3. 社会的地位達成 
金明秀 

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3.1 はじめに   

 本調査のタイトルにある「社会成層」とは,一般の国語辞典には載っていないが,social stratificationの訳語として用いられており,社会階層(social stratum)が成立するプロセスのことを意味する。そして,社会階層とは「社会的地位の構造」のことであり,社会的地位とは「社会的資源とその獲得機会が不平等に分配されている状態」のことである。つまり,社会階層とは,「不平等の構造」だと言い換えることができる。   

 なお,社会的資源とは,「人々の欲望の対象であるが,相対的に稀少な資源」のことであり,具体的には,財産や資本のような物的資源,勢力,権力,威信のような関係的資源,知識や情報といった文化的資源がある。だが,そのうち調査によって測定可能なものはかぎられており,本調査では,教育と職業を社会的地位の主な規定要因と考え,それによって在日韓国人内外の不平等構造を明らかにしていく。   

3.2 民族間の不平等とはなにか(1)   

 表1に,教育年数(1)と現職の威信(2)について,本調査データを日本人データと比較したものを示した。日本人データは,1995年に実施された「社会階層と社会移動全国調査」(以下,SSM調査)より,A票の男性のみを取り出したものである。   


表 3-1 教育年数と職業威信の平均値比較 
教育年数 
職業威信 
平均値 
標準偏差 
平均値 
標準偏差 
在日韓国人  
12.01 
2.99 
48.02 
12.82 
日本人  
12.35 
2.78 
47.32 
11.39 

 教育年数,職業威信のいずれの平均値をみても,在日韓国人と日本人のあいだで,明確な差異はみられない。職業威信の差は,統計学的には誤差の範囲内におさまっているし,教育年数の差についても,両調査の年齢のずれによる影響を除去すれば,統計学的には誤差の範囲内におさまってしまう。つまり,教育年数と職業威信のみを取り上げれば,在日韓国人は日本人と同程度の地位達成をなしとげているわけである。   

 従来,在日韓朝鮮人が日本人よりも不利な立場に置かれ,民族間に不平等があるということは自明のように語られてきた。しかしながら,社会的地位の指標としてもっとも重要だと思われている2つの指標において,不平等はみられなかったのである。このことを,時系列の変化をおって確認してみよう。図1は,各サンプルごとに初職就業時点から現在までの職業威信を年齢順に算出し,各年齢ごとにその平均値をならべたものである(3)。異なる年齢層を一つの図に押し込めてしまっている(たとえば,現在65歳のサンプルが20歳の時点での職業威信と,現在20歳の職業威信を同一のものとしてあつかっている)ため,この図から精確なトレンドを導き出すことはできないが,「在日韓国人は,青少年期には日本人より不利な立場に置かれてきたが,一定の年齢に達するまでに何らかの手段によって日本人と同等の地位達成をなしとげている」というおおまかなストーリーが浮かび上がってこよう。   
Figure3-1

図 3-1 年齢による職業威信の変遷(全コーホート) 

 ならば,ここで明らかにしなければならないことは,なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか,そして,在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか,ということである。   

3.3 民族間の不平等とはなにか(2)   

 前節で指摘した問題を追究するまえに,もうすこし別の観点から職業的な地位の民族間における違いをみておこう。   

 職業的な地位の指標は,なにも職業威信のみではない。代表的なものをあげれば,従業先の規模(会社の大きさ),従業上の地位(経営者か一般従業者かなど),仕事の内容(どれほど責任や知識を必要とする仕事か)などがある。そこで,これらを複合的に組み合わせた職業分類を,表2のように構成した。また,現在の職業を表2にしたがって分類したデータを,表3に示した。   

 表3において特徴的なことは,(1)「自営」すなわち雇用規模30人未満の零細企業に就業している在日韓国人は日本人の2倍以上におよび,比率において半数を超えていること,(2)逆に「雇W」つまり一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数,比率にして1割強でしかないこと,(3)在日韓国人のなかで,「農業」すなわち農林漁業従事者は非常にまれであること,である。農業については別途論じる必要があるが,1,2を端的にまとめるならば,在日韓国人と日本人の職業的な地位の違いは「自営」の比率に還元される,ということである。  

