在日朝鮮人をめぐる時事問題
Vol. 16


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  • 1996/08/03 配信

    新しい社会調査

     8月2日付けの統一日報紙に、東洋大学社会学部の調査企画が紹介されていました。調査地は東京の荒川区三河島で、144世帯の済州島高内里出身者が対象。訪問面接による質問紙調査で、社会的ネットワークなど44項目の質問からなるとのことです。

     また、同紙のインタビューにたいして田島忠篤教授は、「『在日』=『差別』という,イデオロギー的偏見に関する調査ではなく、生活のにおいがするものにしたい。同じ切り口からでは、新しい面は見えてこないでしょう」と意欲的なことをお話になっていますので(といっても、この種のインタビューはしゃべった内容とかなりズレるものですが),つっこんだ報告書が期待できるかもしれません。

     いつも話しているように、在日朝鮮人の調査は名簿の入手が困難という問題を抱えていますが、東洋大学の調査は調査地と調査対象をコンパクトに絞ったことによってその問題を回避し,学問的厳密さを確保していると思われます。もちろん、この調査から在日朝鮮人全体のことについて言及することはできませんが、済州島出身者は在日朝鮮人の重要な一角を占めますので、調査対象が限定されていることによって調査の意義が半減するということはありません。結果が期待されます。

     なお、済州島出身者の調査といえば、高新徽さんの『在日済州島出身者の生活過程――関東地方を中心に』(新幹社,1996年)が参考になります。修士論文に若干の修正を加えたものということですが、それにしてはかなりの良書と言っていいでしょう。

     全体として,質問紙調査と聞き取り調査データをストイックに記述するスタイルの調査報告書で,ナマのデータの面白さが光ります。ただ、逆に言うとデータの要約・説明が不足しているということでもありますが、「あえて,未熟な修士論文をそのままにしたのは、これからの研究への目標があるからである」(「あとがき」より)ということですから、今後の作業に期待がもてます。ともあれ、そういったことを差し引いても、十分に価値のある業績だと言えるでしょう。ぜひ一読をお勧めします。


  • 1996/07/27 配信

    原票の指紋抹消の通達

     法務省入国管理局は26日、永住者・特別永住者について外国人登録原票の指紋抹消を各都道府県知事に指示する通達を出しました。まず、このことについて関連する記事およびページを紹介しておきましょう。

    1. 指紋押捺制度の変遷
    2. 「外国人登録原票の参照問題」
    3. 「私の外国人登録原票」
    4. 「「指紋」について」
    5. 「外国人登録原票の指紋削除要求」
    6. 「原票の指紋削除請求を却下」
    7. 「豊中でも原票の指紋削除請求を却下」
     在日朝鮮人らを中心とする永住者・特別永住者については、1992年6月の外国人登録法改正をうけて、1993年1月の同法施行時から登録時の指紋押なつ制度が廃止されました。にもかかわらず、それ以前に採取していた指紋を各地方自治体や法務省が継続して保管しており、大きな問題として指摘されてきたわけです。大阪府下では大阪市生野区と豊中市で,プライバシー保護条例に基づいて原票の指紋を削除する要請がなされましたが、いずれの自治体も要請を却下するなど当時の法務省の意向に盲従する態度に終始していました。

     しかし遅まきながら昨日、指紋削除要求にこたえるかたちで、外国人登録原票から指紋を削除する旨の通達が出されたというわけです。

     「義務はあっても権利はない」というのが,日本の外国人管理行政の戦後一貫した基本方針です。しかしながら、時代に合わせて少しずつゆっくりと、柔軟さを増してきているということも確かなようです。


    年金支給の国籍差別は立法府の裁量――大阪高裁

     「義務はあっても権利はない」という日本の外国人管理行政が現在もっともあからさまにみられるのは、年金における国籍差別です。そして日本の司法も、この行政の基本方針に服従しています。

     国民年金制度の発足時に外国籍だったことを理由に、国籍要件の撤廃後も障害福祉年金の支給を拒むのは憲法に違反するとして、韓国から日本に帰化した塩見日出さん(62歳、視覚障害者)が大阪府知事を相手取り、年金申請却下処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が,26日に大阪高裁でありました。

     上野茂裁判長は「国籍要件撤廃前に、年金支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲であり、同要件撤廃後もそれは変わらない」として、原告の請求を退けた一審の大阪地裁判決を支持し、控訴を棄却しました。

