10. 自尊心 
潮村公弘 

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 本調査では,「在日韓国・朝鮮人であることを,「1. 非常に誇りに思う」から「10. 非常に嫌だと思う」までの10段階に分けるならば,あなた自身はどこにあてはまりますか」という質問,さらに引き続いて「では,在日韓国・朝鮮人であることとは別に,自分自身を「1. 非常に誇りに思う」から「10. 非常に嫌だと思う」までの10段階に分けるならば,どこにあてはまりますか」という質問がなされている。   

 前者は,“民族的誇り”の強さを,そして後者は“個人的誇り”の強さを表すと考えられる項目である。言い換えるならば,自分自身に目を向けて自己評価するさいに,「在日韓国・朝鮮人」としての自分と,(在日韓国・朝鮮人であることは別にした)「私個人」としての自分に対する誇りの程度を尋ねたものである。本稿では,これらの2つの誇り(ここでいう誇りを社会科学の専門用語では「自尊心」と呼ぶ)と諸変数との関連について考えていきたい。   

10.1 民族的誇りと個人的誇りの直接的関係   

 まず,これらの2つの誇りに対する評定パターンが似通ったものであったかどうか,すなわち民族的誇りを高く感じている人は,個人的誇りも高く感じており,逆に民族的誇りを低く感じている人は,個人的誇りも低く感じているという関係性にあるのかどうかを検討した。(この目的のために,相関係数を算出したところ r=.57 という高い値を示した)。その結果,2つの誇りに対して調査対象者全体としては,似通った評定がなされていることが示された。   

 実際にどのような評定がなされたかについて特徴的な点を述べると,2つの誇りに対して同じ数値(すなわち同程度の誇り)を回答した対象者は全体の53.4%とかなり高い値を示した。それに対して,民族的誇りを個人的誇りよりも高く評定した対象者は全体の21.1%,逆に,個人的誇りを民族的誇りよりも高く評定した対象者は全体の23.5%であった(残りの2.0%は,2つの誇りのうちの少なくともいずれか一方に対して回答していなかった)。   

 2つの誇りを同程度に評価している対象者が約半数存在していることを指摘したが,このことは同時に,これら2つの誇りに対して異なる意味づけを与えている対象者が約半数存在していることも意味している。そこで,民族的誇りと個人的誇りのそれぞれと関連を持つ要素について考えていこう。   

10.2 2つの誇りの異同   

 そこで,まず「2つの誇りのズレ」について検討しよう。ここではズレを表す指標として,“個人的誇り”から“民族的誇り”を引いた値を算出した。2つの誇りはそれぞれ数値が小さいほど,誇りに思っている程度が強くなるように数値化されている。したがって,このズレを表す指標の値がプラスになればなるほど民族的誇りの方が個人的誇りよりも相対的に高く,この値が小さくなるほど,個人的誇りの方が民族的誇りよりも相対的に誇りの程度が高いことを意味する。また,この値がゼロであれば両者の誇りが同程度であることをあらわしている。 
  


表 10-1 階層帰属意識ごとの「誇りのズレ」 
 階層帰属意識  
誇りのズレ 
(人数)  
  上  
−.62 
(50)   
  中の上  
−.10 
(317)  
  中の下  
−.01 
(359)  
  下の上  
−.08 
(115)  
  下の下  
.76 
(33)   

 さて,この「誇りのズレ」の程度を,階層帰属意識の程度別に求めたところ,表1のようになった。すなわち,階層帰属意識を「上」と回答した対象者は,個人的誇りの方が民族的誇りよりも高く,階層帰属意識を「下の下」と回答した対象者は,民族的誇りの方が個人的誇りよりも強いことが示され,他のカテゴリーでは両者の誇りの程度はほぼ同程度であった。   

図 10-1 階層帰属意識と「誇り」 

 この関係性をより詳しく検討するために,同じく階層帰属意識の程度別に,民族的誇りと個人的誇りの平均値をグラフ化したものが図1である。このグラフより,階層帰属意識を「中の上」「中の下」「下の上」と回答した対象者では,2つの誇りの程度量はほぼ同じであり,かつ3つの対象者グループ間で大きな違いは存在していない。それに対して,「上」のグループに属すると回答した対象者は,民族的誇りが他のグループに比べて高い(すなわち値が小さい)傾向にあり,さらに個人的誇りはそれ以上に誇りの程度が高いことが見て取れる。また,「下の下」に属するとする対象者グループは,個人的誇りは他のグループと大きな違いを示さなかったけれども,民族的誇りは5つのグループの中で最も高いレベルの誇りを示した。   

