12. 名前の使用
豊島慎一郎
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本稿では,在日韓朝鮮人が現在の日本社会において通名(日本名)と本名(民族名)をどのように使い分けているのかを把握し,その実態について考察していきたい。
12.1 名前の使用をめぐる在日韓朝鮮人の現状
図1では,名前の使い分けについて神奈川県内在住外国人実態調査(1984年実施),第3次在日韓国人青年意識調査(1994年実施),そして本調査の結果を示した(1)。各調査とも,「通名のみ使用」「通名多く使用」に回答した人びとを合わせた数は,全体の7〜8割を占めている。つまり,大多数の在日韓朝鮮人が通名としての日本名を名乗って日常生活を送っているのである。また,通名と本名の両方を使い分けている人びとは一般的に,「同胞」には本名,日本人には通名を名乗っていると想定した場合,真に日本社会において本名を名乗って生きている人びとはごく僅かだといえよう。
図 12-1 調査別にみた名前の使用
話を本調査の結果に戻そう。図2をみてみると,「同胞」よりも日本人に対して通名を使用する割合が高いこと,そして「家族」「友人・知人」「職場の同僚や取引先」の順に通名を使用する割合が高いことに気付く。このことは,自分にとって「同胞」で,なおかつ家族や友達といった身近な存在に対しては本名を名乗るが,日本人でさほど親しくない存在に対しては通名を名乗る傾向を示す。つまり,在日韓朝鮮人は,人間関係の親密さが存在しないと日本人に対して本名を名乗れるないような状況に置かれていると考えられる。
次に,年齢と世代による名前の使い分けについて解説していく。分析のプロセスで,家族,友人・知人,職場の同僚や取引先について本名使用度の「日本人」と「同胞」ごとの平均値を算出したが,年齢別では各平均値の間に統計学的に有意な差が認められなかった。したがって,以下,世代に注目してデータを紹介していく。
図 12-2 使用対象別にみた名前の使い分け
図 12-3 父からみた世代と本名使用度の平均値
図3は,父方からみた世代ごとに,いくつかの領域で「日本人」と「同胞」にたいしてどれだけ本名を用いているか,平均値のかたちで示したものである(2)。「職場の同僚や取引先(日本人の場合)」を除いて,各世代間で本名使用度の平均値に統計的な有意差が認められた。全体的に本名使用度の平均値は低かったが,どの項目の本名使用度の平均値も1世,2世,3・4世の順で高かった。
では,在日韓朝鮮人が「家族同様に非常に親しく付きあったり,助け合ったりしている」友人・知人にたいして名前を使用する場合,その相手が同胞であるか日本人であるかでどのように違うのかだろうか。
図 12-4 同胞・日本人別にみた名前の使用と友人の平均人数
図4の横軸は,「同胞」の友人・知人にたいしてどのように名前を使用しているか,縦軸は,「同胞」の友人・知人の平均人数と「日本人」の友人・知人の平均人数である。まず,実線で示した「同胞」の友人・知人に注目してみると,折れ線グラフが右上がりになっていることが分かる。つまり,「同胞」の友人・知人の数が多くなるほど,本名の使用頻度も高くなる,という関係である(p<.01)。
それにたいして,破線によって示されている「日本人」の友人・知人については,そのような関係はみられない。通名の使用頻度が多い人のほうが「日本人」の友人・知人の数が多いようにも見えるが,統計的に有意な関係ではない。つまり,日本人の友人がどれだけ多かろうが少なかろうが,本名を名のるかどうかには関係がないということである。
名前の使用と友人・知人数の関係は,「同胞」の場合にのみ成り立つのである。このことは,在日韓朝鮮人が本名を名乗るかどうかについて,親しい「同胞」の友人・知人の存在が重要であることを示していると考えられる。
12.2 「名前の使い分けパターン」に関する分析
これまで述べてきたように,本調査では名前を名のる場面として「家族」「友人・知人」「職場の同僚や取引先」の3つをもうけており,それぞれについて,相手が「日本人」か「同胞」であるかによってどのように名前を使い分けるかをたずねている。したがって,3×2で6とおりの名前の使い分けをたずねたことになるが,そこに,何らかの“パターン”はみられるのだろうか。
図 12-5 クラスターと名前の使用
それを確認するために,6つの項目についてクラスター分析を施した。そしてその結果,妥当な3つのクラスターを析出した(3)。図5は,3つのクラスターごとに本名使用度の平均値をあらわしたものである。
クラスター1(131人)は,図中において「中間的」な位置を占めており,平均値をみたとき「同胞」に対しては本名の方を多く,日本人に対しては通名の方を名乗る傾向にある。