表 3-2 職業5分類の構成基準 
分類名 
分類基準 
T 専管   専門職従事者,30人以上規模企業の経営者,官公庁および300人以上企業規模の課長以上管理職   
U 雇W   企業または官公庁に雇用されているT以外のノンマニュアル職従事者   
V 自営   30人未満規模企業の経営者,自営業主および家族従業者   
W 雇B   企業または官公庁に雇用されているマニュアル職従事者   
X 農業   農林漁業従事者  
表 3-3 職業5分類の民族間比較 
実数
(%) 
専管 
雇W 
自営 
雇B 
農業 
計 
在日韓国人 
96
(14.2) 
84
(12.4) 
352
(52.1) 
142
(21.0) 
2
(0.3) 
676
(100.0) 
日本人 
203
(18.6) 
259
(23.7) 
253
(23.2) 
313
(28.7) 
64
(5.9) 
1092
(100.0) 
計 
299
(16.9) 
343
(19.4) 
605
(34.2) 
455
(25.7) 
66
(3.7) 
1768
(100.0) 

 とはいえ,これは,拙稿を含めすでに先行の諸研究によって明らかにされていることであり,ここで新たに発見された事実というわけではない。そもそも,多くの資源をもたなかった在日一世たちが,はげしい雇用差別を回避しながら経済生活を安定させるために,手ずから事業をおこし,自営業を中心とする在日韓朝鮮人経済をつくりあげてきたということは周知の歴史的事実である。民族的なマイノリティが雇用差別によって自営業に追いやられるということは,なにも在日韓朝鮮人にかぎらず,世界的に広くみられる事象でもある。   

 問題は,今なお在日韓国人は日本の一般企業から排除され,「自営」に囲い込まれつづけているのかということである。言い換えると,「自営」からその他の従業形態に転出するさいに,現在でも民族的な障壁があるのかどうか,ということである。   

3.4 学歴メリットの民族的不平等   

 ここでは,3.2節で示されたいくつかの課題について,親子の世代間で職業的地位が継承され,あるいは獲得されるプロセス(世代間移動)に注目しながら検討していく。   

 図2は,世代間移動のもっとも基本的なモデルである。AとBの矢印は,親の地位によって子の地位が決定されるという意味で「世襲」をあらわしている。それにたいして,Cの矢印は,個人の能力と努力によって地位が達成されるという意味で「機会均等」を表現していると考えられている。   

Figure3-2
図 3-2 世代間移動の基本モデル 

 ただし,教育機会に階層間の不平等がある場合――たとえば,東京大学の学生の親の社会階層が高いことはよく知られた事実である――には,BとCの複合的な影響が生ずることとなり,「世襲」とは言えないまでも,学歴を媒介とした階層による支配を意味する。   

 さて,日本社会をこのモデルに当てはめると,A〜Cすべての矢印が,戦後一貫して有意な効果を持ってきたことが知られている。つまり,現代日本は,世襲的な地位継承と機会均等とが混然とした社会だと解釈されているわけである。だが,これまで日本において,民族というファクターを加味したうえでこのモデルが検討されたことは,一度としてない。はたして,日本における社会的地位の世代間移動に,民族的な不平等は存在するのであろうか。   

 表4は,はじめての職業(以下,初職)の威信が,出身階層,教育達成,民族によってどのように説明されるかを,各年齢層ごとに重回帰分析によって示したものである(4)。年齢層は,三世以降を中心とする「20〜30歳」,二世を中心とする「40〜59歳」,一世を中心とする「60歳〜69歳」で分けてある。   

 各年齢層において「民族」がどのような働きをするかに注目すると,若い年齢層から順に偏回帰係数がプラス方向に大きくなっていくことが分かる。これは,年齢層が上であるほど,同等の階層の出身で,かつ同等の学歴をえていたとしても,在日韓国人のほうが日本人よりも不利な初職にしか就けなかった傾向にある,ということである。時代をさかのぼるにつれて民族的不平等も激しくなるということであり,一般的な実感とも合致する結果である。ただし逆に言うと,年齢層がくだるほど,初職に就業するさいの民族的な不平等は解消の方向にある。とりわけ三世を中心とする年齢層では,もはや「民族」の係数が統計的に有意でさえなく,職業的な地位を威信で代表するかぎり,民族的不平等は存在しないと言ってよい(5)。  

