在日朝鮮人をめぐる時事問題
Vol. 13


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  • 1996/05/03 配信

    三木睦子さんが「アジア基金」辞表提出

     久しぶりに朝日新聞の速報から始まったニュースです。著作権上問題があるとは思いますが,このニュースについては三木さんの関係者のインタビューが基調になっているようですので,誤解を避けるために,まず全文を引用します。

     戦時中に従軍慰安婦にさせられた人々に対する償いの事業として 政府が主導して発足した「女性のためのアジア平和国民基金」の呼 びかけ人、三木睦子・元首相夫人が二日、同基金理事長の原文兵衛 ・前参院議長に辞表を提出したことを三木さんの関係者が明らかに した。基金側は辞表を「預かり」として慰留したという。しかし、 橋本政権の取り組みの「不十分さ」や募金の集まりの悪さに落胆し 、「国家補償を避けるために利用されている」とする内外の批判に 三木さんの辞意は固く、他の呼びかけ人にも追随する動きが出そう だ。

     三木さんは以前から政府に対し、被害女性個人への国家賠償を主 張してきたが、昨年夏ごろから旧知の五十嵐広三官房長官(当時) や外務省幹部から強い要請があり、▼被害者が高齢で時間的余裕が ない▼呼びかけ人として政府に個人補償を働きかける方が影響力を 行使できる――などの判断から呼びかけ人を引き受けた。呼びかけ 人は現在、十九人いる。

     関係者によると、三木さんは「政府は一向に個人賠償の論議を推 し進める気配がないばかりか、(橋本政権になってからは)個人補 償はありえないなどと公言している」として、辞任を決めたという 。

     辞表提出後の二日午後も、三木さんはいっしょに運動してきた坂 本義和・東大名誉教授らと首相官邸に橋本首相を訪ね、被害者個人 への謝罪や国家補償を改めて申し入れたが、首相は「賠償問題は法 的に解決済み」とする政府見解を繰り返し、「むなしさを感じた」 という。

     さて,何とコメントしたらいいのでしょうか…。軍事性奴隷(従軍慰安婦)の問題は,戦時の不法行為にたいする謝罪姿勢を内外に提示する絶好の,そして最後のチャンスでした。しかしながら,日本政府として唯一の(かつ大きな問題を抱えた)対策である同基金は,事実上とん挫したと言っていいでしょう。日本国民の中には,ぜひ慰安婦たちに誠心誠意,謝罪の意を伝えたいと考えている人も少なくはないはずですが,国政の失敗でその機会を奪われてしまった格好です。

     韓国についていえば,被害者たちはお金をほしがっているわけではなく,謝罪と尊厳を求めているのですから,日本政府としてそんなにお金を払うのがいやなら,クマラスワミ氏による6つの勧告のうち残りの5つを完遂すればいい話です。それは,まだ今からでも間に合うはずです。

    1. 日本帝国陸軍が作った慰安所制度は国際法に違反する。政府はその法的責任を認めること
    2. 日本の性奴隷にされた被害者個々人に補償金を支払うこと
    3. 慰安所とそれに関連する活動について,すべての資料の公開すること
    4. 被害者の女性個々人にたいして,公開の書面による謝罪をすること
    5. 教育の場でこの問題の理解を深めること
    6. 慰安婦の募集と慰安所の設置にあたった犯罪者の追及と処罰を可能なかぎり行うこと
     もし,それをせずに「すべてをなかったことにしたい」という卑怯な態度をとり続けるのなら,もはや日本が「普通の国」として国際社会から信頼を取り戻すことは,少なくとも近い将来には,困難でしょう。

     「基金」は,今年8月15日までに支給を何とか開始したいということのようですが,それまでに支給金額や支給方法などでおそらく右往左往することでしょう。そして,受け取り拒否者が続出することが予想されます。戦後50年決議のときにもそうだったように,日本はこれからしばらく,国際社会の厳しい与論にさらされることになるでしょう。

