4. 地域移動 
稲月 正 

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 本章では,(1)在日韓国人の地域移動はどの程度起こっており,また,それは日本人とくらべて多いのか少ないのか,(2)在日韓国人の地域移動は職業とどのような関係をもっているのか,(3)在日韓国人はどの地域からどの地域へ移動しているのか,という3つの点について見てゆくことにする。   

4.1 地域移動の定義と地域移動を見ることの意味   

 分析にはいる前に,「移動」という概念の説明ならびに本調査において地域移動の分析が持つ意味づけを簡単に確認しておくことにしよう。   

 人は社会の中でさまざまな位置(ポジション)を占めながら生活を営んでいる。位置づけの目安となるものは,「職業」「収入」「国籍」「地域居住歴」「性別」等々,さまざまである。私たちは,ある人が「なにものであるか」について述べるとき,これらの目安によって測られた社会的な位置について語ることが多い。「彼は医者である」とか「彼は親の代からずっとここに住んでいる人だ」というように。ある位置を占める人々の生活は安定的であったり,流動的であったりする。その位置の変化のことを私たちは「社会移動」と呼んでいる。たとえば,転職や昇進などでその人の社会的位置が変わった場合に「社会移動」が起こったというわけである。   

 社会的位置の変化の中で,従来,重要なものとして取り上げられてきたのが「階層移動」と「地域移動」である。前者の中で主に行われてきたのは「職業」的位置の変化についての分析であり,後者は「住んでいる場所」の変化についての分析である。だが「住んでいる場所」の変化が,なぜ,そして,どのような意味を持っているのであろうか。   

 「地域移動」が意味をもつのは,それが,地域での社会関係や社会参加と関係を持っているからである。たとえば,「地域移動」をしない人,言い換えれば「土着的」な人は家族・親族との様々なつながりも強いであろうし,近隣社会に参加する機会も多いだろう。そして,これらのことは,本調査との関わりで言えば,「職業移動」とも無関係ではないのである。   

 在日韓国人の職業移動の特徴を思い出してみよう。金明秀による第3章「社会的地位達成」では,在日韓国人の職業構成ならびに職業的地位達成において,(1)自営業者がきわめて多く日本人の2倍以上に達すること,(2)親から引き継いだ資源とインフォーマルな互助的ネットワークを用いて地位達成を行ってきたこと,という特徴が明らかにされている。周知の通り,自営業は世襲されることも多い。それは「親からの資源」を生かす一つの道であるが,その結果,地域的な移動は制約されることも多いであろう。また,職業的地位達成にプラスに作用する「インフォーマルな互助的ネットワーク」は,「地域」内での社会関係をベースに取り結ばれていることが多いと想定されるが,地域「非」移動者は移動者にくらべて相対的にそのような関係をより多く形成しやすいとも考えられる。   

4.2 現職地と初職地   

 さて,本調査では「初職」から「現職」にいたるまで各職歴ごとにその居住地を尋ねている。つまり,どこで職歴(キャリア)の形成が行われていったかという履歴についてのデータをとったわけである。   

 その移動について検討してゆく前に,まずは,在日韓国人の「現職地(現在住んでいる所)」ならびに「初職地(初めて職に就いたときに住んでいた所)」について見ておくことにしよう。   

 表1は,「初職地」と「現職地」について,それぞれ上位10都道府県を示したものである。また「現職地」の右欄には,法務省統計を用いて計算した「在日韓国・朝鮮人特別永住者全体の中に占める各都道府県ごとの在日韓国・朝鮮人特別永住者の比率」を載せておいた。なお,法務省統計と本調査の数値の間にはさほど大きな差はなく,本調査のサンプリングが妥当であったことを示す一つの証となっている(1)。   


