第一回 THE HAN WORLD 調査報告書

――一般向けバージョン――

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1. はじめに

 ハン・ワールド(以下,ハンと略)がオープンしてから,すでに1年半になろうとしています。この間,ハンではいろいろなことを実験的に試してきました。調査データの公開,画像や音声ファイルを駆使した民族文化の紹介,時事情報や文献情報の提供,電子掲示板やチャットの開設,等々。

 その目的は,在日朝鮮人にかんする公開データベースを構築すること,そしてそのデータベースをもとに訪問者が相互に情報交換と親睦をおこなえる場を提供すること,でした。<点>としての情報公開。そして点と点を結ぶ<線>としての情報交換。その両者をつうじて,実社会において目に触れにくいマイノリティの実像を知らしめ,ひいては<面>としてのネットワークを形成すること――それが,在日関連Webページ群の将来の理想像だと考え,個人でできる範囲でひとつのモデルを提供してきたつもりです。

 ハンは開設以来,固有IPアドレスで3万件以上にのぼる訪問者をむかえ,200を越える関連Webサイトにリンクされるなど,インターネット内外でそれなりに好意的な評価をえてきたように思います。ひとつのモデル像を提供するという役割は,少なからず果たしてきたのではないかと自負しています。

 でも,現実にハンのサービスが<面>としてのサイバー・コミュニティを形成するところまで達成できたかというと,客観的にみてほど遠い。たしかに,電子会議室での対話やメールの交換などを通じて,Web運営者の僕と訪問者たちのあいだに多数の<線>の集合はつくられてきました。でも,今のところそれらの<線>は互いに交わることさえ少なく,<面>に結晶化する兆しぐらいしか見えません。

 この調査は,そういった問題意識からスタートしました。つまり,どういう訪問者が,どういう目的をもって,在日関連Webサイトないし韓朝鮮関連Webサイトにアクセスするのかを把握し,将来的に情報交換が展開していく可能性をさぐること,それがこの調査の目的です。 (→調査票


2. 訪問者はどういう人たちなのか

表1 年齢
年齢 実数
〜24歳 28 20.4
25〜29歳 33 24.1
30〜34歳 29 21.2
35〜39歳 24 17.5
40歳〜 23 16.8
無回答 4
141 100.0
表2 性別
性別 実数
男性 114 81.4
女性 26 18.6
無回答 1
141 100.0
表3 エスニシティ
民族 実数
日本人 101 72.7
韓朝鮮人 35 25.2
その他 3 2.2
無回答 2
141 100.0
表4 学歴
回答 実数
高校卒業 11 8.1
短大・高専卒業 11 8.1
4年制大学卒業 83 61.0
大学院 31 22.8
無回答 5
141 100.0
 回答者の年齢,性別,エスニシティをそれぞれ表1〜3に示しています。

 周知のとおり,コンピュータを扱えるのは,20〜30歳代の青年層にもっとも多いわけです。ですから,パソコン通信やインターネットの利用者も青年層に大きく偏っています。たとえば,ヤフージャパンが1996年9月に実施した調査では,20歳代後半が最も多く,ついで多いのが30歳代前半,そして20歳代前半と続いています。本調査も例外ではなく,表1をみてわかるとおり,20〜30歳代がもっとも高くなっており,その比率も他の調査とほぼ同じような値を示しています。

 性別ですが,日本での調査ではだいたい,女性の比率が1割前後と報告されています。たとえば,CSJ第4回調査(96年6月)で女性の回答比率が9.9%。前述のヤフーによる調査では12.5%となっています。それにたいして,本調査の女性の比率が18.6%というのは,明らかに高いと言えます。

 訪問者のエスニシティの分布は,日本人が約75%,韓朝鮮人が約24%である。その他のうち2名は,日本人と韓朝鮮人のダブルということでした。

 学歴の分布を表4に示しています。短大・高専以上で9割以上,大学卒以上でも8割を越えており,回答者の学歴はいちじるしく高いほうに偏っています。インターネット利用者自体,高学歴者が多いと一般に指摘されていますが,それを勘案しても,なおこの高学歴傾向は突出します。後述するように,この高学歴傾向は,社会的態度を近似させるという働きまでしており,本調査回答者の最大の特徴の一つであると言えます。


