9. 差別体験 
潮村公弘 

[ 目次にもどる ] [ HAN-A面 | HAN-B面 | HANBoard ]



 この章では差別体験について検討していく。日本人から受けた差別を7つの領域に分けて,それぞれの差別を受けたことがどの程度あるかについて尋ねている。7つの領域項目は,「名前のことでの差別」「職場での差別」「学校での差別」「日常の交際の中での差別」「仕事上のことでの差別」「近所の人(日本人)からの差別」「日本の官庁,官吏からの差別」である。それゆえ,ここで取り上げる差別体験は,日々の生活の中での差別体験であって,職業選択,配偶者選択における差別や,上級学校への進学資格上の差別といったような進路や人生設計上の差別問題と単純に同列に論じるべきものではない(1)。   

9.1 差別体験の様態   

 まず,7つの領域項目ごとに,各々の差別体験がどの程度あるかについて記述しておこう。回答形式は,1)とてもよくある,2)よくある,3)少しはある,4)ほとんどない,5)まったくないの5カテゴリーから1つを選ぶ形式で,それぞれ1点から5点を与えた。したがって得点が低いほど差別体験が多いことをあらわしている。   


図 9-1 領域ごとの差別体験 

 領域ごとの回答分布を示したものが図1である。最も多くの差別体験が報告された領域は「学校での差別」であり,“少しはある”以上の差別体験を報告した回答者の割合は50.7%に及ぶ。次に差別体験が多いのは,「日本の官庁,官吏からの差別」「名前のことでの差別」である(同じくそれぞれ,36.8%,35.1%)。続いて,「日常の交際の中での差別」(同,29.5%),「仕事上のことでの差別」(同,27.1%),「職場での差別」(同,22.1%),「近所の人(日本人)からの差別」(同,21.1%)となっている。   

 これら7つの項目間の関連を見るために,まず個々の項目間の相関係数を算出した。その結果,全ての項目間の相関係数はプラスの方向に高い値を示し(2),7つの項目が相互に密接な関連を有していることが示された。さらに,7つの項目次元をひとまとめにすることが可能な項目群であるかどうかをチェックした後に(3),7つの項目群に対する差別体験の平均値をもって,領域を通じた「総合的差別体験」指標を作成した。以降の分析においては,個々の領域単位ではなく,トータルとしての差別体験を検討対象とする場合には,この「総合的差別体験」指標を分析に使用する。   

9.2 世代差   

 差別体験においても,まず最初に検討しておくべき事柄は,世代による違いであろう。7つの領域項目ごとの回答分布を1世,2世,3世の世代別(4)に示したのが図2である。まず全体としては,1世>2世>3世の順序で差別体験が減少していることがわかる。とりわけ,3世において,1世・2世と比較した場合の差別体験の減少が読みとれる。ただし,「学校での差別」に関しては1世が最も少なくなっているが,このことは一世が,学校教育を十分に受けることができる社会的環境には無かったことを反映したものであろう。   

図 9-2 母方何世かと差別体験 

 3世において,1世・2世に比して相対的に差別体験が減少した領域としては,「職場での差別」「近所の人(日本人)からの差別」「仕事上のことでの差別」を挙げることができ,逆に3世においても差別体験の減少が相対的に少ない領域として,「学校での差別」「名前のことでの差別」「日本の官庁,官吏からの差別」を指摘できる。   

9.3 階層帰属意識別の分析   

 次に階層変数との関連をみてみよう。ここでは,階層にかかわる変数の中でもっとも基本的な指標のひとつである階層帰属意識をとりあげる。階層帰属意識とは,自分がどの階層に属していると思うかについての主観的な意識である。客観的な基準にもとづいているわけではなく,測定基準としては主観的なものではあるけれども,年収や教育年数などといった客観的な階層変数に裏づけられた指標であることがわかっている(5)。   

 まず,階層帰属意識別に,「総合的差別体験」指標の平均値を示したものが図3である。この図より,階層帰属意識を“上”と回答したグループで「総合的差別体験」が最も少なく,ついで“中の上”グループで少ないことが見てとれる。ただし,一概に,階層帰属意識が低くなるにつれて差別体験が増加すると言えるわけではなく,“中の下”“下の上”“下の下”の3つのグループ間では大きな差がなく,むしろ,この3つのグループの中では,中の下>下の上>下の下の順序で「総合的差別体験」が多い傾向にあることが示されている。   

図 9-3 階層帰属意識ごとの総合的差別体験度
図 9-4 階層帰属意識ごとの差別体験(領域別) 