表 4-1 現職地と初職地(都道府県) 
初職地 
現職地 
本調査 
本調査 
法務省統計  
地域名   実数       地域名    実数  
 
 
大阪   208    23.1    大阪    207   23.0    31.3   
東京   156    17.4    東京    148   16.5    13.4   
京都   83    9.2    京都    87   9.7    8.4   
愛知   79    8.8    愛知    83   9.2    9.9   
神奈川   62    6.9    神奈川    64   7.1    5.1   
福岡   42    4.7    福岡    36   4.0    4.5   
広島   27    3.0    広島    36   4.0    2.9   
母国   19    2.1    埼玉    19   2.1    2.1   
山口   16    1.8    千葉    17   1.9    2.1   
奈良   15    1.7    奈良    17   1.9    1.2   
その他   192    21.4    その他    173   19.2    19.2   
不明   20    2.2    不明    12   1.3    0.0   
   899    100.0        899   100.0    100.0   

 さて「初職地」について,この表からは次のような傾向が見て取れる。すなわち,(1)三大都市圏(東京大都市圏,阪神大都市圏,中京大都市圏)に居住する者が全体の67.1%を占めており,中でも阪神大都市圏の比率が高いこと,(2)地方圏で見ると西日本に居住する者の比率が高く,特に政令市をもつ広島,福岡県の比率が高いこと,である。   

 また「現職地」についても,上位7位までの順位は「初職地」と同じであり,基本的には上で述べた傾向がそのまま当てはまる。つまり,大阪府を中心にして,東は愛知県,東京都へと至る大都市圏,そして西は広島県,福岡県といった県へと至る「太平洋・瀬戸内ベルト地帯」に,本調査の対象者は現在居住しているわけである。   

 阪神,東京など,大都市圏に在日韓国・朝鮮人居住者が多いことについては,これまでも様々な研究の中で指摘されてきた。ちなみに1940年時点での地域別居住人口を見てみると,「京阪神」41.9%,「東京」10.0%,「中部」12.1%となっており,現在とさほど大きな変化はないことがわかる。戦前の調査報告書(神戸市,大阪市)でも「下関に上陸すると約束でもしたようにひとしく阪神地方にやってくる」と記述されているが(cf.朴在一『在日朝鮮人に関する総合調査研究』新紀元社:42),その理由について,朴在一は「京阪地帯が朝鮮に近い最大の商工業の中心地である事ばかりでなく,朝鮮人労務者に対する最大の需要地であったからに他ならないこと」をあげている(朴在一,前掲書:41-43)。また,原尻英樹は,大都市部に在日韓国・朝鮮人人口が多いことについて,「産業労働者として生計を立てていた」という来日時の歴史的経緯の他に,土地所有が難しく「第一次産業に従事することは殆ど無理」であり,戦後も零細自営やブルーカラーといった都市的職業につかざるを得なかったということをあげている(原尻英樹『在日朝鮮人の生活世界』弘文堂:59-60)。民族差別のため官僚制機構への参入やその中での移動が難しかった在日韓国人にとっても,自営業的成功は上昇移動の重要な経路であり,また,都市部ほどそのチャンスも多かったとも考えられる。このほか,谷富夫は,在日韓国・朝鮮人が「太平洋・瀬戸内ベルトライン」に居住している歴史的要因の一つとして「戦前の朝鮮と日本とを結ぶ定期航路の日本側の起終点が大阪港であり下関港であった」ことを指摘し,「ターミナル都市と移民との関係が運命的であることは古今東西を貫く真理」であると述べている(谷富夫「在日韓国・朝鮮人社会の現在」駒井洋編『定住化する外国人』明石書店:143)。   

4.3 地域移動の民族間比較   
――地域移動はどの程度起こっており,また,それは日本人とくらべて多いのか―― 

 次に,「初職地」と「現職地」との間の移動について見てゆこう(2)。これら2つの地域が同じ場合,その人の職業キャリアの形成は同一地域内で起こったことを示しており,違う場合にはその人は職業キャリアの形成にともなって地域移動を経験したことを示している。このような移動・非移動は在日韓国人場合,どの程度起こっているのだろうか。また,それは日本人と較べて多いのであろうか,少ないのであろうか。   
 図1は,「移動者」と「非移動者」の比率を,在日韓国人,日本人別に示したものである(3)。ここでは「市町村間」レベルでの移動と「都道府県間」レベルでの移動の2つについて図示してみた。   
(a)市町村レベル 

