5. 地域意識 
稲月 正 

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 自分が住んでいる地域について強い関心や愛着を持つ人もいれば、持たない人もいる。地域のために何か役に立ちたいと思っている人もいれば、そうでない人もいる。また、その地域にずっと住み続けたいと思う人もいれば、早く出てゆきたいと思っている人もいるだろう。このように、地域に対して人が持つ意識のことを「地域意識」と呼んでいる。  

 本章では、(1)在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか、(2)その地域意識は世代や年齢、移動歴などとどのような関わりをもっているのか、(3)地域内で取り結ばれている社会関係と地域意識とはどのような関わりをもっているのか、(4)地域意識と民族意識とはどのような関係を持っているのか、(5)民族・地域意識と民族問題へのかかわり(行為)との間にはどのような関係があるのか、という5つの点について検討してゆくことにする。  

5.1 在日韓国人はどのような地域意識をもっているのか  

 本調査では、現在住んでいる地域について次のような質問を行い、「全くそう思う」から「全くそう思わない」までの5段階で答えてもらった。  

  1. 「この地域や町内でする行事(清掃、廃品回収、運動会など)には参加するほうだ」(以下、「地域参加意欲」と略す) 
  2. 「この地域のためになることをして役に立ちたい」(「地域貢献意欲」) 
  3. 「この地域はこれから先、生活の場としてだんだんよくなるだろう」(「将来展望」) 
  4. 「事情がゆるせば、ずっとこの地域に住んでいたい」(「永住意志」) 
  5. 「この地域のことに関心がある方だ」(「地域関心」) 
  6. 「この地域の悪口を言われたら、なにか自分の悪口を言われたような気になる」(「地域同一化感情」) 
 まず、各項目についての回答を見たのが図1である。「地域同一化感情」を除けば、どの意識項目についても半数以上の人が「そう思う(全くそう思う+どちらかと言えばそう思う)」と答えており、地域への関心や参加意欲などはかなり高いことがわかる。中でも「永住意志」については「そう思う」という人の比率が高く、6割以上の人は「ずっとこの地域に住んでいたい」と答えている。また「地域の役に立ちたい」という人も56.7%存在しており、地域に根をおろしている在日韓国人の姿がうかがえる。日本人を対象にした全国調査の中にこれと比較できるような質問項目が見あたらないため民族間の比較はできないが、パーセンテージ自体としてはこの値は低いものではなかろう。  

図1 地域意識 

 次に、これら各地域意識項目の間の関係についても確認しておこう。たとえば、地域への関心が強い人は地域のために役に立ちたい、という意識も強いのではないか、と予想される。それを見るために、各地域意識項目間の相関係数をとった結果を表1に示している。(相関係数とは、2つの項目間の関係を示す数値で、この値が1に近づくほど「一方の傾向が高まれば、もう一方の傾向も高まる」という関係が強いことを表している。)  

表1 地域意識項目間の相関係数 
参加意欲  貢献意欲   将来展望  永住意志   地域関心  地域同一化  
参加意欲   1.000  
貢献意欲   0.486   1.000 
将来展望   0.373   0.454  1.000  
永住意志   0.377   0.362  0.546   1.000  
地域関心   0.412   0.549  0.495   0.598  1.000  
地域同一化   0.288   0.348  0.346   0.371  0.493   1.000  
すべて危険率1%以下で有意 

 この表からは、どの項目間の相関係数もかなり高い値を示すことがわかる。特に「永住意志」と「地域関心」(0.60)、「地域関心」と「地域貢献意欲」(0.55)、「将来展望」と「永住意志」(0.55)、といった各地域意識項目間の相関係数は高い。つまり、「今住んでいる地域にずっと住み続けたい」と考えている人ほど「地域への関心」も高く、「地域への関心」が高い人ほど「地域の中で何か役に立ちたい」という思いも強いのである。また、当然とも言えるが、今住んでいる地域に明るい展望を持っている人ほど、そこに「ずっと住み続けたい」という意識も強い。  

5.2 個人属性と地域意識  

 では、これらの地域意識は、年齢や世代、移動歴といった個人属性によってどのような違いを見せるのであろうか。ただし、6つの地域意識項目すべてについて属性との関係を論じるのは冗長である。また先に表1で見たように各項目間の相関係数も高い。そこでこれらの中からいくつかの地域意識項目を取り出して分析することにしよう。  

