世代・年齢層と2つの誇り

 次に在日何世かということと,2つの自尊心との関連について検討しよう(図2参照)。

 この図からまず第1に指摘すべき点は,1世,2世,3世という順で,2つの誇りがともに高くなっており,かつ世代による違いの程度量が大きいということである(1世と3世では平均1.76ポイントの差がみられる)。第2に言及すべき点は,1世においては,民族的誇りの方が個人的誇りよりも高く,逆に3世においては個人的誇りの方が民族的誇りよりも高いという点である。

 世代と2つの誇りとの間で見出されたこの関係性については,年齢層と2つの誇りの関係を検討した結果とも一貫している傾向を見て取れる。図3に示したように,高年齢層ほど2つの誇りが全体として高く,かつ若年層では個人的誇りの方が,また高年層では民族的誇りの方が高くなっている。

図 10-2 世代と「誇り」

図 10-3 年齢層と「誇り」

図 10-4 年齢層と階層帰属意識

 さて,この段階で確認しておくことが望まれる点は,年齢との関連が強い2つの誇りを検討していくさいに,例えば先に検討した,(階層変数を代表する項目である)階層帰属意識と年齢層が,例えば年齢層が若いほど階層帰属意識が高いといったような直接的で単純な関連になっていないかどうである(1)。図4は階層帰属意識と年齢層との関連を検討したものであるが,この図からは両者が単純な(言い換えれば,直線的な)関係性をなしているわけではないことが見て取れる。すなわち,低い階層帰属意識をいだく対象者の割合は若年層並びに高年層に多く,逆に相対的に高い階層帰属意識をいだいている対象者は中年層においてその割合が高いという関係性が示されている。

10.4 民族的社会環境と民族的行為との関連

 次に,「親の民族意識が強かったかどうか(厳密には「親の民族意識が強かったと認知しているかどうか」)」を尋ねた項目との関連について検討しよう。図5に示すように,第1に,親の民族意識が強かった方が,民族的誇り,個人的誇りともに高かった。と同程度に注目すべき点は,「非常に強かった」と「どちらかといえば強かった」という2つの群においては,民族的誇りと個人的誇りは同程度に高かったことに対して,相対的に親の民族意識が弱かった2つの群においては,民族的誇りは個人的誇りよりも,より低い誇りを示していたことが挙げられる。

図 10-5 親の民族意識の認知と「誇り」

 次に,民族団体や学習会での活動の積極性との関連を検討しよう。「民族団体や,民族問題の学習会の一員として活動しているか」という設問に対し,「現在活動をしている」と回答した対象者に,どれぐらい熱心に参加しているかを尋ねている。ここでは899名中171名が,「現在活動をしている」と回答しており,この171名を対象として,熱心に活動している程度と2つの誇りとの関連性を検討した。その結果,図6に示すように,熱心に参加している対象者ほど,民族的誇り・個人的誇りともに高い誇りをいだいていることが示されている。特に,「かなり熱心に」と回答した対象者(対象者数は62名)は民族的誇り・個人的誇りともに同程度にかなり高かった(2)

図 10-6 民族団体への参加程度と「誇り」

 つづいて,民族の問題について「同胞と議論」している程度,「日本人と議論」している程度と,2つの誇りとの関連について検討してみよう。その結果,相手が同胞であるか日本人であるかを問わず,議論をしている傾向の強い人の方がそうではない人に比べて,民族的誇り・個人的誇りともに高かった。さらに,議論をしている傾向の強い人は,民族的誇りの方が個人的誇りよりも高く,逆に議論をしている傾向の低い人は,個人的誇りの方が民族的誇りよりも高かった。

 ここまでは2つの誇りとの間で言及するに値する関連性が見出された項目について述べてきたが,明確な関連が示されなかった項目も存在している。まず,「現在の居住地区が同胞多住地区であるかどうか」,また「15歳時の居住地域が同胞多住地域であったかどうか」を尋ねた項目との関連については,明確な関連性は見出されなかった。さらに,被差別体験の程度(3)と2つの誇りとの間には,明確な関係は見出されなかった。

 その他,民族的社会環境もしくは民族的行為には含まれないものの,民族的な社会環境の認知に関わる意識項目として,相対的剥奪感(4)と2つの誇りとの関係について検討した結果,相対的剥奪感を強く感じているほど,2つの誇りがともに高いという傾向性が見出された。

10.5 権利要求項目との関連

 種々の権利が「自分自身の日常生活の上で必要か」どうかを尋ねた項目と,2つの誇りとの関連について検討した。多くの権利項目において,各々の権利が必要であると考える対象者の方が,必要ではないと考える対象者よりも誇りが高いという関係が見出され,またそのさい,2つの誇りの高さに明瞭な相違は存在しなかった。

図 10-7 「簡易帰化」の希望と「誇り」

図 10-8 「日本国政参政権」の希望と「誇り」

 ただし,「簡易帰化」「日本国政参政権」の2つの権利項目については,他の諸権利項目とは異なる傾向性を示した。まず「簡易帰化」の権利については,「不必要」だと回答した対象者の方が,「必要」だと回答した対象者よりも2つの誇りがともに高いことが示された(図7参照)。「簡易帰化」が日本社会・日本文化への“同化”に結びつくと考え,民族にそして自分に誇りを強く感じている人たちの方がその権利を獲得すべきではないと考えているのではないだろうか(なお「必要」と「不必要」の間で,より差異が大きかったのは民族的誇りの方であった)。ただし,同化に対する態度で説明することが適切かどうかは現段階では推測の域を出ない。

 次に,「日本国政参政権」については,この権利を必要とする対象者と,必要としない対象者の間に,誇りの程度には差が無かった(図8参照)。誇りが高い人たちの中に,一定層,日本の国政に参加する権利は不必要だと考える人たちが存在しているためにこのような結果になったものと考えられる。なおここで示した,権利項目と2つの誇りとの関係性については,「同胞全体にとって」という観点から種々の権利が必要かどうかを尋ねた諸項目についても同様の関係性が示されている。

10.6 「自尊心」のまとめ

 2つの誇りと諸変数との関連について検討した結果,次のような関係性が見出された。すなわち,多くの項目において見出された結果を一般的に論じるならば,社会的に恵まれた層では個人的自尊心の方が民族的自尊心よりも高く,社会的に恵まれていない層では民族的自尊心の方が個人的自尊心よりも高いという関係性を指摘できる。ただし,職業威信,年収,教育年数,階層帰属意識といった変数にかんして,2つの誇りを平均化して考えるならば,社会的に恵まれた層に属する対象者の方が誇りが高いと一概に言うことは出来ず,最も社会的に恵まれた層と最も社会的に恵まれない層において誇りが高く,中間層においては相対的に誇りが低いという傾向性を指摘できる(例えば図1参照)。さらに,様々な民族的な行事・体験を経験してきた程度が高い対象者の方が,そしてまた高い民族的意識をいだいている人の方が,そうでない人よりも2つの誇りが高いという関係性を指摘できる。また年齢層が高い人々の方が2つの誇りがともに高いことも示された。