 図3のように,階層帰属意識と「総合的差別体験」の程度とが単調な関係性を示さなかったことについて,さらに詳細に検討していこう。次に,各々の差別体験領域ごとに,階層帰属意識別での差別体験度の平均値を示したものが図4である。ここでは,階層帰属意識と差別体験度がどのような関係にあるかに応じて領域項目を3つのグループに分けて図示している。第1のグループは,「職業差別」「仕事差別」「官吏差別」の3領域からなり,階層帰属意識が低くなるにしたがって差別体験度が上昇していく関係性にある。第2のグループは,「名前差別」「学校差別」「近所差別」の3領域からなり,いわゆるU字型の関係を示している。すなわち,階層帰属意識が中間段階のグループでは差別体験が多い一方,階層帰属意識の点で両端のグループにおいては差別体験が少ないことをあらわしている。そして,これらのグループには属さなかった領域が「交際差別」領域であり,階層帰属意識の相違によって差別体験度に大きな差が生じていない。   

 次に,これらの3つのグループがどのようなタイプの差別であるのかを考えてみよう。7つの領域は,先に述べたように日々の生活の中での差別体験を対象としたものであり,その中で第1のグループは,在日韓朝鮮人と日本人がフォーマルな関係性の下で接触する場合での差別と言える。それに対して,第2のグループは,在日韓朝鮮人と日本人との接触が比較的インフォーマルな関係性の下でなされる場合と言えよう(6)。   

9.4 差別体験と相対的剥奪感   

 差別体験と密接なかかわりをもつ変数に「相対的剥奪感」がある。これは,他者もしくは他集団との比較において,自分もしくは自集団が相対的に不利な状況に置かれていると感じている程度を意味している。本調査では,日本人と比較した場合の在日韓朝鮮人が置かれた社会的状況について,「暮らし向き」「教育」「固有の文化を持つこと」「社会保障」「職業」「社会的機会の提供」(7)の6つの領域における相対的剥奪感を尋ねている。回答は“そう思う−どちらかといえばそう思う−どちらともいえない−どちらかといえばそう思わない−そう思わない”の5件法であり,順に1点から5点を与えて数値化した。したがってこの相対的剥奪感も,得点が低いほど相対的剥奪感が高いことをあらわしている。これらの6項目の一次元性が高いことを確認した上で(8),6つの項目群に対する回答の平均値をもって,領域を通じた総合的な相対的剥奪感指標を作成した(以下,本章においては,相対的剥奪感にかかわるこの総合指標を「相対的剥奪」と称して分析に用いていく)。   

 差別体験と相対的剥奪感の直接的な関係性を調べるために相関係数を算出したところ,この2つの変数は統計学的に意味のある関連性を持ち,差別体験が多い人の方が相対的剥奪感が強いという関係にあることが示された(相関係数r=0.37, p< .01)(9)。   

9.5 民族的誇り,個人的誇りとの関連   

 それでは,差別体験の多さと相対的剥奪感の強さが,民族的誇り,個人的誇りとどのように結びついているかについて検討しよう。ここでの民族的誇りとは「在日韓国・朝鮮人であることを,“非常に誇りに思う”から“非常に嫌だと思う”までの10段階に分けるならば,あなた自身はどこにあてはまると思うか」を尋ねた項目で測定され,個人的誇りとは「在日韓国・朝鮮人であることとは別に,自分自身を,“非常に誇りに思う”から“非常に嫌だと思う”までの10段階に分けるならば,あなた自身はどこにあてはまると思うか」を尋ねた項目で測定された指標であり,得点が低いほど,誇りの程度が高いように得点化されている。   

 民族的誇り,個人的誇りとの関係を単純に考えるならば,差別を受けることによってこれらの誇りが低下するという考えと,逆に,差別があること,そして差別を実際に受けることによってこれらの誇りが高揚するという考えの両者が成り立ちうるだろう。また,強い相対的剥奪感をいだいていることが高い誇りと表裏一体の関係にあるとも考えられると同時に,また逆に,強い相対的剥奪感は低い誇りと相互に結びついていると考えることもできよう。   

 それではまず最初に,調査対象者全体をひとまとめにして,これらの変数間の関係を見てみよう。差別体験,相対的剥奪感と,民族的誇り・個人的誇りとの相関係数を表1に示した。その結果,差別体験は,民族的誇り・個人的誇りのいずれとも関連をもたなかった。それに対して,相対的剥奪感は,民族的誇り・個人的誇りの2つの誇りとの間に有意な正(プラス)の相関を示し,相対的剥奪感が高いほど,民族的誇り・個人的誇りがともに高いという関係にあった。
   

