9.中学からの進路指導

(A)進学先の選択

 在日韓国・朝鮮人生徒の進路の相談にあたっては、日本人生徒の進路相談に必要な基礎的認識に加えて、在日韓国・朝鮮人生徒にのみ必要ないくつかの視点が必要です。以下のような点に留意して進学先の相談を行っている担任もいますので参考にして下さい。
 

  1. 進学時の民族差別
  2.  高校進学においては、現在では、選考時の民族差別はほとんどなくなっています。しかし、一部の私立高校や、専門学校の中には、面接時に本名通学に否定的ともとれる発言をしたり、日本人優先とも考えられる選考をしたケースもあります。

     差別的な選考をしないこと、本名通学を否定しないことを事前に要請している中学校もあります。

     民族差別を心配するあまり、調査票に通名しか記入しない担任も未だに存在しますが、本名を記入しなければ進学先で韓国・朝鮮人としての指導が不可能になり、重大な悲劇を招くことにもなりかねません。
     

  3. 民族学校の紹介
  4.  民族学校を進路選択の一つに据え紹介することも大切なことです。民族学校についての客観的資料をそろえ、保護者の相談にのれる体制をとったり、卒業生から民族学校の特徴を聞き、資料の一部に加えている学校もあります。教員が民族学校を見学し、その教育内容について認識を深めているケースもあります。

     近畿圏内の民族学校のデータを以下の表に示します。
     

     ・各種学校として各府県が認可しているもの 

    特徴  母国語、母国史の学習、民族的自覚の確立に力をそそぐ。  
        授業は母国語で行われる。公立中学校からの進学者は基礎か  
        ら国語を学習する。卒業者を高卒扱いにし、大学受験資格を  
        認ているのは、公立大学331校中63校、国立大学はまだ  
        受資格を認めていません。 

     ▲神戸朝鮮高級学校  神戸市垂水区上高丸1−5         
                           TEL 078-709-0255 
     ▲大阪朝鮮高級学校  東大阪市菱江495            
                           TEL 0797-63-3481 

     ・私立高校として学校教育法第1条の認可を持つもの 

    特徴  授業は日本語が原則、母国語の学習は外国語の一部として実施 
       される。永住権を前提とした在日同胞と、帰国を前提とした駐日 
       同胞、そして日本国籍を有するものの三者が在籍している。日本 
       の大学すべての受験資格が認められている。 

    白頭学園建国高等学校  大阪市住吉区遠里2−97        
                            TEL 06-691-1231 
    金剛学園高等学校    大阪市西成区梅南2−5         
                            TEL 06-661-2893

     
     
  5. 将来を展望した進路選択
  6.  韓国・朝鮮人生徒(以下生徒と表記)の就職差別・就業差別はまだまだ厳しいものがあります。「ただ希望の学校へ入学できれば」といった視点だけでは、進学後あるいは次のステップで挫折が待ち受けている可能性があります。中学生の段階から、ある程度は将来の進路を展望しておく必要があるでしょう。(P43〜P47参照)就職差別・就業差別に負けないためにも、生徒の民族的自覚を高める必要があります。
     
     

  7. 中学から高校への引き継ぎ

     生徒の中学校での状況を高校への連絡の内容については、調査書や合格直後の中高担任連絡会議・高校訪問などの公式連絡会で高校側に知らせる必要があるでしょう。高校の朝文研などの同胞サークル顧問や、在日韓国・朝鮮人教員や職員を訪れて生徒の民族的自覚の度合いや指導の経過などについて連絡する方法、生徒と一緒に上記顧問や教員・職員と面談し本人が同胞サークルに入会したり、同胞教員・職員に相談に行きやすい状況をつくる方法、高校の「同和教育推進委員会」に問い合わせた上、同委員会や学年同和担当者に指導資料を提供する方法です。
 

