4.指導要録への記入

 私たちは、一年に一度「管理班訪問」ということで、市教育委員会を学校が受け入れています。市教委は、必ずと言っていいほど、学校内の公簿の点検を行い、公簿記入について厳しい指導をしてきます。

 しかし、こと在日韓国・朝鮮人の子ども達の公簿に対して果たしてどのような指導をしてきたでしょうか。出席簿の扱いは? 卒業証書の扱いは? 卒業証書授与原簿は?・・・と、考えていくとなにか割り切れないものが心に浮かんできます。

 公簿については、在日韓国・朝鮮人の子ども達にとっては直接目に触れることのないものも多いのですが、その記載については、私たち教職員の在日の子ども達に対する姿勢が試される場でもあると思います。諸外国で果たして本名を名乗らず通名を使わざるを得ない国がどこにあるのでしょうか。日本社会の中には、本名を名乗ることで不利益を被ったり、差別されたりする厳しい現実があります。われわれ教職員が子どもなどの目につかない公簿についても通名を使うということは日本社会の現実を容認する態度となってしまうのではないでしょうか。また、「指導要録」などの公簿の公開を求める人々が多くなってきている昨今、学校を卒業した在日韓国・朝鮮人の生徒が自分の指導要録などを見たときに「通名」のみの記載や日本語読みの読み仮名をしていればその生徒は果たしてどう思うのでしょうか。そのためにも、公簿記入については、きちんとしていきたいものです。

(A)指導要録

 前述の本名指導にあるように、今私たちの前にいる在日韓国・朝鮮人の大部分が、本名を名のれないのが現実です。植民地時代の「創氏改名」といい、まさに、本名が使えないことが差別です。そうしたことから、指導要録などの公簿に、本名を記入していくことには、大きな意味があります。

 氏名欄には、まず本名を書きます。次に読み仮名ですが、「人名仮名表記辞典」(ブレーンセンター編:監修 金 東薫.1835円『税込み・送料別途』)を参考にして記入してください。他府県の教育委員会では、この「人名仮名表記辞典」を各学校に一冊ずつ配布しているところもあります。

 また、和歌山ではまだ聞きませんが、他府県では、日本語的な読み方をしてある書類(指導要録、調査票)を受け付けないところもあります。

 通名は、( )書きで記入します。(→実物画像

 年月日は、西暦を表記するのが当然でしょう。

 下の資料は、「昭和」から「平成」へ改元されたときの首相談話ですが、在日韓国・朝鮮人にとって、元号は、こだわりを持つものです。市教委は、公簿については、児童・生徒の人権に十分配慮しながら記載してほしいと言っています。また、西暦にするか元号にするかは、学校現場にゆだねているのが現実です。
 

 元号は、千三百年余りの歴史を有しております。単に年を表示する手段 
としてだけではなく、長い歴史の中で、日本人の心情にとけ込み、日本国 
民の心理的一体感の支えにもなっております。この新しい年号も広く国民 
に受け入れられ、日本人の生活の中に深く根ざしていくことを心から願っ 
ているしだいであります。  (竹下首相:当時の談話)

 本当に、小学校入学時での公簿記入を正確にし、連絡していくことが、在日韓国・朝鮮人教育のスタートであり、原点であることを、もう一度肝に銘じていきたいと思います。
 

(B) 卒業証書・卒業式呼名

 卒業式は、最後の授業であるといわれています。在日韓国・朝鮮人教育の集大成でもあるわけです。卒業証書に本名を書き、本名を呼名するのが当然ですが、呼名については、本人の民族的自覚の程度によって、保護者・子どもと十分話し合いをしていきたいものです。

 ただし、卒業式を前にして、突然「本名を・・・」という話をしても「はい」という返事は帰ってきません。子どもを担任したときから、機会あるごとに十分に話し合い、思いを聞いていくことがとても大切なことです。

 1996年度の卒業式から、和歌山市内の一部の学校では、卒業証書の年号記載については、(1) 西暦年のみ (2)西暦と元号併記 (3) 元号のみと記載方法にバラエティ−(保護者と生徒の意見を尊重しながら)を持たせ、記載しているところもあります。このような実践を通して、十分な教育を子ども達に保障していきたいものです。

(C)卒業授与原簿・調査書・卒業証書・成績証明書

 卒業証書授与原簿などの公簿については、本名を書いてください。生年月日も学校長との話し合いや職員会議での話し合いから西暦で書いていくことが大切でしょう。大体、公文書に偽名は使えません。将来、急なことで、証明書がとれない場合、卒業証書をそのままコピーするというようなことはよくあることです。そんなとき、通名の卒業証書では果たして使いものになるのでしょうか?子ども達の将来を見据えれば、本名記載でなければなりません。

 しかし、保護者や十分な民族意識がもてていない子ども達にとっては、本名記載の証書を他の生徒が見ているときに受け取ることが大きな負担になるでしょう。そのようなとき、事前に保護者や子どもと話し合い、二枚の卒業証書を用意することが必要となるかもしれません。

 もちろん教育という面から、現実という面からいっても本名・西暦記入がいかに大切かを理解しなければなりません。
 

(D)高校入試と登録済証・願書・受験票

 自分の足で、初めて踏み出す第1歩です。単にどこへ行くかという単純な進路指導ではなく、民族のことなど将来のことを十分に考慮した上で指導をしていきたいものです。

 和歌山県内の公立高校では、「調査書」の提出が義務化されています。この調査書は、「指導要録」と整合性を持たせなければなりません。従って本名で記入することが望ましいと思います。

 しかしながら、「入学願書」は、保護者の記入によるものです。また、受験票も同じです。入学願書あるいは受験票と調査書との整合性も問題となってきます。ここでは、子どもや保護者の願書記載の形を見ながら本名にするか通名にするかを決定してはどうでしょう。もちろん、調査書と願書受験票とが一致していなければなりません。もし、調査書が本名記載で願書・受験票が通名記載なら、受験者の調査書が存在しない形になり、中学校へのクレームとして帰ってくる可能性があるからです。

 和歌山県内の公立高校では、すべて入学手続きの時、住民票が必要です。しかし、在日韓国・朝鮮人の子ども達は「住民票」を持ちません。そのかわり、「外国人登録済証明書」を提出します。前述のように、市教委は「公簿への記入は、外国人登録証通り(本名)とする」と言っています。本名そして、学校長と話し合い西暦記入を忘れないようにしたいものです。しかし、本人の自覚の程度、保護者の思いもあります。十分な配慮が必要なことは、いうまでもありません。すべて、封筒に入れさせて提出のようなことも必要かもしれません。

 16歳の誕生日の時、本人が、外国人登録をします。できるだけ、配慮をしながらも、決して、逃げたり、下を向いてしまうことがないように子ども達に指導しておきたいものです。それが、中学校を卒業していく子ども達への最高のプレゼントだと思います。


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