 上に上げた6つの地域意識項目うち、「地域関心」「将来展望」は「地域についての認知的要素」に、「地域参加意欲」「地域貢献意欲」「永住意志」は「地域についての意志・関与的要素」に、「地域同一化感情」は「地域についての感情的要素」に、それぞれ対応している。そこで、ここでは地域意識を構成する各要素の中から、「地域貢献意欲」「地域関心」「地域同一化感情」という3つを選び、属性との関係を見てゆくことにした。  

(1)「年齢」と地域意識  

 まず、「年齢」との関係を示したのが図2(a)〜(c)である。いずれの地域意識項目についても年齢が上がるほど強くなっていることがわかる。  

図2(a)「年齢」と「地域貢献意欲」 
図2(b)「年齢」と「地域関心」 
図2(c)「年齢」と「地域同一化感情」 

 なお、図示はしていないが、「世代」との関係についても見てみたところ、「一世」「二世」「三世」と世代が下るにつれて各地域意識も弱まることが確認された。  

(2)「地域移動」と地域意識  

 次に「地域移動」との関係を見たのが図3(a)〜(c)である。  

 当初は「非移動者」のほうが地域意識は強いと予想していたが、「地域貢献意欲」「地域関心」の2つについては「移動者」の方が強いことがわかる。(カイ二乗検定の結果でも両者の関連は有意であった。)4章「地域移動(図2)」では、「年齢」が若いほど「非移動者」の比率も高いことが示されたが、ここで「非移動者」の地域意識が低いのも、この層に若年層が多く含まれていることによるのであろう。ただし「地域同一化感情」については差が見られなかった。  

図3(a)「地域移動」と「地域貢献意欲」 
図3(b)「地域移動」と「地域関心」 
図3(c)「地域移動」と「地域同一化感情」 

(3)「職業」と地域意識  

 次に「職業」との関係について見たのが図4(a)〜(c)である。(なお職業カテゴリーについて詳しくは第3章「社会的地位達成」を参照のこと。)この図からは、「無職」「専門・管理」「自営」といった職業で「地域貢献意欲」や「地域関心」が高いことがわかる。「専門・管理」「自営」においてこれらの意識が高いのは、これらの職業が地域社会をベースにして営まれていることが多いこととも関係しているであろう。  

図4(a)「職業」と「地域貢献意欲」 
図4(b)「職業」と「地域関心」 
図4(c)「職業」と「地域同一化感情」 

 ただし、高齢者中心の「無職」において地域意識が高いこと、「専門・管理」の平均年齢は比較的高いことなどからも推測されるように、「職業」による違いも「年齢」の違いかなり反映したものであると考えられる。  

 そこで、各地域意識項目について「年齢」「所得」「資産」「職業(威信スコア)」を独立変数とする重回帰分析を行ったが、すべての地域意識項目に対して有意な効果をもっていたのは「年齢」だけであった。(なお、「年齢」以外では、「職業威信スコア」が「地域貢献意欲」に有意な効果を持つのみであった。)また、各地域意識項目に得点を与え、それを足し合わせた値についても同様に重回帰分析をしたが、有意な効果を持つのはやはり「年齢」だけであった。これらのことから、地域意識に最も大きな影響を与えるのは「年齢」(そして、その内実はおそらくは「地域居住年数」)であることがわかる。  

5.3 地域の状況と地域意識  

 ところで、地域意識は、個人を取り巻く「地域の状況」と関係を持っていると考えられる。「地域の状況」として、ここでは「同胞多住地域か否か」、および地域での「社会関係量」を取り上げ地域意識との関係を見てみた。  

(1)「同胞多住地域か否か」と地域意識  

現在住んでいる地域が「同胞多住地域」であれば、(住民の多くが同じ民族であることを媒介とした)地域への貢献意欲や地域への関心の高まりが見られるかもしれない。表2は、各地域意識項目と「現住地が同胞多住地域であるかどうか」との相関係数を示したものである。なお、年齢コーホートごとの相関係数も合わせて示した。この値が1に近ければ「同胞が近くに住んでいる地域ほど在日韓国人の地域意識も強い」ことになり、−1に近ければその逆となる。  

表2 「現住地が同胞多住地域であるかどうか」と各地域意識項目との相関  
参加意欲  地域貢献   将来展望  永住意志   地域関心  地域同一化  
多住地域か(全年齢)  0.038   -0.006   -0.091   -0.046   0.022   0.044  
多住地域か(〜39歳)  0.016   -0.076   -0.037   -0.013   0.030   0.055  
(40〜59歳)  0.038   0.008   -0.109   -0.051   0.022   0.027  
(60歳〜)  -0.049   -0.072   -0.159   -0.164   -0.088   0.004  
太字の数値のみ危険率5%以下で有意 

