8. 家庭内民族性
潮村公弘
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この章では,対象者が生まれ育った家庭環境における,民族志向の高さを測定する項目群を検討対象とする。具体的には,民族的な行事がどの程度おこなわれていたか,また両親の民族意識が強かったかどうかを測る項目について検討する。
8.1 家庭内民族性の回答分布
最初に,個々の質問項目の単純集計結果について見ていこう。
「15歳のころ,あなたの家庭では,1年に何回くらい,民族風の法事(チェサ)を催したり参加したりしていたか」という設問に対して回数で回答してもらった。その結果,図1に示す回答分布が得られ,「0回」と答えた対象者は全体の19.3%,残りの80.7%は「1回」以上の回数を回答した。さらに,「1回」以上の回答をした対象者の内,その84.6%が「6回」以下の少数の回数を報告している。
図 8-1 15歳頃のチェサの回数(年平均)
次に,「家族や親族のうちで,結婚式を民族風にした人がどの程度いるか」という旨の設問に対して,以下に示す5つの選択肢からひとつを選んで回答してもらった。その結果,1)「何人もいる」(38.9%),2)「4〜5人ほどいる」(8.8%),3)「2〜3人はいる」(22.1%),4)「1人だけいる」(10.4%),5)「まったくいない」(19.8%)という分布となり,「何人もいる」という回答が多くみられた反面,「まったくいない」という回答も少なくなく,結果が分化している傾向性がみられた。
また,生まれ育った家庭における民族的な行事の経験の有無として,「出生百日のお祝い(ペギル)」,「出生1年目のお祝い(トル・チャンチ)」,「民族風の還暦(ホァンガプ・チャンチ)」,「民族風の葬式」,「民族風のおはらい(クッ)」の行事について,個々の項目ごとに経験の有無を回答してもらった。その結果,行事をおこなったことがあると回答した対象者は,経験率の高いものから順に,出生1年目のお祝い(57.3%),出生百日のお祝い(46.3%),民族風の還暦(45.0%),民族風の葬式(42.1%),民族風のおはらい(31.7%)であった。
さて,家庭内での民族性項目の中で,これまでに述べてきた民族的行事の経験度に関する項目とは性質を異にする設問として,親がいだいている民族的な意識の強さを測定するために,「あなたの両親は,民族意識がどれぐらい強かったと思いますか」という問いを設けている(1)。回答は,1)非常に強かった,2)どちらかといえば強かった,3)どちらかといえば弱かった,4)非常に弱かった,という4つの選択肢にそれぞれ1点から4点を与えて得点化した。
それでは次に,これらの家庭内民族性をあらわす項目と他の諸項目との関連性について検討していこう。
8.2 家庭内民族性の世代差
まず,家庭内民族性が世代によって異なっていることは想像に難くない。ここでは,「在日何世であるか」(2)と家庭内民族性にかかわる諸項目との関連について検討していこう。
図 8-2 世代ごとのチェサの年間回数(15歳ころ)
まず,世代ごとのチェサの回数を百分率で示した(世代ごとに百分率表示した)ものが図2である。この時,留意すべきことは対象者が15歳のころのチェサの回数を尋ねていることから,例えば対象者が3世である場合には,2世である親がチェサを執り行っていた回数を問うていることになり,また対象者が1世である場合には,母国もしくは日本において“1世の親世代”がおこなっていたチェサの回数が測定対象となっている。この図から,チェサの実施回数は世代間でおおむね変わってはいないこと。また,むしろ1世において,年に一度もチェサをおこなわなかったとする回答者の比率が他の世代よりも高いことが見てとれる。母国における場合よりも日本においての方が,対外的な民族性の発露が妨げられる分だけ,家庭内で民族的な行事が行われることが増えるということは了解可能なことであろう。
図 8-3 家族や親族のうちで結婚式を民族風にした人(世代ごと)
次に,「家族や親族のうちで,結婚式を民族風にした人がどの程度いるか」「家庭での民族的行事の経験の有無に関する5つの項目」「両親の民族意識の強さ」の各々の項目と,世代変数(在日何世であるか)とのクロス表分析をおこなった。その結果,予想通り,1世>2世>3世の順で,結婚式を民族風にした家族や親族が多く,民族的行事の経験が高く,また,両親の民族意識が高かったと回答している傾向が確認された。ただし例外的な傾向性として,「結婚式を民族風にした人がどの程度いるか」については,“まったくいない(なし)”と回答した者の比率が低かったのは2世>1世>3世の順となっていた(図3参照)。