 逆に,誇りとの間に明確な関連が見出されなかった数少ない項目としては,「職業威信」「差別体験」「15歳時の居住地区が同胞多住地域であるかどうか」「現在の居住地区が同胞多住地域であるかどうか」という項目を挙げることが出来る。これらの項目は,受動的な社会環境的要素としてまとめることができるような項目群であり,自分自身に対する評価の程度(誇りの程度)を考えるさいに能動的に取り上げない評価次元と言えるのではないだろうか。それに対して,能動的な社会的態度や行動にかかわる諸項目,および生得的な要素や諸条件は,民族的誇り,個人的誇りに対して,上述のような関係性を有することが指摘できよう。


第10章 注

  1. すなわち、階層帰属意識との関連として考えられている関係性が、年齢との関係の単純な反映なのか、それともそうではないのかということを意味している。
  2. 「まったく熱心に参加していない」と回答した対象者は9名だけであったことから、「あまり熱心に参加していない」と「まったく熱心に参加していない」をひとつのグループとして分析した。
  3. ここでは、差別体験を尋ねる7つの項目を単純に平均化した総合指標を分析に用いた。
  4. ここでは、相対的剥奪感を尋ねる6つの項目を単純に平均化した総合指標を分析に用いた。


11. 愛着

中原洪二郎

11.1 愛着の結節点である「在日」

 人は長年使い込んだ道具や仲のよい友人,住み着いた土地などに感じる親しみの感情を,「愛着」と表現することがある。愛着はいったん形成されると,非常に強く心理的に定着し,その対象への接し方やその他の行動に影響をあたえると考えられている。

 この調査では,次の6つの対象,「自分が生まれ育った地域」「日本」「在日韓国・朝鮮人」「大韓民国」「朝鮮民主主義人民共和国」のそれぞれについて,愛着の強さを質問している。

 まずは,全体の様子を見てみよう。

図 11-1 6つの愛着

 図1は,「非常に感じる」「どちらかといえば感じる」をあわせた比率が高いものから順番に並べてある。自分が生まれ育った地域に対して愛着を感じる人の割合が最も多く,朝鮮民主主義人民共和国(以下,北朝鮮)への愛着が最も少なくなっている。「非常に感じる」で見ると,統一された祖国に愛着を感じる人の割合が最も多く,ほぼ同率で生まれ育った地域が続き,北朝鮮への愛着が最も少なくなっている。

 次に,各項目間の関係を相関係数によって見てみよう。

 表1で,**印がついている項目間の関係が,統計的に認められたものである。特徴的なのは,「在日韓国・朝鮮人」に対する愛着が,その他のすべての項目と正の関係を持っていることである。つまり,在日に対する愛着が高ければ,回答者全体として,生育地域,日本,韓国,北朝鮮,統一祖国への愛着も高くなる傾向にある。「在日韓国・朝鮮人」という対象には,確かに上記のすべての要素が含まれているので,予想される結果といってよいだろう。

表 11-1 愛着各項目間の相関係数

生育地域 日本 在日 韓国 北朝鮮 統一祖国
生育地域 1.00
日本 0.28** 1.00
在日 0.32** 0.11** 1.00
韓国 0.24** 0.01 0.60** 1.00
北朝鮮 0.03 0.02 0.23** 0.18** 1.00
統一祖国 0.15** -0.00 0.40** 0.52** 0.24** 1.00

(** p<0.01)

11.2 世代差と年齢差

 次に,いくつかの属性による違いについて検討しよう。愛着のそれぞれについて「非常に感じる」を5点,「どちらかといえば感じる」を4点,「どちらともいえない」を3点,「どちらかといえば感じない」を2点,「まったく感じない」を1点に得点化した。まず世代と年齢ごとに,その平均得点を比較してみる。

図 11-2 世代ごとの愛着平均得点

図 11-3 年齢ごとの愛着平均得点

 図2は世代ごとの,図3は年齢ごとの愛着平均得点を表したものである。分散分析の結果,北朝鮮を除く全ての対象について世代差が認められた。また韓国と統一祖国については年齢による差も認められた。

 世代差は,日本への愛着については世代が新しいほど愛着が強く,その他については弱くなっている。年齢差については,韓国と統一祖国のいずれについても,若いほど愛着が弱くなっている。

 これらの結果は,世代によってそれぞれの対象についての関与の程度が異なることによる影響と,経年による愛着の強化とが存在していることをうかがわせる。

11.3 満足度と愛着

 次に,愛着と同じく,心理的な変数である満足度との間の関係を見てみよう。表2は,満足度と愛着について,年齢・世代・収入の影響を取り除いた偏相関係数をまとめたものである。

表 11-2 満足度と愛着(年齢・世代・収入を統制した偏相関係数)

生育地域

日本

在日

韓国

北朝鮮

統一祖国

仕事の内容 0.10** 0.15** −0.02 0.05 −0.05 −0.02
勤め先 0.11** 0.15** 0.02 0.05 −0.04 −0.07
収入 0.09* 0.09* −0.00 0.01 −0.00 −0.03
学歴 0.05 0.01 0.01 0.04 0.00 −0.02
余暇 0.09* 0.08* −0.02 0.03 −0.00 0.01
住宅 0.12** 0.17** 0.02 0.01 −0.04 −0.05
地域 0.18** 0.26** 0.12** 0.15** 0.03 0.11**
全般 0.14** 0.18** 0.00 0.05 0.02 −0.02

 特徴的なのは,まず生育地域と日本の愛着度が,学歴を除くすべての満足度と関連していることである。多くの回答者にとって生育地域と日本が同じ性質のものであり,かつそこで満足して生活することと,その生活の場である日本へ愛着を持つことの間には,一定の関連があるといえるだろう。もう一つの特徴といえるのが,現在住んでいる地域の環境の満足度が,北朝鮮を除くすべての愛着と関連していることである。問43で,居住地域へのコミットメントについて質問しているが,これらでさらに統制してもなお,地域への満足度と各愛着の間には有意な関連が認められた。またさらに現在居住している地域が同胞多住地域であるか否かにも関わらず,やはり関連が認められるのである。

 現在の居住地域と密接な関わりがある「生育地域」「日本」「在日」については,多くの要因を統制してもなお,地域への満足度と愛着との間に関連が認められることは理解できる結果である。しかしなぜ「韓国」や「統一祖国」との間にも有意な関連が認められるかについては明らかでない。今後そのメカニズムの特定を行う必要があるだろう。