     みなさんは,こんな日本国に誇りを持てますか? 愛国心というのは,べつに国旗や国歌を押しつけることによって生まれるものではないと,僕は思うのですけどね。


  • 1996/05/02 配信

    「国籍条項」に関する2つの調査

     外国人の公務員就任にかかわる「国籍条項」について,毎日新聞社と読売新聞社の調査がそれぞれ発表されました。簡単にご紹介します。

     まず毎日新聞社の調査ですが,全国の有権者3009人を対象に,訪問面接法によって4月中旬に実施されたもので(回収率69%),国籍条項の撤廃に賛成か反対かをたずねています。

     全体で見ると「撤廃賛成」が45%,逆に「反対」はその半分以下の20%。残りの35%は「分からない」もしくは無回答でしょう。撤廃に「賛成」したのは男性が女性より5ポイント多い48%。年齢別では若年層ほど「賛成」が多く,20代で61%に達する。逆に70歳以上では「賛成」23%,「反対」26%。職業別ではホワイトカラーの賛成が高いということですが,おそらく学歴の疑似相関でしょう。学歴別では高学歴ほど「賛成」が多く,大卒で58%とのことです。

     次に読売新聞社の調査ですが,自治省の管理下にある全国の都道府県と政令指定都市を対象としたもので,調査項目は(1)今年度または,来年度以降に条項を見直す考えの有無(2)「公権力の行使や公の意思の形成に携わる公務員には日本国籍が必要」とする自治省見解にたいする考え,の2点です。

     以下,引用します。

     北海道、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、東京、神奈川、愛知、三重、石川、京都、奈良、和歌山、鳥取、広島、山口、高知、福岡の十九都道県が条項見直しを「検討中」「検討したい」考えを明らかにした。政令市では、消防を除く全職種で今年度からの条項撤廃を打ち出した川崎をはじめ、札幌、横浜、名古屋、大阪の五市が同様の意向を示している。

     ただ、一般職まで含めて見直すかどうかは、現時点で方向が固まっていない自治体が大半だ。北海道、東京都、神奈川、愛知、三重県は現行の自治省見解に抵触しないことを念頭に置き、現在専門職の一部で認めている受験をその枠内で拡充することを目指している。

     一方、今回一般職での条項撤廃を計画しながら断念した高知県、大阪市は「出来るだけ早期の撤廃をめざす」という。福岡県は「職種の拡大では限界に近い。時代は変わってきた」として条項撤廃に伴う問題点を調査。山口県は人事委員会と関係部局よる検討会を発足させ、近く具体的な論議に入る。


  • 1996/05/01 配信

    「国籍条項撤廃」の長い一日

     標題の件について,昨日4月30日の動向は非常にあわただしかったようですね。すでに各マスコミで広く報じられていますが,大阪市では磯村市長が午前の市議会財政総務委員協議会で撤廃見送りを正式に表明し,午後には高知県人事委員会が審議打ち切りを決定しました(まだ橋本高知県知事本人は撤廃の意向を曲げていません)。

     大阪市のほうは,市議会への根回しが足らなかったことなどから見送りも予想されましたが,高知県の人事委員会には失望させられましたね。国籍条項の撤廃という面だけでなく,地方自治…というか地方の主体性と自尊心をかけた闘いというところがあっただけに,とてもがっかりです。しょせんはお国のいいなりですか。

     しかし面白いことに,高知県人事委員会の決定が伝えられたあと,なんと川崎市があらためて国籍条項撤廃を表明しました(笑)。いいノリですね,川崎市。これだけカッコいいことはなかなかできるものじゃありません。三部会なんて茶化すんじゃなかったかな。

     川崎市は数日前に撤廃の方針を自治省に伝えていたのですが,正直なことを告白しますと,僕はあまり実現性を信じていませんでした。そのためここにも掲載しなかったのですが,結果としては,大阪市や高知県人事委員会の挫折を,国家に対する地方の対抗運動へと転換するキッカケにもなりうる,きわめて重要な役割をになうことになったわけです。