(b)都道府県レベル
図 4-1 「移動者」と「非移動者」の数と比率 

 この図からは,(1)在日韓国人の場合,「都道府県間」レベルでは約8割の人が「非移動者」であり,「市町村間」レベルでも58.2%の人が「非移動者」であること,(2)差はさほど大きくはないものの,日本人とくらべて在日韓国人のほうが地域間移動をする人の比率が低いこと,がわかる。これらのことは,在日韓国人の場合,相対的に多くの人が,最初についた職業地の中で職業キャリアを積んでいることを示している。(ただし,同一母集団の中の2グループではないので,ここでは「民族」と「地域移動」との関連が有意なのかどうかについては調べることはできない。)   

 さらに,「年齢」コーホートごとに「非移動者」「移動者」比率を見たのが図2である。なお,ここで「年齢」は「25〜39歳」,「40〜59歳」,「60〜69歳」の3つに分けている。これらはそれぞれ,「三世以降」「二世」「一世」といった世代に大まかには対応していると思われる。   

図 4-2 「年齢」コーホートごとの「非移動者」「移動者」比率 

 この図からは,次のようなことが見て取れる。すなわち,(1)在日韓国人の「25〜39歳(三世以降)」では約7割の人が「非移動者」であるが,この比率は年齢の増加とともに低くなり,「60〜69歳(一世中心)」では42.4%まで低下すること,(2)日本人においては年齢コーホートと「非移動者」比率との間には明確な関係は見られず,その結果,在日韓国人と日本人とを比較すると,若い世代の在日韓国人ほど「非移動者」の比率が高くなっていること,である。「25〜39歳」では,在日韓国人「非移動者」の比率は日本人にくらべて15%も高い。逆に「61〜70歳」では,在日韓国人「非移動者」の比率は日本人よりも7.6%も低くなっている。   

 在日韓国人の「60〜69歳(一世中心)」で「非移動者」比率が低いのは,初職についた時期(おそらくは45年〜55年くらい前)の歴史的な事情によるものと思われる。この時期は日本敗戦後の混乱期にあたっており,就労構造の不安定性(初職地に安定的な仕事口がなく,また,自らの資本形成もまだ十分ではなかったこと)や帰国の意向などもあいまって初職地に留まっての職業キャリア形成が困難だったのではないだろうか。逆に「60〜69歳」の日本人に「非移動者」が比較的多いのは,この層には「農業(農林水産業)」従事者が相対的に多いからであろう。   

4.4 地域移動と職業との関係   
――在日韓国人に地域非移動者が多いのはなぜか―― 

 では,在日韓国人の場合,「25〜39歳」「40から59歳」という年齢層で非移動者が多い(つまり,最初についた職業地の中で職業キャリアを積んでいる人が多い)ということの理由としては,どのようなことが考えられるだろうか。ここで思い出されるのが,本章第1節にも触れた在日韓国人の職業移動の特徴,すなわち,在日韓国人には日本人とくらべて「自営業」が多く,また(それとも関連するが)「親から引き継いだ資源」をもとにして地位達成を行っている者が多い,ということである。周知の通り「自営業」は土着性の強い職種であり,また「親から引き継いだ資源」も地域移動をしないほうがより効果的に活用できるであろう。   

 そこで,このことを確認するために,「25〜59歳」の人について「現職(従業上の地位)」と市町村レベルでの「地域移動」との関係を見たのが図3である。なお,「現職」についても,大きく「自営」か「被雇用」かについて分け,「自営」についてはさらに「世襲かどうか」を基準として2つに分けている。   

図 4-3 現職と地域移動(25〜59歳) 