12. 名前の使用

豊島慎一郎

 本稿では,在日韓朝鮮人が現在の日本社会において通名(日本名)と本名(民族名)をどのように使い分けているのかを把握し,その実態について考察していきたい。

12.1 名前の使用をめぐる在日韓朝鮮人の現状

 図1では,名前の使い分けについて神奈川県内在住外国人実態調査(1984年実施),第3次在日韓国人青年意識調査(1994年実施),そして本調査の結果を示した(1)。各調査とも,「通名のみ使用」「通名多く使用」に回答した人びとを合わせた数は,全体の7〜8割を占めている。つまり,大多数の在日韓朝鮮人が通名としての日本名を名乗って日常生活を送っているのである。また,通名と本名の両方を使い分けている人びとは一般的に,「同胞」には本名,日本人には通名を名乗っていると想定した場合,真に日本社会において本名を名乗って生きている人びとはごく僅かだといえよう。

図 12-1 調査別にみた名前の使用

 話を本調査の結果に戻そう。図2をみてみると,「同胞」よりも日本人に対して通名を使用する割合が高いこと,そして「家族」「友人・知人」「職場の同僚や取引先」の順に通名を使用する割合が高いことに気付く。このことは,自分にとって「同胞」で,なおかつ家族や友達といった身近な存在に対しては本名を名乗るが,日本人でさほど親しくない存在に対しては通名を名乗る傾向を示す。つまり,在日韓朝鮮人は,人間関係の親密さが存在しないと日本人に対して本名を名乗れるないような状況に置かれていると考えられる。

 次に,年齢と世代による名前の使い分けについて解説していく。分析のプロセスで,家族,友人・知人,職場の同僚や取引先について本名使用度の「日本人」と「同胞」ごとの平均値を算出したが,年齢別では各平均値の間に統計学的に有意な差が認められなかった。したがって,以下,世代に注目してデータを紹介していく。

図 12-2 使用対象別にみた名前の使い分け

図 12-3 父からみた世代と本名使用度の平均値

 図3は,父方からみた世代ごとに,いくつかの領域で「日本人」と「同胞」にたいしてどれだけ本名を用いているか,平均値のかたちで示したものである(2)。「職場の同僚や取引先(日本人の場合)」を除いて,各世代間で本名使用度の平均値に統計的な有意差が認められた。全体的に本名使用度の平均値は低かったが,どの項目の本名使用度の平均値も1世,2世,3・4世の順で高かった。

 では,在日韓朝鮮人が「家族同様に非常に親しく付きあったり,助け合ったりしている」友人・知人にたいして名前を使用する場合,その相手が同胞であるか日本人であるかでどのように違うのかだろうか。

図 12-4 同胞・日本人別にみた名前の使用と友人の平均人数

 図4の横軸は,「同胞」の友人・知人にたいしてどのように名前を使用しているか,縦軸は,「同胞」の友人・知人の平均人数と「日本人」の友人・知人の平均人数である。まず,実線で示した「同胞」の友人・知人に注目してみると,折れ線グラフが右上がりになっていることが分かる。つまり,「同胞」の友人・知人の数が多くなるほど,本名の使用頻度も高くなる,という関係である(p<.01)。

 それにたいして,破線によって示されている「日本人」の友人・知人については,そのような関係はみられない。通名の使用頻度が多い人のほうが「日本人」の友人・知人の数が多いようにも見えるが,統計的に有意な関係ではない。つまり,日本人の友人がどれだけ多かろうが少なかろうが,本名を名のるかどうかには関係がないということである。

 名前の使用と友人・知人数の関係は,「同胞」の場合にのみ成り立つのである。このことは,在日韓朝鮮人が本名を名乗るかどうかについて,親しい「同胞」の友人・知人の存在が重要であることを示していると考えられる。

12.2 「名前の使い分けパターン」に関する分析

 これまで述べてきたように,本調査では名前を名のる場面として「家族」「友人・知人」「職場の同僚や取引先」の3つをもうけており,それぞれについて,相手が「日本人」か「同胞」であるかによってどのように名前を使い分けるかをたずねている。したがって,3×2で6とおりの名前の使い分けをたずねたことになるが,そこに,何らかの“パターン”はみられるのだろうか。

図 12-5 クラスターと名前の使用

 それを確認するために,6つの項目についてクラスター分析を施した。そしてその結果,妥当な3つのクラスターを析出した(3)。図5は,3つのクラスターごとに本名使用度の平均値をあらわしたものである。

 クラスター1(131人)は,図中において「中間的」な位置を占めており,平均値をみたとき「同胞」に対しては本名の方を多く,日本人に対しては通名の方を名乗る傾向にある。

 クラスター2(357人)は全体的に平均値が低く,名前の使い分けに関する6つの項目について一貫して通名の方を名乗る傾向にある。

 クラスター3(61人)は全体的に平均値が高く,名前の使い分けに関する6つの項目について一貫して本名の方を名乗る傾向にある。

 これらの傾向から,クラスター1を「中間クラスター」,クラスター2を「通名クラスター」,クラスター3を「本名クラスター」とよぶ。

 次に,各クラスターについて基本的な諸属性の分布(4)をみてみよう(図6〜9を参照)。 なお,収入に関しては三つのクラスターとの間には全く関連がなかった。

図 12-6 クラスター別にみた年代の分布

図 12-7 クラスター別にみた世代の分布

図 12-8 クラスター別にみる学歴の分布

図 12-9 クラスター別にみた職業の分布

図 12-10クラスター別にみた現在の民族団体への参加

 「通名クラスター」:このクラスターは,40代を中心に分布している(平均年齢47.9歳)。世代に関しては,三つのクラスターのうち1世が占める割合が最も少ない一方,3・4世が占める割合が最も多い。また,高等教育を受けた人びとの割合と職業威信スコアの平均値が最も低かった(平均スコア46.8点)。職業に関しては,三つのクラスターを通じて「専門」が半数近くを占め,「無職」「熟練」が相対的に多かった。現在における民族団体への「参加」の割合は,三つのクラスターの中で顕著に少なかった。同様に,民族的誇りについての平均値が三つのクラスターのなかで最も低かった(6.5点)(5)

 「中間クラスター」:このクラスターは,30代,40代,50代はほとんど同じような比率を示しており,3・4世が占める割合が最も少ない(平均年齢52.6歳)。教育年数はいずれのカテゴリーもほぼ同じ割合の分布を示し,職業については「専門」がほぼ半数近くを占め,「無職」「販売」が相対的に多かった。全体の約3割の人びとが現在,民族団体に参加しており,民族的誇りについての平均値は7.4点であった。

 「本名クラスター」:このクラスターは,50代を中心にやや高年齢層に偏っている(平均年齢45.8歳)。三つのクラスターのうち,1世が占める割合が最も多い。高等教育を受けた人びとの割合が過半数を占めており,職業については「専門」がほぼ半数を占め,「事務」「管理」が相対的に多く,職業威信スコアの平均値が最も高かった(平均スコア55.0点)。現在における民族団体への「参加」に関しては全体の約3割程度で「中間クラスター」とほぼ同じ比率であった。そして,民族的誇りについての平均値が三つのクラスターのなかで最も高かった(7.9点)。