     「日弁連の要望書2点」で説明したとおり、上野裁判長が「立法府の裁量」と言うところの年金支給制限は、明白な国籍差別です。しかしながら、日本の最高法規である憲法には「基本的人権」がうたわれていますし、憲法の次に位置する国際条約には国政参政権以外の国籍差別を禁じる項目(いわゆる「内外人平等」)があります。年金支給の国籍差別をめぐっては、いわば法的な矛盾状態にあるわけです。

     しかし大阪高裁は、その法的矛盾の解消よりも,政治を優先したことになります。さらに、国籍で差別することも立法府の裁量として許される、とさえ言っているわけです。


  • 1996/07/24 配信

    2つの判決

     今月23日付けの毎日新聞ニュース速報によると、東京都内のタクシー運転手(63)と内縁の妻(62)が、近所の無職男性(66)とその家族から長年にわたり「朝鮮人は帰れ」などと差別的な発言を繰り返し受けたとして600万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は23日、無職男性側に計87万円の支払いを命じたとのことです。なお、無職男性側も運転手側を相手に、植木を投げ込まれるなどの迷惑を受けたとして計900万円の損害賠償訴訟を起こして対抗していたが、判決は一部を認め、計45万円の支払いを命じたとのことです。

     判決および裁判長の弁では、「男性側の侮辱的発言は長期間にわたって繰り返し執ように行われた」「侮辱的行為で、原告の名誉感情が害されたことは明らか」ということのようですので、名誉毀損としての裁判だったのでしょうか。ともあれ差別事象が裁かれた貴重なケースです。

     この判決についての報道内容で注目したいところは3点あります。まず,(1)差別発言をしていたのが,66歳の男性だけでなく「その家族」を含むということ。次に、(2)差別行為を受けた夫婦は法律婚ではなく事実婚であったこと。そして、(3)民事訴訟とはいえ、差別者を実名報道していないこと,です。

     第1点については、「家族」というのが誰なのかは分かりませんが、身近に反対者がいなければ理不尽な差別事象もエスカレートしがちでしょう。少なくとも、家族ぐるみの長期にわたる差別行為はかなり熾烈なものであったことが推察されます。

     第2点については差別事象と関係ありませんが、年輩の在日朝鮮人と日本人の夫婦ではよくあるケースです。理由はもちろん、双方の親族からの反対が強かったためです。

     第3点について問題なのは、加害者が在日朝鮮人の場合、新聞は民事事件であっても実名報道することが多く、実名報道しない場合でも、国籍によって在日朝鮮人や在日韓国人などの属性を報道することが多いということです。通名(日本名)をなのっている在日朝鮮人の場合、いいことをしても通名でしか報道されず、すなわち、日本人がいいことをしたということにしかなりませんが、罪を犯したときには本名で報道され、すなわち在日朝鮮人が悪いことをしたとして糾弾されるわけです。にもかかわらず、なぜこの報道では加害者を「無職男性」などと匿名にするのでしょうか。ここに、マスコミの安易な犯罪者糾弾の姿勢にかくれた、民族差別を指摘することができます。

     もうひとつの判決をお知らせしましょう。本日、不二越訴訟の判決がおりました。詳細はおそらく後日お知らせできるだろうと思いますが、ひとまず時事通信および毎日新聞から引用しておきます。(不二越訴訟については、「戦時賃金未払い問題」も参照してください。)

    不二越訴訟 [時事通信ニュース速報1996-07-24-06:48より]

     太平洋戦争末期、富山市の工作機械メーカー「不二越」で女子てい身隊員、徴用工として働いていた韓国人男女三人が、同社を相手取り未払い賃金と慰謝料計二千万円余の支払いと、四百万円分の謝罪広告掲載を求めて一九九二年九月、富山地裁に提訴した。

     訴訟では、賃金未払いについて原告側は「九二年九月二十八日に会社を訪問するまで解雇の意思表示がなく雇用契約は継続しており、請求権がある」と主張。被告側は「民法上の請求権は消滅時効となっている」とした。

     慰謝料などの請求では、原告が「実現可能性のない言葉で勧誘、劣悪な労働条件で働かせたのは国際人権法違反。当時の国内法にも違反していた」としたのに対し、被告側は「差別処遇はしておらず不法行為はない。仮に不法行為に当たるとしても、法的に損害賠償請求権は除斥期間の経過で消滅した」と主張した。