3. 訪問者は社会をどうみている人たちなのか

 本調査では,調査回答者の潜在的な政治的傾向を代表するものとして,権威主義にかんする設問を用意しました(問8)。

 権威主義的パーソナリティとは,たとえば権威への服従,権威主義的攻撃,因習主義,性の抑圧などの複合的な特性のことです。つまり,権威あるもの,ひとにたいしては無批判に服従し,あるいは同調的な態度を示す一方,弱いものや逸脱者には権力を誇示し,絶対服従を求める。因習や迷信にこだわり,ステレオタイプに陥りやすい。内省的態度に乏しく,問題の解決にあたっては剛直である――権威主義的パーソナリティを理念的に描写すればこのような姿となります。非民主主義的態度であるとも言えます。

表5 権威主義的伝統主義の平均と分散
設問(問8)
本調査
全国調査
平均値 分散 平均値 分散
この複雑な世の中で何をなすべきか知る唯一の方法は,指導者や専門家に頼ることである。 4.19 0.843 3.08 1.134
伝統や慣習にしたがったやり方に疑問を持つ人は,結局は問題をひきおこすことになる。 4.06 0.924 3.23 0.759
子供に教えるべきもっとも大切なことは,両親に対する絶対服従である。 4.52 0.614 3.39 1.156
よい指導者は,尊敬を得るためには,下の者にたいして厳格でなければならない。 3.72 1.319
先祖代々と違ったやり方をとることは間違いだ。 4.12 0.856
権威ある人々には,つねに敬意を払わなければならない。 3.90 1.199 3.03 1.176
以前からなされてきたやり方を守ることが,最上の結果を生む。 4.17 0.695 3.16 0.824

 さて,権威主義の各設問について,本調査の平均値と分散を示したのが表5です。大阪大学が1994年に実施した全国調査データとくらべてあります。どちらの調査においても,値は1が「とてもそう思う」,5が「まったくそう思わない」ですので,平均値が低ければ,権威主義的でないことを意味します。

 表5のどの平均値を見ても,本調査のほうが低い値を示しています。また,分散も小さく,各回答者の回答が似通っていることもわかります。つまり,本調査の回答者は,日本社会の基準に照らして,権威主義的でないほうにかたよっているということです。

 権威主義のおもな形成要因は年齢と学歴である。本調査回答者が青年層および高学歴にかたよっていることを考えれば,これも妥当な結果だと言えます。ハンの電子会議室に,全体として良識的な主張が多いことも,訪問者のこうした非権威主義的な特徴が影響しているのかもしれません。

 ただし,実際の社会は非権威主義的な人たちばかりでできているわけではありません。上にも書いたとおり,この調査に権威主義を含めたのは,調査回答者の潜在的な政治的傾向を知るためです。韓朝鮮Webサイトが,どちらかといえば似たような政治的指向の人たちだけにしかアピールできていないとすれば,それは問題を含んでいるとも言えます。 


4. 訪問者は韓朝鮮をどうイメージしているか

 問7では,韓朝鮮民族にたいするイメージを聞いています。この設問にたいするコメントとして,以下のような意見がみられました。  しかし,こうしたイメージの質的な多義性は,なにも韓朝鮮民族に限ったものではありません。

 たとえば,「日本人」としても関東と関西のイメージは異なるだろうし,「関西」のなかでも「京都」「大阪」「兵庫」はそれぞれ違う県民性を指摘されることもあります。それでもなお,「日本人」という統一的な枠組みが一般的であれば,それらの多様なイメージ群を包括する統一的な「日本人」のイメージができあがります。

 つまり,上記のようなコメントが付けられるのは,「韓国」「北朝鮮」「在日」などを包括する「韓朝鮮民族」という枠組み自体が,日本人の中に一般的ではないためだとも考えられます。だとすれば,それ自体が興味深いテーマともいえるでしょう。