 この図からは次のようなことがわかる。(1)「自営(世襲)」と「被雇用者」との間には地域移動者の率の間に大きな差が見られ,「自営(世襲)」のほうに「非移動者」が多いこと,(2)同じく「自営」であっても「自営(世襲)」と「自営(自分で始めた)」との間には大きな差があり,「自営(自分で始めた)」の中にはむしろ「移動者」が多いこと,である。なお「家族従業者」においても「非移動者」が多いが,言ってみれば「家族従業者」とは家族・親族的資源のもとに仕事を営んでいるわけであるから「自営(世襲)」と同様に考えることができる。それゆえ「非移動者」が多いのだろう。   

 これを確認するため,「25歳〜59歳」までの人について,さらに,「父職(従業上の地位)」と市町村レベルでの地域移動との関係を見たのが図4である。やはりここでも,父が「経営者・重役」「自営業者(雇用者あり)」「自営業者(雇用者なし)」である人は,父が「一般従業者」である人よりも「非移動者」の比率が高いことがわかる。   

 これらのことから,人が地域移動をするかどうかは,その人が親(親族)から継承した資源をもとにして地位達成を行っているかどうかと関係していることがわかる。単に職業が「自営業」だから移動をしないのではなく,その「自営業」を営んでゆくための資源を親から引き継いでいるから地域にとどまるのである。   

図 4-4 父職と本人の地域移動(25〜59歳) 

 では,このような結果はなぜ起こるのであろうか。ここでは,次のように仮説的に考えておきたい。すなわち,「職業キャリアの形成にともなう地域移動」をすることへの「誘因」が,在日韓国人の場合には相対的に小さいため「非移動者」率が高い,という仮説である。言い換えれば,「地域移動」をするのにかかるコスト(より正確には「地域移動」を伴う「職業移動」にかかるコスト)に見合うだけの利益(ベネフィット)が予期できないため移動しない人が多いのではないか,という解釈である。そして,そのコスト−ベネフィット計算の背後で構造的に働く要因としては,民族的移動障壁の存在が想定できるであろう。簡単に言えば,民族差別があるため(あるいは,強い民族差別があるとの予期があるため),コストを払って移動しても,それに見合った利益,たとえば良い仕事口などが期待できない,それよりも親からの資源を利用して地位達成したほうが効果的である,というメカニズムが働いているのではないかという仮説である。   

 もちろん,これを検証するにはさらなる状況証拠固めが必要である。ここではあくまで仮説として提示しておくにとどめよう。   

4.5 職業的達成達成にたいする地域移動の効果   

 さて前項では,「職業」や「親から引き継いだ資源」が地域移動の有無に関係を持っていることが示された。ただ,「自営業者には地域非移動者が多い」「親から引き継いだ資源を利用できる人は地域移動をしない」というのは,ある意味では当然である。この場合,「地域移動をしないこと」が本人が自営業に就く上で何らかの効果を果たしている,という解釈よりも,自営業を営むための資源があるがゆえに地域移動が起こらなかった,という解釈のほうが妥当であるようにも思われる。したがって前項の結果は,職業的地位達成に及ぼす地域移動効果(正確には「非」移動効果)を必ずしも検証しているわけではない。   

 「地域移動」の有無が「職業」に与える効果を考える場合,その間に「社会関係量」を介在させる必要があるように思われる(図5)。すなわち,地域「非」移動によって豊富な社会関係が維持・形成されており,その社会関係資源をもとに就職情報を入手し職に就く,というプロセスが明らかにされれば,地域移動効果があったと考えられるのではないだろうか。(ちなみに,第3章でも明らかにされている通り,在日韓国人の場合,「家族・親族」「家族・親族の知り合い」「友人・知人」を合わせたインフォーマルな関係によって就職情報を入手したものは,有効回答者数の約7割にも達するのである。)   

