強制連行は神話か?
最近いろいろと忙しく,10日ぶりの配信となってしまいましたが,今日のお題は「強制連行」です。今日の配信記事に入っていく前に,簡単に「強制連行」についておさらいしておきましょう。
戦時中に朝鮮人が半強制的・強制的に日本(内地)へと集団移住させられたことを指して,現在では一般に「強制連行」と総称していますが,細かく見ていくと,これには3つの時期ないし形態があります。
「募集」の形態で一番多かったと思われているケースは,「日本でいい仕事がある」などとだまされて来たというものです。募集によって日本に来た在日一世たちの中には,いまだにだまされっぱなしで,自分が「強制連行」で連れられてきたと自覚していない方も多いようです。
「斡旋」の時期になると脅迫や暴力による強制が発生するようになり,「徴用」のころには手当たり次第に「人狩り」がおこなわれていたようです。“クンタ・キンテ”(若い人は知らないかな…)は黒人だけではないのですね。
さて,これまでそれぞれの形態でどれだけの朝鮮人が「連行」されたのか正確なところは不明だったのですが,このほど金英達さんが内務省の原資料を発見したことで,数量的な実態が鮮明になってきました[統一日報1月27日付]。金英達さんはいつもながら貴重なデータを提供してくれますね(金英達さんの連絡先は,かつていただいた名刺によると〒659兵庫県芦屋市潮見町3-1-4)。
以下の数値はいずれも1945年3月の資料に金英達さんが修正を加えたものです。まず,募集として移住させられた者の延べ人数は148,549名(うち現在人数24,458名),斡旋と徴用で移住させられた者の延べ人数は455,880名(うち現在人数264,030名),そして合計で604,429名(うち現在人数288,959名)です。
この数字を見てまず気が付くところは,延べ人数にくらべて現在人数が非常に少ないことです。半数を割っていますね。つまり,連れてきた人数の半分以下しかいなくなっていたわけです。といっても,朝鮮に帰したわけではありません。期間満了などによって朝鮮に帰った者は8万名足らずにすぎないのです。では,残りの22万人以上はどこへ消えたのかというと,なんと,ごっそり逃げていたのですね(笑)。たしかに,徴用されて日本に来たけど炭坑から逃げ出した,という人の話は結構聞きます。でも,こんなに多かったとは知りませんでした。
ところで,この「強制連行」に関連して,2つの神話があることはご存じでしょうか?
まず一つは,“在日朝鮮人の一世はみんな強制連行によって日本に連れられてきた人たちである”というものです。強制連行があまりにも植民地支配の象徴としてマスコミなどで取り上げられるため,こういう誤解が生じたのでしょう。強制連行がはじまる1939年以前にも,植民地収奪にともなう窮乏などによってすでに80万人近い朝鮮人が日本に移住していたわけですから,これは事実ではありません。
もう一つの神話は,“いまの在日朝鮮人一世に,強制連行によって連れられてきた人たちはいない”というものです。この神話の背景にある発想は,1)強制連行が行われたのは終戦までの約7年間にすぎないため,母国に生活の基盤が残っている人が多く,解放後すぐに朝鮮に戻れたはずである,2)そもそも強制的に日本に連れられてきた人は,解放されればすぐに帰ると考えるのが自然である,というものです。しかし,在日韓国青年会が1982〜83年に実施した調査では,少なくとも13.3%が徴兵・徴用によって来日していることが示されています。僕の実家(福岡)のあたりでも,徴用で来たという方は少なくありませんでした。
いま,ある民族団体と共同で在日朝鮮人の職業を中心的なテーマとした調査(「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」)を実施中なのですが,ここ数日,泊まり込みでその調査票の一部を数値化する手続きをしていました。調査票の一枚一枚に,在日朝鮮人の職業の歴史が刻み込まれているわけですが,一世の回答のなかには強制連行で日本に来たというものも少なくありませんでした。この調査の報告書は7月にまとまる予定です。今のところ刊行と同時に何らかのかたちでHAN-A面に掲載するつもりでいます。楽しみにお待ちください。
豊前市長の「弔意」
公選法違反(寄付の禁止)の罪に問われた福岡県豊前市長の神崎礼一被告の初公判が,昨日19日,福岡地裁小倉支部(浜崎裕裁判官)で開かれました。
問題となったのは,昨年11月の福岡県豊前市長選に立候補を表明していた同8月,初盆を迎えた市内の有権者宅に「ご仏前」として現金を配ったというもの。検察側は冒頭陳述で,選挙権のない在日韓国・朝鮮人については神崎被告が「配らなくていい」と発言していたことを明らかにし,ご仏前配布が選挙目的だったことを強調しました。
さてさて,罪状認否で神崎被告は「初盆参りは市長の公務として市民に弔意を示したもので選挙目的ではなかった」と起訴事実を否認しているようですが,そういうことなら,在日朝鮮人には弔意を示す気持ちがなかったということになりますね(笑)。いや,でも本当に在日朝鮮人には弔意を示す気持ちがなかったのかもしれない(苦笑)。
外国人登録原票の指紋削除要求
「指紋押なつと外国人登録法を考える豊中市民の会」代表の朴昌煥さんら2人が,昨日18日,大阪府豊中市に個人情報の訂正の権利を認めた同市個人情報保護条例に基づいて,自分たちの外国人登録原票の指紋と顔写真部分の削除を求めました。
共同通信は,「法務省によると,原票の指紋や顔写真の削除の例はないという」などと報道していますが,昨年12月15日にHANでお伝えしているとおり,大阪市生野区在住の張征峰さんが個人情報の訂正,削除権を認めた「大阪市個人情報保護条例」にもとづいて,大阪市にたいして外国人登録原票に記載されている指紋と顔写真の削除を求める請求を行っています。
人種差別撤廃条約発効!