表 3-4 民族を説明変数に含む初職威信への重回帰分析 
コーホート 
変数 
偏回帰係数 
β係数 
R2  
N
20〜39歳   (定数)   13.293**   .191  
524 
出身階層   .113**  
.135 
達成教育   1.840**  
.375 
民族   .975  
.044 
40〜59歳   (定数)   16.926**   .199  
849 
出身階層   .143**  
.182 
達成教育   1.339**  
.328 
民族   2.087**  
.103 
60〜69歳   (定数)   11.693**   .310  
344 
出身階層   .169**  
.193 
達成教育   1.561**  
.440 
民族   4.017**  
.164 
+は10%,*は5%,**は1%で有意。以下同じ。  
表 3-5 民族を説明変数に含む現職威信への重回帰分析 
コーホート 
変数 
偏回帰係数 
β係数 
R2
N 
20〜39歳   (定数)   17.375**  
.214 
522 
出身階層   .242**   .283  
達成教育   1.492**   .299  
民族   −1.139   −.050  
40〜59歳   (定数)   23.342**  
.208 
836 
出身階層   .265**   .279  
達成教育   1.342**   .270  
民族   −1.900*   −.077  
60〜69歳   (定数)   25.752**  
.154 
250 
出身階層   .115   .103  
達成教育   1.590**   .355  
民族   −.618   −.021  

 表5は現職について,同じように重回帰分析をおこなったものである。表4とは対照的に,40〜59歳の年齢層をのぞいて「民族」による効果は統計的に有意ではない。つまり,現職の地位を達成するにあたっては,民族的な不平等を何らかのかたちで克服している,ということである。それだけでなく,「民族」の係数はわずかながらマイナスに転じており,むしろ在日韓国人のほうが,現職については日本人よりもいくぶん高い地位を達成しているということになる。   

 初職に就職するさいには民族的不平等に見舞われながらも,その後は何らかの手段によって日本人と同等以上の地位を達成しているということであり,さきに図1で見たものと同じ構造がここにもうかがわれる。しかし,図1によって示された疑問点,すなわち「なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか,そして,在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか」についての回答にはなっていない。そこで,その回答へのきっかけをつかむために,民族ごとで図2のモデルがどのように異なっているかを確認してみよう。   

表 3-6 民族別の初職威信への重回帰分析 
民族 
コーホート 
説明変数 
偏回帰係数 
β係数 
R2 
N 
在 
日 
韓 
国 
人 
20〜39歳   (定数)   16.500**  
.129 
216 
出身階層   .144*  
.165 
教育達成   1.562**  
.284 
40〜59歳   (定数)   22.162**  
.130 
325 
出身階層   .141**  
.187 
教育達成   1.089**  
.250 
60〜69歳   (定数)   25.502**  
.107 
96 
出身階層   .0125  
.014 
教育達成   1.249**  
.353 
日 
本 
人 
20〜39歳   (定数)   13.948**  
.245 
308 
出身階層   .0859*  
.106 
教育達成   2.029**  
.451 
40〜59歳   (定数)   19.086**  
.239 
524 
出身階層   .145**  
.181 
教育達成   1.494**  
.388 
60〜69歳   (定数)   15.922**  
.408 
248 
出身階層   .237**  
.278 
教育達成   1.636**  
.467 
ANCOVAによると民族間の方程式に有意差があったのは60〜69歳のみ   

 表6は,民族ごとに初職威信への重回帰分析の結果を示したものである。まず,この表の最大の特徴は,どの年齢層をみても,「定数」の値が一貫して在日韓国人のほうが高いことである。これは,在日韓国人が初職に就業するとき,日本人よりも,出身階層や教育達成以外の手段をより多く用いていることを意味している。したがって,出身階層と教育達成による説明力(R2)も,すべての年齢層において日本人のほうが高くなっている。   

 第2の特徴は,どの年齢層をみても,教育達成による効果は,在日韓国人のほうが一貫して低いことである。簡単に言いなおすと,同じ学歴を達成したとしても,在日韓国人は日本人と同じほどには学歴のメリットを生かすことができておらず,その傾向は世代をへても基本的に変化していない,ということである。   

 第3の特徴としては,60〜69歳の在日韓国人では,出身階層による効果がまったくといってよいほど存在しないことである。世代間でこれほど完全な地位の断絶がみられるのは異例のことだが,このようなことが生じた理由は言うまでもなく,日本への移住や強制連行によって,出身階層にともなうさまざまな資源を利用することができなくなったためであろう。   