8.3 「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」
ここで,以後の分析が煩雑となることを避けるために,家庭内民族性の諸項目を大きく2つの変数に集約して分析を進めていきたい。本調査における家庭内民族性の諸項目のうちで,「チェサの回数」「家族や親族における民族風の結婚式」「家庭での民族的行事経験の有無(5項目)」からなる項目群は,“成育家庭環境における民族的行事の実施度(以下,「民族的行事の実施度」)”としてひとまとめにすることができよう(3)。それに対し,「両親の民族意識」の項目は性質を異にしていることから,この項目単独で分析を進めていく必要があるだろう。確認までに,「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」の強さとの関連性を相関係数を用いて検討したところ(4),両親の民族意識が強いほど民族的行事の実施度が高い,という関係性が確認された(r=−0.39)。
8.4 民族的行動の指標群との関連
成育家庭内での民族性が高い方が,家庭環境以外の場でも民族的な環境に接することが多く,そしてまた,民族的行動を強く示すようになることが期待される。ここでは,家庭外での民族的教育の程度として「民族学校への就学経験の有無」「民族学校以外で民族的な教育を受けた程度」の2項目,また,表出的で具体的な民族的な行動として,「民族の問題について人と議論している程度」「民族団体が主催する行事への参加」「母国や民族団体の新聞(雑誌)の購読」の3項目を取り上げて検討した。
その結果,家庭内での民族性が高い方が,家庭外での民族的教育をより多く受けており,また具体的な民族的行動をより積極的におこなっていることが示された。この関係は,家庭内民族性を構成する「民族的行事の実施度」と「両親の民族意識」の2つの要素のいずれにおいても同様に見出された。それゆえ,民族性の継承というテーマにおいて,成育家庭内での民族性の高さが重要な要素を占めていることが示唆されたと言える。
8.5 「地域内同胞多住」の程度との関係
成育家庭での「民族的行事の実施度」と,「地域内同胞多住」の程度との関連について検討する。「15歳ころ」の居住地域の同胞多住の程度ごとに,「民族的行事の実施度」の平均値を示したのが図4である。ここでは,同胞多住の程度が高くなるにしたがって,「民族的行事の実施度」が高くなるという明瞭な関係性が見出されている。また“15歳のころには韓国(朝鮮)にいた”と回答した対象者(5)の行事実施度の平均値に比べて,日本の同胞多住地域での行事実施度の方が高く,また同時に,近所に同胞があまり住んでいない日本の地域での民族的行事の実施度の方が低い値を示していることは興味深い。
続いて,成育家庭での「両親の民族意識」の強さと,「地域内同胞多住」の程度との関連について検討する。両親の民族意識の強さと,「現在」の居住地域での同胞多住の程度との関係性を示したものが図5である。この図より,両親の民族意識が,“非常に強かった”“どちらかといえば強かった”“どちらかといえば弱かった”の3つのカテゴリーの間では,現在の居住地域での同胞多住の程度には大きな違いが見られないこと。その一方,両親の民族意識が“弱かった”と回答した対象者グループにおいては,現在の居住地域には,同胞が“せいぜい1〜2軒”もしくは“自分の家以外には同胞はいない”とする回答の割合が非常に高かった。
図 8-4 15歳ころの居住地域での同胞多住の程度と,民族的行事の実施度
図 8-5 現在の居住地域での同胞多住の程度と,両親の民族意識の強さ
図 8-6 15歳ころの居住地域での同胞多住の程度と,両親の民族意識の強さ
次に,対象者が15歳のころに居住していた地域内での同胞多住の程度との関連についても検討しておこう。先ほどと同様,両親の民族意識の強さと,「15歳のころ」の居住地域での同胞多住の程度との関係性を示したものが図6である。その結果,両親の民族意識が“非常に強かった”と回答した対象者グループにおいて,“同胞多住地域”であったと回答する割合が高かった。ただし,両親の民族意識の強さにかんする他の3つのカテゴリー間では,同胞多住の程度に大きな違いはなかった。