 「全年齢」を通して有意な値を示すのは「将来展望(-0.091)」だけである。また、相関係数はマイナスの値となっており、「多住地域」に住む人ほど、「将来、生活の場としてよくなる」とは思っていないことが、傾向的にはうかがえる。  

 さらに、年齢コーホートごとに見た場合、「年齢」が高まるにつれて「多住地域」であることと「将来展望」との逆相関傾向が強まってゆくことがわかる。また「60歳以上」では「永住意志」も有意な逆相関を示している。つまり、「60歳以上」の層では、「多住地域」に住んでいる人ほど、現在の居住地に明るい「将来展望」を持っておらず、「ずっと住み続けたい」という意識も低いのである。このことは、「多住地域」における高齢者層(主に一世であろう)の生活環境が相対的によくないことを示唆しているようにも思われる。  

(2)地域内の社会関係量と地域意識  

 次に、地域内での社会関係の量と地域意識との関係を見てゆこう。社会関係として、ここでは「親族関係」と「近隣関係」を取り上げた。これまでの日本人を対象とした調査からは、地域内で豊富な「親族関係」や「近隣関係」を持つ人ほど「地域意識」も強いこと、が明らかにされている。つまり、豊富な「親族関係」「近隣関係」は、その当人の「土着性」を示すものであり、「土着性」が強いほど地域に関心を持ち、参加意欲や貢献意欲も強い、ということであろう。在日韓国人の場合はどうであろうか。  

 分析にはいる前に、まず各地域社会関係量について表3に示しておこう。なお、はずれ値の影響を避けるため、以下では「家族同様に親しい親戚数(地域内+市内)」「家族同様に親しい近所の人の数」とも「50人以下」である人についてのみ計算をしている。  

表3 地域社会関係量 
平均 
標準偏差 
実数 
親族数  7.29   10.12 
833 
    親族数(在日韓国人のみ)  
5.70  8.77  
833 
    親族数(日本人のみ) 
1.58  4.53  
833 
親しい近所の人数  4.92   7.94 
833 
    親しい近所の人数(在日韓国人のみ)  
1.38  3.29  
833 
    親しい近所の人数(日本人のみ)  
3.53  6.87  
833 

 在日韓国人、日本人合わせた「家族同様に親しい親戚数」の平均は7.29人である。国籍別にみると、在日韓国人の「親しい親戚」の中で地域内・市内に住んでいるものが平均して5.7人となっている。「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」に居住している人は全体の26.2%しかいないことを考え合わせると、この値はかなり多いように思われる。また、日本人の親しい親戚は少ないものの、1.58人存在している。ただし、これが親族の国際結婚によるものなのか、帰化によるものなのかは本調査では区別できない。  

 「親しい近所の人の数」は在日韓国人、日本人あわせて平均で4.92人であるが、こちらの方は「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」に居住している人が少ないことを反映して日本人の方が多くなっていることがわかる。  

 このような地域内での社会関係と地域意識との関係を示したのが表4である。ここでは「地域社会関係量」と「地域意識」との関係のみを見たいために、「年齢」をコントロールした偏相関係数を示している。  

表4 地域社会関係量と地域意識(偏相関係数) 
参加意欲  地域貢献   将来展望  永住意志   地域関心  地域同一化  
親しい親族数  0.138   0.090   0.082   0.097   0.112   0.089  
    親しい親族数 
    (在日韓国人のみ)  
0.093   0.043   0.040   0.073   0.080   0.048  
    親しい親族数 
    (日本人のみ)  
0.128   0.119   0.107   0.075   0.097   0.106  
親しい近所の人数  0.106   0.175   0.192   0.125   0.194   0.135  
    親しい近所の人数 
    (在日韓国人のみ)  
0.095   0.096   0.061   -0.014   0.078   0.061  
    親しい近所の人数 
    (日本人のみ)  
0.077   0.156   0.193   0.151   0.187   0.127  
太字の数値のみ危険率5%以下で有意 