 以上,これら三つのクラスターについてみてきた結果,「名前の使い分けパターン」と「教育年数」「職業」といった階層性が関係していることが見出せた。すなわち,一貫して本名を使用する人びとは教育年数が長く,高い職業威信スコアをもつ職業に従事している傾向にある。その一方で,一貫して通名を使用する人びとは教育年数が短く,低い職業威信スコアをもつ職業に従事している傾向にある。また,「民族団体への参加経験」や「民族的誇り」といった「民族性」についても,「名前の使い分けパターン」との関係が明確に示された。

12.3 本名使用度と本名を名乗る意志の規定要因について

 最後に,どのような生活状況に置かれた人びとが本名を使用するのか,または人びとが本名を名乗る意志はどのような生活状況において形成されているのかを考察していく。

 まず,人びとが実際に日常生活において本名を名乗っている程度(本名使用度)と,民族の誇りとして本名を名乗る意志の程度について,幾つかの基本的要因がもつ影響力の強さを示した(表1を参照)。

 本名使用度にたいしてプラスの影響力をもつ基本的要因は職業威信,教育年数,親民族意識認知,学校外民族教育,被差別体験,「同胞」の友人・知人数,マイナスの影響力をもつ基本的要因は収入であった。

表 12-1 本名使用度と本名を名乗る意志についての重回帰分析

本名使用度

本名を名乗る意志

年齢 0.01 0.16**
職業威信 0.16** 0.04
収入 −0.12* −0.04
学歴 0.16** 0.09*
親民族意識認知 0.22** 0.30**
学校外民族教育 0.12** 0.12**
被差別体験 0.11* 0.08*
同胞友人数 0.15** 0.06
決定係数(R2 0.18 0.18
サンプル数(N 411 672

値は標準偏回帰係数(β係数) **p<.01 *p<.05

 第一に,これらの変数のうち,地位変数として職業威信,教育年数,収入が影響力をもっている。つまり,職業威信が高いほど,教育年数が長いほど,そして収入が低いほど,本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,職業威信が低く,教育年数が短く,そして収入が高いほど,通名を名乗る傾向にある,ということである。「職業」「教育年数」「収入」は人びとの社会的地位の基本的な構成要素である。これらの変数による影響力の強さの方向が異なることは,本名使用度について在日韓朝鮮人に分配されている各社会的資源の程度が一致しないこと(例えば教育年数は長いが収入が低いような人)が関係していることを示しているように思われる。

 第二に,両親の民族意識が強いほど,民族学校以外での民族教育を多く受けているほど,「同胞」の友人・知人を多くもっているほど,そして被差別体験が多いほど,本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,両親の民族意識が弱く,学校外の民族教育を受けておらず,「同胞」の友人・知人が少なく,被差別体験が少ないほど,通名を名乗る傾向にある,ということである。これらの項目は,例えば地域や家庭といった具体的な生活の場で体験されるものごとである。本名を名乗る人びとは,両親から本名を名乗る大切さを教え伝えられ,民族教育を通じて在日韓朝鮮人の一人として本名を名乗る意義を学び,そして「同胞」の友人・知人とともに民族としての連帯感を築き上げているように思われる。そういった意味においては,被差別体験は,人びとが本名を名乗ることに対して問題意識をもつきっかけの一つになっているのかもしれない。なかには,民族差別をうけることによって,名前と出自を隠し,日本人になりすまそうとするケースもあるだろうが,全体としては差別体験を克服するかたちで本名を名乗る傾向のほうが強いのである。

 なお,年齢の係数が有意ではないというのは興味深い事実である。年長者だから,あるいは年を取ったから本名を名乗るといった関係はないということだ。逆に言うと,歳が若いほど通名を名乗るという傾向はないということである。在日韓朝鮮人の若い世代の民族性が希薄であることを嘆く意見も聞かれるが,実際に本名を名乗るかどうかについていえば,そういった主張は意味をなさないことになる。

 では,実際に本名を使っているかではなく,本名を名乗るべきだという意志についてはどうだろうか。表1の右の行をみると,本名を名乗る意志にたいしてプラスの影響力をもつ基本的要因は年齢,教育年数,親民族意識認知,学校外民族教育,被差別体験であり,マイナスの影響力をもつ基本的要因はなかった。

 第一に,年齢が高い人ほど本名を名乗るべきだとする意志が強い。この傾向は逆に若い人びとほど本名を名乗る意志が弱いことも示す。前述したとおり,実際に日常生活において本名を名乗るかどうかについては年齢の影響力はない。しかし,本名を名乗るべきだとする意志については,年齢の影響力があるということだ。この分析からははっきりしたことは言えないが,本名を名乗るべきだ意志は強くても実際には名乗らない(もしくは名乗れない)年長者と,本名を名乗るべきだ意志が強くはなくても実際には名乗っている(もしくは名乗れる)若者の姿が浮かび上がってこよう。

 第二に,地位変数としてはわずかながら教育年数のみが影響力をもっている。符号はプラスであり,教育年数が長い人ほど本名を名乗るべきだとする意志が強い傾向にある。逆に言うと,教育年数が短いほど本名を名乗る意志が弱い傾向にある。より長期にわたる学校教育を経験するプロセスで主体性が形成され,本名を名乗る意志につながる可能性があるのか,あるいは教育年数が長いことが本名を名乗る意志を培う期間を与えるのかは本調査では明らかではない。今後,十分に熟考すべき点だろう。

 第三に,両親の民族意識が強い人ほど,民族学校以外の民族教育を多く受けてきた人ほど,そして被差別体験を多く受けてきた人ほど本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,行心の民族意識が弱いほど,民族教育を受けていないほど,被差別体験が少ないほど,通名を名乗る傾向にあるということである。これらの項目が示すものは,本名の使用度について言及したとおり,地域や家庭といった具体的な生活の場で体験され,培われるものごとである。そうしたことは,本名使用度についてだけでなく,本名を名乗る意志の程度についてもいえるということだろう。ただし,「同胞」の友人・知人数は,本名の使用度とは異なり,本名を名乗る意志には影響力を及ぼさなかった。この傾向は,ともに本名で呼び合いながら生活している「同胞」の友人・知人が身近に存在しないことが一因となっているのかもしれない。

 さて,ここまで本名の使用度と本名を名乗る意志について別個に議論してきたが,両者を比較してみるとどういうことが分かるだろうか。

 本名を名乗る意志にたいしてもっとも強く影響を与えている要因は,親の民族意識である。親の民族意識は他の要因を圧倒する影響力を持っており(β=0.3),本名を名乗るべきかどうかという意思を形成する基幹的な要因であると言ってよい。それにくらべて,他の要因の影響力は小さく,有意な影響力を持つものも本名の使用度とくらべると少ない。

 一方,本名の使用度については,親の民族意識がもっとも強い影響を持っているとはいえ,他の要因にくらべて圧倒的な強さであるとはいいがたい。本名を名乗る意志にくらべると,本名の使用度にたいして有意な影響力を持つ要因も多く,親の民族意識は多くの要因のうちの一つだと位置づけるべきであろう。