クラスター2(357人)は全体的に平均値が低く,名前の使い分けに関する6つの項目について一貫して通名の方を名乗る傾向にある。
クラスター3(61人)は全体的に平均値が高く,名前の使い分けに関する6つの項目について一貫して本名の方を名乗る傾向にある。
これらの傾向から,クラスター1を「中間クラスター」,クラスター2を「通名クラスター」,クラスター3を「本名クラスター」とよぶ。
次に,各クラスターについて基本的な諸属性の分布(4)をみてみよう(図6〜9を参照)。
なお,収入に関しては三つのクラスターとの間には全く関連がなかった。
図 12-6 クラスター別にみた年代の分布
図 12-7 クラスター別にみた世代の分布
図 12-8 クラスター別にみる学歴の分布
図 12-9 クラスター別にみた職業の分布
図 12-10クラスター別にみた現在の民族団体への参加
「通名クラスター」:このクラスターは,40代を中心に分布している(平均年齢47.9歳)。世代に関しては,三つのクラスターのうち1世が占める割合が最も少ない一方,3・4世が占める割合が最も多い。また,高等教育を受けた人びとの割合と職業威信スコアの平均値が最も低かった(平均スコア46.8点)。職業に関しては,三つのクラスターを通じて「専門」が半数近くを占め,「無職」「熟練」が相対的に多かった。現在における民族団体への「参加」の割合は,三つのクラスターの中で顕著に少なかった。同様に,民族的誇りについての平均値が三つのクラスターのなかで最も低かった(6.5点)(5)。
「中間クラスター」:このクラスターは,30代,40代,50代はほとんど同じような比率を示しており,3・4世が占める割合が最も少ない(平均年齢52.6歳)。教育年数はいずれのカテゴリーもほぼ同じ割合の分布を示し,職業については「専門」がほぼ半数近くを占め,「無職」「販売」が相対的に多かった。全体の約3割の人びとが現在,民族団体に参加しており,民族的誇りについての平均値は7.4点であった。
「本名クラスター」:このクラスターは,50代を中心にやや高年齢層に偏っている(平均年齢45.8歳)。三つのクラスターのうち,1世が占める割合が最も多い。高等教育を受けた人びとの割合が過半数を占めており,職業については「専門」がほぼ半数を占め,「事務」「管理」が相対的に多く,職業威信スコアの平均値が最も高かった(平均スコア55.0点)。現在における民族団体への「参加」に関しては全体の約3割程度で「中間クラスター」とほぼ同じ比率であった。そして,民族的誇りについての平均値が三つのクラスターのなかで最も高かった(7.9点)。
以上,これら三つのクラスターについてみてきた結果,「名前の使い分けパターン」と「教育年数」「職業」といった階層性が関係していることが見出せた。すなわち,一貫して本名を使用する人びとは教育年数が長く,高い職業威信スコアをもつ職業に従事している傾向にある。その一方で,一貫して通名を使用する人びとは教育年数が短く,低い職業威信スコアをもつ職業に従事している傾向にある。また,「民族団体への参加経験」や「民族的誇り」といった「民族性」についても,「名前の使い分けパターン」との関係が明確に示された。
12.3 本名使用度と本名を名乗る意志の規定要因について
最後に,どのような生活状況に置かれた人びとが本名を使用するのか,または人びとが本名を名乗る意志はどのような生活状況において形成されているのかを考察していく。
まず,人びとが実際に日常生活において本名を名乗っている程度(本名使用度)と,民族の誇りとして本名を名乗る意志の程度について,幾つかの基本的要因がもつ影響力の強さを示した(表1を参照)。
本名使用度にたいしてプラスの影響力をもつ基本的要因は職業威信,教育年数,親民族意識認知,学校外民族教育,被差別体験,「同胞」の友人・知人数,マイナスの影響力をもつ基本的要因は収入であった。
表 12-1 本名使用度と本名を名乗る意志についての重回帰分析
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|
本名使用度
|
本名を名乗る意志
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| 年齢
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0.01
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0.16**
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| 職業威信
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0.16**
|
0.04
|