 第3点目の特徴については別途議論が必要だが,第1,第2の特徴を総合すると,在日韓国人は戦後一貫して,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけており,それを補うために,出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて初職に就業してきた,ということになろう。では,“教育達成でも出身階層でもない,それ以外の手段とはなにか”ということが問題になるが,それを検討する前に,まずは現職について同じ重回帰分析をおこなった結果をみておこう。   

表 3-7 民族別の現職威信への重回帰分析 
民族 
コーホート 
説明変数 
偏回帰係数 
β係数 
R2 
N 
在 
日 
韓 
国 
人 
20〜39歳   (定数)   16.389**  
.223 
216 
出身階層   .382**   .413   
教育達成   .979**   .169   
40〜59歳   (定数)   27.562**  
.127 
323 
出身階層   .247**   .267   
教育達成   .907**   .168   
60〜69歳   (定数)   39.687**  
.016 
80 
出身階層   −.0388   −.038   
教育達成   .872+   .207   
日 
本 
人 
20〜39歳   (定数)   15.134**  
.244 
306 
出身階層   .126**   .158   
教育達成   1.891**   .425   
40〜59歳   (定数)   15.429**  
.280 
513 
出身階層   .286**   .293   
教育達成   1.601**   .342   
60〜69歳   (定数)   17.844**  
.246 
170 
出身階層   .190*   .159   
教育達成   1.911**   .406   
ANCOVAによるとすべての年齢層で民族間の方程式に5%水準の有意差があった 

 表7の現職についても,表6の初職で指摘した3つの特徴はすべて符合する。つまり,在日韓国人の「定数」の値が比較的大きいこと,そして在日韓国人の教育達成の係数が一貫して日本人より小さいこと,在日韓国人60〜69歳では出身階層の影響がほとんど存在しないこと,である。したがって,「教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけており,それを補うために,出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて地位を達成してきた」という結論にも変化はない。   

3.5 民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワーク   

 したがって,つぎに,初職に就業するにあたってどのような手段が有効であったか(問4j)にたいする回答をみてみよう。   

表 3-8 初職の就業情報の入手経路 
選択肢 
実数   (%)   
家族・親類に頼んだ(または紹介してもらった)   279    (35.3)  
家族・親類の知り合いに頼んだ(または紹介してもらった)    80   (10.1)  
友人・知人に頼んだ(または紹介してもらった)   172    (21.7)  
学校の先生に頼んだ(または紹介してもらった)   35    (4.4)  
学校の就職担当係に紹介してもらった   63   (8.0)   
求人広告・就職情報誌を見た   44   (5.6)   
職業安定所・民間の職業斡旋所に紹介してもらった   10    (1.3)  
直接,相手方に問い合わせた   87   (11.0)   
強制連行(徴用)   13   (8.0)  
その他   8   (0.9)  
非該当・無回答   108   ―  
計 
899   (100.0)   

表 3-9 初職就業情報の紹介者の民族 
紹介者の民族 
実数 
(%) 
日本人   98  
(18.8) 
韓朝鮮人   422  
(81.2) 
非該当・無回答   379  
― 
計 
899  
(100.0) 

 表8をみると,「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた,インフォーマルな人間関係によって就業情報をえたものが,有効回答者のほぼ7割近くにまでおよんでいる。   

 また,「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に,その紹介者の民族をたずねたところ,8割以上が韓朝鮮人であるという回答をえた(表9)。これらの圧倒的な比率の高さをみれば,“教育達成でも出身階層でもない,それ以外の手段とはなにか”という問いを追究するうえで,もはやこれ以上の分析は必要あるまい。それはすなわち,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークにほかならない。在日韓国人は,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため,それを補うために,出身階層にともなう資源と,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて,ようやく日本人と同等の地位を達成してきたのである。   

 ところで,ふたたび表6および表7にもどると,初職と現職の違いとして大きく目を引くのが,20〜39歳の在日韓国人における,出身階層の飛び抜けた影響力の大きさである。これは,転職や昇進にあたって,出身階層による資源を利用していることを意味する。ここで,在日韓国人の過半数が「自営」にかかわっていることを思いおこすなら,昇進や転職時に利用される出身階層による資源とは,「家業」にかかわる財産,人間関係,知識や経験であることが推察できよう。   