表 9-1 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   .03 (n.s.)   .03 (n.s.)  
相対的剥奪感   .19 (p<.01)   .08 (p<.05)  

 ただし,これらの変数間の関連については,先にも示したようにいくつかのパターンを同時に考えうることから,この結果だけをみて結論を下すのは早計すぎるかもしれない。そこで,調査対象者全体をひとまとめにした分析だけではなく,関連する変数にもとづいて対象者を分割した上で,同様の分析をおこなってみよう。   

<親しい日本人の有無による分割>   

 日本人とのかかわりの中で,差別的な行動や態度をどの程度経験しているかということを取り上げると同時に,日本人とのかかわりの中で非常に良好な人間関係が構築されているかどうかも同じように重要な要素であろう。ここでは,ひごろの付き合いや助けあいなどについて尋ねた設問群の中で,「親戚や近所の人以外の友人や知人で,家族同様に非常に親しく付きあったり,助け合ったりしている人は何人くらいいるか」という問いに対する回答を分析に用いる。具体的には,この設問に「0人」と回答したグループ(すなわち家族同様に親しい日本人の友人・知人はいない人々)と,1人以上の人数を回答したグループの2グループに分けて,表1と同様に,差別体験,相対的剥奪感と,民族的誇り・個人的誇りとの相関係数を算出した(表2,表3)。その結果を表1と比較すると,家族同様に親しい日本人の友人・知人がいないグループでは対象者全体をひとまとめにした表1の結果と同じ関係性が示されている一方で(表2),そのような日本人がいると回答したグループでは,相対的剥奪感と個人的誇りとの関係性が有意な相関ではなくなっている。このことは,日本人とのかかわりにおいて少なくとも特定の他者との間で良好な関係性を構築できている対象者においては,相対的剥奪感を個人的な誇りと結びつけずに独立なものとしてとらえていることを意味している。   

表 9-2 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(親しい日本人無し) 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   .03 (n.s.)   -.03 (n.s.)  
相対的剥奪感   .24 (p<.01)   .13 (p<.05)  
表 9-3 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(親しい日本人有り) 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   .03 (n.s.)   .04 (n.s.)  
相対的剥奪感   .14 (p<.01)   .03 (n.s.)  
<誇りの高さによる分割>   

 次に,差別体験,相対的剥奪感と,民族的誇り・個人的誇りとの関連を,対象者の誇りの程度が高いグループと低いグループとに分けて検討しよう。在日韓朝鮮人という同じ民族集団に属していても,誇りの程度が違えばその形成因や関連する他の変数との関係性は一様ではないと考えるべきだろう。具体的には,まず民族的誇りの高さにもとづいて対象者を2つのグループに分けて表1に示した変数間の相関関係について検討し,次に,個人的誇りの高さによって2つのグループに分割した上で同様の分析をおこなった。   

 最初に,民族的誇りの高いグループと低いグループに分割した場合の分析結果について表1と比較しながら述べていこう。民族的誇りが相対的に低いグループでは,差別体験と民族的誇りとが有意なマイナスの相関を示している。すなわち,差別体験が多い対象者ほど民族的誇りが低いことをあらわしている。また,相対的剥奪感については,民族的誇りとの間には有意な関連がなくなり,個人的誇りとの間にはマイナスの相関が見い出されている。このことは,民族的誇りが低い対象者グループにおいては,相対的剥奪感を強くいだくということが,民族的誇り・個人的誇りのいずれに対しても表1での結果に比して否定的な意味あいをもっていると言える。すなわち,民族的誇りについては相対的剥奪感が強いほど民族的誇りが高いという関係性が消失し,個人的誇りについては,相対的剥奪感が強いほど個人的誇りが低いという関係性が示された(表4)。一方,民族的誇りが相対的に高いグループでは,表1と比較して大きな違いは見られなかった(10)(表5)。   

表 9-4 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(民族的誇り低群) 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   -.10 (p<.05)   -.07 (n.s.)  
相対的剥奪感   .05 (n.s.)   -.09 (p<.10)  
表 9-5 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(民族的誇り高群) 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   .04 (n.s.)   .03 (n.s.)  
相対的剥奪感   .17 (p<.01)   .06 (n.s.)  
表 9-6 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(個人的誇り低群) 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   -.05 (n.s.)   -.12 (p<.05)  
相対的剥奪感   .11 (p<.05)   .01 (n.s.)  
表 9-7 差別体験・相対的剥奪感と2つの誇りの相関(個人的誇り高群) 
  民族的誇り     個人的誇り  
差別体験   .07 (n.s.)   .04 (n.s.)  
相対的剥奪感   .25 (p<.01)   .08 (n.s.)  