図 4-5 地域移動効果についてのモデル 

 そこで,まず「地域移動」と「社会関係量」の関係を見たのが表2である。なお,ここでは「40歳」以上の人について計算を行った。「40歳」以上の人に限定したのは,この年齢くらいから人の「職歴」は「安定期」に入ると考えられるからである。(若い人の場合,職歴は形成途上であり,本来なら移動しやすい状況にある人でも未だ移動が実現していない,ということが考えられるため,地域「非」の効果を見るには外したほうがよいと考えた。)この表の数値は,「移動者」「非移動者」ごとに,家族同様に非常に親しくつき合ったり,助け合ったりしている「親戚(市内)の人数」「近所の人数」「友人や知人の人数」の平均値を示している(4)。たとえば右上の8.17という数字は,「非移動者」は平均して市内に8.17人の「親しい親戚」を持っている,ということを表している。また,その差が統計的に有意かどうかを調べるために一元配置分散分析を行った結果についても示している。   
表 4-2 「地域移動」と「社会関係量」(40歳以上) 
親しい親戚の数 
親しい近所の人の数 
親しい友人の数 
非移動者(平均値)  
8.17 
5.46 
8.02 
移動者(平均値)  
6.48 
5.30 
7.06 
分散比(F)  
4.05 
0.06 
1.40 
有意水準  
0.04 
0.81 
0.24 

 この表からは,(1)「親しい親戚数」については「非移動者」と「移動者」との間に統計的に有意な差が存在すること,(2)「非移動者」は「移動者」にくらべて「市内の親しい親戚数」が多いこと,がわかる。   

 「市内の親しい親戚数」は「生得的(アスクライブド)」な社会関係量であると考えられる。したがって,この数値は,「非移動者」は生まれながらその地域内に存在している(生得的な)親族的社会関係を相対的により豊富に持っていると言えよう。   

図 4-6 「親しい親戚の数」と「就職情報の入手先」
図 4-7 「親しい親戚の数」と「就職情報の入手先」(非移動者のみ) 

 では,これら「親しい親戚数」と「就職情報の入手先(初職)」とはどのような関係にあるのであろうか。それを示したのが図6である。ここでは「親しい親戚の数」をそれぞれ「0人」「1人〜5人」「6人〜15人」「16人〜50人」の4カテゴリーに分けた。(なお,ここでも「40歳以上」の人について分析している。)   

 図6からは,たしかに「0人」「1〜5人」「5〜15人」と「親しい親戚数」が増えてゆくにしたがって「就職情報の入手手段」に「家族・親族」関係者をあげる人の比率も高まる。しかしながら「16人以上」になると「就職情報の入手先」として「家族・親族」をあげる人の比率は逆に低くなっている。「親しい親戚」が「16人以上」いる人たちの中では「就職情報の入手先」として「友人」をあげる人の比率が相対的に高くなっているのである。このように「親しい親戚の数」が豊富であるからと言って,家族・親族がそのまま「就職情報の入手先」となるわけでは,必ずしもないようである。   

 また図7に示すように,「非移動者」のみを取り出して「親しい親戚数」と「就職情報の入手先」との関係をみてみたが,ここでも両変数の間に明確な関連は見られなかった。   

 なお,カテゴリーの分け方が適切でなかった可能性もあるので,念のため「就職情報の入手先」と「親しい親戚数」との間で一元配置分散分析を行ってみたが有意な差は認められなかった。   

 以上のことから,地域非移動者は地域の中で相対的に豊富な「親族関係」を持っているものの,その量が多いことと「家族・親族」が「勤め先に就くのに最も役立つ情報の入手先」であることとの間には距離があることがわかる。また,「親しい親戚数」が「0人」の人でも「就職情報の入手先」として「家族・親族」を挙げるものの数が多いことは,情報の入手先として「家族」がきわめて重要であることを物語っている。   

 就職情報の入ってくるチャンネル数自体は社会関係の豊富さとある程度比例するかもしれないが,それらが必ずしも就職・転職における有効なチャンネルとなるわけではない。有効なチャンネルの選択には,単に自らをとりまく社会関係量の多寡には還元されない複雑なプロセスが存在するのであろう。したがって,今回の分析では図5のようなプロセスでの地域移動の効果は明確には認められなかった。職業的地位達成における地域移動効果の析出は今後の課題としておこう。   