 そこでつぎに,「自営」かどうかという観点を導入しながら,世代間移動をさらに追っていくことにする。   

3.6 「自営」資源の継承による世代間上昇移動   

 表10は,職業5分類を父主職(縦の並び)と本人現職(横の並び)について組み合わせたものである。ただし,このままではあまりにも複雑で,隠れた傾向を読みとることが難しいため,ログリニア・モデルによって要約した情報(6)を表11に示した。   

 表11の読み方をしばらく解説していこう。いちばん右の行にある標準値がプラスであれば,その行の関係は「多い」ことを,マイナスであれば「少ない」ことを意味する(7)。たとえば,1〜8は民族にかかわらず,父職と本人現職のあいだに観察される関係であるが,親子で同じ分類どうしの標準値(1,2,4,7)はすべてプラスになっている。つまり,子は親と同種の職業的地位を受け継ぐ傾向にある,ということである。それにたいして,3,5番目の標準値はマイナスであり,父親が「自営」や「雇B」の場合,子が「雇W」になるケースは比較的少ないということである。自営業やブルーカラーからホワイトカラーへの世代間移動には,なんらかの障壁が存在するということだ。   

 9〜15番目は,民族と本人現職,ないし民族と本人現職がかかわる関係を示している。たとえば,13,14番目の標準値はプラスであり,在日韓国人の父親は日本人より「自営」や「雇B」に就くものが多い。逆に12,15番目はマイナスであり,在日韓国人の父親は日本人の父親より「専管」「農業」に就くものが少ない。同じように,12〜14をみると,在日韓国人は日本人より「自営」の比率が高く,「専管」「雇W」の比率が低い,ということが示されている。これらは,すでに表3で説明したことである。   

 さて,ここで注目したいのは16〜20番目,すなわち,(民族,父主職,本人現職相互の直接の関係を除去したうえで)民族,父主職,本人現職の3つが同時にかかわる関係である。言い換えると,民族ごとで世代間の移動にどういう差があるか,ということである。17,20番目は「上昇移動」,つまり子の地位が親の地位よりも上昇しているケースである。「自営」の親から子が「専管」になったり,「雇B」の親から子が「自営」になるのは,日本人よりも在日韓国人のほうが多い,という関係が示されている。具体的な典型例をあげて説明するなら,前者の場合,小さな焼き肉屋を経営していた父親の子どもが,従業員規模30名を越える焼き肉チェーン店に発展させたという事例があてはまる。後者の場合,旋盤工として工場に雇われて働いていた父親の子どもが,自分で鉄工所をひらいたという事例があてはまる。いずれの場合も,父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ,それを発展させているケースであり,それが,在日韓国人の典型的な世代間上昇移動のモデルであると言っていいだろう。   

表 3-10 職業5分類を用いた民族別の世代間移動表
実数 
(%) 
専管 
雇W 
自営 
雇B 
農業 
計 
在  
日  
韓  
国  
人   
専管 
2 
(18.2) 
3 
(27.3) 
5 
(45.5) 
1 
(9.1) 
11 
(100.0) 
雇W 
7 
(29.2) 
11 
(45.8) 
6 
(25.0) 
24 
(100.0) 
自営 
39 
(15.9) 
30 
(12.2) 
130 
(52.8) 
47 
(19.1) 
246 
(100.0) 
雇B 
15 
(14.6) 
5 
(4.9) 
52 
(50.5) 
31 
(30.1) 
103 
(100.0) 
農業 
5 
(12.2) 
3 
(7.3) 
24 
(58.5) 
7 
(17.1) 
2 
(4.9) 
41 
(100.0) 
計 
61 
(14.4) 
48 
(11.3) 
222 
(52.2) 
92 
(21.6) 
2 
(0.5) 
425 
(100.0) 
日  
本  
人   
専管 
56 
(45.5) 
29 
(23.6) 
19 
(15.4) 
18 
(14.6) 
1 
(0.8) 
123 
(100.0) 
雇W 
24 
(24.2) 
45 
(45.5) 
16 
(16.2) 
13 
(13.1) 
1 
(1.0) 
99 
(100.0) 
自営 
38 
(14.4) 
48 
(18.3) 
109 
(41.4) 
67 
(25.5) 
1 
(0.4) 
263 
(100.0) 
雇B 
34 
(17.5) 
46 
(23.7) 
22 
(11.3) 
88 
(45.4) 
4 
(2.1) 
194 
(100.0) 
農業 
26 
(9.4) 
56 
(20.1) 
59 
(21.2) 
86 
(30.9) 
51 
(18.3) 
278 
(100.0) 
計 
178 
(18.6) 
224 
(23.4) 
225 
(23.5) 
272 
(28.4) 
58 
(6.1) 
957 
(100.0) 