 つまり,本名を名乗るべきだとする意志については,親の民族意識といった家庭内の民族的な価値態度が主たる形成要因であるのにたいして,実際に本名を名乗るかどうかについては,社会階層や生活体験,友人数といった生活構造上のさまざまな要因のなかから複合的に規定される,ということである。

 ところで,表1において,年齢に関してさらに分析が必要であると示唆されたため,表2に在日世代によって同様の重回帰分析を実施した。その結果,世代ごとに基本的要因の影響力の程度がそれぞれ異なることに気付く。以下,世代ごとに検討を加えていくことにする。

表 12-2 世代別にみた本名使用度と本名を名乗る意志についての重回帰分析

本名使用度

本名を名乗る意志

1世

2世

3・4世

1世

2世

3・4世

職業威信 0.08 0.13 0.35** −0.19 0.03 0.20*
収入 −0.49** −0.64 −0.19 0.15 −0.00 −0.23*
学歴 0.13 0.23** 0.05 0.16 0.06 0.06
親民族意識認知 0.20 0.12* 0.32** 0.35** 0.23** 0.35**
学校外民族教育 −0.06 0.13* 0.24* 0.09 0.09* 0.16
被差別体験 0.09 0.05 0.27** 0.20 0.10* 0.11
同胞友人数 0.30* 0.10 0.10 0.16 0.04 0.10
R2 0.43 0.14 0.42 0.26 0.09 0.24
N

43

278

89

66

465

140

値は標準偏回帰係数(β係数) **p<.01 *p<.05

 まず,左側の本名使用度に関しては,以下のようにまとめることができる。

 1世は収入が低い人ほど,「同胞」の友人が多いほど,本名を名乗る傾向にある。これは1世が置かれていた時代的な状況,つまり貧困のなか「同胞」とともに生活を営むなかで本名を名乗るようになったと考えられる。そして,比較的高い収入をえるためには,本名を名乗ることが困難であったとも解釈できる。

 2世は教育年数が長い人ほど,両親の民族意識が強い人ほど,そして「広い意味での民族教育」を多く受けた人ほど,本名を名乗る傾向にある。他の世代にくらべて学歴の影響力は飛び抜けて大きい。逆に,他のどの要因も影響力を下げており,したがって決定係数の値が極端に落ち込んでいる。教育達成はさまざまな要素を兼ね備えている要因なので,この分析だけでこのことの理由を判断することは困難である。今後の分析課題である。

 3・4世は職業威信が高い職に就いている人ほど,両親の民族意識が強い人ほど,そして学校外の民族教育を多く受けた人ほど,そして被差別体験の多い人ほど,本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,両親の民族意識が弱いほど,民族教育を受けていないほど,被差別体験が少ないほど,本名を名乗らない傾向にあるということだ。他の世代にくらべて,社会階層以外の要因が強い影響力をもっている点が特徴的である。社会的地位を達成するために本名を名乗れないとか,あるいは一定の学歴を達成しなければ本名を名乗れないといったことではなく,より広範な生活体験にもとづいて本名を名乗るかどうかが規定されているということであろう。

 次に,本名を名乗る意志の程度についてみてみよう。

 本名を名乗る意志については,どの世代においても,両親の民族意識がもっとも強い影響力をもっている。本名を名乗るべきかどうかという意志は,世代を問わず,家庭内の民族的な価値態度にもっとも強く規定されているということである。

 なお,被差別体験についてだが,2世に関してみてみると,本名使用度にたいして有意な影響力を及ぼしていない一方,本名を名乗る意志の程度にたいしては一定の影響力を及ぼしている。逆に,3・4世の場合,本名使用度にたいする影響力は少なからず認められるが,本名を名乗る意志の程度にたいしては影響力を及ぼしていない。いまの時点ではこの理由を判断するのは困難である。これも,今後の分析課題である。

12.4 おわりに

 第1節で,現在の日本社会は在日韓朝鮮人が日常的に本名を名乗ることができる状況ではないこと,第2節で名前の使い分けのパターンとその諸特徴(主に階層性)との関係,そして第3節で本名使用度と本名を名乗ろうと意志についてそれぞれ影響力をもつ諸要因が同じではないこと,そして世代ごとに影響力をもつ諸要因とその影響力の程度が異なることが明らかになった。

 本稿では,名前の使用について,特に在日韓朝鮮人が日本社会のなかで位置づけられた状況(階層構造)との関係に中心に論じてきたが,社会的地位に配分される社会的資源の程度が一致しない状態,すなわち「地位の一貫性」が関係しているのではないかと示唆された。日本の階層研究においては,「民族」というファクターを考慮することなく,「地位が非一貫である人びとが多くいる社会は全体的に平等な社会である」と一般的にいわれている。こうした階層問題と,具体的な生活の場で培われる「名前の使い分け」のような「民族をめぐる問題」の関係について今後も引き続き検討していく必要があるだろう。


第12章 注

  1. 神奈川県内在住外国人実態調査の場合,国籍が「韓国・朝鮮」であるケースのみ(N=866),第3次在日韓国人青年意識調査は796人,本調査は549人を対象として作図した。第3次在日韓国人青年意識調査と本調査の場合,「ほとんど通名」と「通名の方が本名より多い」と回答した人びとを合わせて「通名多く使用」とした表わした。また,本調査の場合,名前の使い分けに関する項目(問30a,問30b,問30c)からなる合成指標を用いた。この指標は,これらの三項目に主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成したものであり,1点「まったく通名だけ」から7点「まったく本名だけ」までの7点尺度である。なお,この指標は主に「本名使用度」として用いている。
  2. この指標は名前の使い分けに関する各項目(問30a,問30b,問30c)を示しており,1点「まったく通名だけ」から7点「まったく本名だけ」までの7点尺度である。
  3. この分析については,統計パッケージSPSSのQUICK CLUSTERプログラムを使用した。そして,クラスター数とクラスター・センターの初期値を変えながら,最も有意味で適切だと思われる分類として3つのクラスターを析出した。
  4. 教育年数に関しては,「初等教育」を旧制尋常小学校・旧制尋常小学校・新制中学校,「中等教育」を旧制中学校・実業学校・師範学校・新制高校,「高等教育」を旧制高校・高専・旧制大学(大学院を含む)・新制短大・高専 ・新制大学(大学院を含む)と区分した。なお,韓国やその他の学校についても日本の学校と同様に3区分した。
  5. 「民族的誇り(問38a)」1点:非常に嫌だと思う〜10点:非常に誇りに思う。なお,三つのクラスターにおける「民族的な誇り」および「本人職業威信スコア」についての各平均値の間に統計学的に有意な差が示されている。