 なお,ここで示した傾向性は,階層帰属意識との関係においてのみ成り立つわけではない。領域別満足感を測る諸項目(ただし,「現在住んでいる地域の環境への満足感」のみは除く),ならびに対象者本人の教育年数との関係において,満足感・教育年数が高い人々は,個人的誇りの方が高く,逆に満足感・教育年数が低い人々は民族的な自尊心の方が高いという同様の関係性が示された。また収入との関連については,年収が700万円以上の層において個人的自尊心の方が民族的自尊心よりも高いという傾向性が示された。ただし,対象者本人の職業威信の高さ(職業威信スコアー)との間には明確な関連は存在してはいなかった。一般に,職業上の威信の高さは,自尊心の高さに大きな影響を及ぼす要因であるにもかかわらず,在日韓朝鮮人においてはそのような関係性が見出されなかったことは特筆に値するだろう。威信の高い職業から社会的に閉め出される傾向が強く,自己の能力に応じた仕事に就くことを妨げられてきたために威信の高い職業を目指すことに自己実現の目標を設定することが叶わない,言い換えれば,威信の高い職業に就くことを目標とすることに価値を見出すことができなかった社会的背景が関与していると考えられる。   

10.3 世代・年齢層と2つの誇り   

 次に在日何世かということと,2つの自尊心との関連について検討しよう(図2参照)。   

 この図からまず第1に指摘すべき点は,1世,2世,3世という順で,2つの誇りがともに高くなっており,かつ世代による違いの程度量が大きいということである(1世と3世では平均1.76ポイントの差がみられる)。第2に言及すべき点は,1世においては,民族的誇りの方が個人的誇りよりも高く,逆に3世においては個人的誇りの方が民族的誇りよりも高いという点である。   

 世代と2つの誇りとの間で見出されたこの関係性については,年齢層と2つの誇りの関係を検討した結果とも一貫している傾向を見て取れる。図3に示したように,高年齢層ほど2つの誇りが全体として高く,かつ若年層では個人的誇りの方が,また高年層では民族的誇りの方が高くなっている。   

図 10-2 世代と「誇り」
図 10-3 年齢層と「誇り」
図 10-4 年齢層と階層帰属意識 

 さて,この段階で確認しておくことが望まれる点は,年齢との関連が強い2つの誇りを検討していくさいに,例えば先に検討した,(階層変数を代表する項目である)階層帰属意識と年齢層が,例えば年齢層が若いほど階層帰属意識が高いといったような直接的で単純な関連になっていないかどうである(1)。図4は階層帰属意識と年齢層との関連を検討したものであるが,この図からは両者が単純な(言い換えれば,直線的な)関係性をなしているわけではないことが見て取れる。すなわち,低い階層帰属意識をいだく対象者の割合は若年層並びに高年層に多く,逆に相対的に高い階層帰属意識をいだいている対象者は中年層においてその割合が高いという関係性が示されている。   

10.4 民族的社会環境と民族的行為との関連   

 次に,「親の民族意識が強かったかどうか(厳密には「親の民族意識が強かったと認知しているかどうか」)」を尋ねた項目との関連について検討しよう。図5に示すように,第1に,親の民族意識が強かった方が,民族的誇り,個人的誇りともに高かった。と同程度に注目すべき点は,「非常に強かった」と「どちらかといえば強かった」という2つの群においては,民族的誇りと個人的誇りは同程度に高かったことに対して,相対的に親の民族意識が弱かった2つの群においては,民族的誇りは個人的誇りよりも,より低い誇りを示していたことが挙げられる。   

図 10-5 親の民族意識の認知と「誇り」 

 次に,民族団体や学習会での活動の積極性との関連を検討しよう。「民族団体や,民族問題の学習会の一員として活動しているか」という設問に対し,「現在活動をしている」と回答した対象者に,どれぐらい熱心に参加しているかを尋ねている。ここでは899名中171名が,「現在活動をしている」と回答しており,この171名を対象として,熱心に活動している程度と2つの誇りとの関連性を検討した。その結果,図6に示すように,熱心に参加している対象者ほど,民族的誇り・個人的誇りともに高い誇りをいだいていることが示されている。特に,「かなり熱心に」と回答した対象者(対象者数は62名)は民族的誇り・個人的誇りともに同程度にかなり高かった(2)。   

図 10-6 民族団体への参加程度と「誇り」 

 つづいて,民族の問題について「同胞と議論」している程度,「日本人と議論」している程度と,2つの誇りとの関連について検討してみよう。その結果,相手が同胞であるか日本人であるかを問わず,議論をしている傾向の強い人の方がそうではない人に比べて,民族的誇り・個人的誇りともに高かった。さらに,議論をしている傾向の強い人は,民族的誇りの方が個人的誇りよりも高く,逆に議論をしている傾向の低い人は,個人的誇りの方が民族的誇りよりも高かった。   