 なお,18番目には非常に意外なことに,父が「自営」で子も「自営」であるという在日韓国人が少ないことが示されている。“親が自営業だから子も自営業になる”という可能性は,実は日本人の方が大きいのである。これは,在日韓国人で父が「自営」の場合,世代間の上昇移動が多く,同一の「自営」のままとどまっているケースが日本人よりも少ないということだと思われる。   

表 3-11 民族ごとの世代間移動表における有意な交互作用
民族 
父主職 
本人現職 
標準値 
1.  
専管 
専管 
2.564*  
2.  
雇W 
雇W 
3.706**  
3.  
自営 
雇W 
−2.352*  
4.  
自営 
自営 
3.401**  
5.  
雇B 
雇W 
−2.578**  
6.  
雇B 
自営 
−2.113*  
7.  
雇B 
雇B 
4.099**  
8.  
農業 
自営 
2.185*  
9.  
在日韓国人 
専管 
−2.071*  
10.  
在日韓国人 
雇W 
−2.753**  
11.  
在日韓国人 
自営 
6.980**  
12.  
在日韓国人 
専管 
−3.455**  
13.  
在日韓国人 
自営 
8.454**  
14.  
在日韓国人 
雇B 
3.625**  
15.  
在日韓国人 
農業 
−2.287*  
16.  
在日韓国人 
雇W 
雇B 
2.198*  
17.  
在日韓国人 
自営 
専管 
2.376*  
18.  
在日韓国人 
自営 
自営 
−3.957**  
19.  
在日韓国人 
雇B 
雇W 
−2.340*  
20.  
在日韓国人 
雇B 
自営 
2.386*  

 それにたいして,19番目をみると,「雇B」の親から「雇W」に転出する子どもについては,日本人よりも在日韓国人のほうが少ない。たとえば,工場労働者や道路工の子どもがサラリーマンや販売店員になるような上昇移動のケースは,日本人よりも在日韓国人のほうが少ない,ということである。これは,ごく近年まで一般の日本企業が激しい民族差別をおこなっていたため,一般従業者としての就職の道が閉ざされていたことによるものと思われる。   

 一方,「下降移動」のケース,つまり親の職業的地位よりも子の地位のほうが低くなっているのは,16番目である。親が「雇W」で子が「雇B」になるケースは,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。具体例を挙げるなら,親が民団などの民族団体や商銀などの民族金融機関の職員で,子が宅配便の運転手という事例があてはまる。現時点ではあくまで推察にすぎないが,これは,雇Wの子がなんらかの理由(能力不足や就職差別など)によって雇Wに就けない場合,親が自営業でないため自営にともなう資源が利用できず,子は雇Bから地位達成を始めなければならなくなる,というプロセスを反映しているかもしれない。もしそれが事実ならば,在日韓国人の唯一の世代間上昇移動のプロセスは「自営」の資源継承にともなうものであり,それを外れた場合,たとえ父の職業的地位が高くとも,子の職業は大きく転落する可能性が高いという皮肉な事態を意味することになる。このことの事実関係を特定することは,今後の検討課題である。   

3.7 まとめと議論   

 まずは,ここまでの分析において明らかになった重要な点をまとめておこう。   

<命題群1>   

1-1 教育年数,現職の職業威信のいずれの平均値をみても,在日韓国人と日本人のあいだで有意な差異はみられない。   

1-2 年齢層が上であるほど,同等の階層の出身で,かつ同等の学歴をえていたとしても,在日韓国人のほうが日本人よりも不利な初職にしか就けなかった傾向にある。   

1-3 「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた,インフォーマルな人間関係によって初職の就業情報をえたものが,有効回答者のほぼ7割近くにおよぶ。   

1-4 「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に,その紹介者の民族をたずねたところ,8割以上が韓朝鮮人であると回答。   