     また、被告側は日韓協定締結で六五年に制定された法律で「韓国側の未払い賃金請求権や損害賠償請求権は消滅した」と主張。原告側は「個人の請求権までは消滅していない」と反論していた。

     不二越をめぐっては、同社で働いていた別の元女子てい身隊員三人が、元従軍慰安婦とともに日本政府に賠償を求めた裁判も山口地裁下関支部で係争中。

    <不二越訴訟>解説 [毎日新聞ニュース速報1996-07-24-13:44より]

     「企業の戦争責任」を問う初の司法判断として注目された24日の富山地裁判決は、強制連行や強制労働に対する「恨」を原点に、訴訟に踏み切った元女子挺身(ていしん)隊員ら原告の思いを時効の壁ではねつけ、戦後半世紀の時間の重みを改めて見せつけた。

     1990年5月、民間団体が日韓両政府に慰安婦に関する真相調査を求めて以来、戦争による個人被害救済への関心が急速に高まってきた。韓国での民主化の進展も、戦後補償を求める動きを加速させている。

     さらに不二越訴訟は、従軍慰安婦問題に隠れて表面化しなかった韓国人女子挺身隊問題に光を当てた点で、訴えの意義は大きい。

     今回、原告弁護団は「重大な人権侵害や戦争犯罪には国際法上、時効はない」として、国際法を請求根拠の主体とした。だが、判決は原告側の主張する過酷な労働状況を認めながら、わが国の民法による不法行為損害賠償請求の時効20年が成立しているとし、国際法上も時効が適用されるとした。

     旧植民地の人々が、戦時下の不法・不当な行為を改めて告発し、司法救済を受ける道はきわめて狭くなったといえよう。

     一方で、判決は賃金の未払いの事実を認めた。しかし、日本政府が個人請求権を認めた91年の時点から1年で賃金債権が時効になるとの判断では、原告にも、これから訴えの声を挙げようとする人々にも、なんの慰めにもならない。

     不二越側は「当時は韓国も日本の一部で、日本の法律に従って労働力を募っただけ」との主張を繰り返し、判決も動員の本質には触れなかった。これでは、日本と戦争被害を訴える人々との溝は埋まらない。

     戦後補償裁判は、日本政府にさらなる法整備を求め、企業に被害救済と謝罪を迫っていることを忘れてはならない。今回の判決を免罪符にすることは許されまい。【引地 達也】

    以上、引用終わり。


  • 1996/07/14 配信

    大阪府下の調査2点

     大阪府教育委員会では、昨年夏(8〜9月)に行った外国籍生徒の進路追跡調査について、このほど調査報告書を発表したということです。こうした調査は絶対数が非常に少ないですから、在日朝鮮人が社会的地位を達成していくプロセスを解明するうえで重要なデータとなるでしょう。また、本名/通名の使い分けなども調査票には含まれているということで、報告書を入手するのが楽しみです。なお、府教育委員会では、4年間にわたって継続調査を実施する予定ということです。

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     大阪府福祉部は、今月の15日から、府内在住の60歳以上の在日朝鮮人高齢者5千人を無作為抽出し、「在日外国人高齢者保険福祉サービス利用状況等調査」を実施するということです。郵送法による質問紙調査につづいて、秋には百人を対象に聞き取り調査を実施、年内に報告書を作成するということです。

     しかし…、在日朝鮮人の60歳以上というと小学校に通えなかった方も多いですから、女性を中心として文盲率がけっこう高いはずです。まして日本語がうまく理解できないというケースも中にはありますし、郵送法での質問紙調査は困難だと思うのですがねぇ。まぁ、調査を請け負うのが大阪府立大学社会福祉学部社会福祉調査研究会ということですから、おそらく何とかうまくやってくれることでしょう。

     ちなみに、3月26日に「強制連行真相調査団が実態調査」で触れたように、この種の調査で難しいのは名簿を入手することなのです。大阪府がやるわけですから、外国人登録原票を使えばいいじゃないかと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、外国人登録は国からの委任業務ですから、原票を調査などの「目的外使用」するためには,事前に外務省に了解を取り付けなければなりません。1984年の神奈川の調査で外国人登録原票の使用を「黙認」されたことがありましたけど、以後、許可はおろか黙認さえもされていません。

     じゃぁ、今回の調査はどうやるつもりなのかというと、民団と総連の両大阪本部から、個人リストの提供を受けたということです。これはこれで,また素晴らしいことです。目的と理念さえ認められば、政治的な対立など突破できるということですね。


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