(B)民族的自覚を高める進路相談・進路学活

 厳しい民族的差別が残る中で進路の問題を考えるとき、生徒の心は大きく揺れ動きます。差別の状況を知らない生徒や、差別状況をあまりにも悲観的にとらえすぎる傾向のある保護者にも、客観的状況を知らせる必要があります。この時期は、本人の民族的自覚を高めることの重要さを理解してもらうしめくくりの時期としてとらえることができます。自分の一生を決めるかもしれない進路選択の時期、生徒達は日本人生徒の数倍も真剣になることがよくあります。進学や就職のために外国人登録証が必要になって、初めてショックを感じるような状況ではこの時期の指導は困難です。入学以後一貫して民族的自覚を高める手だすけをしてきた決算の時期としてとらえたいものです。

 また、本名宣言をしていない生徒に対しては、本名宣言に導く最後のチャンスとして進路学活をとらえている担任もいます。生徒が差別・排外の現状を認識し、うち勝っていく力を付ける場としても、積極的に民族の問題を話し込んでいきたいものです。民族学級や民族クラブ担当者とも、この時期は特に連絡を密にとっていくことが望ましいでしょう。

(C)財団法人朝鮮奨学会高校奨学金とそのほかの奨学金

 すべての進学希望者に対して、高校奨学金や授業料免除についての説明が行われるでしょうが、韓国・朝鮮人生徒に対しては、それにくわえて、財団法人朝鮮奨学会高校奨学金(以下朝鮮奨学金と表記)と、そのほかの奨学金の国籍条項(外国人付加の条項)についての説明が必要でしょう。<民族学級や民族クラブがまだない中学校では、学年で生徒を呼んで、奨学金の話や韓国・朝鮮人としての日本の学校で学ぶ意識や高校生になるにあたっての心構えなど(P50参照)を十分に説明している学校も多数あります。>
 
 

朝鮮奨学金の申請について 

対象者 

  韓国籍または、朝鮮籍の日本の高校で学ぶ高校生全員。(定時制、通 
 信制を含む。) 

奨学金の額 

  高校生は月10,000円 (1997年度)が支給され、返却の必 
 要性はない。大学生は、月20,000円が支給されるが、大学奨学金 
 は競争率が高いので、高校時から支給されていないものについては受給 
 が難しい。                            

資金源 

  大韓帝国(1896年〜1910年)時代の大使館跡地(新宿と代々 
 木の一等地)に建設されたビルの賃貸料が資金源。本国の南北の政府や 
 日本政府の補助は受けずに、財団法人朝鮮奨学会(以下奨学会と表記) 
 が運営をしている。いわゆる「ひも付き奨学金」ではない。      

奨学会 

  日本政府から財団法人の認可を受けて文部省の指導を受けて発足。理 
 事は、日本人学識経験者と韓国居留民団側、朝鮮総連合会側の三者が同 
 数で構成。運営も韓国籍、朝鮮籍、それぞれ同数の職員が行い、中立を 
 守り、政治活動はいっさい行わない。                

奨学生の選抜 

  本人の民族的な自覚が重要視され、面接試験がある。収入証明は不必 
 要であり、面接の準備が本人の民族的自覚を促すことにもなり、十分な 
 準備をすれば、80%〜90%近くのものが、採用されている。1年目 
 に失敗し、2年生時に再チャレンジするものを含めると採用率はさらに 
 高まる。中学側としては以下の点に特に留意したい。         

 ▲経済的困窮家庭のもの                      
  収入証明はいらないが、中学校長名の副申書(推薦書は高校長名)に 
 家計の困窮度を具体的に記入し、本人の民族クラブや民族学級での活動 
 実績も併記すれば採用される可能性が高まる。兄弟・姉妹全員が採用さ 
 れることも多い。                         