<理論1>   

在日韓国人は,教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため,それを補うために,出身階層にともなう資源と,民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて,ようやく日本人と同等の地位を達成してきた。   

<命題群2>   

2-1 「自営」すなわち雇用規模30人未満の零細企業に就業している在日韓国人は日本人の2倍以上におよび,比率において半数を超えている。   

2-2 「自営」→「専管」,「雇B」→「自営」という世代間上昇移動は,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。   

2-3 「雇W」つまり一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数,比率にして1割強でしかない。   

2-4 「雇W」→「雇B」という世代間下降移動は,日本人よりも在日韓国人のほうが多い。   

<理論2>   

在日韓国人の世代間上昇移動のモデルは,父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ,それを発展させているケースである。   

 本調査データにより明らかになった点としてはじめに強調しておかなければならないことは,在日韓国人と日本人の職業的地位は,一般の通念とは異なり,じつはさほど大きな格差を生じていない,ということである。むしろ,両者の社会的地位がきわめて近似していることこそ,本調査において発見された事実であると言ってよい。したがって,安易に民族間の不平等や格差を前提とする従来の議論は,いずれも在日韓国人の社会階層を描写するうえで,いちじるしく妥当性を欠いていると言えよう。   

 しかしながら,その大前提とも言える事実をふまえたうえで,子細にデータを検討してみたところ,平均値レベルでは明らかにならなかったさまざまな潜在的不平等が浮き彫りになった。在日韓国人と日本人の間で,職業的な地位に差異がみられなかったのは,不平等がないからではなく,在日韓国人がその不平等を克服しているからなのである。民族という属性による理不尽な不平等構造よりも(むろんそれが重要であることは論をまたない),むしろさまざまな障壁を乗り越えて,結果として日本人と同等かそれ以上の社会的地位を達成してきた在日韓国人の努力と工夫に満ちた職業生活史こそ特筆されるべきであろう。   

 本章での分析結果は,在日韓国人の社会階層を論じるにあたって,民族間の不平等を明らかにするという視角と,在日韓国人がいかに民族間の不平等を克服してきたのかという視角の2点が重要であることを示唆している。そして,上記2つの理論が,それぞれの視角に対応している。   

 1の理論をより精緻にするためには,就業情報の紹介者の社会的地位などをモデルに含めながら,インフォーマルな人間関係が具体的にはどう利用されているかについて特定する必要があるだろう。今回は時間の制約により分析していないが,今後の課題である。   

 2の理論は,まだ推察を含むラフなものにすぎず,「仮説」と称するべきものである。親子間の仕事の内容を子細に検討しながら,職業に直接かかわる資源の継承プロセスを特定しなければ,「理論」を名のることはできない。この点についても,今後の検討課題である。   




第3章 注  
  1. 「学歴なし」の教育年数については,SSM調査の基準にそろえるためここでは「6年」として計算してある。[もどる] 
  2. 威信とは,価値的属性(職業,収入,など)にたいして,人々が尊敬や賞賛を与えることによって生じる勢力のことで,威光や声価と同義である。そのうち特に,職業威信とは,人々がそれぞれの職業にたいして与えている「格づけ」を意味する。日本では,1975年のSSM調査によって,直井優らが測定している。[もどる] 
  3. サンプルの上限年齢を69歳までとし,ある時点の職業威信を,その職に就いたときからつぎに昇進や転職する年齢まで順にならべている。各サンプルの調査時点年齢以降のデータはそのまま欠損値として処理してある。また,15歳未満の就労経験は無視してある。なお,65歳時点の有効サンプル数は,本調査42名,SSM88名である。[もどる] 
  4. 年齢は69歳を上限とし,民族は本調査を1,SSM調査を2とコードしてある。出身階層は父主職の職業威信,教育達成は教育年数である。[もどる] 
  5. 共分散分析(ANCOVA)を用いて,方程式の傾斜にかんする民族間の差異を検定しても,やはり有意とはならない。[もどる] 
  6. 可能な組み合わせのなかでは飽和モデルの適合度がもっともよかったため,ここで取り上げるのは本人現職の「農業」を除外した飽和モデルのパラメータである。[もどる] 
  7. 本文ではログリニア・モデルのパラメータを,ラフに「多い」「少ない」と読み替えているが,実際の数値の意味とはかなり異なっている。詳しくは,統計学の参考書を参照していただきたい。[もどる] 

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