 とはいえ,回答者全体としては問7の無回答の比率はさほど高くなく,韓朝鮮への統一的なイメージを回答してくれています。結果を見ると,全体的に値の低いほう,すなわち好印象方向に分布しています。ここ十数年でかなり好転してきたとはいえ,日本社会全体としては,韓朝鮮についていまだネガティブなイメージが支配的であることを考えると,これはかなり特異な状態と言えるでしょう。

 このように,韓朝鮮にたいして好印象が多い回答となった理由の一つとしては,ハンの調査たいして,もしくは韓朝鮮人の管理者である私にたいして,ネガティブな回答を遠慮した可能性も考えられます。つまり,“タテマエ”で回答したケースがあったかもしれないということですね。しかし,そうした可能性を考えてもなお,この好印象傾向は強すぎるように思われます。タテマエだけではなく,もとから韓朝鮮にたいして好イメージをもつものが,韓朝鮮サイトにアクセスしていると解釈すべきでしょう。

 因子分析という統計解析をつかって,韓朝鮮にたいするイメージにどのようなものがあるかを確認してみました。表7です。

表7 韓朝鮮にたいするイメージの因子分析
設問(問7)
因子1負荷量
因子2負荷量
因子
固有値
寄与率
あかるい/くらい .731 .192 1 3.510 50.1
すぐれている/おとっている .250 .779 2 1.184 16.9
うつくしい/きたない .297 .735 3 .654 9.3
つよい/よわい .060 .790 4 .523 7.5
すき/きらい .801 .275 5 .488 7.0
親しみやすい/親しみにくい .822 .176 6 .328 4.7
たのしい/たのしくない .868 .141 7 .314 4.5

 分析の結果,2つの因子,つまり韓朝鮮にたいして2つのイメージが析出されました。回答者の韓朝鮮にたいするイメージは,単一の傾向にはおさまらず,少なくとも2つの異なる基準によって影響されていることです。

 では,その「2つの異なる基準」とは何でしょう。

 第1因子から強い負荷を受けているのは,「たのしい/たのしくない」「すき/きらい」「親しみやすい/親しみにくい」「あかるい/くらい」といった,おもに情緒的な親密さにかかわる設問群です。一方,第2因子から強い負荷を受けているのは,「すぐれている/おとっている」「うつくしい/きたない」「つよい/よわい」といった優劣を基調とする価値判断群です。

 つまり,回答者にとって韓朝鮮にたいするイメージは,「親しみやいかどうか」といった情緒的側面と,「すぐれているかどうか」といった価値的側面によってつくられているということです。

 では,どのような人が韓朝鮮を「親しみやすい」と感じ,どのような人が韓朝鮮を「すぐれている・うつくしい」と感じているのでしょうか。

 まず,エスニシティごとでは,第1因子について差が生じています。つまり,韓朝鮮人のほうが日本人にくらべて,韓朝鮮をどちらかといえば「親しみやすい」と感じているということです。逆に第2因子については,韓朝鮮人のほうが日本人よりも「おとっている」「きたない」「よわい」というイメージを比較的強く感じているという結果が出ています。

 性別ごとでは,女性ほど第2因子が低い値をとるという関係がみられました。つまり,女性はどちらかといえば韓朝鮮をうつくしく,すぐれているとイメージし,男性はどちらかといえば韓朝鮮をきたなく,おとっているものとイメージしている,ということです。

 ほかに,第1因子は前述の権威主義と正の相関関係を示しています。つまり,権威主義的でないほど,韓朝鮮のことを親しみやすく,好きだと感じている,ということです。逆に,権威主義的な傾向が強いほど,どちらかといえば韓朝鮮のことを親しみにくいと感じているというわけです。

 もともと,権威主義的パーソナリティの研究は,他民族にたいする排外的態度を究明するために始まったことを考えると,この結果は自然なものと理解できるでしょう。


5. 訪問者は韓朝鮮にどのような関心をもっているか

 韓朝鮮サイトにアクセスする訪問者は,どのような期待と関心をもっているのでしょうか。問6では,そのことを確認するため次のような設問の回答入力フォームを用意しました。