| 収入
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−0.12*
|
−0.04
|
| 学歴
|
0.16**
|
0.09*
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| 親民族意識認知
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0.22**
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0.30**
|
| 学校外民族教育
|
0.12**
|
0.12**
|
| 被差別体験
|
0.11*
|
0.08*
|
| 同胞友人数
|
0.15**
|
0.06
|
| 決定係数(R2)
|
0.18
|
0.18
|
| サンプル数(N)
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411
|
672
|
値は標準偏回帰係数(β係数) **p<.01 *p<.05
第一に,これらの変数のうち,地位変数として職業威信,教育年数,収入が影響力をもっている。つまり,職業威信が高いほど,教育年数が長いほど,そして収入が低いほど,本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,職業威信が低く,教育年数が短く,そして収入が高いほど,通名を名乗る傾向にある,ということである。「職業」「教育年数」「収入」は人びとの社会的地位の基本的な構成要素である。これらの変数による影響力の強さの方向が異なることは,本名使用度について在日韓朝鮮人に分配されている各社会的資源の程度が一致しないこと(例えば教育年数は長いが収入が低いような人)が関係していることを示しているように思われる。
第二に,両親の民族意識が強いほど,民族学校以外での民族教育を多く受けているほど,「同胞」の友人・知人を多くもっているほど,そして被差別体験が多いほど,本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,両親の民族意識が弱く,学校外の民族教育を受けておらず,「同胞」の友人・知人が少なく,被差別体験が少ないほど,通名を名乗る傾向にある,ということである。これらの項目は,例えば地域や家庭といった具体的な生活の場で体験されるものごとである。本名を名乗る人びとは,両親から本名を名乗る大切さを教え伝えられ,民族教育を通じて在日韓朝鮮人の一人として本名を名乗る意義を学び,そして「同胞」の友人・知人とともに民族としての連帯感を築き上げているように思われる。そういった意味においては,被差別体験は,人びとが本名を名乗ることに対して問題意識をもつきっかけの一つになっているのかもしれない。なかには,民族差別をうけることによって,名前と出自を隠し,日本人になりすまそうとするケースもあるだろうが,全体としては差別体験を克服するかたちで本名を名乗る傾向のほうが強いのである。
なお,年齢の係数が有意ではないというのは興味深い事実である。年長者だから,あるいは年を取ったから本名を名乗るといった関係はないということだ。逆に言うと,歳が若いほど通名を名乗るという傾向はないということである。在日韓朝鮮人の若い世代の民族性が希薄であることを嘆く意見も聞かれるが,実際に本名を名乗るかどうかについていえば,そういった主張は意味をなさないことになる。
では,実際に本名を使っているかではなく,本名を名乗るべきだという意志についてはどうだろうか。表1の右の行をみると,本名を名乗る意志にたいしてプラスの影響力をもつ基本的要因は年齢,教育年数,親民族意識認知,学校外民族教育,被差別体験であり,マイナスの影響力をもつ基本的要因はなかった。
第一に,年齢が高い人ほど本名を名乗るべきだとする意志が強い。この傾向は逆に若い人びとほど本名を名乗る意志が弱いことも示す。前述したとおり,実際に日常生活において本名を名乗るかどうかについては年齢の影響力はない。しかし,本名を名乗るべきだとする意志については,年齢の影響力があるということだ。この分析からははっきりしたことは言えないが,本名を名乗るべきだ意志は強くても実際には名乗らない(もしくは名乗れない)年長者と,本名を名乗るべきだ意志が強くはなくても実際には名乗っている(もしくは名乗れる)若者の姿が浮かび上がってこよう。
第二に,地位変数としてはわずかながら教育年数のみが影響力をもっている。符号はプラスであり,教育年数が長い人ほど本名を名乗るべきだとする意志が強い傾向にある。逆に言うと,教育年数が短いほど本名を名乗る意志が弱い傾向にある。より長期にわたる学校教育を経験するプロセスで主体性が形成され,本名を名乗る意志につながる可能性があるのか,あるいは教育年数が長いことが本名を名乗る意志を培う期間を与えるのかは本調査では明らかではない。今後,十分に熟考すべき点だろう。