 ここまでは2つの誇りとの間で言及するに値する関連性が見出された項目について述べてきたが,明確な関連が示されなかった項目も存在している。まず,「現在の居住地区が同胞多住地区であるかどうか」,また「15歳時の居住地域が同胞多住地域であったかどうか」を尋ねた項目との関連については,明確な関連性は見出されなかった。さらに,被差別体験の程度(3)と2つの誇りとの間には,明確な関係は見出されなかった。   

 その他,民族的社会環境もしくは民族的行為には含まれないものの,民族的な社会環境の認知に関わる意識項目として,相対的剥奪感(4)と2つの誇りとの関係について検討した結果,相対的剥奪感を強く感じているほど,2つの誇りがともに高いという傾向性が見出された。   

10.5 権利要求項目との関連   

 種々の権利が「自分自身の日常生活の上で必要か」どうかを尋ねた項目と,2つの誇りとの関連について検討した。多くの権利項目において,各々の権利が必要であると考える対象者の方が,必要ではないと考える対象者よりも誇りが高いという関係が見出され,またそのさい,2つの誇りの高さに明瞭な相違は存在しなかった。   

図 10-7 「簡易帰化」の希望と「誇り」
図 10-8 「日本国政参政権」の希望と「誇り」 

 ただし,「簡易帰化」「日本国政参政権」の2つの権利項目については,他の諸権利項目とは異なる傾向性を示した。まず「簡易帰化」の権利については,「不必要」だと回答した対象者の方が,「必要」だと回答した対象者よりも2つの誇りがともに高いことが示された(図7参照)。「簡易帰化」が日本社会・日本文化への“同化”に結びつくと考え,民族にそして自分に誇りを強く感じている人たちの方がその権利を獲得すべきではないと考えているのではないだろうか(なお「必要」と「不必要」の間で,より差異が大きかったのは民族的誇りの方であった)。ただし,同化に対する態度で説明することが適切かどうかは現段階では推測の域を出ない。   

 次に,「日本国政参政権」については,この権利を必要とする対象者と,必要としない対象者の間に,誇りの程度には差が無かった(図8参照)。誇りが高い人たちの中に,一定層,日本の国政に参加する権利は不必要だと考える人たちが存在しているためにこのような結果になったものと考えられる。なおここで示した,権利項目と2つの誇りとの関係性については,「同胞全体にとって」という観点から種々の権利が必要かどうかを尋ねた諸項目についても同様の関係性が示されている。   

10.6 「自尊心」のまとめ   

 2つの誇りと諸変数との関連について検討した結果,次のような関係性が見出された。すなわち,多くの項目において見出された結果を一般的に論じるならば,社会的に恵まれた層では個人的自尊心の方が民族的自尊心よりも高く,社会的に恵まれていない層では民族的自尊心の方が個人的自尊心よりも高いという関係性を指摘できる。ただし,職業威信,年収,教育年数,階層帰属意識といった変数にかんして,2つの誇りを平均化して考えるならば,社会的に恵まれた層に属する対象者の方が誇りが高いと一概に言うことは出来ず,最も社会的に恵まれた層と最も社会的に恵まれない層において誇りが高く,中間層においては相対的に誇りが低いという傾向性を指摘できる(例えば図1参照)。さらに,様々な民族的な行事・体験を経験してきた程度が高い対象者の方が,そしてまた高い民族的意識をいだいている人の方が,そうでない人よりも2つの誇りが高いという関係性を指摘できる。また年齢層が高い人々の方が2つの誇りがともに高いことも示された。   

 逆に,誇りとの間に明確な関連が見出されなかった数少ない項目としては,「職業威信」「差別体験」「15歳時の居住地区が同胞多住地域であるかどうか」「現在の居住地区が同胞多住地域であるかどうか」という項目を挙げることが出来る。これらの項目は,受動的な社会環境的要素としてまとめることができるような項目群であり,自分自身に対する評価の程度(誇りの程度)を考えるさいに能動的に取り上げない評価次元と言えるのではないだろうか。それに対して,能動的な社会的態度や行動にかかわる諸項目,および生得的な要素や諸条件は,民族的誇り,個人的誇りに対して,上述のような関係性を有することが指摘できよう。   




第10章 注  
  1. すなわち、階層帰属意識との関連として考えられている関係性が、年齢との関係の単純な反映なのか、それともそうではないのかということを意味している。[もどる] 
  2. 「まったく熱心に参加していない」と回答した対象者は9名だけであったことから、「あまり熱心に参加していない」と「まったく熱心に参加していない」をひとつのグループとして分析した。 [もどる
  3. ここでは、差別体験を尋ねる7つの項目を単純に平均化した総合指標を分析に用いた。[もどる] 
  4. ここでは、相対的剥奪感を尋ねる6つの項目を単純に平均化した総合指標を分析に用いた。[もどる] 

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