13. 権利

中原洪二郎

13.1 はじめに

 日本人にとっては当然の権利であっても,在日韓国人には認められいないものが数多くある。日本政府の立場からすると,その根拠は,在日韓国人は「外国人」であって,「日本人」ではないから,という一点につきる。しかし,在日韓国人は観光のために短期滞在しているわけではない。在日韓国人にとって日本での生活はまさに日常そのものであり,日本で生まれ,あるいは日本で暮らし,あるいは日本で死んでいく,取り替えの効かないそのものずばりの生活の場なのである。その点で,在日韓国人にとって権利の問題はきわめて重要であり,外国人だからというひとくくりで論じるべきではない。

 また「権利」の問題は,必ずしも意向の問題ではない。必要なものについては獲得し,そうでないものは獲得しないという,狭義の合理性のみによって語られるべきではない。時には,在日韓国人のほとんどが「自分には必要でない」と考えていたとしても,それが権利の取捨選択の根拠には必ずしもならない。しかし同時に,権利を意向という観点から理解することは,在日韓国人が抱える現実を理解することにつながる。そういった意味では,今回の分析は,在日韓国人にとって,どの権利が必要か,という議論を目指したものではなく,権利というものを通して,在日韓国人の現実を浮き彫りにしようとするものである。

 では,在日韓国人自身は,自らの権利について,どのような権利を必要と考えているのだろうか。この調査では,在日韓国人と関係が深く,かつ行使が制限されている,あるいは制約を受けていると考えられる12の権利について,個人的な必要性(問40a)と在日韓国人全体にとっての必要性認知(問40b)を質問している。12の権利とは,1. 日本の地方自治体の選挙で投票する権利(日本地方参政権),2. 日本の国政選挙で投票する権利(日本国政参政権),3. 韓国の地方自治体の選挙で投票する権利(韓国地方参政権),4. 韓国の国政選挙で投票する権利(韓国国政参政権),5. 日本人と同じように公務員に採用される権利(公務員採用),6. 日本人と同じあらゆる職業につける権利(職業機会),7. 日本人と変わらない社会保障を受ける権利(社会保障),8. 外国人登録証をいつも携帯していなくてもよい権利(登録証不携帯),9. 外国人登録証の廃止(登録証廃止),10. 日本への帰化が簡単に出来る権利(帰化簡易化),11. 民族教育を受ける権利(民族教育),12. 日本人と同じ教育を受ける権利(一般教育)である(かっこ内は略記)。

 10番目の帰化簡易化を「権利」とみなすことについては,一般通念に照らして違和感があるかもしれない。しかしながら,日本国籍を取得したうえで積極的に国民としての権利を行使し,民族的マイノリティの権益を擁護すべきだとの意見が少数派ながら存在することを考えて,項目に含めてある(1)

13.2 年齢と世代による権利要求の違い

 まず,これらの権利の個人的な必要性について概観してみよう。図1.は世代ごとに「必要だ」と回答した人の割合をあらわしたものである。

(単位%,かっこ内は基数,複数回答)

図 13-1 世代ごとにみた「自分に必要な権利」

(単位%,かっこ内は基数,複数回答)

図 13-2 年齢層ごとにみた「自分に必要な権利」

 各権利の順序は,全体で必要と回答した比率が高い順に左から並べてある。大まかな傾向として,多くの人が必要だと考えている項目ほど,世代間の意向の差が小さくなっているように見える。たとえば,社会保障や職業機会,登録証不携帯といった権利については,70%以上の回答者が「必要だ」としており,世代の差は小さいが,一般教育,民族教育については1世,2世,3世それぞれの差が,韓国国政参政権,韓国地方参政権については,1世と2世および3世の差が大きくなっているのがわかる。

 では,年齢ごとに見るとどうだろうか(図2)。

 世代ごとでは,差違があまり見られなかった,必要性上位の社会保障,日本地方参政権,職業機会については,やや年齢差が認められる。また,民族教育,一般教育についても,世代ごとよりも年齢による分類の方が,必要性の差がはっきりと見られるようである。登録証不携帯や公務員採用については,世代による分類でも年齢による分類でも,あまり必要性に差が見られない。

 このような見方は,権利に関する従来の議論をある程度裏付けるものではある。年齢が高くなれば保障は切実な問題であるし,韓国で生まれた1世にとっては,韓国での参政権が重要な意味を持つだろう。在日韓国人すなわち日本人ではないという帰属意識があるならば,日本全体についての政治参加よりも,自らが居住する地域の行政に関わる参政権をより重視するだろう。そして投票行動において,年齢が高い人々の方が投票率が高いのも知られた事実であるし,日本地方参政権について年齢差が生じるのも頷ける。

 しかし,権利の必要性という問題を年齢と世代という観点からのみ記述することは,問題の矮小化につながる。図1と図2は,確かに年齢や世代による差違を推測させるものではあるが,その背景まではわからない。なぜ差が生じているのか,あるいは生じているように見えるのかを知るためには,さらに高度な分析が必要となる。

 そこで,もう少しつっこんだ分析をしてみよう。確かに,世代と年齢という観点は,在日の権利を考える上で重要なものである。12の権利を必要と回答する確率を説明する変数として,一般的属性,民族的属性,民族的経験,心理的要因の4変数群を設定し,それぞれの権利を必要だとする回答を説明するのに適切な変数を探索的に選び出してみる。それぞれの変数群に含まれる変数は,以下の通りである。

<権利の必要性の認知に影響すると考えられる諸要因>

●一般的属性

年齢,収入,教育年数,職業8分類

●民族的属性

世代,民族教育年数(学校)(問13),民族教育(学校外)(問14)

●民族的経験

15歳時点での同胞集住状況(問25a),現在の同胞集住状況(問25b) ,15歳時点での年間チェサ回数(問27a),民族風結婚式の頻度(問27b),民族的行事(問27c),両親の民族意識認知(問27d),差別体験(問36)

●心理的要因

愛着(問39),地域コミットメント強度(問43)

13.3 日本の参政権

 12の権利をそれぞれ被説明変数とし,ロジスティック回帰分析を行った。なお,尤度比による変数増加法を適用し,それぞれの権利を説明するのに適切な説明変数を選び出した。分析の結果は,上に示された変数同士の,いわば力比べのようなものなので,最終的に説明変数として選ばれなかったからといって,その変数が被説明変数にまったく関連していないというわけではない。しかし同時に,選ばれなかった変数は,少なくとも被説明変数を説明するのに十分な力を持っていないともいえる。

 では,それぞれの項目について検討していこう。まず「日本地方参政権」についてだが,この権利を必要だとする比率は全体で8割にのぼる。また図1,2で見ると,世代差よりは年齢差の方がやや大きいように見える。しかし,分析の結果は,年齢差の存在を示さなかった(表1)。

表 13-1 日本地方参政権

係数 Waldχ
民族風結婚式の頻度 .1508 4.1086*
北朝鮮愛着 −.3316 8.5210**
統一祖国愛着 .3532 10.9870**
地域活動参加 .3113 11.4025**
定数 −.6150 1.9664