第三に,両親の民族意識が強い人ほど,民族学校以外の民族教育を多く受けてきた人ほど,そして被差別体験を多く受けてきた人ほど本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,行心の民族意識が弱いほど,民族教育を受けていないほど,被差別体験が少ないほど,通名を名乗る傾向にあるということである。これらの項目が示すものは,本名の使用度について言及したとおり,地域や家庭といった具体的な生活の場で体験され,培われるものごとである。そうしたことは,本名使用度についてだけでなく,本名を名乗る意志の程度についてもいえるということだろう。ただし,「同胞」の友人・知人数は,本名の使用度とは異なり,本名を名乗る意志には影響力を及ぼさなかった。この傾向は,ともに本名で呼び合いながら生活している「同胞」の友人・知人が身近に存在しないことが一因となっているのかもしれない。
さて,ここまで本名の使用度と本名を名乗る意志について別個に議論してきたが,両者を比較してみるとどういうことが分かるだろうか。
本名を名乗る意志にたいしてもっとも強く影響を与えている要因は,親の民族意識である。親の民族意識は他の要因を圧倒する影響力を持っており(β=0.3),本名を名乗るべきかどうかという意思を形成する基幹的な要因であると言ってよい。それにくらべて,他の要因の影響力は小さく,有意な影響力を持つものも本名の使用度とくらべると少ない。
一方,本名の使用度については,親の民族意識がもっとも強い影響を持っているとはいえ,他の要因にくらべて圧倒的な強さであるとはいいがたい。本名を名乗る意志にくらべると,本名の使用度にたいして有意な影響力を持つ要因も多く,親の民族意識は多くの要因のうちの一つだと位置づけるべきであろう。
つまり,本名を名乗るべきだとする意志については,親の民族意識といった家庭内の民族的な価値態度が主たる形成要因であるのにたいして,実際に本名を名乗るかどうかについては,社会階層や生活体験,友人数といった生活構造上のさまざまな要因のなかから複合的に規定される,ということである。
ところで,表1において,年齢に関してさらに分析が必要であると示唆されたため,表2に在日世代によって同様の重回帰分析を実施した。その結果,世代ごとに基本的要因の影響力の程度がそれぞれ異なることに気付く。以下,世代ごとに検討を加えていくことにする。
表 12-2 世代別にみた本名使用度と本名を名乗る意志についての重回帰分析
|
|
本名使用度
|
|
本名を名乗る意志
|
|
|
1世
|
2世
|
3・4世
|
|
1世
|
2世
|
3・4世
|
| 職業威信
|
0.08
|
0.13
|
0.35**
|
|
−0.19
|
0.03
|
0.20*
|
| 収入
|
−0.49**
|
−0.64
|
−0.19
|
|
0.15
|
−0.00
|
−0.23*
|
| 学歴
|
0.13
|
0.23**
|
0.05
|
|
0.16
|
0.06
|
0.06
|
| 親民族意識認知
|
0.20
|
0.12*
|
0.32**
|
|
0.35**
|
0.23**
|
0.35**
|
| 学校外民族教育
|
−0.06
|
0.13*
|
0.24*
|
|
0.09
|
0.09*
|
0.16
|
| 被差別体験
|
0.09
|
0.05
|
0.27**
|
|
0.20
|
0.10*
|
0.11
|
| 同胞友人数
|
0.30*
|
0.10
|
0.10
|
|
0.16
|
0.04
|
0.10
|
| R2
|
0.43
|
0.14
|
0.42
|
|
0.26
|
0.09
|
0.24
|
| N
|
43
|
278
|
89
|
|
66
|
465
|
140
|
値は標準偏回帰係数(β係数) **p<.01 *p<.05
まず,左側の本名使用度に関しては,以下のようにまとめることができる。
1世は収入が低い人ほど,「同胞」の友人が多いほど,本名を名乗る傾向にある。これは1世が置かれていた時代的な状況,つまり貧困のなか「同胞」とともに生活を営むなかで本名を名乗るようになったと考えられる。そして,比較的高い収入をえるためには,本名を名乗ることが困難であったとも解釈できる。
2世は教育年数が長い人ほど,両親の民族意識が強い人ほど,そして「広い意味での民族教育」を多く受けた人ほど,本名を名乗る傾向にある。他の世代にくらべて学歴の影響力は飛び抜けて大きい。逆に,他のどの要因も影響力を下げており,したがって決定係数の値が極端に落ち込んでいる。教育達成はさまざまな要素を兼ね備えている要因なので,この分析だけでこのことの理由を判断することは困難である。今後の分析課題である。