4.6 地域移動の方向   
――どこから,どこへ移動してきたのか―― 

 さて,これまでは,地域移動の有無(移動,非移動)に注目してきたが,最後に,在日韓国人の移動の方向性(どこからどこへ移動してきたのか)について見てゆくことにしよう。   

 図8は「初職地」と「現住地」との間の地域移動者数を示したものである。なお,「地域」をあまり小さく区切ると各セル内のサンプル数が少なくなるため,ここでは「東日本」「東京大都市圏」「中部」「中京大都市圏」「阪神大都市圏」「西日本」という6つの地域圏に分けている(5)。   

 この図からは,(1)どの地域圏においても「非移動者」の数が最も多く,職業キャリア形成にともなう地域移動はさほど起こっていないこと,(2)「移動者」の中では,「阪神→東京」「阪神→西日本」「東京→東日本」「東京→西日本」「西日本→東京」「西日本→阪神」という移動パタンをとる人の数が多いこと,がわかる。   


図 4-8 初職地と現職地との間の移動者数(6地域圏)

表 4-3 初職地から現職地への移動者の比率(6地域圏) 
現職地
東日本 
東京 
中部 
中京 
阪神 
西日本 
 
実数 
初職地   東日本    58.3   29.2    0.0   0.0    12.5   0.0    100.0    24   
東京   4.7    83.9   2.5    2.5   3.0    3.4   100.0    236  
中部   2.6    12.8   66.7    10.3   7.7    0.0   100.0    39  
中京   0.0    4.3   0.0    91.3   0.0    4.3   100.0    92  
阪神   0.9    3.9   1.2    1.8   88.3    3.9   100.0    334  
西日本   0.8    6.6   0.0    2.5   6.6    83.6   100.0    122  

 移動の方向性について,さらに詳しく見るために,初職地ごとに現職地の比率をとってみたのが表3である。この表の数値(%)は,ある地域圏で初職についた人のうち,現在それぞれの地域圏にどのくらいの人が住んでいるかを示している。たとえば,最も右上の欄には58.3という数字は,初職地が「東日本」の人のうち,現職地も「東日本」である人が58.3%いることを示す。   

 この表からは(1)初職地が「中京大都市圏」「阪神大都市圏」である人においては「非移動者」の比率が高く,特に「中京」「阪神」で初職についた人の約9割は移動していないこと,(2)「移動者」の中では「東京大都市圏」「阪神大都市圏」へ移動する人の比率が高く,初職地が「東日本」「中部」である人は「東京大都市圏」へ,「西日本」である人は「阪神大都市圏」へと移動する傾向が見られること,などがわかる。   

 いずれにせよ「職業キャリア」の形成は「大都市圏」内で多く行われており,「初職地」が「大都市圏」内であればあまり移動することもなく,また,「地方圏」であれば「職業キャリア」の形成に伴って大都市圏に移ってゆく傾向が見られるわけである。   