―2LL=489.163 χ248.822** Nagelkerke=.129 ** p<0.01 * p<0.05

 まず簡単に表の見方を説明する。注意点は係数の符号の向きとWald統計量の大きさである。たとえば,民族風結婚式の頻度の係数は,プラスであるので,この頻度が高いことが,日本地方参政権を必要だと回答することを支持しているということである。逆に,マイナスになっている北朝鮮への愛着は,愛着が強いことと,日本地方参政権を必要としないことに関連があることを示している。また,Wald統計量の大きさが大きい変数が,より強く日本地方参政権を規定していることになるので,もっとも規定力の大きい変数は,地域活動参加だということになる。Wald統計量の右に星印が示されている変数が,統計的にみて,日本地方参政権を説明しているといえるものである。

 さて,表1によれば,北朝鮮あるいは統一された祖国への愛着がマイナスとプラスに働いていることがわかる。重要なのはその符号の方向ではなく,「日本」への愛着が,「日本」地方参政権を必要だとする回答に影響を与えているとはいえないことである。もう一つの変数,地域活動への参加(この地域や町内でする行事(清掃,廃品回収,運動会など)には参加する方だ)が含まれていることを見ると,日本地方参政権を必要だとする回答者は,地域住民としての地方行政への参加を志向しており,しかもその背景には,民族的な意識が存在していると考えられる。

 このような傾向は,地方参政権だけでなく国政参政権についても見ることができる(表2)。ただし,日本地方参政権とのもっとも顕著な違いとして「世代の効果」がある。

表 13-2 日本国政参政権

係数 Waldχ
世代 10.9519*
戦前1世 .1448 .1393
戦後1世 .3454 .4069
2世 -.5964 8.9291**
2-3世 .2003 .4176
3世 -.0941
民族教育年数(学校) -.0610 4.0883*
年間チェサ回数 .0956 6.5268**
統一祖国愛着 .2267 7.0771**
地域活動参加 .2394 9.2279**
定数 -1.0286 5.6259*

−2LL=646.920 χ2=43.116** Nagelkerke=.108 ** p<0.01 * p<0.05

 「日本国政参政権」という権利について,「15歳時点での年間のチェサの回数」や「民族風結婚式が身近で行われた頻度」がプラスの影響を持っているというのは,一見奇異に見えるかもしれない。実は,参政権以外の権利についても,民族的経験の有無が規定力を持っている項目が多く存在している。民族的経験の有無が,権利に対する意識を広範に高める効果をもっているのであろうか。

 世代について見ると,2世についてのみ統計的に有意な影響が認められている。また,他の世代の係数がプラス(3世は0といってよい)であるのに,2世のみマイナスとなっている。つまり,2世であることが,日本国政参政権を必要ないと回答することと関連しているということである。これはなぜであろうか。

 実は,分析に際して変数選択を行わず,上記に示した全ての変数が説明変数として分析に用いられている状態でも,やはり2世だけがマイナスの係数を持つ。これは,2世であること以外の,上記に示した全ての変数の影響を取り除いてもなお,2世であることに統計的に意味がある,ということである。

13.4 韓国の参政権

 ここで,同じように世代が影響を持つ2つの権利,韓国地方参政権と,韓国国政参政権について見てみよう(表3および表4)。

表 13-3 韓国地方参政権

係数 Waldχ
世代 18.2023**
戦前1世 .6877 4.1371*
戦後1世 .9284 4.2745*
2世 −.6429 9.5210**
2-3世 −.7777 3.9899*
3世 −.1955
両親民族意識強度 .4417 6.8023**
統一祖国愛着 .5989 22.1008**
定数 −4.7951 39.9958**

−2LL=451.630 χ271.549** Nagelkerke=.203 ** p<0.01 * p<0.05

表 13-4 韓国国政参政権

係数 Waldχ
世代 20.6423**
戦前1世 .5899 2.9732
戦後1世 1.2061 5.9287*
2世 −.7733 14.5639**
2-3世 −.3161 .9669
3世 −.7066
民族風お払い −.3106 6.8708**
仕事上の差別体験 −.2708 4.6636*
統一祖国愛着 .5699 24.3999**
定数 −2.2299 16.1519**

−2LL=499.432 χ278.712** Nagelkerke=.209 ** p<0.01 * p<0.05

 世代に着目してみると,こちらは日本国政参政権と異なり,非常に明確な傾向が存在していることがわかる。つまり,1世であることと韓国の地方参政権を必要だと考えることの間に関連があり,日本で生まれた2世,3世については,その逆の効果を持っているということである。この傾向は韓国の国政参政権についても変わらない。

 日本国政参政権と2世の関係については,さらに別の観点から分析する必要がありそうである。

 さて,世代についてはひとまずおいて,続けて韓国の地方・国政参政権について検討しよう。

 韓国地方地方参政権で特徴的なのは,「両親」に対する認知である。両親の民族意識が強かったと認知している回答者ほど,韓国での地方参政権を必要だと回答している。この傾向は,韓国国政参政権では統計的に認められない。

 韓国の地方参政権,国政参政権の両方を通じて読みとれるのは,統一された祖国への愛着が持つ,規定力の大きさである。ここでの愛着は,祖国の統一に対する強い希望と読み替えることができるのだろう。ただ,民族的経験がここではマイナスに効いている。

13.5 地方公務就任権

 さて,次に公務員として採用される権利について検討しよう。在日韓国人の地方公務員への採用は,一部の自治体で実現しつつある。

表 13-5 公務員採用

係数 Waldχ
民族教育年数(学校) −.0751 5.2330*
民族風結婚式 .2517 12.6663**
職場差別体験 .3241 4.6161*
日常差別体験 −.4215 8.5494**
官庁差別体験 .3392 7.5357**
日本愛着 .3137 8.1116**
統一祖国愛着 .2083 5.1800*
定数 −1.9515 10.2627**

−2LL=538.754 χ2=52.574** Nagelkerke=.142 ** p<0.01 * p<0.05

 やはり,日本の地方公務員としての採用であるから,日本への愛着の強さが関連しているのであろう。それと同時に,統一祖国への愛着が,ここでもプラスの影響を与えていることがわかる。愛着についての分析で見たように,統一祖国への愛着と日本への愛着はほとんど無相関であった。従って,公務員に採用される権利を必要だとする要因として,それぞれにはまったく異なるメカニズムが存在していることがうかがえる。

13.6 職業機会

 次は日本人と同じあらゆる職業につける権利について検討する(表6.)。

表 13-6 職業機会

係数 Waldχ
民族風葬式 −.3407 7.4973**
官庁差別体験 .3524 8.4296**
地域に役立つ .3526 10.7633*
定数 −.4137 .9102

―2LL=480.865 χ2=33.960** Nagelkerke=.101 ** p<0.01 * p<0.05

 「この地域のためになることをして役に立ちたい」という意識と,「日本人とあらゆる職業につける権利が必要だ」という意識が結びついていること,「日本の官庁,官吏から差別を受けたことがある」という経験と,「日本人とあらゆる職業につける権利が必要だ」という意識が結びついていることに,在日韓国人の歯がゆい気持ちを読みとるのは,やや読み過ぎだろうか。

