はじめに
かつて担任した生徒の中に、在日韓国・朝鮮人の女子生徒がひとりいました。中学1年の新学期も始まってすぐのことでした。その生徒が、クラブの生徒とのいざこざの中で「朝鮮人だったら朝鮮学校へいけ!」と大声で言われ、その場でうつむいて泣き崩れました。その生徒はまた2年生の時、休憩時間中に危険な遊びをしていた男子生徒をたしなめたときに「朝鮮人!」とその男子生徒から言われ、家に帰って母親に泣いて訴えたことがありました。「なぜ朝鮮人という理由でいじめられやなあかんの」と。子どもから切実なその訴えを聞いた母親の心の痛みはどれほどのものだったでしょうか。誰も自分の出自を選べませんし、ましてやそのことを理由に人からいじめられ、差別されることなどあってはならないことです。
私たちがこの和歌山で教師として教壇に立つ中で普段はほとんど在日韓国・朝鮮人の生徒を意識していませんが、しかし上の話のようなことは、ままあることではないでしょうか。このようなことが起こらないためにも常日頃から私たちは、在日韓国・朝鮮人児童・生徒についてそして、彼らを取り巻くいろいろな状況について知っておく必要があります。
現在約70万人の人々が、生活基盤を日本において不十分な行政の風にさらされ、時には、無理解な日本人から厳しい差別を受けています。韓国・朝鮮人がこれほど多く日本に住んでいるのは、日本の侵略・植民地支配の結果であることに他なりません。私たちは、これらの人々がどんな思いで暮らしているのか、またどんな生活を強いられているのかを知らないだけでなく、よく知ろうともせず今日まできたのではないでしょうか。
私たちは、学校の授業の中で、
「君たちは、20歳になると、みんな選挙権が与えられるんだ」といったことはないでしょうか? 入学・進級・卒業・進路の決定の時に書類を見て「あっ、彼は外国人だったんだ」という調子では、日常的に在日韓国・朝鮮人の子ども達の心を傷つけているかもしれません。厳しい現実の中で生きる父母から学び、子ども達とともにいきる姿勢が私たちには必要です。
現在、和歌山県には、約4,250名、そして、和歌山市内には、約2630名の在日韓国・朝鮮人の人々が生活しています。そのうち県下では、約300名の子ども達が公立の小・中学校に通っており、高校では、約90名が在籍しています(1997年度)。私たちが毎日接している園児・児童・生徒(子ども達)の中に彼らがいるにもかかわらず、「みんな日本人」として扱い、教育しているのではないでしょうか? 日本人と区別せず、同じように扱うことが教育的指導と考えてはいないでしょうか。
在日韓国・朝鮮人の子ども達には、朝鮮の言葉や文化や歴史を学習する権利があります(子どもの権利条約でも保障されています)。和歌山県外の大阪や奈良、兵庫県などでは、彼らの人権を守るための積極的な取り組みがなされている学校があります。しかし、「中核都市」和歌山では、帰国子女についての国際理解教育はもちろんのこと、在日韓国・朝鮮人の教育についても依然不十分な状態です。
この手引き書は、西宮市教組が出した、「アニハセヨ指導の手引き」をもとに、和歌山の教育現場に少しでもあうようにとの配慮から改訂が加えられました。在日韓国・朝鮮人の子ども達を受け持つわれわれ和歌山の教員が具体的な指導の場面で押さえておきたいことを載せています。在日韓国・朝鮮人が朝鮮民族としての誇りを持って生きていくことができるような「国際化」や「国際理解教育」を推し進める中で、この冊子をご利用いただければ幸いです。
※ この冊子で使う「朝鮮」とは「大韓民国」と「朝鮮民主主義人民共和国」の両国を指す言葉です。
本冊子を希望される先生方は、一冊につき80円切手(この切手のみ)を10枚同封し、日教組和歌山に送付してください。
冊子一冊は500円で販売しておりますので、まとまった数をご希望の場合は、日教組和歌山に直接ご連絡していただく方がよろしいかと思います。
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編集: 和歌山 在日外国人教育を考える会
発行: 日教組和歌山
発行日: 1997年9月25日
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Web版発行日: 1997年10月15日