日本政府は,同条約第一八条にもとづいて昨年12月15日付けで批准書を国連事務総長に寄託していましたが,同第一九条によると寄託後30日目から条約が発効するため,今月14日から人種差別撤廃条約は効力を生じることになりました。
この条約の精神を私なりに要約すれば,「公人,私人を問わず,差別は道義の問題ではなく犯罪に他ならない」ということだと思います。凶悪な犯罪であるからこそ,「あらゆる形態の人種差別を撤廃し,及び,すべての人種間の理解を促進する政策を,あらゆる適切な手段により遅滞なく遂行」(第二条)しなければならないわけです。
しかしながら,日本には差別を犯罪として処罰する法律は存在していません。自治体レベルでは,条例を制定したり宣言を採択しているところもありますが,いずれも道義レベルの戒めにすぎず,罰則も実効性もありません。
この条約の精神をもっとも具体化している第四条(差別禁止の立法措置を明文化してある)に留保条件を付けたのは,アメリカ合衆国が同じく留保条件を付けたのをいわば真似したためですが,アメリカ合衆国には,「人種」にかんする差別を罰する法律が存在しているのです。差別を罰する法律が存在していないにもかかわらず,人種差別撤廃条約を批准してもなお差別を罰する法律を制定しない? それは,正義と人権の意識を欠いた恥ずかしい国であることを,世界に宣言するようなものです。あ,韓国もそうかな? そのうち調べておきましょう。
いずれにしても,私は,自分が生まれ育った国として,日本を誇りに思いたいのです。
追記:
大阪市の原票入力手続き
昨日10日夕方以降の報道でご存じの方も多いかと思いますが,大阪市が外国人登録原票を民間業者にマイクロフィルム撮影させていたさいに,大阪府内のアルバイト大学生も原票を目にしていたことが判明しました。
報道によりますと,マイクロフィルムの撮影は,業者が区役所内で原票に台紙をあてて指紋や写真などのデータを隠しながらおこなったらしいのですが,そのアルバイト学生は,原票に整理番号のシールを貼ったり,撮影助手のようなことをしていたということです。
大阪市は,「業者にもアルバイトにも守秘義務をきちんと守るよう説明した。この方法でただちに人権侵害が起きたとはいえない」と弁明しているようですが,実際にアルバイトをした大学生によると,作業前に外国人登録原票であるという説明はなく,「個人的なことが書いてあるので,外部に漏らさないように」とだけ言われたという。
ここで守秘義務について簡単に説明しておきましょう。公務員は,国家公務員法によっていくつかの服務義務を課されています。職務専念義務,憲法および法令遵守義務などは有名なところでしょう。そして守秘義務もその一つで,ようするに,職務上の秘密や職務上知り得た秘密を他人に漏らしてはならないということです。そして,そうした秘密を他人に漏らした場合には,公務員機密漏示罪として刑法上の犯罪となります。
しかしながら,このアルバイト学生は民間業者に雇われているわけですから「公務員」ではありません。したがって,国家公務員法に規定されている守秘義務にはまったく縛られないわけです。しかも,アルバイト学生は,市からプライバシーを漏らさないようにと簡単なお願いを受けただけであって,実効性のある情報保護措置はまったくとられていないことがうかがわれます。
その学生はインタビューにたいして,「写真や指紋のほか,どこの刑務所にいたなんてことまで書かれており,その人の過去が全部分かってしまう。こういうことをアルバイトにさせていいのかと感じた」と語っています。
その通り。この問題は,もはや民間業者が情報を漏洩するのではないかというレベルでとらえるべきではないようです。つまり,市が業者およびアルバイトに原票そのものの撮影を任せた時点で,すでに「職務上知り得た秘密を他人に漏らして」いる状態であり,市および担当者は公務員機密漏示罪を犯している可能性がきわめて高いと言えます。
骨付きカルビと日本人
最近,骨付きカルビの値段が高騰しているという事実をご存じでしょうか。正月に帰省した折り,このことについて面白い話を聞いてきました。