 この表から、「親族数」「近所の人の数」が増えるほど、地域意識も高くなる傾向があることがわかる。なかでも、「親族数」との関係が強いのは「地域参加意欲」と「地域への関心」であり、「近所の人の数」との関係が強いのは「地域への関心」「将来展望」「地域貢献意欲」である。また、「親族数」よりも「近所の人の数」の方が概して高い相関を示している。  

 社会関係量が増えるほど地域意識が高まる、といった結果は、日本人を対象とした地域調査などでも明らかにされていることである。在日韓国人の場合も、日本へ来住してきて以来、長い年月がたっており、また数世代経ていることから、同様の結果となっているのではないかと考えられる。  

 さらに、「親族数」「近所の人の数」を「親しい在日韓国人のみの数」と「親しい日本人のみの数」に分けて地域意識との関係を見てみると、「親族」「近所」いずれについても「日本人のみの数」との関係が強いことがわかる。「在日韓国人のみ」の「親族数」「近所の人の数」と地域意識項目との間には有意な相関は見られないものも多い。このことは、地域の中で日本人との関係が強くなるほど「地域への関心」や「地域への貢献意欲」、さらには「地域同一化感情」も強くなる、といった傾向があることを示している。  

 このことを確認するために、現住地が「同胞多住地域である」「多住地域ではないが比較的多く住んでいる」人のみを取り出して、表4と同じように「年齢」をコントロールした偏相関係数をとってみたのが表5である。  

表5 社会関係量と地域意識(「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」のみ) 
参加意欲  地域貢献   将来展望  永住意志   地域関心  地域同一化  
親しい親族数(在日韓国人のみ)   0.080   -0.009   -0.033   0.097   0.011   0.002  
親しい親族数(日本人のみ)   0.102   0.136   0.036   0.063   0.104   0.110  
親しい近所の人数(在日韓国人のみ)   0.134   0.141   0.114   -0.026   0.066   0.070  
親しい近所の人数(日本人のみ)   0.108   0.141   0.224   0.080   0.174   0.118  
太字の数値のみ危険率5%以下で有意 

 「同胞多住地域」「比較的多く住んでいる地域」においても、概して、親しい日本人の数が多い人ほど地域意識が高いことがわかる。「親しい在日韓国人の数」と地域意識との間には、「地域貢献意欲」を除いて、有意な関係は見られない。特に「地域への関心」「将来展望」については違いが見られ、「親しい日本人の数」が多い人ほど「地域への関心」は高く、明るい「将来展望」を持つ人が多いという傾向があることがわかる。  

 地域へコミットしてゆく過程では日本人との接触やつき合いが多くなるのは当然である。また「地域への貢献意欲」については「在日韓国人」「日本人」をとわず、親しい人の数が多いほど「地域への貢献意欲」も高い、と言う関係が見られるのである。  

 もちろん、これまでの議論は「相関(偏相関)関係」についての話であり、地域意識の絶対的、相対的な「強さ」について述べているわけではない。つまり「親しい近所の人数(在日韓国人のみ)」と地域意識との間に有意な相関が見られないからと言って、「親しい近所の人が在日韓国人のみ」である人は地域意識が低いということではない。相関(偏相関)係数は、あくまで共変関係について示しているだけなのである。  

 そこで、地域意識項目の中から「地域貢献意欲」「地域関心」「地域同一化」の値を足し合わせて「地域意識スコア」をつくり、「親しい親族数(在日韓国人のみ)」「親しい親族数(日本人のみ)」「親しい近所の人の数(在日韓国人のみ)」「親しい近所の人の数(日本人のみ)」といったグループについて、社会関係量のカテゴリーごとに平均値を出してみた。その結果を示したのが表6である。(分散分析の結果も合わせて示した。)たとえば、この表の最も右上の欄の9.89という値は、親しい在日韓国人の親族数が「0人」である人の地域意識スコアの平均は9.89であることを示している。  

表6 社会関係の質・量と地域意識スコア(平均値) 
0人 
1〜5人 
6〜15人 
16〜50人 
 
有意性水準 
親しい親族数(在日韓国人のみ)   9.89  10.23   10.05  10.53   1.6417   n.s.  
親しい親族数(日本人のみ)   9.96  10.22   10.65  11.64   3.6713   0.0012  
親しい近所の人数(在日韓国人のみ)   9.91  10.37   11.12  10.71   4.0306   0.0073  
親しい近所の人数(日本人のみ)   9.52  10.33   11.12  11.45   15.8111   0.0000  