     うれしいですね,こういうの。ゾクゾクします。たとえどんな抑圧や差別があろうとも,こういう心意気をもった人たちがいるということが,日本社会への愛着や夢を持たせてくれるんです。


  • 1996/04/26 配信

    大阪市の「国籍条項撤廃」続報2

     先月21日以来お伝えしている大阪市職員採用試験の「国籍条項」撤廃問題ですが,どうやら先送りになりそうです。

     今月25日の財政総務委員協議会で同問題の質疑が行われることを見越して,23日に在日本大韓民国民団(民団)の代表らが,そして翌24日に在日コリアン人権協会・大阪の朴洋幸事務局長らが大阪市役所を訪れ,磯村隆文市長あてに国籍条項の早期撤廃を求める要望書を提出していました。その際すでに,今年度の実現はむずかしい状況との感触を伝えていたようですが,やはり磯村隆文市長は,財政総務委員協議会でも早期撤廃に慎重な姿勢を示したとのことです。同時に,「今月中に考え方をまとめたい」と答弁していますので,最終的な態度は今月30日の同協議会で表明される見通しです。

     磯村市長による答弁の骨子は,「微妙かつ重大な問題」「混乱が起きることはよくない」「安定した制度として多くの市民の賛同を得て実行すべきと思う」「議会や市民の意見を聴きながら,これまでの経過を踏まえて判断したい」というもの。一方,同協議会での各委員の態度は,「十分な時間をかけて検討するべきだ」といった慎重論ないし消極論が大勢を占めていますので,市長の答弁は事実上,先送りを表明したものと受け取れます。

     なお,これに関連するニュースがあります。倉田寛之自治相は本日26日の閣議後の記者会見で,高知県の国籍条項撤廃の方針は容認できないとする従来の姿勢をあらためて示したとのことです。自治省としては,標的を高知県一本に絞ることができて,ほくそ笑んでいるところでしょうか。ウラで何があったんでしょうね。


    在日朝鮮人生徒への暴行事件拡大の様相

     タイトルの件については,「またもや在日朝鮮人生徒への暴行事件多発の兆し」としてお伝えしていましたが,残念ながら「兆し」は消えるどころか,たびたび事件が続発しています。

     在日本朝鮮人総聯合会(総連)中央本部による24日のまとめでは,11〜20日の間に首都圏や東海地方などで11件の被害が出ているとのことです。

     ところで,ひとたび成立した差別構造はなかなか解消しないものです。というよりむしろ,アメリカの後期白人移民にたいする差別のように奇跡的な例外はありますけど,消え去った差別などというものは近代社会にあまり存在しないというべきでしょう。偏見が軟化したり差別が軽減することはよくありますが,それらが完全に消え去るということはめったにないわけですね。

     それでは,差別は容易になくならないという悲劇的な事実を直視したうえで,このような差別事象に対処するにはどうしたらいいのでしょうか。個々人がとりうる具体的な対処方法は,傍観者にならないということです。つまり,たとえ差別がすぐにはなくならないとしても,被害者をすぐにサポートし,差別者をその場で糾弾する姿勢が整っていれば,個々の差別事象の影響力を無化することはできるわけです。

     これまでの暴行事件多発の時には,駅のホームで朝鮮学校の女生徒が暴行を受けている姿を,まわりの乗客たちが見て見ぬフリをするというケースがありました。こうした暴力行為を放置するということは,結果として差別に荷担しているのと同じことです。「傍観者」は,場合によって「共犯者」になりうるわけです。

     ですから,身近に差別を見聞きしたとき――気がつかない人は気づかないかもしれませんが,差別は日常のいたるところにあります――,それをだまって見過ごさないということが重要です。沈黙は,差別行為を助長するだけだということを自覚するところから,すべては始まります。