3・4世は職業威信が高い職に就いている人ほど,両親の民族意識が強い人ほど,そして学校外の民族教育を多く受けた人ほど,そして被差別体験の多い人ほど,本名を名乗る傾向にある。逆に言うと,両親の民族意識が弱いほど,民族教育を受けていないほど,被差別体験が少ないほど,本名を名乗らない傾向にあるということだ。他の世代にくらべて,社会階層以外の要因が強い影響力をもっている点が特徴的である。社会的地位を達成するために本名を名乗れないとか,あるいは一定の学歴を達成しなければ本名を名乗れないといったことではなく,より広範な生活体験にもとづいて本名を名乗るかどうかが規定されているということであろう。
次に,本名を名乗る意志の程度についてみてみよう。
本名を名乗る意志については,どの世代においても,両親の民族意識がもっとも強い影響力をもっている。本名を名乗るべきかどうかという意志は,世代を問わず,家庭内の民族的な価値態度にもっとも強く規定されているということである。
なお,被差別体験についてだが,2世に関してみてみると,本名使用度にたいして有意な影響力を及ぼしていない一方,本名を名乗る意志の程度にたいしては一定の影響力を及ぼしている。逆に,3・4世の場合,本名使用度にたいする影響力は少なからず認められるが,本名を名乗る意志の程度にたいしては影響力を及ぼしていない。いまの時点ではこの理由を判断するのは困難である。これも,今後の分析課題である。
12.4 おわりに
第1節で,現在の日本社会は在日韓朝鮮人が日常的に本名を名乗ることができる状況ではないこと,第2節で名前の使い分けのパターンとその諸特徴(主に階層性)との関係,そして第3節で本名使用度と本名を名乗ろうと意志についてそれぞれ影響力をもつ諸要因が同じではないこと,そして世代ごとに影響力をもつ諸要因とその影響力の程度が異なることが明らかになった。
本稿では,名前の使用について,特に在日韓朝鮮人が日本社会のなかで位置づけられた状況(階層構造)との関係に中心に論じてきたが,社会的地位に配分される社会的資源の程度が一致しない状態,すなわち「地位の一貫性」が関係しているのではないかと示唆された。日本の階層研究においては,「民族」というファクターを考慮することなく,「地位が非一貫である人びとが多くいる社会は全体的に平等な社会である」と一般的にいわれている。こうした階層問題と,具体的な生活の場で培われる「名前の使い分け」のような「民族をめぐる問題」の関係について今後も引き続き検討していく必要があるだろう。
第12章 注
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神奈川県内在住外国人実態調査の場合,国籍が「韓国・朝鮮」であるケースのみ(N=866),第3次在日韓国人青年意識調査は796人,本調査は549人を対象として作図した。第3次在日韓国人青年意識調査と本調査の場合,「ほとんど通名」と「通名の方が本名より多い」と回答した人びとを合わせて「通名多く使用」とした表わした。また,本調査の場合,名前の使い分けに関する項目(問30a,問30b,問30c)からなる合成指標を用いた。この指標は,これらの三項目に主成分分析を施した後,単純平均を算出して作成したものであり,1点「まったく通名だけ」から7点「まったく本名だけ」までの7点尺度である。なお,この指標は主に「本名使用度」として用いている。[もどる]
-
この指標は名前の使い分けに関する各項目(問30a,問30b,問30c)を示しており,1点「まったく通名だけ」から7点「まったく本名だけ」までの7点尺度である。[もどる]
-
この分析については,統計パッケージSPSSのQUICK
CLUSTERプログラムを使用した。そして,クラスター数とクラスター・センターの初期値を変えながら,最も有意味で適切だと思われる分類として3つのクラスターを析出した。[もどる]
-
教育年数に関しては,「初等教育」を旧制尋常小学校・旧制尋常小学校・新制中学校,「中等教育」を旧制中学校・実業学校・師範学校・新制高校,「高等教育」を旧制高校・高専・旧制大学(大学院を含む)・新制短大・高専
・新制大学(大学院を含む)と区分した。なお,韓国やその他の学校についても日本の学校と同様に3区分した。[もどる]
-
「民族的誇り(問38a)」1点:非常に嫌だと思う〜10点:非常に誇りに思う。なお,三つのクラスターにおける「民族的な誇り」および「本人職業威信スコア」についての各平均値の間に統計学的に有意な差が示されている。[もどる]
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