 結果として,別掲資料のような回答を得ました。この種のオープンアンサーとしては異例なほど記入数が多く,回答者の関心の高さがうかがえます。

 この回答を,一定の規則でまとめたものが,下の表です。

基準語 出現数
[在日] 38
[韓国] 29
[北朝鮮] 10
[韓朝鮮民族] 10
[世代] 4
[日本] 25
[意見] 6
[意識] 3
[朝鮮語] 7
[文化] 8
[情報] 48
[興味] 38
[歴史] 11
[近代] 7
[時事] 19
[差別] 8
[教育] 12
[研究] 9
[交流] 11
[CJK処理] 13
[Webサイト] 5

 ところで,同一回答の中に,同時に複数の基準語が該当することもあります。たとえば「朝鮮の歴史や差別の現状に関心がありました」という一文からは,[韓朝鮮民族],[歴史],[差別],[興味]が同時に当てはまるというわけです。同じ回答の中で同時に回答される基準語は,関心がちかいということを意味します。

図1
図1 二次元の刺激配置

 そこで,回答者全体の関心の所在を空間的に配置するため,多次元尺度構成法という分析を使いました。

 図1が,その結果を二次元で示したものです。図1をクリックしてもらうと,大きなサイズになって表示されます。各基準語の距離は,どれだけ同時に回答されたかを意味します。たとえば,1次元と2次元の交点近くにある[在日]と[日本]は非常に距離が近いですね。これは,同時に出現することが多かったということです。また,中心におかれているほど他の基準語と同時に回答される率が高いことを意味します。つまり,[在日]と[日本]は,他のどの基準語とも同時に出現する率が高かったということです。

 そうすると,2つの次元の交点であり,かつ図の中心に[情報]と[興味]があることは当然と言えます。何らかの情報を求めたり何らかの関心をもたなければ,そもそも韓朝鮮Webにアクセスするはずがないからです。さらに,ほぼ同じ位置に[在日]と[日本]があることも妥当な結果だといえます。この4つの基準語は,訪問者の関心の中核であるといっていいでしょう。

 では,コアの周辺には,どのような関心をしめす基準語が配置されたのでしょうか。タテヨコを東西南北になぞらえて見ていきましょう。

 まず,右上の北東方向に注目してみると,「韓朝鮮民族」と「交流」があります。ちょっとはなれて「Web」もあります。ここは,民族間の交流を求めて韓朝鮮Webサイトを訪問するという,一つの関心のあり方を示していると考えられます。

 つぎに北西方向を見てみると,「韓国」「北朝鮮」,あるいは「韓朝鮮語」,「CJK」があります。「差別」もはなれた位置にありますが,かなり異質ですので,とりあえずのぞいて考えると,ここは韓国や北朝鮮などの国家や言語への関心を示していると考えられます。

 南東に行きますと、「研究」「世代」「意見」。そしてはなれた位置にもう1つ「意識」があります。研究上の関心を含めて,世代ごとの意識や関心の違いみたいなものへの関心を示していると考えられます。

 最後に左下の南西方向ですが,「歴史」「文化」「時事問題」「教育」「近代」。「近代」というのは植民地時代のことです。要するに,社会問題化しやすい,政治問題化しやすいようなトピックと,「文化」「歴史」といった方面の関心がかたまっています。

 それぞれの方向でかなり違った関心が示されていたわけですが,おおむね,北方向が情緒的な部分といいますか,「交流」とか,あるいは「言語」といったものに関心がある。それに対して下半分は,どちらかといえば学術的な関心というか,やや堅めの関心と言っていいでしょう。

 僕は堅めの関心をA面で,柔らかめの関心をB面でくみ取ろうとしてきました。しかし,この結果を見てみると,これまでのB面のテーマである文化的な内容は左下の南東方向にあるわけで,かならずしも訪問者の関心にそったかたちにはなっていなかったようです。むしろ,柔らかめの関心をもつ訪問者はHANBoardやチャット,堅めの関心をもつ訪問者はA面とB面の両方に関心をもつ,ということでしょうか。だとすると,HANBoardはもう少しやわらかい話題を多くしたほうがいいかもしれません。


 以上で報告書(一般向けバージョン)を終わりとします。さらに詳しい内容をお知りになりたい方は,専門バージョンの公開をお待ちください。