続いて,両親の民族意識の強さを介して,「現在」と「15歳のころ」の同胞多住の程度を比較しておこう。全体を通じてまず言えることは,「15歳のころ」に比べて「現在」では,居住地域での同胞多住の程度が全体的に低下していることが挙げられる。次に,この同胞多住の程度の低下が大きかったのは,両親の民族意識の強さの点で両極の回答をした対象者グループ,つまり“非常に強かった”と回答したグループと“非常に弱かった”と回答したグループであったことを指摘できる。すなわち,両親の民族意識が高かったからといって同胞の多い地域に居住を続ける傾向があるのではなく,一方,両親の民族意識が低かった対象者グループでは同胞の少ない居住地域への移動が割合として多かったことを表していよう。
8.6 母親の階層性との関係
家庭内での民族性に対して直接に関与するであろう母親の属性に関して,ここでは「母親の教育年数」を取り上げて検討しよう(6)。「民族的行事の実施度」ごとに,また「両親の民族意識」の強さの程度ごとに,母親の教育年数の平均値を表したものが図7・図8である。その結果,図7より,「民族的行事の実施度」が相対的に高い対象者では母親の教育年数が低く,逆に,実施度が相対的に低い対象者では母親の教育年数が高い,という関係性を見てとることができる。また図8より,親の民族意識が強いと回答した対象者ほど,母親の教育年数が低いという関係を明瞭に見てとることができる(7)。
図 8-7 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均
図 8-8 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均
ただし,ここでさらに検討しておかなければならないことは,これらの関係性が時代背景の相違を単に反映したものなのかどうかである。すなわち,全体として1世に比べて2世そしてさらに3世は,教育年数が上昇し,民族的行事の実施度が低下し,両親の民族意識が低くなって来ていることがその時代性を背景として指摘できる。その結果,例えば図8に示された関係性は,教育年数が低く・両親の民族意識が高い世代(1世),教育年数が高く・両親の民族意識が低い世代(3世),そしてこれらの中間的な世代(2世)という世代間での特性の相違を反映しただけなのかもしれない。それゆえ,この点について確認しておくために,図7・図8に示した関係性を,さらに世代ごとに分けて検討することとした。「母方からみて何世か」にもとづいて,1世,2世,3世の世代ごとに母親の教育年数と民族的行事の実施度との関係をみたものが図9〜図11,同じく母親の教育年数と両親の民族意識の高さとの関係をみたのが図12〜図14である。まず「民族的行事の実施度」との関係について見ていくと,1世では家庭での民族的行事の実施度が高かった対象者の方が,母親の教育年数が高い傾向性が見られた(図9)。それに対して,2世,3世においては,逆に,民族的行事の実施度が低い対象者の方が,母親の教育年数が高い傾向が見てとれる(図10,図11)。また,「両親の民族意識」については,1世では(母親の教育年数の欠損値が1世では特に多いことから,十分なデータを示すことができたとは言えないものの),両親の民族意識が“非常に強かった”と回答した対象者の方が“どちらかといえば強かった”と回答した対象者よりも母親の教育年数は高かった(8)(図12)。また2世においては,相対的に両親の民族意識が強かったと回答した対象者の方が,相対的に弱かったと回答した対象者よりも母親の教育年数が高い方向性が見られた(図13)。しかし逆に,3世では,両親の民族意識が相対的に高い対象者の方が母親の教育年数が高いことがわかる(図14)。
図 8-9 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均(1世)
図 8-10 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均(2世)
図 8-11 民族的行事の実施度ごとの母親の教育年数平均(3世)
図 8-12 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均(1世)
図 8-13 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均(2世)
図 8-14 両親の民族意識の程度ごとの母親の教育年数平均(3世)