  • 1996/04/19 配信

    世界人権問題研究センターの紀要

     “人権問題の専門研究期間としては日本初の財団法人”という「世界人権問題研究センター」が,このほど設立後1年間の研究成果を『研究紀要』第1号として公刊したということです。

     今回の紀要には全13本の論文が所収されているということですが,なかでも期待されるのが水野直樹氏(京都大学)によるものですね。水野さんの研究活動の一部は,2月9日に天皇制と在日朝鮮人の参政権剥奪という記事のなかで言及しましたが,紀要論文はそれを整理したもののようです。

     残念ながら私はまだ読んでいないのですが,近いうちに入手してこちらであらためて紹介したいと思います。大阪大学の人間科学部に送られてきていれば,そんなに時間はかからないと思いますが…。


    奈良教組の日韓認識調査

     奈良教職員組合は,韓国の全国教職員組合慶北支部と共同で両国中学生に日韓関係史などの知識調査をおこない,その調査結果を発表したとのこと[18日付け統一日報]。

     だいたい調査報告というものは,データの読み方を知らない記者の文章にされた時点で,もう元の姿をとどめていないことが多いものです。ですから,報告書の実物を見てみるまではなんともコメントしにくいのですが,紙面から分かる範囲で内容を紹介します。

     調査時期は,昨年6月〜7月。韓国側が慶北地域の中学校2〜3年生の男女450人,日本側が奈良県内の中学校1,3年生男女690人を任意抽出したということ。

    任意抽出って何だろう? 一般に学生を調査をするときには,1)学校をランダムサンプリングし,2)さらにその学校のなかで対象者をランダムサンプリングする,もしくは,2')その学校のクラスをランダムサンプリングする,という層化二段階抽出が行われることが多いですね。
     質問票の形態は,両国に関係する歴史的事実など22項目について,3点ないし5点尺度(たとえば「1.よく知っている」「2.少し知っている」「3.知らない」)で回答するというもの。

    質問紙で知識を問う設問の場合は,まったく知らないのに「知っている」という回答を導く危険性が避けられないため,あまりこういう質問形態にはしないものなんですけどね。
     以下,統一日報紙で言及されていた単純集計の比較をいくつか紹介しましょう。まず「閔姫暗殺事件」ですが,韓国の中学生で“知っている”という回答の比率が85%であるのにたいして,奈良の中学生は“知らない”が80%。

     「安重根」は,韓国で「よく知っている」60.5%,「少し知っている」37.3%,あわせて97.8%が“知っている”のにたいして,日本では「よく知っている」9.5%,「少し知っている」30.3%,あわせて“知っている”のは39.8%。

     「植民地支配の事実」については,韓国で「よく知っている」72.7%,「少し知っている」21.4%であるのにたいして,日本では「よく知っている」26.0%,「少し知っている」59.8%,「知らない」30.8%。

     以上の結果ですが,まず,奈良の中学生の20%近くが何らかのかたちで「閔姫暗殺事件」を“知っている”というのは,私にはむしろ,かなり高い数値であると思われます。「閔姫暗殺事件」は,僕が中学生のころの教科書に載っていなかったように記憶しているのですが,最近は違うのでしょうか。

     また,「植民地支配の事実」というのは設問があいまいすぎます。もし「1910年=日韓併合」という年号を知っているというようなことが「植民地支配の事実」を「少し知っている」の内容だとすると,日韓で選択肢の意味自体が大きくずれていることになりかねません。これは,国際比較研究の最大の弱点なのですが,テーマがこれだけ限定された調査なら,もうすこし設問を吟味してほしかったところですね。しかし,奈良の中学生の30.8%が植民地支配を「知らない」というのは……(^_^;)。

     ということで,調査対象者の年齢分布が違っていたり,全体的に質問の形態に起因する難点を抱えていたりはしますが,しかしそれでもなお,両国の中学生の知識の格差は歴然と示されています。教組には,この事態を真摯に反省していただくとともに,ぜひとも実際の教育現場に活かしていってもらいたいものです。


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