某デパート系の肉の卸業者が語るところによれば,このところ韓国の業者がアメリカ産牛肉の骨付きカルビを大規模に買い占めており,日本での価格の高騰は,そのあおりを受けたものだというのです。
韓国で焼き肉を食べたことのある方ならお分かりと思いますが,もともと韓国はさほど骨付き部位を消費するところではありません。たれ焼きの場合は豚肉の割合も高いですしね。
では,いったいなぜ韓国の業者が骨付きカルビを買い占めているのかということですが,業者の方が言うには,日本からの観光客に対応するためだろうというのです。
この話,どこまで本当なのかは分かりません。ですが,エビやバナナの消費構造を思い起こすと,骨付きカルビの重層的な消費構造も,もっともらしく聞こえてきます。
定時制廃止に不服審査申し立てへ2
先月15日に配信したとおり,府立定時制高校廃止問題について生徒や保護者らが不服審査申し立ての準備手続きをすすめていましたが,昨日5日,教育を受ける権利を不当に侵害するなどの理由を挙げ,来年度からの募集停止処分の取り消しをもとめて府教育委員会に異議申し立てをしました。
高知県職員の国籍条項撤廃へ
村山富市首相の辞任表明を受けて,本日6日の新聞各紙は「橋本政権誕生」を1面で取り上げています。その橋本龍太郎自民党総裁は,最近まで日本遺族会の会長を務め,歴史認識をめぐって右派の発言で物議を醸すなどタカ派的な印象がきわめて強いのにたいして,元ニュースキャスターでハト派的な施策を打ち出してきた弟・橋本大二郎高知県知事は,統一日報社のインタビューに答えて,今年5月までに一部を除いて県職員採用の「国籍条項」を基本的に撤廃する意向を明らかにしています[統一日報1月1日付け]。
同紙のインタビュー内容によると「地方行政は,住民の統治ではなく,住民へのサービス業という意識を持つべき」であり,「国政における外交と防衛,地方における警察行政にかかわるものを除けば,公務員採用について国籍の違いは問題にならない」とのことです。また同時に,管理職の任用についても国籍による制限を設けないことを明らかにしています。
地方自治体を監督する自治省は,外国人の公務員就任について「公務員は『公権力の行使』と『公の意思形成』にかかわるもので,日本国籍者であるのが当然」という「当然の法理」を主張していることもあり,これまで管理職の任用を含めて国籍状況を撤廃している自治体はほとんどありません。同知事は昨年1月にも同様の意向を表明して注目を引いていましたが,丸一年間の準備・調査期間をへてからの再表明だけに,具体的な取り組みが期待されます。
いずれも,日本の企業が労働者として希望する人数を当局に申請し,朝鮮総督府経由の命令で集団移住させられているということは共通しています。
ところで,この調査はきわめて貴重なものです。韓国籍をもつ在日朝鮮人で1910〜45年のあいだに日本へ渡航してきた者を母集団としており,面接調査によって1106人(回収率26.3%)の回答を得ています。報告書(『アボジ聞かせてあの日のことを』)を入手するには,在日韓国青年会(03-3453-0881)へ連絡してください。
一つめの神話が一般の人に多く信じられているのにたいして,二つめの神話は中途半端に在日朝鮮人を研究している人から多く聞かれます。二つめの神話が広まった理由として,1)大阪の生野区だけを観察して在日朝鮮人を研究したつもりになっている人も多いが,2)大阪の生野区に強制連行で連れられてきた人は比較的少ない,といったことではないだろうかと私は考えています。さて本当のところはどうでしょうか。いずれにしても,せっかく在日同胞のことを研究してくれるのならば,中途半端にではなく徹底的にやっていただきたいものです。
(こんな貴重なデータを眠らせておいてはいかんよ!>青年会の諸氏)
人種差別撤廃条約の批准は,条約採択から30年ものあいだ懸案のまま放置されてきたことがらでした。それをなしえたのは,村山政権の数少ない重要な業績の一つなのですが,マスコミはこの事実をささやかにしか評価していませんね。そもそも,この条約を批准したことによって,日本は差別について歴史的な発想の転換を求められているのですが……ジャーナリズムっていったい何でしょうね。