 この表から、最もスコアが高いカテゴリーを順に3位まであげると「親しい日本人の親族数が16〜50人(11.64)」「親しい近所の日本人の数が16〜50人(11.45)」「親しい近所の日本人の数が6〜15人(11.12)」「親しい近所の在日韓国人の数が6〜15人(11.12)」といった順になる。このことから、絶対的な値のレベルでも日本人とのつき合いが多い人ほど地域意識スコア(「地域貢献意欲」「地域関心」「地域同一化」の合計)が高いことが示唆される。  

 また、地域意識スコアに与える効果としては、民族の差による効果よりも、(在日韓国人、日本人にかかわらず)親しい人の人数による効果の方が大きいようにも思われるが、「民族の効果」と「人数の効果」を分離してそれぞれの効果を測定することは今後の課題としておきたい。  

5.4 民族意識と地域意識  

 さて、日本人との社会関係量と地域意識との間には正の相関が見られることを上では示した。在日韓国人が地域社会の中に根を下ろし、日本人とのつき合いを増してゆくほど、「地域への貢献意欲」や「地域への関心」も高くなってゆくというプロセスが仮説的に想定されるのである。「土着化」が進むとはそういうことであろう。  

 では、そのような「地域意識」の高さは「民族意識」とどのような関係をもつのであろうか。  

 その際、「民族意識」をどういった項目で測定するか、という問題が出てくる。本調査では問41で様々な民族意識を尋ねているが、その中から「民族の歴史を学ぶことは大切だ(問41t)」「子供たちは母国語を勉強するべきである(問41q)」「チェサなどの民族的風習は民族的やり方を守ってゆくべきである(問41b)」「困ったときに頼りになるのは在日同胞である(問41k)」という4項目を選び出してその回答(5段階)を単純に足し合わせた。その値に、さらに「民族的誇り(問38a)」を足し合わせて「民族意識スコア」を作成した。このスコアのレンジは5〜30、平均値は12.98、標準偏差は4.46である。  

 この「民族意識スコア」と地域意識各項目との相関係数および偏相関係数(「年齢」の効果を除いた)を示したのが表7である。  

 この表からは、「地域貢献意欲」「地域関心」と民族意識との間に比較的強い正の相関が見られることがわかる。つまり、地域に関心を持ち、何らかの貢献意欲を持っている人ほど民族意識も高い、という傾向が見られるわけである。  

 ただし「(地域での清掃や廃品回収、運動会などへの)参加意欲」と民族意識の相関は弱く、「年齢」の効果を除くと相関関係はなくなってしまう。したがって、ここでの「地域への関心」や「地域への貢献意欲」は、単に地域の清掃や廃品回収といった水準のものだけではなく、地域内での民族問題の解決をも含んだものであるようにも思われるが、ここではこれ以上の分析はできなかった。  

表7 民族意識と地域意識 
参加意欲 
地域貢献 
将来展望 
永住意志 
地域関心 
地域同一化 
 民族意識(相関係数)  0.098  0.195   0.102  0.059   0.138  0.128  
 民族意識(偏相関係数)  0.018  0.129   0.076  0.008   0.080  0.088  
太字の数値のみ危険率5%以下で有意 

 ところで、在日韓国人の地域意識と民族意識との関係は、その地域が「同胞多住地域か否か」によっても変わってくるのであろうか。表8は、対象者を「同胞が多く住んでいる地域(「同胞多住地域」+「多住地域ではないが比較的多く住んでいる地域」)」と「日本人が多く住んでいる地域」とに分けて偏相関係数を計算したものである。  

表8 民族意識と地域意識(「同胞が多く住んでいる地域」か否か:偏相関係数)  
参加意欲  地域貢献   将来展望  永住意志   地域関心  地域同一化  
 「同胞」が多く住んでいる地域   -0.068  0.083   0.152  -0.040   0.116  0.141  
 日本人が多く住んでいる地域   0.029  0.135   0.057  0.034   0.074  0.076  
太字の数値のみ危険率5%以下で有意 

 この表からは、「同胞が多く住んでいる地域」では「地域同一化感情」と民族意識との相関が高いことがわかる。「多住地域」では「民族」的一体感と「地域」的一体感が重なり合っていることが示唆される。また、「将来展望」と民族意識との相関も高い。これは、民族意識が高い人ほど、現在住んでいる地域が「将来、生活の場としてますますよくなる」という展望を持っている人ことを示している。「生活の場としてよくなる」ことの理由の1つには、「多住地域」においては民族の文化や伝統の維持や存続が比較的容易であること、また、将来ますます容易になるのではないかといった期待なども含まれているのかもしれない。  