 ▲民族的自覚の高揚を期待するもの                 
  奨学金の性格上、一家にひとりの採用が原則であり、兄弟が奨学生の 
 場合、兄弟の卒業までは原則的に受給できない。中学校長名の副申書に 
 弟や妹が特に奨学会での活動(P34参照)を必要とする理由を明記し 
 面接でもそれを実証すれば採用されることもある。本名で高校に進学し 
 たものの高校生活を精神的に支える必要などは有力な理由であろう。  

 ▲学業成績不振のもの                       
  中学校の成績証明(全申請者が提出、記入法はP34参照)に加えて 
 成績不振の理由と、それを克服しようとしている本人の努力の経過を副 
申書に十分文章表記する必要がある。民族学級、民族クラブの出席率、本 
名使用の状況等、具体的に民族の誇りを身につけるための本人と学校の努 
力も副申書にかかなければ、採用される可能性は低くなる。       

奨学会の活動 

  奨学会は、新入奨学生歓迎会、サマーキャンプ、  (ウリ) 高校 
 生文化祭、卒業生を送る会などの同胞高校生のための交流の場を得、例 
 外なく高校生活を豊かなものにすることができ、機関誌を読むだけでも 
 かなりの学習になります。また、朝文研などの同胞サークルが結成され 
 ていない和歌山の高校の状況の中で、ともすれば中学校卒業後、日本社 
 会への同化を深め自分自身を失っていく傾向を示しやすい卒業生達にと 
 って、この豊かな活動は救済の場にもなることが多いと考えられます。 
 また民族クラブ、民族学級同窓 会の活動にとっても奨学会の活動はプ 
 ラスになるはずです。                       

保護者への説得 

  残念ながら和歌山の多くの中学校で、高校進学希望者の生徒全員に朝 
 鮮奨学金の申請を積極的に進めている学校はありません。しかし、大部 
 分の保護者は中学校卒業前後にいきなり朝鮮奨学金の申請を進めてもは 
 じめから反対し教員に抗議することが多いと考えられます。その理由は 
 奨学会に対する無理解、「サラ金から金を借りても公的機関からの援助 
 は受けたくない」といった自尊心、政治活動に勧誘されるのではないか 
 という警戒心、そして同化必要悪論などである。中学入学時からの持続 
 的な説得と話し合いによって、保護者の理解を求め続ける必要がありま 
 す。 

中学側の手続き 

  高校の中には、いまだに、朝鮮奨学生募集業務を、掲示やプリントの 
 配布のみに頼っている学校があるようです。(それすらない学校もある 
 と聞きます。)組織的な募集業務を実施していない学校もあります。高 
 校入学時の4月下旬が書類最終締め切り日であり、高校に任せるために 
 も高校側に時間的な余裕は少ないのが現状でしょう。中学校卒業時には 
 本人と保護者のうちひとりの説得を終え、申請書(身元保証人が必要) 
 写真、成績証明書を準備したい。高校入学直後に、高校側で準備する書 
 類の発行申請を本人または中学側が行いたい。必要書類は、遅くとも4 
 月下旬には奨学会に提出せねばなりません。
 
募集要項請求書先 
 
  〒580 大阪市北区西天満4−9−2              
      西天満ビル301(裁判所北西)             
  電話  06−361−0586  財団法人朝鮮奨学会関西支部    
  (3月下旬に電話すれば、中学校一括で要項を送付してくれる。提出 
   書類先も同じ)

 

 上記の朝鮮奨学金は、日本の各種奨学金との併給は可能ですが、韓国教育財団奨学金、朝鮮高校生奨学金などの民族団体奨学金との併用は不可能です。

 日本育英会奨学金の国籍条項は1975年に撤廃されました。日本ユーカラ奨学金についても1989年に撤廃されました。西宮市奨学金には国籍条項はありません(民族学校高校生にも1988年から支給されています)。

 経済的困窮生徒には、朝鮮奨学金と各種奨学金、そして授業料など免除の3種類または4種類の申請を進めている中学校が他府県にはあります。


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