13.7 社会保障

表 13-7 社会保障

係数 Waldχ
官庁差別体験 .3332 6.3917**
北朝鮮愛着 −.3112 6.1089**
統一祖国愛着 .3749 10.6441**
地域に役立つ .3861 9.0721**
地域自我包絡 −.2418 4.3593*
定数 -.1953 .1191

―2LL=425.690 χ2=37.491** Nagelkerke=.118 ** p<0.01 * p<0.05

 表7は,全体としてはもっとも「必要だ」と回答する人が多かった,「日本人と変わらない社会保障を受ける権利」についてまとめたものである。ここで特徴的なのは,「この地域のためになることをして役に立ちたい」という意識がプラスに,「この地域の悪口を言われたら,何か自分の悪口を言われたような気になる(自我包絡)」が,マイナスに効いていることである。「地域に役立ちたい」という意識と,「地域自我包絡」との間には,正の相関がある。つまり,地域に役立ちたいと考えている人ほど,自我包絡が強いという傾向があるのだが,ここではそれぞれが独立に働いている。

 社会保障については,年齢や収入との関連が思い起こされがちだが,分析の結果,ほとんど両者の影響は見られなかった。ただし,社会保障については非常に多くの回答者が必要だとしているため,統計的にみて必要・不必要の別を規定する要因を特定することが難しくなっている。その点を留保して解釈する必要があるだろう。

13.8 外国人登録証

 次は,外国人登録証に関する2つの権利について検討しよう(表8,表9)。

表 13-8 登録証不携帯

係数 Waldχ
出生1年お祝い −.3200 8.2060**
名前差別体験 .2705 5.8321*
近所差別体験 .2666 8.3737**
定数 −.2382 .3642

―2LL=517.068 χ2=29.902** Nagelkerke=.086 ** p<0.01 * p<0.05

表 13-9 登録証廃止

係数 Waldχ
年齢 .0240 10.5014**
名前差別体験 .2259 6.0475**
定数 −1.0535 8.3727**

―2LL=670.490 χ2=20.527** Nagelkerke=.053 ** p<0.01 * p<0.05

 登録証を携帯しなくてもよい権利,あるいは登録そのものをしなくてもよい権利を規定する変数の中で,特徴的なのは,「名前についての差別体験」である。名前のことで日本人から差別を受けた経験と,登録証に対する否定的な考え方とが結びつくのは,登録証によって通名と本名,日本名と民族名といった名前の問題が顕在化するからだろう。

 12の権利の必要性を規定する変数群の中で年齢が,唯一,登録証廃止についてのみ登場する。しかし,登録証不携帯,登録証廃止については,説明変数による全体の説明力そのものがあまり強くなく,かつ年齢の係数は非常に小さい。

13.9 帰化

 次は,「日本への帰化が簡単に出来る権利」である。在日韓国人にとって国籍の問題は,きわめて重要な問題である。さて,表10からどのようなことがわかるだろうか。説明変数として並んでいるそれぞれの変数も重要だが,帰化の簡易化について,世代や年齢といった属性が,効果をもたないこともまた重要である。「日本への帰化などとんでもない」という評価が行われるとき,その「とんでもなさ」の原因を日本で生まれたから,あるいは年齢が若いから,といった属性に帰属させるとしたら,それは必ずしも正しくはないということである。

 表10.の説明変数の中で,もっとも大きな規定力を持っているのは,「日本への愛着」である。「在日韓国・朝鮮人への愛着」と比較すると,前者はプラス,後者はマイナスの効果を持っている。その他の民族的な変数についても,経験的に理解できる傾向を示している。

 地域参加の程度がプラスに働いていることについては,もう一歩踏み込んだ分析を待たねばならない。なぜなら,回答者が想定している「地域」が,在日韓国人の多住地域なのか,そうでないのかによって解釈が変わるからである。

表 13-10 帰化簡易化

係数 Waldχ
教育年数 −.0677 3.3603
民族教育年数(学校) −.0949 6.9124**
民族教育(学校外) −.1842 3.9569*
学校差別体験 −.2817 10.8070**
生育地域愛着 −.2242 3.9743*
日本愛着 .6767 30.1438**
在日愛着 −.3445 7.9193**
地域参加 .1922 5.6025*
定数 .6947 .7888

−2LL=627.999 χ281.130** Nagelkerke=.194 ** p<0.01 * p<0.05

13.10 民族教育

 最後の2つは,いずれも教育に関する項目である。

 ここでもやはり,統一祖国への愛着が登場し,いずれも強い規定力を持っているが,あえて他の変数を中心に検討してみよう。

 民族教育を受ける権利については,民族風還暦が強いマイナスの効果を持っている以外は,ほとんどの説明変数が,非常に納得のいくものである。

 一般教育について目を引くのは,「15歳の頃の同胞集住状況」と,「現在の同胞集住状況」が,まったく逆の効果を持っていることである。つまり,15歳時点で集住の程度が強かったことと,一般教育を必要だと考えることに関係があると同時に,現在の集住の程度が強ければ,一般教育を必要だと考えないことに関係がある。ちなみに,15歳時点での集住状況と現在の集住状況の間には正の相関がある。15歳時点で集住→現在も集住という回答者と,それ以外のパターンの回答者の間に,どのような相違点があるのかを分析することによって,その意味があきらかになるかもしれない。

表 13-11 民族教育

係数 Waldχ
教育年数 .0801 5.0284*
民族風還暦 −.4010 16.0446**
名前差別体験 .4023 17.0796**
在日愛着 .3552 7.5428**
統一祖国愛着 .4832 25.0452**
地域改善予期 .2259 4.4952
定数 −6.0987 51.0549**

―2LL=597.103 χ2114.853** Nagelkerke=.266 ** p<0.01 * p<0.05

表 13-12 一般教育

係数 Waldχ
15歳時点集住状況 .2283 8.2854**
現在集住状況 −.2033 5.6640*
民族風結婚式 .1946 9.2370**
北朝鮮愛着 −.3050 10.9080**
統一祖国愛着 .4384 24.1793**
地域参加 .2234 7.9408**
定数 −2.3612 24.6355**

―2LL=639.320 χ279.328** Nagelkerke=.189 ** p<0.01 * p<0.05

13.11 まとめ

 冒頭に示した世代と年齢による分類は,別の分析法によって,多くの権利について必ずしも重要とはいえないことが示された。この結果は,世代と年齢といった固定的な属性だけではなく,在日韓国人の持つ多様な現実が,権利の必要性評価に反映されていることを示している。このことは権利についてのみならず,在日韓国人の直面する諸問題と分析的に接する上では,常に注意しなければならないことだろう。


第13章 注

  1. ただし,実際にこの項目に回答したからといって,そうした「帰化による権利行使」論を支持するとは限らないことには注意が必要である。むしろ,第10章「自尊心」で示唆されているように,いわゆる同化的帰化を望む人がこの項目に回答するケースのほうが多かったようである。