4.7 知見のまとめ   

 本章で明らかになった知見を以下にまとめておこう。   

居住地について   
  1. 「初職地」「現職地」とも三大都市圏居住者が多く,特に阪神大都市圏に居住する人が多い。 
  2. 地方圏でみると西日本に居住する人の比率が高く,なかでも政令市を持つ広島,福岡両県に居住している人が多い。 
地域移動について   
  1. 「都道府県」レベルでは,在日韓国人の8割近い人が「非移動者」であり,「市町村」レベルでも約6割の人が「非移動者」である。 
  2. 日本人とくらべて在日韓国人のほうが地域移動をしない人が多い。つまり,在日韓国人の場合,最初に就いた職業地の中で職業キャリアを積んでいる人が多い。 
  3. ただし,在日韓国人の場合,「年齢」によって「非移動者」の比率に大きな差が見られる。日本人とくらべて「非移動者」の比率が高いのは特に「25〜39歳」の若い年齢層である。逆に「60〜69歳」では日本人の方が「非移動者」比率は高い。 
  4. 「25〜39歳」「40〜60歳」の世代で「非移動者」比率が高いのは,「自営(世襲)」に典型的に見られるように,これらの世代においては親から引き継いだ資源をもとにして地位達成をしている人が相対的に多いからではないだろうか。 
  5. その背景には,職業的地位達成過程(就職・転職の過程)に民族的な移動障壁(就職差別)が存在すること(あるいは就職差別があるという予期が存在すること),そしてその結果,「地域移動」をともなう「職業移動」をすることにかかるコストに見合うだけの利益が期待できないために地域移動が少ない,といったメカニズム(また,親からの資源を利用して地位達成したほうが効果的である,といったメカニズム)が仮説的に想定される。 
  6. 「60〜69歳」で,「移動者」比率が高いのは,この世代の多くが初職についた時期が日本敗戦後の混乱期であり,その当時(あるいはそれ以後の)不安定就労構造を反映しているからではないだろうか。 
地域移動の効果について   
  1. 地域移動の有無と「親しい親戚の数」との間には有意な差(地域移動効果)が見られる。「非移動者」は「移動者」にくらべて「親しい親戚の数(生得的な社会関係)」が多い。 
  2. ただし,「社会関係量」の豊富さと,「就職時に最も役に立った情報の入手先」との間には明確な関連は見られない。つまり「非移動者」ほど,豊富な「社会関係」をベースにして就職情報を入手し就職・転職をする,といった形での地域移動効果は,現時点の分析では認められなかった。 
地域移動の方向について   
  1. 全国を6地方圏(「東日本」「東京」「中部」「中京」「阪神」「西日本」)に分けた場合,「初職地」が「中京大都市圏」「阪神大都市圏」である人の中では「非移動者」の比率が約9割にも達している。これらの地域では世代内の職業キャリアが初職についた場所で行われる傾向が強い。 
  2. 「移動者」の移動先としては「東京大都市圏」「阪神大都市圏」へ移動する人の比率が高い。また「初職地」が「東日本」「中部」であった人は「東京」へ,「西日本」出会った人は「阪神」へ,という傾向が見られる。 
なお,時間の制約から,(1)「地域移動」「社会関係量」「就職情報の入手先」「就業(初職)」の相互関係をモデル化し,地域移動効果を析出してゆくこと,(2)「職歴」や「時間軸」にそって詳細に地域移動を記述してゆくこと,は本章ではできなかった。これまで行った分析の精緻化とあわせて今後の課題としたい。   




第4章 注  
  1. この比率は、法務省『在留外国人統計(平成5年版)』を基にして計算した。ただし、阪神淡路大震災の影響で本調査対象者には「兵庫県」居住者はおられないことを考慮し、「兵庫県」居住者は除いている。なお、比較的大きな差としては、法務省統計では「山口県」が2.5%を占め第9位に登場するが、本調査では1.1%(第15位)となっていることくらいである。[もどる] 
  2. ここでは、分析・記述が煩雑になるのを避けるため、単に「初職地」と「現職地」が同じかどうかについて見ている。したがって「非移動者」というカテゴリーの中には厳密に言えば「Uターン者」も含まれている。[もどる] 
  3. 日本人の地域移動を見る際には1995年SSM(A)調査データ(男性サンプルのみ)を用いた。なお、比較の際には、1995年SSM調査の対象者が「20歳〜69歳」であるため、本調査データについても「20歳〜69歳」のサンプルのみ取り出して計算をおこなっている。データの使用を許可していただいた1995年SSM調査研究会には感謝いたします。[もどる] 
  4. 平均値の計算は、「はずれ値(たとえば『家族同様に親しい親しい知人』が『500人』という回答)」の影響を避けるため、「親族数」「近所の人の数」「友人・知人数」が「50人以下」の人だけについて行った。[もどる] 
  5. それぞれの「地域圏」に入るのは次の都道府県である。 

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