 次に,個人的誇りの高さによって対象者をグループ分けした結果について述べよう。相対的に個人的誇りが低いグループにおいては,表1に比べて,差別体験,相対的剥奪感ともに,個人的誇りとの間に否定的な価値をともなった関係性が見てとれる(表6)。すなわち,差別体験が多い人ほど個人的誇りが低いという関係性が見い出され,また,相対的剥奪感と個人的誇りの間には有意な正の相関が消失している。一方,個人的誇りが高いグループにおいては,表1の結果と大きな違いを示さなかった(11)(表7)。   

 民族的誇りと個人的誇りとの関係についてのこれらの結果をまとめると,まず表1より,集団として劣位の社会的環境下に置かれた在日韓朝鮮人という民族集団全体としては,相対的剥奪感をむしろバネにして高い民族的誇り・個人的誇りを獲得しようとする姿勢をその平均像としてとらえることができる。また,表3,表4より,家族同様に親しい友人・知人がいる在日韓朝鮮人を対象とした場合には,個人的誇りが相対的剥奪感とは関連を持たず独立した意識となっていることが示された。このことは,民族的な立場とは切り離して考えることができるはずの個人的誇りが,相対的剥奪感とは独立でありうることを肯定的に評価する視点もありえようし,逆にこのことを,相対的剥奪感の裏返しとしての高い個人的誇りの消失ととらえて否定的に評価する視点もあるだろう。さらに,表5〜表7より,相対的に低い誇りをもっている(もしくは,低い誇りをもたざるをえない)人たちにとっては,差別体験や相対的剥奪感が誇りを形成していく上で否定的な意味をもつ体験や意識となっている構図を見ることができた。   




第9章 注  
  1. 職業選択上の差別構造については、「社会的地位達成」の章が参考になるだろう。[もどる] 
  2. 全ての相関係数は、r=.33以上の値を示し、全て1%水準で有意な相関であった。[もどる] 
  3. 7つの領域項目に対して信頼性分析を実施した結果、7項目で信頼性係数α=.85という高い値を示した(また、特定の項目を削除することによって信頼性係数が上昇することもなかった)。これは一次元的な尺度としてひとまとめにとらえうることを意味している。[もどる] 
  4. ここでは、「母方から見て在日何世か」に対する回答を世代の指標として用いている。[もどる] 
  5. 確認のために、年収、教育年数について階層帰属意識別の平均値を算出したところ、年収、教育年数ともに、階層帰属意識が高くなるにつれて平均値が単調に増加していることが確認された。[もどる] 
  6. 「名前差別」については、他の領域項目とは異なり、接触する場面を選ばない傾向が強く、このような意味づけは必ずしも適切ではないかもしれない。ただし、名前の問題が重要な意味をもってくる局面は、フォーマルな関係性の状況下であるよりも、むしろインフォーマルな関係性の状況においてであると考えられるのではないだろうか。[もどる] 
  7. ここで「社会的機会の提供」と名づけた項目は、具体的には「日本の中には、日本人にはできることを私たち同胞にはさせないようにする仕組みがたくさんある」という設問である。[もどる] 
  8. これらの6項目に対して、信頼性係数を算出したところ信頼性係数α= .79という値を示した。また、いずれかの項目を除外することによって信頼性係数が上昇することはないことも確認された。[もどる] 
  9. 「p< .01」という表記は、統計学的に有意水準1%のレベルを満たしていることを意味しており、「p< .05」「p< .10」はそれぞれ5%水準、10%水準をクリアーしていることをあらわしている。なお、10%水準>5%水準>1%水準の順で、その基準は厳しくなっていき、1%水準で有意である場合が、関連性の確からしさが最も高いことになる。[もどる] 
  10. 表5において相対的剥奪感と個人的誇りとの相関が統計学的な有意性を失っているものの、相関係数自体はあまり変わってはおらず、この差異を強調することは適切ではないだろう。[もどる] 
  11. 表7においても、相対的剥奪感と個人的誇りとの間の相関が統計学的な有意性を失っているものの(統計学的な危険率p=.101)相関係数自体はほとんど変わってはおらず、この差異を強調することは適切ではないだろう。[もどる] 

Last Updated: 

[ 目次にもどる ] [ HAN-A面 | HAN-B面 | HANBoard ]