このことは,家庭内での民族性の積極的な継承者層が世代によって変わって来ていることを意味している。ここでは,社会成層の指標として母親の教育年数を用いて分析をおこなった結果,1世から2世にかけての世代では,家庭内での民族性の継承が,母親の教育年数が高い層において相対的により強く行われてきたことを示している。その一方で,2世から3世にかけての世代では,母親の教育年数が低い層において家庭内での民族性の継承が相対的により強くなされてきていることが示された。このように家庭内での民族性継承の主たる担い手層が推移してきていることは,今後の方策を考えていく上で重要な視点となりうるだろう。
第8章 注
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「あなたの両親は、民族意識がどれぐらい強かったと思いますか」という質問項目は、両親の民族的意識の強さを直接に測定しているのではなく、調査対象者が自分の両親の民族的意識の強さをどのように認知しているのかを測定しているという側面がある。このような指摘はもっともなことであり、このことを常に念頭においておくことは必要であるけれども、現実的にはこれ以上、直接的な測度を採用することは不可能であろう。仮に調査対象者の親から回答を求めることをおこなったとしても、それが対象者の成育時期における両親の民族的意識をあらわしているという保証はない。[もどる]
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ここでは便宜的に問15A「父方から見て、在日の何世代目にあたるか」に対する回答を用いた。[もどる]
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家庭内民族性を測定する諸項目のうち、「両親の民族意識」の1項目を除く項目をひとまとめにすることが可能かどうか検討した。まず「チェサの回数」、「家族や親族のうちで、結婚式を民族風にした人」の2項目について、その経験の有無を基準として“あり”“なし”の2値変数化した。そして、家庭内での民族的行事経験の有無を尋ねた5項目とあわせた7項目に対して信頼性分析を実施した。その結果、7項目で信頼性係数α=.71という結果を得た。これは一次元的な尺度としてひとまとめに考えうることを示していると考えられる。(なお、チェサの有無についての項目を除いた方が信頼性係数が若干上昇するという結果を示したが、ここでは概念的な包括性を重視して、7つの項目に対して経験有りと回答した行事数の平均値をもって「民族的行事の実施度」とした)。[もどる]
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ただし、「民族的行事の実施度」を構成する諸項目と「両親の民族的意識の強さ」項目とをひとつの変数として統合してしまうことは、概念的にも、またデータの性質上も適切ではない。(後者、すなわちデータ特性の点から検討をするために信頼性係数αを算出したところα=.36という低い値を示した)。[もどる]
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52名の対象者がこのように回答していた。[もどる]
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「母親の教育年数」は、欠損値が多い変数である点に留意が必要である。全対象者中、55.2%が欠損値であり、“母方からみて何世か”という分類基準にもとづけば、1世で133名中106名(79.7%)、2世で516名中344名(66.7%)、3世で213名中28名(13.1%)が欠損値となっている。[もどる]
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確認までに、母親の教育年数と父親の教育年数との相関は、相関係数(r)=.55と比較的高い関連を示した。ここでは、家庭内での民族性を扱っていることにかんがみ、「母親の教育年数」指標を分析に用いていくことにする。[もどる]
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対象を1世だけに限定した場合、両親の民族意識が“どちらかといえば弱かった”“非常に弱かった”と回答した対象者の中で、母親の教育年数が欠損値以外の有効データとなった対象者はそれぞれ1人と0人であった。したがって、これら2つの回答カテゴリーについて図示することは適切ではないだろう。[もどる]
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