 逆に「日本人が多く住んでいる地域」では「地域貢献意欲」と民族意識との相関が高くなっている。当初は、「日本人が多く住んでいる地域」において「地域貢献意欲」が高まることは意識的・無意識的な日本人社会への包摂を意味し民族意識の低下につながっているのではないか、と考えたが、結果は逆であった。ただし、民族意識と「地域参加意欲」との間には有意な相関は見られないことから、上での解釈と同様、ここでの「地域貢献意欲」は、単に地域の清掃や廃品回収への参加といった水準のもの(言いかえれば、日本社会への単なる包摂)だけではなく、地域内での民族文化の維持や民族問題の解決への志向性をも含んだものであることが示唆される。  

5.5 民族・地域意識と民族問題へのかかわり  

 前節の最後に述べたような、「民族文化の維持や民族問題の解決への志向性を持ちながら同時に地域にも関心と貢献意欲を持っている人」というのは「共生志向」(福岡安則『在日韓国・朝鮮人』中公新書:89)や「結合志向」(谷富夫「エスニックコミュニティの生態研究」『現代都市を解読する』ミネルヴァ書房:281)といった意識・態度類型をイメージさせる。  

 民族意識も地域意識も共に高い人は、実際に地域社会の中で民族問題に関わっているのであろうか。ここでは、民族問題への実際のかかわりを示すものとして「民族の問題を活発に議論しているかどうか(問31a,b)」をとりあげて意識類型との関係を見てゆくことにしよう。  

表9 民族・地域意識類型 
実数(%) 
民族意識:低 地域意識:低 (民低*地低)   80 (8.9) 
民族意識:低 地域意識:高 (民低*地高)   58 (6.5) 
民族意識:高 地域意識:低 (民高*地低)   54 (6.0) 
民族意識:高 地域意識:高 (民高*地高)   113 (12.6) 
その他  594 (66.1)  

 まず、先に示した「民族意識スコア」と「地域意識スコア」について、それぞれ大まかに30パーセンタイルの値で「低(民族意識スコア:5〜19、地域意識スコア:3〜8)」「中(民族意識スコア:20〜24、地域意識スコア:9〜11)」「高(民族意識スコア:25〜30、地域意識スコア:12〜15)」の3つに区切り、両者を組み合わせて表9のような意識類型を作成した。  

 これらの意識類型と「民族問題について同胞と議論しているかどうか」との関係を見たのが図5である。  

図5 「同胞と民族問題について議論するかどうか」と民族・地域意識類型 

 「いつも議論している」「よく議論している」という人の比率は「民高*地高」で最も高い。「民高*地低」においても民族問題について「議論している」と答える人の比率は高いが、「民高*地高」はそれよりも高いことから「民族意識の高さ」だけではなく「地域意識の高さ」も「民族問題について議論すること」には効果を持つことがうかがわれる。  

 また、図6は、「民族問題について日本人と議論しているか」と民族・地域意識類との関係を見たものである。民族問題について「日本人と」議論することは、「日本社会での民族的差別をなくし、民族的出自を異にするものどうしが、その立場の違いを踏まえた上で、『共に生きられる』社会を実現する」(福岡安則,前掲書:90)ための重要な活動の1つであると考えられる。この図においても、民族問題について日本人と議論をする人の比率は「民高*地高」で最も高くなっている。逆に「民低*地低」では8割以上の人は議論を「全くしていない」か「ほとんどしていない」こともわかる。  

図6 「日本人と民族問題について議論するかどうか」と民族・地域意識類型 

 以上のことから、民族の文化や伝統などを維持するべきだと考え、なおかつ、自分の住んでいる地域社会への関心や貢献意欲を持っている人ほど、たとえば、「在日韓国人どうしで、あるいは日本人と民族問題について議論をする」という形で地域の中での実践を行っていることがわかる。このような人々は、文化の多元性を認めあいつつ、互いに結合を志向してゆくような社会を作り上げてゆく際の重要な核になる層ではなかろうか。  

 民族意識ならびに地域意識の類型化を洗練した上で、各類型と各個人属性との関係を明らかにすること、そして、「属性」−「意識」−「民族問題への取り組み(態度・行動)」へとつながってゆくプロセスを明らかにしてゆくこと、については今後の課題としておきたい。  


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